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旧東ドイツの気風を引きずったままのギムナジウムで、生物学を担当する厳格な教師インゲ。子どもと馴れ合わず、若い世代の同僚に迎合もしない。彼女の目から見た世界は生物学的に分類・整理され、絶対的に評価される。だが、ギムナジウムの廃校が4年後に迫り、教師というアイデンティティが揺らぎ始めたインゲは自らの孤独と向き合うことになり……。
シャランスキーの長篇小説。既読の『奇妙な孤島の物語』『失われたいくつかの物の目録』は半ノンフィクション的な作風だったので、こんなに主人公のキャラがはっきり立った作品を読むのは初めて。
クリスティ『春にして君を離れ』に続いて、また中年女性のミッドライフクライシス小説読んじゃったよ〜と思ったのだが、一見正反対に見えて実はそっくりなこの2作の主人公たち。むしろ『春にして〜』のジョーンのことを忘れないうちに読めてよかったかもしれない。
理想の奥様を標榜するジョーンは表面上常ににこやかなのだが、インゲは胸の内と同じく厳しい表情を崩さない人だと思う。けれど二人とも物語の開始時点では己の正しさに一切の疑いがなく、自分は他者をジャッジする権利を有する人間だと思っている点でとても似ている。インゲの"正しさ"は教師であることに依拠している。だから、教師の肩書きを失うという不安のなかでやっと母として、妻としての自分を振り返り、隠れていた弱さ、"正しくなさ"に気がつくことになるのだ。
ジョーンと同じくインゲも海外に移住した娘を持つ。インゲは実の娘に嫌われていると認めることに大きなショックを受けはしないけど、それは生徒でもあった彼女に対して"正しいこと"をしたと思っていたからだった。このエピソードは親が教師だった友人のことを思いだしてしまう。もちろん親は違う学校に勤めていたけれども。
自分の心にあった引け目に気づいたインゲは、干渉しまいと思っていた生徒たちの世界にほんの少しだけ足を踏み入れるのだが、そこでドラマが起きるわけではない。この辺、帯のあらすじがかなり嘘つきで、まず開始時点で全然「完璧な教室」じゃないし(インゲ視点で「完璧な授業」ではあった)、「女子生徒の存在」で冷酷な教師の心が溶けるハートウォーミングな話には一切ならない。ただ単に"正しさ"を隠れ蓑にしてイジメを見逃してきた老教師が自分に向き合うだけだ。そのシビアな結論がシャランスキーらしい。
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旧東ドイツ地域の生物学の教師が主人公で、進化論に関する内容もあるが主には心の中で毒づいている話。世界各国でベストセラーらしいが、翻訳書のためか読みづらく、述べたいことがよくわからなかった。
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東ドイツの生物学教師インゲ・ローマルクは、生徒たちや教師仲間との軋轢、不満に悪口三昧。ダチョウにかまける夫、寄り付かない娘への諦めと静かな怒りに日々苛まされている。その批判が生物学的に筋道が立っていたり、彼女なりの信念理屈に基づいているのが面白い。
挿画も色々楽しめる。
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ドイツにあるバカロレア(高校卒業国家試験資格なんだね?大学に行くための資格と思っていたよ)受験のための中学校の教師の日常。生物の先生で不必要に我々にも図版付きで貴重な(しかし日常生活には役立たない)知識を披露してくれる。絶滅してきた生物。それは生き延びるには不利な遺伝子であった。現在自分が受け持っているクラスにて女子生徒が結構あからさまないじめを受けていた。もちろん認識している。しかし教師が執着するのは別の生徒であり、そのいじめられっこに関しては「弱いものは滅びるんだぜ」とばかりに放置。そういう話なのか?
なんか自分にはぽかーん作品でした。
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変化を拒否する生物の教師が、進化論を子どもたちに伝えていく。教室では教師(それも教科のみ)に徹し、人としては接しない。
そんな主人公を中心に教育とは? 進化とは何かを問う。タイトルもいいねぇ。
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人間は常に課題を背負っている
これが表題を導き、物語と彼女を救った気がします…
生物学の見識で生徒の行動を俯瞰した描写は
学者肌の主人公の考察として面白い
娘がいじめに遭ってもドライで情け容赦ない対応は教師の堅持にして恐ろしい
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インゲに共感できるところと、理解できないところと、まだらな気持ちになってしまい、終始、著者がインゲについて読者にどう感じて欲しいと思っているのか(好きになって欲しいのかどうか)分からないまま読み終え、後書きを読み、どちらの側へ導くわけでもなく、ニュートラルな立ち位置に立っている様子でなんだかホッとするところもあった。
次第にインゲの思考の強弱が分かってくると、
生物学の揺るぎない知識の中で守られつつも、気持ちが揺らぐポイントや、変わらないつもりでも、確実に自分自身も進化の営みに晒されて揺れる様子などが、ちょっと切ない。
東西の統一で起こってきている教育現場の変化の兆しと変われないインゲを代表とする東的な教育者たちなどの様子は、今の日本の現状にも通ずるところがあり胸が痛かった。
図版はとても美しくて見惚れた。
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これだから、読書、ホントの出合は刺激的かつ楽しく止められない。
日本では逢うことが珍しいタイプの作品だった。
3人称でありながら、生物学教師ローマルクのモノローグの呟きでストーリーが展開する。
ダーウィンを深く信奉する彼女。長年の教師生活で完膚無き程に築き上げた地の世界・・だがある一人の生徒との出会いはそこへ無数の亀裂を生じさせ ほころびを齎す。
古きドイツの言葉、ものの世界は背後で再現される。所々に挟まれる生物学の挿絵が彼女の世界を表出する。
全ては何かの役に立つ・全てには意味がある・努力は無駄でない・適応、環境、インゲ・ローマルクの脳ががちがちの生物学的、ダーウィニズムからソフトに進化を。