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何かでちらっと見掛けて図書館で借りてみたのだが、思っていたのとは方向性が違っていた。
視力の原理と視力矯正の発展、みたいな本だと誤解していたが、実のところ、「ファッションの視点からの」メガネの歴史だった。
そういわれれば、表紙も何かファッショナブルだし、そもそも原題が"Making a Spectacle -- A Fashionable History of Glasses"だった。Spectacleで「壮観」と「眼鏡」の意味を掛けてるよね。タイトルがすでにおしゃれである・・・(←腰が引けている)。
・・・いやまぁこれもご縁なので、読んでみた。
初期のメガネは、13世紀、老眼鏡に始まり、オペラグラスとして発展していく。このあたりは視力の補填という意味で実用品としての役割が大きい。
モノクル(アルセーヌ・ルパンの挿絵にあるようなもの)や単眼鏡(スパイグラス、プロスペクトグラス:美術館で美術品の細部を見るような道具)、ハサミや扇子にレンズを仕込んだものなども発展していく。
視力に問題がある人はそこそこいるし、視力がよい人でもさらによりよく見たい場合はあるわけで、視力向上の需要はあったのである。ただ、メガネを掛けた見た目については、風刺する向きもあり、そういう面から、あからさまにメガネを使っていることがばれないように、別の道具に仕込んでこっそり拡大してみる、というようなこともされていたということだろう。
男性の場合は、メガネ姿を知性や権威と結びつけることもあったが、女性のメガネ姿については批判が大きく、風刺画などにも意地悪なものが多く見られる。
だが、現代に近づくにつれ、実用品ではなく、装飾品としてのメガネの役割が高まり、それにつれて女性が掛けてもおしゃれと見なされるもの、またユニセックスなものなども出てくる。このファッションとしてのメガネという観点が本書の主眼であり、大部分を割かれているところでもある。
コメディアンのハロルド・ロイドが掛けて、「ロイド眼鏡」として広まった丸眼鏡は、そもそも素通しのもので、ロイドはキャラクターを演出する小道具として使っていた。チャップリンのちょび髭のようなものである。
メガネのファッション性を高めたのは、サングラスの登場であり、飛行機乗りのゴーグルを模したアビエイターが爆発的な人気を博した。さらに時代が下ると、遅れていた女性向けでファッション性の高いものが徐々に広がっていく。セレブリティが使用することで、大衆への広まりも加速していく。
で、現代のメガネはファッション・アイテムとしての地位もある程度確立している、というところだろうか。
メガネデザイナーへの著者インタビューというのがいくつか挿入されているのだが、(実のところ何を言っているのか、完全には理解できていないと思うのだけれどw)デザイナーというのはこういうことを考えている人たちなのか、というのが窺えてなかなか楽しい。曰く、インスピレーションの源はマンガやエリザベス・テーラーだった、とか、自分の掛けたいメガネがなかったから自作したらそれが大受けした、とか、SNSでの自撮り(セルフィー)の盛りあがりとブランドの立ち上げがちょうど噛み合った、とか。
ほー、��るほど、とは思ったが、自分とは遠い発想すぎて参考になるとはちょっと言えないw
著者は学芸員で著述家という経歴で、METのコスチューム・インスティテュートで、長年、展示会の企画などをしてきたんだとか。なるほど、ファッション寄りになるわけである。
ちなみに著者の苗字(Glasscock)も何だかちょっと眼鏡(glasses)を連想させるのだが、この名前自体はとても古いものらしく(ノルマン征服(1066年)より前からあったという説もあるそうな(出典)、さすがにその頃はメガネはなかっただろうし、関係はなさそうである。
さまざまな眼鏡やハイファッションのモデルのランウェイでの写真なども多いので、ファッション好きの人はより楽しめるかも。