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【目次】
日本語版への序文
本書での氏名表記について
序論 不安と自由
第一部 終わりの始まり
第1章 日本的親密性のポリティカル・エコノミー
第2章 離婚しないための二つのコツ
第二部 法的解決
第3章 協議の構造
第4章 一緒の家族、ばらばらの家族
第三部 バツイチとして生きる
第5章 離婚のコスト
第6章 別れた人たちのきずな
結論 終わり、そして新しい始まり
謝辞
付 調査協力者一覧
注
訳者あとがき
参考文献一覧
索引
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アメリカ人研究者による人類学的な観点からの現代日本の離婚に関する調査と考察。フィールドワークの期間は2005年から2006年と、2009年から2011年で、研究全体に費やされた期間は2005年から2013年まで。白人女性である著者の調査開始時の年齢は20代後半。原題は『親密な別れ方――現代日本における離婚そして自立へのロマンス』。本文は約310ページ、日本語版への序文と訳者あとがきも掲載。
本書の概観を示す序論につづく本論は三部構成。それぞれ離婚の段階に分けて前期・中期・離婚後を扱い、各二章ずつからなる計六章。夫婦関係に限らず近代以降の日本社会に関する文献による研究と、フィールドワークによって日本人の男女から直接聞き取った離婚への思いや経緯を踏まえ、著者による分析を展開する。巻末の調査協者一覧によれば対象者は28名で、うち女性が20名。年齢としては50代が最多で、30代と40代がこれにつづく。
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第1章
著者が「関わり合いなき相互依存の関係」と呼ぶ関係性は、戦後の高度経済成長期における男性が外で働き女性が家を守るという男女分業の生活スタイルで、政官財が一丸となって促進したことにより当時の日本で一般的な家庭のあり方として受け入れられた。しかし、1990年代以降の不況ともに訪れた新自由主義の台頭は日本人全般の就業条件を低下させるとともに、それ以前の好況期において確立された夫婦関係に大きな影響を与えたとする。戦後の日本社会の変遷を1990年代を境に二分して解説するのが本章であり、「新自由主義」は本書中でもっとも多く言及されるキーワードのひとつだ。
第2章
日本のメディアなどが発信する「離婚しないための二つのコツ」とは、「お互いをお母さん、お父さんと呼んだりしない」「態度ではなく言葉で自分の気持ちを示す」のふたつ。離婚の決断にいたるまでの心境を語る女性たちの言葉を交え、新自由主義のレトリックが過去の「関わり合いなき相互依存の関係」を内面化した男性たちの依存心に対する非難として機能している側面を伝える。反面、「自己責任」という言葉に象徴されるような新自由主義的な意識が現実的な幸福に結びつくと考えている個人はいないという点も指摘する。
第3章
「協議離婚」「調停」「離婚裁判」「審判」、この四つが日本の離婚のカテゴリーとする。このうち圧倒的に多数を占めるのは「協議離婚」であり、つづく「調停」も協議離婚の理念を模倣した制度として紹介される。日本の法制度が基本的に離婚を当事者間で解決すべき問題とし、機能していない現実を浮き彫りにする。著者は「戸籍制度」を重視する日本の特殊性を、欧米の脅威に対抗する目標のもとで国家の成立を推し進めた明治政府による法整備に起源を求める。調査対象の女性たちの憤りの矛先はほぼ常に夫や元夫であり、けっして日本の家族法には向かわないことに抱く著者の違和感が印象的だ。
第4章
離婚後の親権に着目した章。日本に共同親権がなく単独親権のみである問題を扱い、前章につづいて日本の家族法のいびつさを示唆する。著者が本章で多用する「きれいさっぱり縁を切る」というフレーズが表すとおり、両親の離婚後に��親権を持たない親(多くの場合は父親)に全く会わなくなる子どもたちも多いという状況に疑問を投げかける。同時に、片親による連れ去りが犯罪として認められない問題も紹介する。
第5章
離婚後の女性の貧困の問題を取り上げる。多くの場合、離婚後に親権を担う母親が柔軟なスケジュール調整が難しい高収入をもたらす地位に就きづらいこと。離婚に対する日本での根強い差別や偏見の存在。司法制度が元配偶者による養育費支払いの支援や強制ができないこと。このような事態によって、現在の日本では、離婚によってさらなる貧困状態に陥るひとり親(多くは女性)が極めて多いという事実を指し示す。
第6章
離婚後の孤独について、「無縁社会」や「孤独死」といった社会的なキーワードを参照しながら考察を進める。著者のフィールドワークにおける取材としては、「明に暗に女性向けに作られている」というセラピーの場で得た出会いや出来事を多く取り上げる。離婚の先に待つものはマイナスだけではなく、「多くの人たちにとって、離婚とは単なる終わりとはならずそれはまた始まりにもなる」のだと著者は強調する。
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俯瞰的な視点としては、夫婦の関係性も国家や経済によって規定されるといった見方に表れる。1990年代を境として激しく変化した日本の経済状況や、欧米に対抗するために国民が一丸となるために整備された戸籍制度と家父長制的な「家」の概念が、家族のあり方に大きな影響を与えていることは個々の聞き取りからも裏付けられる。また、第二部で描かれるような、家庭の問題に立ち入ることを避ける日本の家族法に対する著者の違和感は、取材対象者に限らず日本人にとっては認識が難しい貴重な指摘だと思える。
本書において明言はされないながらも基本的な姿勢として特徴的だと思われるのが、多くの場合に女性の問題として日本の離婚問題を描き出している点であり、これは冒頭で記述したとおり調査対象者についても七割以上が女性であることからも窺える。本書のこのようなスタンスは著者の主観的な判断によって行われたというよりも、現在の日本での離婚の多くは妻の不満によるケースが多いとともに、離婚後に貧困の問題に直面するのも女性の側であるといった事実が示す通り、社会的な性差が離婚問題に深く絡み合っていることに起因するものだと考えられる。
全体の所感として、日本の離婚にまつわる問題を網羅的に分析し、国家の方針によって変遷する夫婦観の考察に説得力を感じた。同時に、本来は日本人向けに書かれているわけではないだけに目新しい情報は少なく、フィールドワークによって得られた調査協力者の離婚に関する話にもインパクトは薄い。また、終盤の第6章を中心に著者が展開する「離婚は新たな始まりでもある」という主張については、離婚問題を抱える女性同士のつながりを除いては具体性を欠く。とくに離婚される側の男性については一般的にある離婚後の孤独のイメージの強さに触れるにとどまっている。本書のなかで離婚を切り出される現在の日本男性の共通点として、共働きであるにもかかわらず妻に家事を押しつける夫の多さが目立って印象的だった。
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序論 不安と自由
終身制の終焉
親密性の定義
恋愛と親密さのスタイル
不安定な時代の家族関係
頼り合いと結びつきによる関係性の理論化
象徴としての離婚、統計上の離婚
ジェンダーと離婚のダイナミクス
離婚の人類学
離婚研究の方法
第一部 終わりの始まり
第1章 日本的親密性のポリティカル・エコノミー
第2章 離婚しないための二つのコツ
第二部 法的解決
第3章 協議の構造
第4章 一緒の家族、ばらばらの家族
第三部 バツイチとして生きる
第5章 離婚のコスト
第6章 別れた人たちのきずな
結論 終わり、そして新しい始まり
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アメリカ人の文化人類学者による2000年代初頭の日本の離婚事情の研究であり、それだけで興味をそそる。
日本は高度経済成長期には夫が長時間会社で働いて家を空け(家事はやらない)、その間、妻が家事全般をして生活を支える(仕事はやらない)という「甘え」による夫婦関係を築いてきた。この関係では、お互いにあまり趣味や価値観の共有がないと指摘されている。
バブルが崩壊し、経済成長がなくなり、自己責任を強調する新自由主義的な価値観が小泉首相のもと広げられることになり、自分のことは自分でやるというのがかけ声になり、夫も家事をし、イクメンをするのが当然求められ、妻も働きに出るのが普通になった。夫も妻も自立した個人として趣味や価値観を共有できることに重きがおかれるというように、夫婦間の親密性の性質が激変した。
このような状況で、従前の甘えた関係を続けようとする男性が離婚を求められる一因となっていると分析される。男性は長時間労働の現実は変わらず、賃金は低いまま一家を養うこともできない一方で、離婚をされないため自立をも求められ、女性は相対的に賃金がさらに低いため、離婚後は貧困に陥ることも多い。
これって、未婚率が高いのも、少子化が進んでいるのも、離婚が増えるのも、個人の判断のせいにされているけど、国家が貧しくなってるからでは?離婚の話にとどまらず、あまりに悲惨な状況を事例を踏まえて整理されると、読んでて辛い。面白い。
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アメリカ人文化人類学者が書いた2000年代日本の離婚の民族誌とあるから楽しみに読んだが、期待に反して全然面白くなかった!!!!!
良い書物は昔のことが書いてあっても色褪せないが、本書は2023年に読むといたってフツウのことしか書いていない。
離婚なんてスティグマな時代はとっくに終わっているし、高度経済成長以降、夫婦間の親密性の在り方が変質したなんて今を生きている日本人なら誰もがわかること(それは「昭和の無口な頑固親父」とかいうイメージで我々の中にあるし、そんなのが時代遅れなことは誰でも知っている)。
本書で、離婚について人類学的見地から明らかにされことや新しく発見されたことは特になく、
ただ離婚をめぐる諸問題(離婚に至る経緯や法制度や共同親権、離婚後の経済的困難など)について記述してあるだけ。
というか筆者はそもそも記述にしか関心がなく、特に何かを明らかにしようという研究ではないのか?
というくらい、新しい発見が皆無。
筆者はアメリカ人で英文で書かれた日本人向けの文章ではないという点をさしひいても、こんなに新しい発見が皆無な読書体験も珍しい。
章立ての意図も読みづらく、その章で何が明らかになるのか非常にわかりにくい。
そして訳文もとても読みにくい。
4800円もしたのに!