紙の本
圧巻の調査
2023/11/17 20:45
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投稿者:BB - この投稿者のレビュー一覧を見る
ラジオの戦争責任について、膨大な史料(音源や文献、証言)を基に解き明かした1冊。分厚くて、読み始めるのに覚悟が要ったが、もとは連載だった文章をまとめたものだけに、一つ一つ読み進めやすかった。
国策に従い、戦意高揚に一役買ったラジオの戦争協力は、本当に仕方なかったのか。
そんな著者の問題意識を出発点に、何が変わり何が変わっていないのか、国(権力)はどこまでメディアを支配できるのか、またメディアはそれにどこまで抗えるのか…考えさせる。
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「終戦の日に考える。戦争でラジオは何を伝え、何を伝えなかったのか」ゲスト:大森淳郎さん▼2023年8月15日(火)放送分
https://www.tbsradio.jp/articles/73543/
毎日新聞 2023.8.27朝刊 加藤陽子 評
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歴史修正主義にまんまと乗ってしまう人、
国の施策・サービスを知らないがために受けられるべき支援を受けられない人がいる。
自分は本を読んだり情報を自分から取りに行くことで何とかついて行っていると自負するけれど、
世の多くの人は、何も知らず、世の中に流される。
電車の中で寝ていたり、スマホゲームに没頭したりしている。
つくづく、教育の必要性を感じる。
今の文科省の教育ではない。
生きていくための教育、リベラルアーツだ。
しかし、さて、どうやって?
と考えたとき、戦前はラジオ、戦後はテレビがその手段であったのだ、と気づく。
テレビの視聴率、紅白や大相撲で80%を超えた、なんて聞いたことがある。
その放送の内容が国民の頭脳にもたらすものは大きいはずだ。
今ではメディアが多様化し、朝ドラでも視聴率は20%。
国民が同じものを見る、ということはまずない。
ましてラジオ、、最近podcastにより独自の世界を開拓しているとはいうものの、
影響力は小さい。
ただ。戦前はラジオだけだった。
そのラジオが国民に何をもたらしたか。
それを描いたのがこの本だ。
当時のラジオの原稿は敗戦でほとんど燃やされ、録音もわずかしか残っていない。
それを個人で録音機で作って、大本営発表を録音していた人に出会うところからこの本は始まる。
ラジオとして、不利な戦況をいかに表現して国民の戦意を鼓舞するかに腐心した当時のNHK。
アナウンサーの口調。
報道ではなく「報導」という言葉にドキッとする。
これだけでもお腹いっぱいだが、この本はさらに、個人を描く。
詩人、放送編集者、、、
もともと持っていた理想からどんどん離れていく自分の仕事。
忸怩たる思いがあったか、魂を売ったか。
しかしあの戦況下で何ができたか。自分ならどうしたか。
さらに本は戦後を描く。
GHQによる検閲。自由の国のチェックと表現していた。
しかし広島原爆の状況については一切放送させない。
GHQが撤退する1950年、今度は国がNHKにちょっかいを出す。
自衛隊の前身の創設を茶化す番組をやめさせる。。。
そして今。安倍政権は従軍慰安婦ドキュメントを骨抜きにした。
歴史修正主義。
あ、最初に戻ってしまった。
放送の影響は戦前とは違うとはいえ、腐っても鯛。
事実を事実と認めない国民が増えていく。
朝鮮人虐殺しかり。
いや、もしかしたら今まさに行われている入管の人権侵害も、
「悪い外国人を追い出すのは正しい」と信じている人も多いかもしれない。
NHKの役割は小さくない。
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戦時中に仕事としてラジオ放送に関わった当事者が、自分達の見聞きした事を後世に伝えたいと思ってもその立場や経験の違いから話せる人と話せない人がいるだろう。なにより死者は伝えたくてもできない。戦時中、“伝える”を仕事にしていた人達の仕事内容、のちにNHKとなる組織のなりたちを時系列に沿って検証し、当事者に取材した貴重な証言の数々はこれまで映画や小説から受けていた検閲の印象とは違いとても興味深い。当初は分厚さに怯んだが(資料等は適宜読み飛ばしつつ)初めて知る事、当時ラジオ放送が果たした役割の大きさに驚き、AMラジオが今年2月から順次廃止されるという時期、しかもチャーチル評伝の次に図書館リクエストの順番が回ってきたという偶然の巡り合わせも感慨深い。
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いつも聴いているpodcastの番組に著者の大森淳郎さんがゲスト出演していて、本書についてお話ししていました。
大森さんは長年NHKでディレクターとしてETV特集等を担当していた方です。
本書は、その大森さんが、NHK放送文化研究所の月刊誌「放送研究と調査」で連載した記事をまとめたもので、太平洋戦争当時、ラジオ放送に関わった「放送人」が何を考え、どう行動し、何をしなかったのかを貴重な証言や音源から顕かにしていくノンフィクション作品です。
丹念な取材にもとづく力作で、読み応え十分です。