紙の本
コミュニケーションの裏側を鮮やかに解説。
2023/01/16 00:50
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ゲイリーゲイリー - この投稿者のレビュー一覧を見る
本作は、「違国日記」・「魔人探偵脳噛ネウロ」・「鋼の錬金術師」といった漫画から「マトリックス」や「ブラッククランズマン」といった映画まで、個人的に大好きな作品の会話シーンを取り上げていく。
様々なフィクションの会話シーンを基に考察されるのは、コミュニケーションの本質、についてだ。
「コミュニケーション」とは、「この会話のなかではこういうことにしておきましょう」といった約束事の形成及び蓄積である、と著者は定義する。
つまり約束事を積み重ねることで互いに責任が発生し、言動を制約していくことがコミュニケーションの基本なのだ。
こうした前提条件を基に、上記のような作品の会話シーンから、色々なパターンのコミュニケーションの裏側を我々読者に噛み砕いて著者は説明してくれる。
なぜ、分かっていることをわざわざ伝えるのか。反対に、なぜ分かっていることを口に出してはいけないのか。
なぜ、間違っていることが自明なことをコミュニケーションするのか。
なぜ、伝わらないと分かっているからこそコミュニケーションするのか。
私たちの日常生活で度々行われるコミュニケーションの構造を鮮やかに言語化し、明らかにする手腕は見事と言う他ない。
また、コミュニケーションががすれ違った際に起こりうる。約束事の歪曲の恐ろしさも本作は考察していく。
「意味の占有」と呼ばれる、コミュニケーションによって積み重ねられた約束事が、一方にとって都合に良いように捻じ曲げられてしまう事象。
誰もが経験したことがあるに違いないこの事象についても、著者は言語化し構造を明確にしていく。
構造を明らかにすると同時に、相手と自分の力の不均衡によって歪曲された約束事に服従されてしまう「意味の占有」は、差別と直結していると著者は警鐘を鳴らす。
会話を通じて相手の心理や行動を自らの望む方向へと変化させようとすることを指す「マニピュレーション」についても、「意味の占有」同様注意が必要だと著者は述べる。
相手が信じがっていないことを信じさせる悪意あるマニピュレーションや、比喩によって実際以上の説得力を得るマニピュレーション。
こうした聞き手によって受ける印象を操作すること、特定の方向へと思考を誘導するといったマニピュレーションは、差別を煽る文脈で多用されるそうだ。
そして何より特筆すべき点は、悪意あるマニピュレーションを如何に非難するかについても著者が言及していることだ。
マニピュレーションに関しては、コミュニケーションとは別の仕方で責任を問う必要があるのではないか、という著者の主張はごもっとも。
「不快な思いをした人がいたらなら申し訳なく思います」といった謝罪は、発言がもたらす結果の悪質さを受け手の心理の問題へとすり替えているという著者の指摘は、心の底からその通りだと思う。
「それによってどのような結果がもたらされるのか」「そのような結果をもたらすと予見して発言したのか」といった次元で判断すべきことなのだ。
本書を通じて一人でも多くの方が、コミュニケーションの複雑さと面白さ、そして悪質なコミュニケーションやマニピュレーションにどう立ち向かうのかを知って欲しいと強く感じた。
紙の本
楽しみながら読める一冊
2023/03/23 09:51
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投稿者:higassi - この投稿者のレビュー一覧を見る
「会話を哲学する」というと難しそうなタイトルですが、小説や漫画の場面を取り上げながらコミュニケーション(とマニピュレーション)について解説してくれるので、楽しみながら読める一冊でした。一方で「コミュニケーション的暴力」「悪質なマニピュレーション」への警鐘もあり考えさせられる面もしっかり。
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コミュニーケーション/ マニピュレーションの2つの相で会話を分析する新しいコミュニーケーション論。会話の見方が変わる。その手法を用いてフィクションにおける会話を明快、平素に分析してみせていくのが読んでて面白かった。
疑問点として、事例は2人の間の会話に限定していたが、複数人ではどうなるのか。特にコミュニーケーションとマニピュレーションの乖離がより生じるのではないか。
また、応答者の保留、または黙秘によるコミニュケーションの破綻とそれによるマニピュレーションの効果はあるのか。
この辺りは他の著作も参考に考えてみたい
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コミュニケーションとマニピュレーションを分けるという考え方はなるほど感ある。フィクションの考察の仕方として参考になる。現実世界での会話手法への参考を期待していたので、その点はやや弱く感じた。
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マニピュレーションという言葉を初めて教えてくれた一冊。
マニピュレーションとは、会話において意図的に相手を操作しようとすること、と定義されているが、意図しないままに操作してしまうこと、あるいは意図しても操作できないケースもあるのでは、と思った。会話において「匂わせる」ような言い方も、マニピュレーションのうちに入るのだろうか。また、大勢の聴衆の前でのマニピュレーションは存在するのか? いろいろと考えさせられてしまった。
タイトルもわかりやすくシンプルで好感。今日の新聞で3刷とあった。先に買ってまだ読めていない『言葉の展望台』も楽しみ。
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普段無意識にやっていることを理論的に説明すると、すごく難しく感じてしまう。つまりは、私たちが行なっている会話というものが、それほど高難易度のものであるということなんだけど。
コミュニケーションは、相手との約束をもとに成り立つ。ひとつのテーマについて話すとき、わたしこういうスタンスで話すという約束。それがなければ、会話はめちゃくちゃになる。
興味深かったのは、約束している内容と、心の中で思っていることが真逆になっているケースもあるということ。そしてそれを私たちは、なぜか自然と理解できてしまうということ。
この本を読んで、会話がうまくなるなんてことはありませんが、何気ない会話から相手の気遣いに気づいたり、ロマンティックな会話に心動かされたりと、ちょっとした気づきは得られるようになるかもしれません。
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☆3.5くらい。
フィクション(マンガ、小説、戯曲等)内の会話を、コミュニケーションとマニピュレーションという切り口で考える本。
自分の好きな作品が複数取り上げられていたので読んでみた。
表面的に理解は出来るけれど、分かるような分からないような…そんな感じ。
会話を「バケツリレー」ではなくある種の「約束事の応酬」と捉える筆者の考えは、自分になかったので興味深い。
自分は会話をもっと漠然と、哲学ではなく心理学の方面から捉えていた(※心理学専攻だった)ので、どちらかというと発せられる言葉の働きそのものよりも、人物の心情とか状況とか、そういうものにフォーカスしがちなのかもしれない。
特に最後の章「操るための言葉」は、現代社会においてものすごく身に覚えのある例が解説されていて、巧みなマニピュレーションにいかに惑わされないようにするかが重要だと感じた。
理解度が上がることを期待して、またいつか再読したい。
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会話における“表”のコミュニケーションと“裏”のマニピュレーション
双方が一致する時もあれば相違することもあり、それが意図的であったりそうでなかったりする。
コミュニケーションは明示的だからこそ形成された約束事にはある種の拘束力が伴い、それに反する発言によってバランスを調整することになる一方、マニピュレーションには解釈を受け手の責任にできてしまうのだから倫理的な(それによって生じた結果について)責任を問うべきであるということ。
4章 伝わらないからこそ言えること
面白かったです。自分と自分の約束事にしてしまうには苦しいことがあったり、無理だと分かっていても伝えたかったり、その矛盾が人間っぽいと思うから。
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新書は普段あまり読まないけど知ってる作品が例として多く出てきたのもあって読みやすかった。専門的な単語が並ぶと読むのに苦戦してしまうけどコミュニケーション、とマニプレーションの2つに要点を絞って説明しているのでわかりやすい。
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地球っこさんのレビューをみて読みたくなった本。。
とってもよかった~。
「言葉の展望台」を先に読んでいたので、すごく理解しやすかった。
コミュニケーションとマニピュレ-ションに絞った言葉の哲学。
マンガなどフィクション作品を取り上げ、哲学的に解説。
「オリエント急行の殺人」は本当に素晴らしい。
シェイクスピア作品も。
「ゲイを差別するわけではないけれど、でもみんながみんなゲイになったどうなると思う?」
この発言がいかにひどい発言かを説明。
マニピュレーション 怖すぎる。
ここに書かれているようにマニピュレーションにも責任を負う必要があると思いました。
何気なく話している言葉。
人のマニピュレーションに流されることのないようにしたい。
自分の言葉も、もっと大切にしたい と思いました。
これからの生き方に影響を受ける一冊となりました。
地球っこさん ありがとうございました。
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会話の表面の意味と状況によって双方間でなされているものが違うということ。漫画の例がわかりやすかった。趣味で描くものの参考になった。
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ややこしい内容やけど噛み砕いたまとめ方と身近なフィクション作品でかなりわかりやすく説明してくれてる。フーディン‼️人生やり直せるなら人文学の院とか行ってみたかったな
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帯の『うる星やつら』に惹かれて興味を持ちました。
マニピュレーションというのは初耳。
この本の中で説明されていることは、今まで特に意識せず様々なパターンを頭でぼんやりと掴んできたもので、改めて言葉で説明されるとこんな風になるのかと新鮮でした。
ただ特筆感動することもないかもしれないと思っていたのですが、第七章 操るための言葉、の後半を読んで、気が変わりました。この部分がこの本の真骨頂なのではと思っています。
日常で悪質なマニピュレーションをする人がいるというのは察してました。でもそれと共に責めにくい、反感を抱きにくいともやもやしてました。なぜなら、言い逃れされてしまうのがわかっていたので。。
突っ込むと逆に穿ち過ぎたこっちが悪かったのか?となりそうで。。
仕方のないものと思って、そこから先を考えていなかったのが三木さんが丁寧にコミュニケーション、そしてマニピュレーションについて説明、論理展開してくださったことで新たな考え方、物の見方を獲得し、今後のコミュニケーション(マニピュレーション)の中で、今までと違う受け止め方をできそう、と期待してます。
「悪質なマニピュレーションをいかに非難するか」の文は痺れました。
これからは「これは悪質なマニピュレーションだ!」と思うこともできて自分の中で抱え込まず、責める意識、選択肢?も持てるのではないかと期待してます。
そうすることで惑わされるのを回避できたり、マインドコントロールや、騙されることからも距離を取ることに繋がっていかないかな。
悪質なマニピュレーションに対しての非難を今後多くの人が意識して身につけていけば、ネット世界の治安も改善していくことができるのか?と希望を見出すことができて嬉しくなりました。
三木さんが本にして届けてくれたことは偉大なのではないか、と思ってます。
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『話し手の意味の心理性と公共性』が難しくて、こちらを読んだ。『話し手の~』第5章以降、つまり三木さんのコミュニケーション観が色濃く反映された内容だった。
特に言説的責任と倫理的責任を区別する必要に関しては、本当にそう!と思う。
引用元として漫画や小説が使用されており、親しみやすい内容だった。うる星やつらの会話によって主人公たちが何を了解したのかに感動したし、ハガレンの解説にも大いに納得した。
普段の自分の会話を反省する機会にもなった。友人や患者から「死にたい」ことを仄めかされたとき、私はそれをお互いに共通する約束事にしたくなかったから、あえて無視するような反応をしたのだろうな、と。その選択が良くない方向に働くこともあれば、良い方向に働くこともある。母から与えられる“察して”系の発話も、母と娘の閉じた約束事にすることで、私の心を絡めとる仕組みになっていたんだな、と。
今後フィクション作品を鑑賞するときに、会話の場面で何が行われているのか分析できるようになった(気がする)。
会話を俯瞰的に理解する点では評価できるのだけど、本当にそうなのか?と批判できる力が私には無いのが本当に残念。読者や鑑賞者ありきの会話と、まさに今自分自身で発話し、会話の中に組み込まれることには、大きな違いがあるように感じるので、両者を共に「会話」として括ることに抵抗感がある。
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様々な作品を題材に、会話を「約束事の形成」と「話し手が聞き手の心理や行動を操ろうとする意図」の二面から分析していく本。なんとなく素敵なシーンとか粋な会話の魅力というのが少し掴めた気がします。
最後の方では話し手の悪質なマニピュレーションについても解説されていました。自戒の意味をこめて書いておこう…。
何気ない会話の中でも「言った/言ってない」ということではなく、「その発言がどういう選択肢や結果を生み得るか」をよく考える必要がある、と再認識させられました。