紙の本
映画は早送りで見ません
2022/11/04 07:07
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
最近映画や映像を早送りで見る人が多いそうだ。
そんな話を聞くと、ミヒャエル・エンデの『モモ』に登場した時間どろぼうを思い出す。
あの本が出版された1970年代よりずっと、現代の方が切羽詰まっている感がある。
もっとも、そんな人たちのことがわからないでもない。
例えば、馬場康夫氏の『この1本!』という本はどうだろう。
副題が「超人気映画シリーズ、ひとつだけ見るならコレ」とあるように、
私たちのために人気シリーズの映画からわざわざ1本を紹介してくれる、
なんとも便利な映画ガイドなのだ。
ただし、ファスト映画を見る人とちがって、
馬場氏はしっかり人気シリーズ全作を評価したうえでこの1本を選んでいるから
正統派映画大好き人の、映画ガイドでもあることは間違いない。
この本で紹介されている人気シリーズをいくつか書き出すと、
「男はつらいよ」「007」「スター・ウォーズ」「ゴジラ」「黒澤明」「ロッキー」「高倉健任侠映画」「若大将」などなど、
全部で23の人気シリーズが並んでいる。
ただこういう類の本にかならずつきまとうのは、あのシリーズがないという不満。
「名探偵コナン」があるのに、どうして「ドラえもん」がないの?!
「黒澤明」があって「小津安二郎」がないのは、納得いかない。
まあ、そのあたりは、続篇、続続篇を期待するとしよう。
これだけは声を大にして言っておきたいが、
この本は映画愛に満ち溢れているのだ。
けっして映画を早送りで見ない人のための一冊なのだ。
投稿元:
レビューを見る
余暇に読むには程よい1冊。
タイトルの通り、シリーズものの中から、どれか1作を観るならどれ?という観点で、そのシリーズの概観、こぼれ話を織り交ぜつつ、オススメの1作を紹介するというもの。
だんだん、シリーズものじゃネタがないのか、同監督作品の中でとか(黒澤明、スピルバーグ、イーストウッドなど多作な監督から)、ミュージカルならとか、フランス不倫映画ならとかジャンルに走ったり、東野圭吾原作映画では?という、もう最後の方は、なんだかわからなくなるくくりになるがご愛敬。
それぞれの章で、作品が一覧となっているので、全作品を眺めて見落としているもがないかをチェックするのにも役立ちそう。
自分としては、ちょうど『ロッキーⅣ』の2021年度版再編集版を見た直後に本書を見かけたので、その『ロッキー』シリーズの中で観るならどれ?という解説は興味深く読めたし、もちろん見るべきは第1作だけど、敢えて・・・という選出になるほど、と。
大好きなSWシリーズも、そう来たか!?という、これまた言い得て妙の1作を推していて、なかなか面白かった。
その他は、ざっとこんな感じ。
『007』、「マーベル・シネマティック・ユニバース」、『名探偵コナン』、『ゴジラ』、「ピクサー・アニメ」、『ハリー・ポッター』、「裕次郎とルリ子のムード・アクション」、「DCコミックス映画化作品」、「山崎貴監督作品」、「高倉健任侠映画」、「角川映画」、「ジャッキー・チェン映画」、「若大将シリーズ」
などなど。
ごらんのとおり括り方がバラバラだし、『007』なんかは、主人公も替わっていくので、誰のボンドで観るか? その中でどれか?みたいな選択もあるのになあ。
今回はシリーズものに限定して、続編で監督しばり、役者しばりと、2,3冊つづけても良かったのではと思うところ。
投稿元:
レビューを見る
どのような基準で選んでいるのか、今一つよく分からないところもあるのだが、鑑賞ガイドとして楽しめる。山崎貴の「ジュブナイル」を先日観たが、よかったです。
投稿元:
レビューを見る
もう一つ、黒澤映画で特徴的なのが、脚本作りのシステムだ。黒澤映画は、全30作品中21本が共同脚本による作品である。
脚本家・橋本忍は、前述の『複眼の映像』の中で、そのシステムについて詳しく書いている。それによると、黒澤映画、誰か一人が書いた第1稿ができると、複数の脚本家が旅館に集まって、第1稿をもとに同じ場面をヨーイドンで再び書くのだそうだ。そして何人かが書いた脚本の中から、最も優れたものを場面ごとにチョイスして、一つにつなげるのだ。司令塔の役割を果たしたのは、日本一脚本料が高い脚本家といわれた小國英雄で、本人はみんなが四苦八苦していても自分は一切書かず、ノンビリ洋書を読んでいたという。だが、たとえば、黒澤が書いた『生きる』の脚本を一読して、できごとが時系列で語られるのは退屈だから、主人公をとっとと死なせて途中から通夜での回想にしろと指示したのは、小國である。黒澤は怒って原稿用紙を40枚くらいその場で破ったそうだが、結局小國の指示通りに直し、おかげで『生きる』は傑作になる。
こうした、常に冷静で客観的な目が加わる共同作業で脚本が書き上げられているからこそ、黒澤映画は、世界に通用する作品になっているのだ。