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歴史の大きなうねりの中で見落とされがちなニッチなトピックについて取り扱っているシリーズ。
個人的にガラスがどのようにして日本にもたらされたかという事に関心があった中で目にした本。まず、ガラスそのものは人類の歴史の中では、西アジアのメソポタミア文明においてBC3000年程あたりから登場するという。そして、東地中海を中心とした地域、アッシリアやアケメネス朝ペルシャ帝国などで盛んに製造されるようになったという。日本では、BC500頃の弥生時代の遺跡から珠状のガラス玉が出土しているという。
現代では100円ショップで色々なガラス製品を買う事ができるが、当時は非常に貴重なものであったことは想像に固くない。それ故、地位を表す装飾品や儀式に用いる品といった用途で使われていたのであろう。当然、それは地域間の交流の中で、朝貢品として贈られたり、交易の対象物となっていく。価値がないものであれば、わざわざ遠方まで運んでいく理由はない。ガラスは、世界がグローバル化していく過程でその媒介物となった品物の一つであると言える。
著者であるが、東大を卒業した後、電機メーカーに就職し、一念発起して再度東大の学士受験をし考古学の道にはいったという異色の研究者である。王道の土器などを研究して10歳も歳下の研究者と張り合うよりはニッチな分野に進んだ方が目立つことができるという着目点がすばらしい。戦略論でいうところのブルーオーシャンを目指したという事になろう。
正直、売れるために書いた本ではないだろうし、売れるトピックでもないだろう。しかし世界史のダイナミックな流れの中でも、大きなテーマとなるシルクロードや東西交易と関連するものでもあり、掘り下げ方によっては映画のテーマにもなるような可能性を秘めている。
正直なところ、書中では学術的な記述が多いので冗長と感じる事が多い。一方、学術的な考察よりも、それを取り巻く人や、国家の覇権争いなどの要素が加わってくると、更にトピックとしての魅力が増すのではないかと期待される内容ではある。腕のある脚本家と組んだら面白いのでは。