投稿元:
レビューを見る
先月オハイオ州で起きた列車事故のモデル? って言われる映画の原作ってことで借りてきました。40年前の小説なんですが新訳が去年の12月に出ていて綺麗な本で良かった。
その問題(?)の列車事故場面ですが、これがなかなか出て来ない! 2章からなんですね。まず1章は100ページくらい風変わりな家族のお話を読まされる。主人公がドイツ語の分からないヒトラー学の権威ある大学教授って?
で、2章。それは不意にきます。ヒトラー学者の息子ちゃんが窓から双眼鏡で操車場を見ている。「なんか事故が起きたみたい」に「問題ない」とヒトラー学者。ヘリコプターが出動しても、サイレンが鳴り響いても、有毒ガスの流出がわかり避難の町内放送に対しても「問題ない」ときっぱり。そしてテレビでの臨時ニュースが流れパニックになる家族をなだめるようにいう。
「私は大学教授だ。テレビのなかの洪水の映像で、自宅の前の道路に浮かべたボートを漕いでいる大学教授なんて見たことがあるか?」
災害に遭うのは決まって貧困者だというんですね。そのヒトラー学者ったらあっさり有毒ガスを浴びてさぁどうする? っていうのが本題なのですが、もうここまでで私はお腹いっぱい。
オハイオの小さな街をアウシュヴィッツのガス室に見立てると自らそのなかに進んでいくドイツ語を解さないヒトラー学者ってなに? 我々は歴史からなにを学ぶの? という感じよね。だからこの表紙がシュールな観覧車!
これって本当に40年前の小説? いやいや翻訳の都甲さんも書いてますが「コロナ禍」「ロシア禍」を経た翻訳であり、まったく今の小説なんですね。つまりは知的エリートとされる『専門家』の正体を暴く預言の書なんです。思えば「大学教授」に振り回される3年間でした。気づいたらあらぬ場所に連れてこられていたという。まぁそういうシナリオだったのでしょう。
最後の最後、主人公は「宗教」にすがるのですが、それがまぁなんといいますか、40年前の小説なのでポストモダンといいますか、見事に「ハズし」てくれるんです、はい、最高(?)の結末が待っています。
にしてもリアル・オハイオのその後ってどうなってるんだろう? 隣の州で謎の灰が降り積もったというニュースもありましたが……。
ブクログさん表紙ないんかい!