紙の本
あの日のことを忘れない
2023/05/18 15:53
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
第168回芥川賞受賞作。(2023年)
作者の佐藤厚志さんが仙台で書店員でもあるということは、受賞後の報道から知られている。
前作『象の皮膚』は、2011年3月に起こった東日本大震災直後の書店での様など実にリアルに描かれていて読み応えがあった。
今回の受賞作も東日本大震災で大きな被害のあった仙台の海沿いの街で暮らす男とその周辺の人たちを描いて、深い感動を持たらしてくれる。
戦争にしろ天災にしろ大きな厄災があった時、死んでいく者と生き残る者が生まれる。
そのことはやむをえないが、生き残った者となった時、その人にはどうして自分が生き残ったのかという悔悟が生まれることほどつらいことはない。
作品の中にこんな一節がある。
「生者は時に闇をかき分けてでも失った人を感じたくて、すがるように光を追いかけて手を伸ばす。」
この作品こそ、佐藤厚志さんが伸ばした手かもしれない。
芥川賞選考委員の一人、吉田修一氏は「読後、胸に熱いものが込み上げてきた」と書いているし、それは多くの人の読書後の感想であるかもしれない。
その一方で、島田雅彦委員の「美談はしばしば、現実のネガティブな部分も隠してしまう」という言葉をおろそかにすべきではない。
それでも、佐藤さんには大きな厄災を経験した当事者として、臆せずあの日とあの日に続く有り様を書いてほしいと思う。
あの日のことは忘れてはいけないのだから。
投稿元:
レビューを見る
芥川賞受賞作。
時系列がバラバラに出てきて、だんだんと主人公たちの人生やこれまでの事情がわかってくる構成が純文学っぽいのかな。読み心地の良い文章で面白かった。
内容的には暗くて、ほんと生きていくのは大変だ…と思う。でも続きが読みたいと思うのがすごい。
「俺にしても死ぬ順番を待つ大行列のひとりに過ぎない。生きている間にどうにか飯を食って啓太を育てるだけだ。」p.142
が印象的な箇所だった。
必死に働いて、ご飯を食べて息子を育てるためだけに生きている主人公。他に何も楽しみはないのかな…。
家で本を読む楽しみがある私は、震災の影響も受けずに病気にも苦しまずに、良いご身分で主人公たちの生活を覗いた気分になった…。
でも震災も病気もいつ自分に襲いかかるかわからないものだから、生きるのってほんと大変だな…という感想。
投稿元:
レビューを見る
芥川賞候補作
本が出版される前なので、新潮2022年12月で読む。
東日本大震災は、被災地で暮らす人々の生活を大きく変えた。
震災に見舞われたひとりの中年男性が、正面から震災後に向き合う話。
亘理町の姿、そこに暮らす人々。
かつての生活と、いま。
荒地は、かつて人々が住んでいた場所。
物語に直接重苦しいことが書かれているのではないが、物語の中に通奏低音のように重苦しさ、辛さが流れている。
かなり重い。
投稿元:
レビューを見る
色で表すなら、くすんだ灰色。
どんよりして重くて、まるでコンクリートのような。
震災と、残された人々、そして主人公の感じ方、生き方、そのものだと感じました。
色んな人やものを震災やその後で失った人たちのどうしようもない、行き場のない気持ちが静かにじんわりと伝わってくるのは、今まで読んだことのない不思議な感覚でした。
重い話なのに途中で投げ出さず最後まで読めたのは、そこに震災を経験した人のリアルな欠片が散りばめられていたからかも知れません。
投稿元:
レビューを見る
東日本大震災に関わる物語だが、当時の衝撃的な表現というよりも、災害後にさまざまな環境に置かれている人がそれぞれ自分たちの状況下で苦しんでいる描写がどれもリアルでじわじわと苦しくなるような作品。
宮城に住んでいるのであらゆる人物の言動が身近な人のそれと重なり、読むのに時間がかかった。
主人公の祐治が一生懸命というよりは没頭して他のことを何も考えられなくするように仕事に打ち込む姿は、大きなものを失いながらも必死に生きてきた大人達が想像されたし、そんな祐治の姿を横目に大人しく生きる息子の啓太は、震災後、必死に生きる大人に配慮しながら生きなければならなかった子どもたちを想起させた。
他にも、災害や病を自分への報いと捉える人や、かつての故郷に思いを馳せ続けたい人。どれもがリアルで痛々しかったが、この本を読んでもらうことで、震災を知らない人にもここにいる人たちの思いを知ってもらいたい。12年前のそれだけではなく、その後もずっと、さまざまな形でそれは尾を引いている。
祐治が啓太と親子らしい(と祐治が納得できる)会話ができるようになるためにはもう少し時間が必要かもしれないと思ったが、この荒地の家族の幸せを心から願いたい。
投稿元:
レビューを見る
.
#荒地の家族
#佐藤厚志
23/1/19出版
第168回芥川賞受賞作ということもあるけど、
生まれ故郷が被災した東日本大震災が関係する小説だから読んでみたい
止むことのない渇きと痛み、とはどんなものなんだろう?
#読書好きな人と繋がりたい
#読書
#本好き
#読みたい本
https://amzn.to/3XpXu7U
投稿元:
レビューを見る
震災は誰のせいでもないが、当たり前の様に生活をしていた環境が奪われ、家族を奪われた人もいる
決して元の生活には戻れない
だが、生きていられるだけ幸せなのか、そう信じて前を向いて生きていかなければいけない
絶対に生きていれば、良いこともあると信じて!
投稿元:
レビューを見る
家族の日常から色々な人との関わりが見えてくる。
震災で変わってしまった街、でもそこで生き続ける人たちの思いや考えなど、震災があったから感じること、思うことがあるのかもしれません。
知ってる地名が出てきたりして、親近感わきました。
同じ東北で同じ震災を経験したから伝わるもの、感じるものがありました。
投稿元:
レビューを見る
実際に東日本大震災を経験していたら感想が出るのかもしれない。わたしじゃ想像力が追いつかなかった、暗い感じがする作品でした。
大切にすべきものは仕事じゃない、というメッセージがあったように思いました。
投稿元:
レビューを見る
「象の皮膚」でも感じたけれど、主人公の心情が淡々と綴られていく様や明確な最後や劇的な展開はないのだけれど、辛い現状も過去もすべて引っ提げたそのまま続いていくという現実がしみじみと突き刺さる。
投稿元:
レビューを見る
逢隈、鳥の海、仙台、なじみのある土地、震災を経験した身として、あの日を思い出さずにはいられない。震災風化
への抵抗。確かに、来月で12年になるが、深い悲しみを背負って生きていかなければならない人は数えきれない。ノンフィクションとも思える心の葛藤や情景。海の様子、死者への報い、つらい言葉ばかりが連なる。震災を忘れないような手段は写真ばかりではない。
投稿元:
レビューを見る
大切な人を失った後も生きていくことのせつなさを感じる。震災が奪ったものは人だけでなく住む場所、景色などいろいろあるのだろう。実際に体験した人ならではの表現だと思った。
投稿元:
レビューを見る
2011年3月、未曾有の大災害が東北を襲った。
その襲ったものは、人間の記憶に深く鋭利に入り込んでいき、世界を震撼させた。
本作は、震災で何かを失った人たちの深く鬱蒼とした気持ちを問い続ける作品です。
著者の佐藤さんは、仙台出身で、現在も仙台に暮らし、仙台で書店員をしながら、執筆活動をされている。自分の故郷の暗いイメージを作品にするのは、中々勇気のいることだと思うし、難しいと思うし、どう作品として、表現するのか。
でも、負のイメージだけでは無くて、次に再生することも表現さてれいて、希望の作品なんじゃないかと感じました。
この作品が芥川賞を受賞して、とても良かったと個人的には感じました。(偉そうですいません)
投稿元:
レビューを見る
祐治にしろ、明夫にしろ、辛い!!どんな呪縛だ。生きる事は苦行なのか。只々、靄をかきわけるように読了。
投稿元:
レビューを見る
3.11災厄の「それから」を描いた作品。
日常の至るところであの日失くしたものを想起し、その疼きと向き合いながら生きていくことのむごさ。
希望、平静、そして安らぎ。
本当の意味で当事者にそれらが訪れることはないのかもしれない。
けれど生きるってそういうことだ。