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名前は知ってるがどんなレスラーか、ほとんど知らなかったグレート東郷の謎(特に出自)を探る書の増補版。
旧版を読んだことは覚えていたが、その内容は記憶に無いので初読として読めた。増補部分は旧版出版から15年以上経って、web環境の充実等の格段に向上した調査精度を利用した追調査報告になっている。
結果としてこの増補部分のおかげで、「プロレス的魅力をエッセンスとしたドキュメンタリーノンフィクションの手法でプロレスラーの真実を探る」という本書の何重にも倒錯したテーマを旧版よりも成功させていると思う。旧版では、結局謎はほぼ謎のままで終了していて、これはこれで「プロレスエッセンス」と言えるかもだが、本書でたびたび明言される「プロレスとは、底がまる見えの底無し沼である」というテーゼからすると物足りなかった。「底が確認出来そうな底無し沼」で終わっていたと思う。
増補部分では、まず東郷が出演する映画が発見されて、ネイティブ同等に日本語を話す本人が確認される。これで「両親がコリア」の線がかなり薄くなる(東郷は韓国併合の翌年にアメリカで産まれている)。
次に力道山夫人へのインタビュー。ここでは出自に関するヒントは出てこないが、東郷のひととなりと、力道山との関係の推測が補強される。
次の、アメリカのエージェントによる最新のwebリサーチは、増補版の最も注目される箇所だ。出生証明書や日系人勾留所の登録書、兄弟や息子の氏名や没年、さらには孫と思われる人物の電話番号まで出現する(現在のアメリカの出自検索サイトは凄い!)。これにより東郷が熊本県出身の日本人両親の元に誕生したことが証明される。
最後はグレート東郷の出自には直接関係無いが、現役ヒールレスラー ディック東郷のインタビューが載る。「東郷」をリングネームにした現代のヒールレスラーが語る、プロレスとヒールという存在についてを本書のサブテーマ「ナショナリズムとメディア」をなぞりながら総括する。
著名なドキュメンタリー映画監督であり、プロレスファン(本書に従えばプロレス者)である著者だからこそ上梓できた良書と言える。
プロレスはジャズに例えると分かりやすい。完全な台本は決まってなくてキーだけ決まって、選手、レフェリー、観客の奏者たちでアドリブ奏法をする。重要な試合ては、これにリズムやコード進行も決める。凄腕のレスラーならワルツでもジルバでもタンゴても、時にはブレイクダンスでも演奏し、踊れる191
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