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あとがきを教えてもらっていてその言葉がとても美しいと感じていて、気になっていた歌集。まだ未消化のため思いついたことをつらつらとメモすることにする。
以下あとがきの一部を引用。
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感情は、水のように流れていって、もう戻ってこないもの、のはずなのにシャーペンや人差し指で書き留めた瞬間に、よどんだ湖やまぶしい雪原になる、感情を残すということは、それは、とても畏れるべき行為だ、だから、この歌集が、光の下であなたに何度も読まれて、(略)表紙も折れて、背表紙も割れて、砂のようにぼろぼろになって、いつの日か無になることを願う。
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※文庫化する前の歌集はペーパーバックのようにやわやわ。
感情や記憶を水のように捉えている歌もあった。
以下引用。
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記憶ってきっと液体 かぎりなくうすいきおくをもつ海月だろう
会いたさは来る、飲むための水そそぐとき魚の影のような淡さに
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一筋の言葉に閉じ込められた瑞々しい感情やハッとする場面が美しかったが、「千夜曳獏」の方が私にはあっているようだった。それは、中東のことを知らなすぎるからかもしれない。
日本と中東を行き来しつつ作られた短歌は、中東の渇きと、日本の日常に漂うしめりけを感じた気がした。
また争いで死が隣り合わせにある中東の暮らしと、それを対岸の火事として無機質に捉えている日本の暮らしとの日常の開きも淡々と映しとっていると思った。
好きな歌が沢山あったけどこんなに引用したら怒られる?以下引用。
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褒められるために画帳へ閉じ込める柔らかい手首のいくつか
僕たちの運ぶ辞典の頁、頁、膨らみだして港が近い
みることは魅せられること 君の脚は汗をまとったしずかな光
紫陽花の こころにけもの道がありそこでいまだに君をみかける
そのころの未来なのだね桃色に褪せたプラスチックのベンチ
通訳はむこうの岸を見せること木舟のように言葉を選び
一度しか会わない友も友としてヨルダン、ラマダーンの満月
正しさって遠い響きだ ムニエルは切れる、フォークの銀の重さに
アラビアに雪降らぬゆえただ一語サルジェと呼ばれる雪も氷も
この歳になっても慣れない。絨毯のやうに平たく死んでゐる犬
【自爆テロ百人死亡】新聞に相も変わらず焼き芋くるむ
蝋燭が吹かれた一瞬、聖堂の形に闇がふっと固まる
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三十一文字の、その世界の広がりにただただ浸る。
初めから順に読むのではなく、その日、気になったページから読んでいく。
何度も同じところで目がとまる。
この歌に自分の中の何かが引かれていくのだ、と。
光あれ 一頁目は朝焼ける砂漠へ檸檬を絞るがごとくに
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「壜の塩、かつては海をやっていたこともわすれててきらきらきらである」
時間、空間のうつくしさ、あるいはよどみを巧みに閉じ込めているので、その破片がつきんつきんと刺さってくる。
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「アラビアに雪降らぬゆえただ一語ثلج(サルジュ)と呼ばれる雪も氷も」で知った千種創一さんの歌集。
一瞬で通り過ぎてしまうような繊細な景色と、じりじり焼かれるような残酷さが同時に存在していた。
私の知らない世界を見せてくれた歌集だった。
以下、好きだった短歌を引用します。
煙草いりますか、先輩、まだカロリーメイト食って生きてるんすか
口移しで夏を伝えた いっぱいな灰皿、開きっぱなしの和英
記憶ってきっと液体 かぎりなくうすいきおくをもつ海月だろう
唇を重ねなかった後悔がトランクを開くときにあふれる
(口内炎を誰かが花に喩えてた)花を含んで砂漠を歩く
この歳になつても慣れない。絨毯のやうに平たく死んでゐる犬
そもそもが奪って生きる僕たちは夜に笑顔で牛などを焼く
手がふれたときから僕の背景で夕立がやまなくって困る
美しく歳をとろうよ。たまになら水こぼしても怒らないから
もう握り返してくれない掌を握り、握ったまま死ねればよかった
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掲載されている410首の中で、一番良かったのはこれ。
鉄橋のむこうで君が深々とおじぎをしたらはじめます秋
この首は、懐かしさや表現されていない夕陽の眩しさが感じられた。410首の中には、読めない漢字もあって、読み飛ばしたものもあったが読了
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東京外国語大学出身の歌人の第一歌集。アラビア語を専攻しているらしく、中東を題材にした短歌に個性が光る。「瓦斯灯を流砂のほとりに植えていき、そうだね、そこを街と呼ぼうか」「三日月湖の描かれている古地図をちぎり肺魚の餌にしている」「カフェラテの泡へばりつく内側が浜辺めいてるドトールここは」「新市街にアザーンが響き止まなくてすでに記憶のような夕焼け」「手のひらの液晶のなか中東が叫んでいるが次、とまります」「広辞苑第三版の中にいて闘いやめぬアラファト議長(1929~)」「西瓜という水ひとつぶの球体をだいじ、だいじに抱えて帰る」「抱いたあなたが山女魚のように笑うとき僕はきれいな川でありたい」
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自分の語彙があまりにも乏しいせいで、この詩集を少し難しいと感じてしまった。だってこんな言葉にこんな言葉使い、見たことないんよ。言葉を操る人。そしてたぶん、私と同い年。