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哲学者として学問的なキャリアをスタートさせたのち、日本古代史の分野で通説にあらがう大胆な立場を打ち出し、その一方で「スーパー歌舞伎」の原作者としても名を馳せた梅原猛という多面的な思想家の生涯と思想を簡潔に紹介している評伝です。
著者は本書に先だって、「仏教の思想」シリーズ(角川文庫)をはじめ梅原と協力して多くのしごとをおこなってきた上山春平の評伝『上山春平と新京都学派の哲学』(2019年、晃洋書房)を刊行しています。本書でも、上山との比較がしばしばなされており、「上山が自覚的にたびたびおこなう研究手法の方法論的反省を梅原が怠った」と指摘し、上山が「哲学者」でありつづけたのに対して、梅原は「思想の立場」に立つことになったと評しています。
また、梅原が晩年に構想した「人類哲学」については、それが彼の若いころからの関心であった「生命の思想」を受け継ぐものであることを指摘したうえで、「一神教」対「多神教」という、「文明の衝突」を思わせる危うい図式に陥っていることに著者は注意をうながしています。そして、梅原が反ナショナリズムの立場をとりつづけたにもかかわらず、東西文明の対立を回避する梅棹忠夫と上山の文明論的な立場にくらべると、問題を含んだものであったことが批判的に論じられています。
専門家からの批判の多い梅原の歴史にかんする研究にはあまり立ち入らず、彼の思想家としての仕事の意義を明らかにし、その限界を指摘している本といってよいのではないかと思います。