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著者の動的平衡シリーズ第3段。章毎に話が完結しており、各々楽しめる。特に新書版で加えられた新型コロナウイルスに関する第11章が面白い。ウイルスは敵ではなく、相補的な関係として長く共に存在してきた。時にはヒトを死に至らせることもあるが、それはウイルス側というよりは、ヒトの免疫反応として起きるものである。ヒトの遺伝子にはウイルスからもたらされた配列もあり、それを受け入れながら長い年月をかけて生き延びてきた。無理に制圧したり撲滅できるものではなく、地球全体の動的な平衡の中で成り立っている。7章のがんに関する話もそうであるが、体内で起きている現象もまだまだ分からないことも多く、自然に対する畏敬の念を忘れるべきではない。
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副題の「チャンスは準備された心にのみ降り立つ」は第9章のタイトルで、「動的平衡」とは関係のないスティーブ・ジョブズの話だったりする。
「動的平衡」に関する新しい発見を語るのではなく、生命とは「動的平衡」であるというご自身の理論をふまえて科学・医学・芸術などを思うがままに語るという内容でした。
「動的平衡」とは、
生体の中で合成と分解を繰り返している反応で、合成と分解が同じ速度で進んでいるため、一見変化が起きていないようにみえる状態。
のこと。
例えば、人の細胞は入れ替わりが激しく、3年前と今の自分はほとんどが異なる細胞でできている。
特に速いのが皮膚の細胞で、一カ月で全て入れ替わる。
これは、かすり傷なら10日もすれば治ることからも実感できる。
体の内部は気が付かないが、血液は4カ月、骨は3年で全て入れ替わるそうだ。
例外もあり、心臓は一生で半分以下で、脳はほとんど入れ替わらない。
こうして、日々せっせと作り直しているから、多少のダメージを受けても復活できる。
ところが、分解→合成は常に正しく行われず、コピーに失敗することもある。
このコピー失敗によって起こるのが老化だったり癌だったりする。
これは、生きている以上は避けられないことなのだ。
だが、DNA複製機構が100%完璧なコピーを実行するなら進化はなく、原始的な単細胞生物のままで今の我々は存在していない。
「動的平衡」の復習はこれで終わりにして、本書で頭に残ったこと。
・「物知り」を知識の羅列とすると「教養」はその答えに達するまでの経緯を語れること。
・インターネット上のデータや知識を情報と呼んでいるが、それは静的な蓄積に過ぎない。
・生命にとっての情報は「変化量」である。気温、酸素濃度、不審な音、味や匂いなどの変化を適切にくみ取ることが生命現象の秩序の維持には必要。
・STAP細胞の論文は、最高権威の審査が機能せずにネイチャーに掲載された。ネット上のあら捜しが問題点を見つけた。
・親の経験が子に遺伝することはない、とは言い切れない。
・食べ物は身体を"作り直す"という役割が重要。
・ピアニストや棋士の天才になる遺伝子はない。
・私たちは芸術を渇望するが、音楽を必要とする理由は何だろう。その起源は、生物の求愛行動コミュニケーションにあるのでは。
・優れた音楽家はその身体性を楽器にまで拡張する。アンネ・ゾフィー・ムターは肩当てを使わないが、それは「ヴァイオリンの振動をじかに身体で感じ取りたいから」。
・全ての地球上の生き物が動的平衡の一部であり、COVID-19も地球の生命系という大きな動的平衡の一部なのだ。
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相変わらず、引き込まれる本である。
・動的平衡組織論、昨今流行りの自立分散型組織論と近しい。
・無作為は作為に勝る。過剰に準備して環境が彫琢する。未知の事象に対しては、発生的が設計的に勝る。
→これは昨今の、論理の限界論ともリンクする。ロジカルに戦略立てて段階的に進んでも、当初のゴールに辿り着いた時にはすでにニーズが変わっている…という話に近しい。
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生物がエントロピー増大に対抗するために行う動的平衡の概念をベースにさまざまなトピックを解説。いずれも興味深い内容でした。
新型コロナにも言及。自然を人間がどうこうできるはずもないので、打ち勝つではなく正しく畏れるであるべきと指摘。最近の為政者らに理解願いたいところですねー。
何であれ自然を研究している方は、自然に謙虚であることに行き着きますね。恐れを知っているからでしょうか。
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コロナ騒動がもう直ぐ終わろとしてる。
個体の死は、生態系全体の動的平衡を促進する行為である。つまり個体の死は最大の利他的行為であり、ウイルスはそれに手を貸している。
確かにその通りで、ワクチン接種は、それに抗う無意味な行為であると確信した。
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宇宙の大原則であるエントロピー(乱雑さ)増大の法則に生命は「絶え間ない分解と更新」で抗う。この生命の営みが福岡博士のいう「動的平衡」である。
本書では、この鍵概念をもとに様々な話題が取り上げられているが、「エントロピー増大の法則という名の(不可避の)風化作業に徐々に負けていくプロセスが老化」という部分が特に印象に残った。
生命の神秘に触れた気になれる良書。
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分子生物学を通して人間とは・自分とは何かを問う、福岡伸一のエッセイである。動的平衡という概念でヒトの生理学的存在を表象しその根拠をいろいろな角度から明らかにしていくもので、この分野に疎い自分にも話はわかり易く納得性がある。同時に認識が深まる毎に心が揺さぶられる。「生命体は頑丈に作るのではなく柔らかく作り自らを常に壊し分解しつつ作り直し更新と交換をする」という。
細胞の解体・タンパク質の分解・遺伝子情報の消去や抑制は千差万別で常に滞らないようにバックアップされ、生命は柔軟で環境に適応的進化が可能になる。この動的平衡は中央統制ではなく自律分散型である。
脳は中枢ではなく知覚感覚情報を集約し中継するサーバーのようなもの。‥‥37億年の生命の時間軸で極微小の細胞や遺伝子・タンパク質の生成・削減をくり返す一連の話はとにかく新鮮で面白いの一語に尽きる。
「新陳代謝」という言葉は一度も使われていないがなぜなのだろうという疑問も浮かぶ。
福岡伸一の本は2冊目だが、取り上げられるエピソードはどれも的確で印象的である。パスツールのザ・プリペアード・マインド、コッフォの3原則、ステイーブ・ジョブスのコネクト・ザ・ドット等々天才達の教訓に満ちた話が多い。
分子生物学の話は哲学でもあるということを痛感した。
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今回のキーワードは「エントロピー」だろうか。
エントロピー増大に抗う生命、不確実性の中での生存戦略としての「準備された心」。福岡先生の実体験とともに語られるため専門外の人間にもとっつきやすい。
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破壊・分解と作り直し・更新により生命は継続するという生命の基本原理を「動的平衡」と定義。1章で組織論に応用可能と書いていた。自分も動的平衡の観点から,組織を考えたいとあらためて思った。「ジグソーパズルのピースのようなもので,前後左右のピースと連携をとりながら絶えず更新されている。ピース自体が交換されても,ジグソーパズルは全体としてゆるく連携しあっており,絵柄は変わらない。」(17ページ)
ウイルスは遺伝情報を水平方向に伝える話はもうちょっと詳しく知りたかった。
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「教養」と「物知り」の違いは何か。生命や細胞を通じて11のテーマ(章)で共通しているのは、エントロピー増大の法則。
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所々難解で、意識が遠退く章があったが、それを除けば実に知的好奇心をくすぐる良書だと感じた。
動きつつ、釣り合いをとる。これが動的平衡の意味だ。放っておけば、何でも無秩序となってしまう。それがあらゆることに共通した法則「エントロピー増大の法則」。我々生物の組織は、常に破壊し再生すること(つまり動的平衡を保つこと)で生命秩序を維持させているが、やがて法則に抗うことが出来なくなり、死に至る。
水について、老化、記憶のメカニズム、遺伝子、癌と生きる、腸内細菌の優れたパワー、そしてコロナウイルスについて
どれも長い時間軸の上では、動的平衡と言う法則に則っているんだなと感じた。
締めくくりは、C0VID-19を通じての福岡先生の説明に更に納得。
そもそも、C0VID-19の諸症状は、ウイルスが毒素を出したり、何らかの害作用を仕掛けたりしているのではなく、ウイルス感染という事態に対処した身体の側の反応である。免疫系が活性化されたことの帰結である。それが、アンバランスに過剰反応すると、免疫システムを暴走させ、重症化をもたらす(サイトカインストームと呼ばれるものも、これに当てはまる)。ウイルスが悪いのではなく、宿主側が悪いのだ。
パンデミックには、生態学的な調整作用があると言ってよい。人類史を眺めれば、ウイルスは、その都度生き延びるものと死ぬものを峻別し、生き延びるものには免疫を与え、人口を調整してくれた。つまり生命の動的平衡を維持してきた。
ウイルスは地球生命系という大きな動的平衡の一部、自然の環のひとつであるから、それを根絶したり撲滅したりすることはできない。無理に制圧や管理を強行すれば、自然の環が切れて、動的平衡が乱れる。流れるものを止めてはいけない。止めるとその膨圧はどこかに密かに蓄積され、あるとき、とてつもないリベンジをしかけてくることになる。
つまりそれは、動的平衡としての生命の自由さ自体が、大きく損なわれてしまうことに他ならない。動的平衡はいつも、過剰さと彫琢の、精妙な流れのバランスのうえにこそ成り立つ。
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全体を通して、「動的平衡」をテーマとした単発的なエッセイを章立てしただけの感があり、これまでのものに比べると章の順番で読んでいく楽しみがなかった(どこから読んでも同じ?)のが残念。
さすがにシリーズ3冊目となるので、随所に見られた動的平衡そのものの解説はもはや不要と言ってよいのだが、本書が初めてという人に対する心配りがあったのか、どこから読んでも良いように・・・なんでしょうかね。
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1や2と比較するとやや話がとりとめないけれど、どの話も面白かった。理系じゃない人にもわかりやすい説明でした。
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「タンパク質を食物として摂取しなければならないのは、自分自身の身体を日々、作り直すため。消化管の細胞はたった二、三日で作り替えられている。一年も経つと、昨年、私を形作っていた物質はほとんど入れ替えられ、現在の私は物質的には別人となってる。」とは驚きだ。
決まり文句である「お変わりありませんか?」の返事は福岡先生曰く「変わりまくり」なのだ。
生命は絶え間のない分子と原子の流れの中に、危ういバランスとしてある=動的平衡
私の生活、私の心理状態もある意味、自分自身を保つために何かを取り入れ、壊し、心の酸化や変性があり、老廃物をなんとか排除し保っている、動的平衡とも言えるのではないか。
点だけを語るのではなく点と点を結び語ることができるようになりたい。
そして点と点が全く無関係なものであっても、それがいつか次のチャンスを産み出すことになるかもしれない。
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シリーズの1, 2のほうが学びが多くて面白かったけど、エッセイとして面白い。
11 - きちんとプロセスをたどって答えに到達しないと、その答えを本当に理解したことにならない。「教養」と「物知り」の違いもこの辺にあるのではないか。
28 - 日本の水道水にはかなり高濃度の塩素が含まれていると考えられる。外国ならば上限オーバーの値だ。
73 - 記憶はニューロンとシナプスの回路によって保存されている。
206 - 消化管は人体組織のうち、もっとも細胞の新陳代謝速度が速い部位である。二、三日で細胞は交換される。
207 - ヒトの消化管内にはおよそ100兆匹の腸内細菌が棲みついている。この数は自身の細胞数約37兆個をはるかに凌駕している。