紙の本
続篇に至って益々磨きがかかった著者論証の成果
2022/06/27 01:44
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投稿者:永遠のチャレンジャー - この投稿者のレビュー一覧を見る
慣れとは恐ろしい。「はじめに」(3頁)の日本地図がそれと判らぬ。色の濃い方が「海」だと勝手に思い込んでいるので、猶更だ。大陸からの来訪者(邪馬台国への使者)が眺めた「倭国」は、まさに南北逆様の格好なのだ。
産出品の「翡翠」が大陸から「鉄」を仕入れる際の主要交易品だったという著者の指摘は、NHK番組「ブラタモリ」でも採り上げられていたから、縄文・弥生時代から大陸と関わり合った歴史の一端を再認識できた。
第1章では、瀬戸内海航路が当然の前提とされる邪馬台国論争に対し、著者は視点の変更を求める。日本海側にこそ「翡翠」「鉄」の交易航路が存在したのだと。
天の岩戸に隠れた太陽神天照大御神と卑弥呼を結びつけて皆既日食という現象から邪馬台国の位置を推測したり、八岐大蛇(ヤマタノオロチ)伝説を出雲の豪族と大和政権との「たたら製鉄」を巡る権力闘争の表象として読む解く試みは、大変示唆に富む。
船舶工学の専門家らしく横断航海できた卑弥呼時代の古代船を模した実験航海を分析し、朝鮮半島の釜山から山陰出雲方面へ対馬海流に乗る航路が目印(大山や三瓶山)もあって安全かつ容易だったと説く著者。
卑弥呼の時代に「九州」邪馬台国・「畿内」邪馬台国という有力政権が並存し、後者が後継政権の「大和王権」に繋がったとの著者独自の折衷説は非常に面白い。
第2章では、古文書絵図に描かれた「鉄甲船」が興味を惹く。朝鮮水軍が保有したとされる「亀甲船」に対し和船「関船」では戦闘能力が劣るため、拮抗し得る仕様・能力の秘密兵器が接近白兵戦を得意とする日本水軍には欲しいところだ。
なお、「亀甲船」は舷側に左右6門ずつ大砲を備えたらしいから、143頁の表2-4の「大砲が少ないため」という表記は「大砲が多いため」の誤植だ。
「丁字戦法」に至る東郷ターンで有名な日本海海戦でのロシアバルチック艦隊撃滅の秘密に迫った第3章では、海戦史上特筆すべき一方的な大勝利の功罪を暴き出す。
NHKスペシャルドラマ「坂の上の雲」でも描かれた日露戦争でのこの快挙は、詰まるところ皇太子時代に訪問した新興国日本の大津で遭難し、悪感情を拭えずに相手戦力を矮小化したロマノフ王朝皇帝ニコライ2世が命じたバルチック艦隊大遠征それ自体の無理が祟った結果だ。
蒸気動力源の石炭補給と大量積載、日英同盟の英国領に寄港できず「後悔」先に立たずを思い知らされた長い「航海」、砲撃訓練を実施できずに日常業務で疲弊するロシア水兵、日本の聯合艦隊には十二分な訓練の余裕、船底に付着したフジツボや牡蠣などによる減速、何よりも不慣れな海域での戦闘…。
聯合艦隊とバルチック艦隊との「戦闘能力比較表」(213頁)は、当初の戦力比較(180頁)や艦艇比較表(190頁)の劣勢を逆転して余りある。続篇に至って益々磨きがかかった著者論証の成果がここにも顕れている。
なお、艦艇比較表(190頁)でのバルチック艦隊の「戦艦、巡洋艦合計」数が誤っている。縦計ならば「21隻」となる筈。
歴史の新解釈もなるほど面白いが、史料に綴られることの無かった人物や事績に関する新たな「物語」の発掘も重要だ。著者が「おわりに」で吐露した「『人生』は『歴史』に置き換えることもできる気がしてきました」という感懐は、そのことを示唆している。
私は、俳優高橋英樹が司会するTV番組での「History(歴史)とは『his story』、即ち「勝者」の物語。歴史の陰には記されることの無かった「敗者」の物語が常にある」との常套句を思い出した。
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「船」についての知見を駆使した「日本史の謎解き」が楽しめる!
2023/07/29 13:55
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投稿者:野間丸男 - この投稿者のレビュー一覧を見る
翡翠と鉄の交易ルート、
古代船による対馬海流の横断シミュレーション、
「魏志倭人伝」から、邪馬台国の位置を推測。
秀吉の朝鮮出兵の謎、日本水軍と朝鮮水軍との戦闘を分析。
日本海海戦の勝利の要因を、
戦力比較・砲撃効果比較・戦闘能力比較などより分析。
邪馬台国はどこにあったのか
秀吉は亀甲船に敗れたのか
日本海海戦でなぜ完勝できたのか
「翡翠」から「大和」へ
船の専門家の視点からの疑問の検証は、
「なるほど!」と思えることが多い。
「魏志倭人伝」の検証は、具体的でわかりやすい。
邪馬台国問題も新しい(?)視点で、おもしろかった。
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<目次>
第1章 邪馬台国はどこにあったのか
第2章 秀吉は亀甲船に敗れたのか
第3章 日本海海戦でなぜ完勝できたのか
終章 「翡翠」から「大和」へ
<内容>
造船の専門家による「サイエンス日本史」第2弾。そんなに変な説を立てていないので、安心して読める(第1弾の秀吉の「中国大返し」はすごかったけど…)。とはいえ、第1章も第2章も煮え切れない説に終わっている。科学者として、証拠がないのだから「そこまで」なのだけど…。
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この本の著者の第一弾を2年程前に読みましたが、今年の5月頃に本屋でその第二弾を見つけてすぐに読んだ記憶があります。レビューを書くまでに時間が経過してしまいました。
最近は歴史の研究が進んでいるようで、様々な角度から有名な事件を考え直すことができるようですね。事件を左右したことをサイエンスで解き明かす、素晴らしい作業だと思います。このような本に巡り会えて読める私は幸せだと思います。
以下は気になったポイントです。
・日本人とは、大陸と日本海を隔てるだけの近しさでありながら、日本海によって大陸の人々とは異なる特徴を身につけた民族であり、日本の歴史とは、そんな日本人が大陸とどう関わってきたかという歴史でもある(p5)
・3世紀になると翡翠は、朝鮮半島の鉄と交換するための主要な交易品となっていた、そのころの日本では、いくつかの有力な氏族が連合して大きなまとまりを持つ原初の国が成立していた(p19)弥生時代の日本はまだ鉄を生産できず主に鉄の道を通して朝鮮半島から運ばれて翡翠と交換していた(p63)
・航行中の揺れは、揺れの固有周期による、この周期が長いほど揺れが少なく乗り心地はよくなるが、揺れ周期と復元力は相反していて横復元力は小さくなる(p42)・邪馬台国が近畿の場合、関門海峡を通って瀬戸内海を航行する瀬戸内コースとなる、この場合には、投馬国は音が似ていることから、備後の鞆(広島県福山市)が有力である(p78)
・弥生時代の日本の人口は59万人とされているので、当時の人口の半分近くが邪馬台国に住んでいたことになる(p91)
・皆既日食と神話から推定すると、卑弥呼は247年に九州で没した、魏志倭人伝の皇帝からは、参院ルートで近畿に入った可能性が高い、邪馬台国は最初は九州にあり、卑弥呼の死後に東上して近畿の纏向勢力を併合したのではないか(p96)
・英国の海洋進出はスペイン、オランダ、ポルトガルの交易船を海賊船が襲うことから始まる、海賊投資家と言われたエリザベス1世は、当時の有名な海賊フランシス・ドレークにナイトの称号を与え、海賊たちは英国海軍に昇格する、英国の略奪行為にスペインは1588年無敵艦隊を出撃させたがアルマダの海戦で負ける(p100)
・ポルトガル商船の乗員が持っていた鉄砲を種子島時尭は2丁の鉄砲を2000両(現在の1億5000ー2億円)で購入した。鉄砲伝来からわずか8年で日本には30万丁の鉄砲があった(p102)
・玉鋼の製法により、刀の部分に粘土を塗り焼き入れすることで刀の部分や外側は純度の低い硬鉄で、内部と背の部分は純度が高い軟鉄でできているという、世界でも珍しい二重構造の刀剣が作られた、これにより細身で軽量でありながら、強靭という二つの長所を兼ね備えた日本刀は、接近戦では世界最強の武器と言われた。鎌倉時代の元寇の役では、蒙古軍を恐怖に陥れて蒙古撃退の一翼を買った(p106)
・16世紀初頭にスペインが大帝国を築くことができたのも、世界共通の国際通貨になっていた銀(���ルー、メキシコ)を手に入れていたため。銀産出の主役は、日本へ移った。島根の石見銀山、但馬の生野銀山、佐渡の銀山である(p113)
・秀吉は1592年にフィリピンを征服したスペインの総督に対して服属を要求している、そして行ったのが朝鮮出兵、文禄の役であった。秀吉の目的は、朝鮮の制服ではなく、スペインが明に手出しする前に明に攻め込むことで、東洋には日本という強国があることを見せつけるためであったという意見もある(p114)
・日本がロシア艦隊に完勝できたのは、東郷ターンによる丁字戦法の成功だっとは考えにくい、バルチック艦隊は石炭の洋上補給を強いられて疲弊、砲撃訓練は不足、石炭の過剰積載のまま決戦に突入、船底に貝や海藻が大量に付着、摩擦抵抗が大幅に増加していた、戦闘能力は日本の艦隊の2分の1程度であった(p215)
2022年5月28日読了
2022年10月10日作成
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歴史上の定説だったり、見解が分かれているものを、科学で読み解いていく『日本史サイエンス』の第2弾。歴史の専門家とは異なるアプローチによる解釈は新鮮だ。
著者は船の専門家だけに、船が関係している歴史の検証は特に精緻かつ深い。
ただし、サイエンスだけではないのも本シリーズの魅力。
「戦国時代の日本の鉄砲保有数は世界一」「江戸時代の日本人は数学の能力も高かった」「(日露戦争は)本格的な装甲を施した鋼製船を主力とする艦隊どうしが大砲を撃ちあった初めての大海戦」……。つい話したくなるような歴史上の蘊蓄も満載だ。
科学はちょっと苦手という向きでも十分楽しめる一冊。
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日本史をサイエンス、特に船の視点から分析した一冊。
前回に引き続き、今までにない視点で面白かった。
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技術者視点で日本史を解き直す。ブルーバックスならではの素晴らしい視点。好調につき第二弾!
前著は事の他好評だったらしい。早速の第二弾。
今回のテーマは邪馬台国、秀吉の朝鮮出兵、日本海海戦。
前著に引き続き、造船技術者だった筆者の技術的な視点から歴史の謎を解き直す企画。
邪馬台国については当時の船の状況や潮流の複雑な瀬戸内海より日本海航路の方が容易に航海できたことなど具体的に実証していく。
朝鮮出兵については日韓双方まだまだ研究は少ないが亀甲船と日本の補給の状況について定説に疑問を投げかける。
日本海海戦では奇跡の大勝利を日露の艦船の構成などから再検証する。
ブルーバックスから歴史書、というところが実に面白い。知的好奇心大満足の一冊であることは間違いない。
これだから止められない。講談社ブルーバックス万歳!
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今作も興味深く読めた。知らない歴史的事実(世界一の鉄砲保有など)も多い。
著者が言う、基礎研究だけでない、独特な「ものづくり」文化が日本の強み、という結びのことは重い。
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前作に引き続き、船の専門家が歴史の謎に迫る本。今回は邪馬台国がどこにあったのか、秀吉と亀甲船、日本海海戦。
日本海の翡翠と鉄の交易、卑弥呼が没した時の日食による分析、桃太郎伝説と百済の王子・温羅、対馬海流から但馬経由で近畿説。亀甲船のリアルな図面からCGで復元。東郷ターンからの丁字戦法は航跡を見ると並走で戦法が成功したとは言えないこと、バルチック艦隊はフジツボなど海洋生物が大量に付着していたのと石炭の過剰搭載で速力が大きく低下していて戦闘力は連合艦隊の半分ほどであったこと。
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邪馬台国の位置を日食の記載で読み解く話があるのは知っていましたが、そこに現在の時間とずれがあるとは全く知りませんでした。
また、日本海海戦での勝利に生物問題が絡んでいたとは…
歴史とサイエンス、一見真逆の方向を向いているように見えて密接な関係があるのですね。
まだ読み終えてはいませんが、とても興味深い内容だと感じました。
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日本海海戦の分析は、目の前の戦術より、そこに至る過程の重要さでまあよかったが、あと二つがいまいちかな。
結局、邪馬台国の位置はわからんし、朝鮮出兵は基本的な知識がなさすぎて。
思いつきで終わったかな、今回は。
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昔の出来事を現代の科学知識でもって事の真相を究明しようという本。今回は邪馬台国・秀吉の朝鮮出兵・日本海海戦。
日本海海戦は軍神東郷元帥の丁字戦法により勝利したとされている。しかしそもそも丁字になっているかどうかも微妙であり、勝因は別にあるという。まず石炭。当時の巨大戦艦がどれほど大量の石炭を消費するか。露の軍艦は日本に来るまで日英同盟のせいで寄港できる港が限られ、ありとあらゆる場所に石炭を積んでおり、その大量の石炭積載作業で水兵は疲弊。訓練もできず練度が悪かった。過積載とフジツボ等の付着により速度は上がらず。対する日本は開戦前に石炭を海中に投棄するなど地の利が大きかったことを上げている。25センチ以上の口径による命中率が日本0.1露0.035という差。日本は艦橋で測距儀と計算尺で方位と距離を出して各砲に伝えるといった管理手法も進歩していた。
日本のモノづくり技術のすばらしさは、西洋伝来の鉄砲を入手後1年で複製を作れるほど昔から高かった。そのような力が先の大戦敗戦後23年で世界第二位のGNPとなった大きな理由だろう。しかし2010年にGDPで中国に抜かれ、2028年にはインドに抜かれる予測。この低迷を著者は日本が科学の基礎研究を軽視していることも大きな要因だと書いている。
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前作が結構面白かったので新作も図書館で借りて読了。ご自身の強みは船舶の知識というところを踏み外さない安定の展開で、びっくりするような説は出てこない代わりにトンデモまではいかないのも前回ご同様。今回のお題は邪馬台国、秀吉朝鮮出兵、日本海海戦東郷ターン、の三つである。
まず、邪馬台国は糸魚川の翡翠の話が導入だったので邪馬台国北信越説が出てくるのかと思ったが結論は無難なところに着地していた。日本海回りというのも特に目新しいわけではなく、瀬戸内ルート否定の根拠も若干弱いように思う。百舌鳥・古市古墳群へのアクセスは瀬戸内航路だったとも言われているし、この辺の検証を期待したい。
秀吉の朝鮮出兵は、最近はやりのスペインとの関係を含むグルーバル視点が導入されているが、やはりもっと他の要因が複雑に絡み合い、秀吉の判断力の衰えとか周りの忖度とかもないまぜになっての出兵だったと思う。もちろん一因としては面白いのだが……。亀甲船の考察も「実在したようだ」レベルで、不完全燃焼感がある。
それらに比べると、東郷ターンの実際の有効性の検証は面白かった。丁字戦法という単純な陣形だけで勝敗が決まるというのは直感的に眉唾な感じがするので、長距離航行における兵站や海生生物の付着の問題など、船の専門家ならではの説明が入るのがやはりこの著者の醍醐味だと思う。
総じてまあそこそこ面白かった……と思う。第三弾がでて読むかどうかは微妙。
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前作が斬新なアプローチで非常に興味深くかかっただけに期待したが、今作は今一つ。著者の専門である船舶工学に寄せすぎの記述に少し無理を感じた。
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天照大神の神話と魏書の東夷伝、皆既日食と史書の分析で糸魚川の翡翠と半島の鉄が古代船で交易されていた時代の卑弥呼の邪馬台国は九州と大和のどちらにあったのか、大和説に近いが結論はまだである。天文学や船舶工学で科学的に分析する視点は新鮮であるが、この時代のことはまだまだ解明の余地が多く、考古学の可能性は大きい。
秀吉の朝鮮出兵は戦争独特の過剰表現の記録によりデフオルメされ、目的や結果が判然とせず曖昧のままその後の政治に利用されてきた。まだその事実を研究し解明する余地は大きく、グローバルな視点も重要である。
次に日本海海戦の日本艦隊勝利の実態を船舶工学の視点から検証する。ロシア艦隊側から見ると途中寄港もできず半年に及ぶ航海による戦艦の機能低下(船底のフジツボ、燃料石炭量の多さ等)と船員の疲弊下での決戦であり、迎え撃つ日本側に有利であった。T字戦法と東郷元帥の神話を生み、その後の軍国主義・侵略戦争傾斜への起点となる。
歴史というのは権力者が起こった事のある部分を切り取って都合良く再構成し利用するためのものなのであろうか。古い教科書や固定観念に捉われずもっと柔軟に考える必要があることを痛感。