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これは面白かった。善の神と悪の神の戦い、天地創造の神話以降は神そのものの姿は遠のくものの、人間離れした寿命と才を持つ王族や英雄の物語はわくわくする。解説にも書かれているが、まるでおとぎ話のように善と悪がくっきりしてして禁断のロマンスあり、心燃え立つ復讐の戦あり、変わった外見故に捨てられた子供が神獣に育てられる話あり、と読者(本来は聴衆なのだろうか)を飽きさせない。
イスラーム化以降もイランの人々の心にこの神話は深く根付いているとのことだが、そりゃあこんなかっこいい英雄や麗しい姫君揃いの面白い話ならそうだろう、と納得した。イランの英雄ザーベと敵国の姫ルーダーベの秘密の恋が成就するあたりが特に好き。
ペルシャ神話には、人間の儚い生への諦念が常に付きまとっている。
「しかし、現世はわれらに何をしてくれるのでしょう。ついには死の苦痛と、土のしとねを与えられない者が一人としているでしょうか。」
このような台詞を、栄華の極みにあるはずの王や英雄が幾度となく口にする。あとには何も残せない、後には散る花のような人生(とはいっても、何百年も生きたりするのだが)を、彼らは立派に咲かすのである。
読みやすく落ち着いた語り口ながら、ときたま抑えきれず興奮と感嘆の!が出てしまう著者の書きぶりも良かった。著者自身がこの物語に魅せられているからこそ、一緒に物語の中に心地よく浸かりきることができる。神話の成立など学術的な話はまえがきで本当に最小限にし、物語の筋に集中できるようにしているのも魅力を最大限に活かしたいからなのだろう。
あとがきにさらっと書かれている続きの部分もものすごく面白そうなんだけど、続きは一体どこで読めるのだろうか。続編求む!