多角的科学的に挑む
2023/12/27 14:55
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投稿者:ichikawan - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者は大学院時代に自らがヘイトクライムの被害にあったことで専攻を犯罪学に変えた。また自分が加害者になりかねない可能性についても考える。人はなぜ差別をするのか。さらにはヘイトクライムにまで至ることさえあるのはなぜなのか。倫理の問題としてだけでなく生理学や心理学など多角的科学的にこの問題に挑んでいる。
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著者は英国カーディフ大学の犯罪学教授。
同性愛者でもあり、そのことで暴行をされたことをきっかけに研究者の道を目指す。
研究の結論が、憎悪の根底には偏見があるということ。
偏見は全員にあるけど、行動にする人しない人の違いとは?
偏見はどんな時に憎悪に変わるのか?
を探る憎しみの科学。
憎しみを持った個人が集団になると、私たちvs彼らという対立を作り出す。
集団になると没個性化といった個人と集団の壁が曖昧になる現象が起きる。
そのため、群集心理として個人の責任が希薄化する。
集団は怒り、怖れ、屈辱、恥、共感の欠如といったネガティブな感情も助長する。
最終形態には相手の絶滅があり、ナチスドイツのユダヤ人撲滅のような過激な行動に繋がってしまう。
このような行動背景には行き過ぎた「情熱」と「執着」といった共通点がある。
それにより、道徳的大義や正義は自分達にあると思い込み、憎しみの対象を道徳的な敵とし手段の正当化をする。
集団になると個人では絶対にしないような行動、心理状態になる。
人の残酷さが分かる一冊。
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実に力の込められた力作だと思った(何せ著者が自分を実験台にしてまで研究したくらいなのだから)。憎悪という感情から生じるヘイトクライムについて、やまゆり園の事件まで含めて広くサンプルを採集しそこから実験データを元に分析を施していく。人間は憎悪を学習するのか、それとも生来そうした性質が備わっているのか。それは「どちらとも言える」からこそ難しいのだろう。ヘイトクライムの犯罪者の人生をも洗い直すことで勇気を持って見つめるスタンスに著者の優しさと冷徹さを感じる。希望が見えてくる教訓を示しているところもまた美点だろう
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「憎悪の科学」読んだ kawade.co.jp/sp/isbn/978430… 誰もが持つ嫌いという感情が、強い憎しみに変わったりさらにある人は暴力や殺人を起こすのは何故なのか、一線を越えるきっかけは何か、越えない人との違いは何か、脳科学にフォーカスして論じててすごくおもしろい(つづく
性犯罪者のように脳の先天的な特徴が原因かと思いきや、後天的つまり生育環境とか成長過程で決定的な体験を重ねてするとか、トラウマの共有による強い帰属意識(信仰心も)とかによって脳反応が次第にカスタムされていく、というのが驚き。事例がどれも陰惨でしこも実例なのでものすごい疲れながら読んだ
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偏見が憎悪に変わりヘイトクライムに転換していく過程を、データを基に科学的に解明していく、英国の大学の犯罪学教授による書。日本の事例も含めて、世界各国の事例を丹念に研究されている。
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同性愛差別者から暴行を受けたことをきっかけに本書が執筆されたという。
科学的に偏見や差別に迫る点は良いのだが、「ホントかよ」と思えるところもあった。
個人的に興味深かったのはインターネットを蝕むヘイトスピーチをまとめた箇所。コロナ禍や世界的混乱が加わると笑えなかった。
家庭環境に問題があったり、PTSDが起きる出来事に関わったりすると人間の脳は学習を受け入れられない状態になるという。こうした問題が全て繋がってくるとなると、全ては対岸の火事と笑えなかった。
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人の「憎悪」の理由や根源を探る本。内集団、外集団という概念から、本能的に味方を守ろうとする故の「憎悪」。"狭隘な正義”である。これを言語化すると、本書の区分では<使命的憎悪者・報復的憎悪者・防御的憎悪者>となる。これとは全く異質なものとして<スリルを求める犯罪者>という存在も。
こういう整理は秀逸だが、憎悪が暴発した事例についての記載も本書は優れている。優れてはいるが・・胸クソだ。黒人が黒人だという理由だけで、暴力に見舞われるような事例、黒人に限らずに複数のケースが紹介される。最悪なのは、被害者を救うべき警察が暴力に加担するケースだ。
なぜ、そんな事が起こるのか。それを解明する幾つかの実験結果も紹介される。その中で驚いたのが、脳の反応についてだ。ただ、黒人には悪いが、この脳の反応についても感覚的に理解できてしまう。我々は、黒人が怖い。それは後天的なものではなく、先天的なものだ。理由は想像できる。皮膚病が分からないし、暗闇で見えにくい肌の色は、生存戦略上に優位な点があるのだろうが、その反面で恐怖心が沸く(これは本書で述べられる事では無く、私感である)。
ー 実験の結果、一部の被験者で、白人ではなく黒人の顔が映し出されたときに、扁桃体が活性化したように見えた。脳のこの領域に血液が流れ、酸素供給がfMRIに捉えられて、活動が活発になったことが示されたのだ。ランニングをすると足の筋肉に血液と酸素の補充が必要になるのと同じように、脳の一部は感覚器官から受け取る情報を処理するときに追加の血液と酸素供給を必要とする。
扁桃体は、クモから襲ってくる可能性のある人物まで、環境に存在するあらゆる脅威に反応して恐怖や攻撃性を引き起こす役割を担っている。脅威が検出されると、桃体は脳の他の領域と連携して“非常警報”つまり「開争・逃走」反応を発令する。すると、心拍数が上がり、血液が筋肉に送られて、行動が起こる。
このような極端な反応は、扁桃体の活性度が高い場合にのみ起こる。米国で行なわれたこれらの先駆的な研究の最初のものでは、扁桃体の活性化は非常警報を発合するには弱すぎたが、一部の白人被験者で、「ノイズ」中にあるかすかなシグナルがfMRIで拾われた。
平和が望ましいし、差別のない社会が理想だ。しかし、綺麗ごとだけでは無く、我々の生理的な反応を理解した上でルール設定をする必要があるのだろう。正義感や防衛本能が暴発するのだから、これは複雑な問題だ。