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集英社文庫で酉島伝法作品出すのね・・・という感想はさておき、うーん、これはレビューが難しいなぁ。
鴨は氏のデビュー作「皆勤の徒」が大好きで、何度も読んで、その度に感動しています。あの独特な造語の本流、軽く流し読みするだけでは全く理解できない分厚く不可解な世界観、作品全体に漂う切切とした哀感、そして不穏な空気・・・唯一無二の作風だと、鴨は思っています。
他方、本作「るん(笑)」は、科学とスピリチュアリズムが逆転した日本(おそらく現代とほぼ変わらないでしょう)を舞台に、38度を「平熱」としたりホメオパシーで病気を治そうとしたり、猫が人を誑かす害獣と見做されて殺された死骸の山が存在していたりと、価値観が逆転することにより発生する恐怖をじわじわと描いています。ただ、その筆致はあくまでも淡々としており、登場人物の一部が「この状況はおかしい」と薄々感じていることも淡々と描き出し、特にこれといった事件が起こることもなく何も解決せず、この連作集は幕を閉じます。
怖いです。とても怖い作品です。でも、酉島作品としては、ちょっとイマイチかなぁ・・・というのが、鴨の偽らざる感想です。
グレッグ・ベア「凍月」を読んだ時と似たような感想になってしまうのですが、グレッグ・ベア同様、酉島伝法も針の振り切れた理解不可能な世界を丸ごと描き出すことを得意とする作風です。
そうした作風の作家が、実社会と地続きの価値観を引きずりながらSFなりファンタジーなりを書こうとすると、どうしても「・・・で、結局何を書きたかったの?」との違和感が拭いきれなくなってしまうんですよね・・・。
本作「るん(笑)」も、スピリチュアル系を盲信することの恐ろしさを表現した怖さはビシバシ感じますし、氏の他の作品「四海文書註解抄」(ハヤカワSF文庫「異常論文」(樋口恭介編)に収録)にも、カルト宗教的な”何か”に関する恐怖が描き出されていて、同様の怖さを感じさせます。
でも、これは本当に鴨の好みの問題なんですけど、酉島作品はやはりどこか遥か遠いところの、異質だけれど温かみのある、あの独特の世界観にどっぷりハマって”旅をする”読書体験が忘れ難いんですよねー。「るん(笑)」はあまりにも実社会に近すぎて、あまり入り込めなかったなー、というのが正直なところです。
SFというより、よりリアルなホラーとして読んだ方が正しい作品かもしれませんね。
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異様言語異様生物異様世界観SFの「皆勤の徒」は既読。
(一刻も早く文庫化してほしい「宿借りの星」は未読。)
「群像」2015年4月号で「三十八度通り」は既読。
その当時はあまりピンとこなかった。
コロナ禍を経て単行本化された本作は話題になり、(「宿借りの星」に先駆けて)文庫化したので、再読含め読んでみた、
ら、凄かった……。
おそらく冒頭の「三十八度通り」は、最も突出したシチュエーションゆえ、グロテスク性が際立っている。
これだけ読んでも、戸惑うだけに、なってもやむなし>当時の自分。
が、コロナで社会の胡乱さや政府の適当さ(重視すべきは科学的根拠より支持率)や分断が際立ってから、「千羽びらき」「猫の舌と宇宙耳」を併せて読むと、全然突飛なSFじゃない。
それが怖いのだ。
そりゃーある程度のバランス感覚をもっているからこそ社会人をやれている、という自覚はある。
マルチやスピリチュアルに与しない生活態度を備えさせてくれただけでも、親に感謝している。
が、本当にそうか?
冠婚葬祭は?
父がパチンコに行くときにかついでいたゲンって何?
母が家具に貼っていたヒランヤのシールってなんだったん?
なんで高いところに神棚ってあるん?
古いお守りをこわごわ扱う自分の手つきって何?
俗信、迷信、言霊に浸された、作中人物の言動を、全然行き過ぎと笑えない。
むしろ口許に浮かべてしまった嘲笑(の角度)が自分に刺さるタイプの小説だ。
施設内に入るときにアルコール消毒シュッシュ儀式って何だったん?
アラームが鳴らないよう低く設定された非接触スマホ体温計で、35.1度です、と言われなければ入館できない手続きって、一体何の意味があったん? と。
ハレとケ、ケガレとハラエの感覚がこんがらがっていた数年だと思う……それを小説の形で予言的に表してくれたのが本作だ。
優れたSFを読むときに予言とか未来視とつい言ってしまうが、書かれた当時にあったことが書かれたに過ぎない。
ただ、潜行しているか、暴露されるか。
健康祈願と、健康産業の詭弁は、撞着しつつ並存している。
全人類が避けられない生老病死に対して、寄り添うのが優しさや信仰と言われているが、
むしろ苦痛を介したコミニュケーションは全人類が目をそらしたい事項なので、コミニュケーション不在。
そんな「孤独な苦痛」に付け込んでくるのが、疑似科学。
要は金儲けの動機に浸された、洗脳的搾取システムだ。
……苦痛を前に、近親者の苦しみを前に、人は無防備になるので、いわば濡れ手に粟のビジネスモデル……これがビジネスを越えてしまったら、もう遅い。
というか、遅かったと気付くことすらない。
この短篇集には3作収められている。
冒頭「三十八度通り」では中年男性、次の「千羽びらき」は年輩の女性、このふたりが、かつてそうではなかったと懐かしみつつ苦しむ姿は、まあいいが、
最後の「猫の舌と宇宙耳」にて、そういう環境に、生まれて、育った子供の語りで描かれると、もうつらい。
彼の字の文の「にっぽに��ぽ」とかが可愛いぶん、「書き詰めさせていただきました」という文が、痛ましい。
吉村萬壱「ボラード病」も思い出した。
……ああ、いろいろ考えさせられえて、憑かれていました。
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スピリチュアルと科学が逆転した、
心の絆が生み出すユートピア・ニッポン!
平熱は38度で、病気の原因はクスリを飲むこと。
お祈りですべての病気を治す世界で繰り広げられる、
誰もが幸せなディストピア。
『皆勤の徒』『宿借りの星』で日本SF大賞を2度受賞した
期待の星による、連作小説集。
結婚式場に勤める土屋は、38度の熱が続いていた。
解熱剤を飲もうとすると妻の真弓に「免疫力の気持ち、なぜ考えてあげない」と責められる。
……「三十八度通り」
真弓の母は、全身が末期の蟠りで病院のベッドに横になっていた。
すぐに退院させられ、今後はそれを「るん(笑)」と呼ぶ治療法を始めることになる。
……「千羽びらき」
真弓の甥の真は、近くの山が昔の地図にはないと知り、登りはじめた。
山頂付近で、かわいい新生物を発見する。それは、いまは存在しないネコかもしれなかった。
……「猫の舌と宇宙耳」
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タイトルの るん(笑) が何を示しているのかがわかった時は複雑な気持ちになった。
世界観と文章が独特で読みづらさは多少ある。
設定がわかった上で読み直すのがいいかもしれない。
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なんだかんだ読み終わったけど、なにがなんだか。
最初からスピリチュアルに進化を遂げた世界じゃなくて、現在の文明が崩壊した(させられた)世界の話だったのが、思ってたんと違いました。
SFと不条理って紙一重ですよね。
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ここは化学よりもスピリチュアルが信頼されている世界…血液型占い似た血液型カースト、やまいだれは不吉だから病院は丙院と呼ばれる、身を清めるために風呂の入れ替えをしない世界は受け入れられるか
自分がかなり理系よりの学問を専攻しているせいかこんな世界は嫌だ、どんな世界?の大喜利の回答をめちゃくちゃ詳細に書かれたような本だった
スピリチュアルを信じるのは個人の自由なので個人的には好きな範囲で信じれば良いと思うが、それが世界単位で信じられてしまうと狂っちゃうかも、思ったよりも私はスピリチュアルを信じていない人だと理解できた
しかし、この世界は優しく、信じれば、縁を結べば救われ次の世界に旅ができる
信じ生きていれば救われる救われるために信じる
人によっては優しい幸福の花に囲まれた理想的な世界を書いているのかもと人に優しくなれる本だったと思った
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スピリチュアルが支配するIF世界を書いた作品。うまく説明できないが、IFものが本質ではなく、もっと汎的なものの気がしている。
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スピリチュアルが科学を駆逐した日本の日常。タイトルが軽快な感じだったけど読むとねっちりした文体で、読み終わるのに少し時間がかかったが、現実でもよく見るスピリチュアルあるある(ホメオパシー、マコモ風呂など)の描写が多いため、他の酉島作品より分かりやすくて最後まで読めた
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家人が借りてた本だけど、面白かったわー。スピリチュアル最上の世界の描写がぞわぞわする。そして、今自分が信じているものは本当に信じるに足るものなのか?と認識を揺すぶられるのも、読書の醍醐味だな。
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解熱剤を使用すると「どうして自分の体を信じてあげないの!」と怒鳴られる、スピリチュアルが常識となった世界の話です。
電波防止シールはもちろん、盗聴防止かぶせ付ランドセルも当たり前。病気という言葉は波長が悪いので、やまいだれを取って丙気と呼ぶという表現は上手いなあと唸りました。
序盤は世界観を楽しみ民間療法の極めっぷりに薄ら笑う流れでしたが、3話目終盤、差別が当たり前の時代があったように普通や常識はひたすらに脆いと感じられるような深さもありました。
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・あらすじ
エセ科学、スピリチュアル、陰謀論と科学の信頼度が逆転したお気持ち至上主義社会の日本が舞台。
「三十八度通り」
結婚式場に勤める土屋は毎夜悪夢にうなされ、38度の「微熱」が続く日々。憑かれた体を治そうと自分の免疫力を信じ、様々な方法を試していく。
「千羽開き」
るん(笑)というカルマが絡み合ってできた内なる獣により体調不良になってしまった美奈子。
回復を祈り沢山の知り合いが作って送ってくれた黒い千羽鶴。
言霊の力を信じてひたすら作成者に感謝の言葉を伝え鶴を折りかえす。
「猫の舌と宇宙耳」
小学生の真と友人3人は人類の身代わりになった龍が祀られているという山にいく。そこにはたくさんの骨と初めてみる文字が書かれた様々な機械があった。
・感想
SNS で陰謀論者とか見るの大好きな私なので割とどのネタにも見覚えがあった。
最初は科学とスピが逆転した世界のくせに電気使ってるし異端扱いとはいえ病院・薬はある。
荒廃しつつあるとはいえそこそこインフラも整ってる。
でも龍?がいたりするしどういう世界観なんだろうと思ったんだけど3作目を読んで把握した。
放射能に汚染され隔離された地域のディストピアものだったんだなぁ…
現状の科学では手の施しようがない地域に人々が取り残され、壊れそうな心を守るために生み出した様々なエセ科学。
「科学が勝てなかった」地獄の話だった。
(おそらく収容施設外の人たちは必死で解決方法探ってるんだろうけど)
そこに住んでる人たちみんな体調悪いし、精神も不安定。
教育すらお気持ちが支配しているので、発展しないどころか言語すら危うくなっており退化するしかない現状が描写されている。
信心深い登場人物たちの視点で描写されるから、龍の正体が分かりにくかったんだけど牡蠣ってこと?
1番好きだったのは2作目の千羽びらき。
縁起が悪いからと廃止されたやまいだれに取り憑かれ、最後はやまいだれが使えそうな漢字には全部やまいだれがついてて笑ったw
あと言葉を大事にしてきた主人公が最後に自分の追悼文を添削する場面で締めるのはいやミス的でよかった。
読了後に解説読むの結構楽しみにしてるんだけど、今作は解説がかなり微妙だった。
解説を読むことで自分では気づけなかった視点やより物語を理解し、考察する上でのヒントとかもらいたいのに。
特にこういう一見とっつきにくい作品でこそ物語と読者への橋渡しとして解説が重要だと思うのに、正直全く役に立ってなかった。
本人も「なんで自分が?」と書いててるし、解説内容も浅く物語の本質というか構造について解説されてなくてがっかりだったな…。
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終始「なんじゃこら」という疑問と戸惑いと共に読み終えた、幻覚のような小説。はっきり言ってまともではない。
這々の体で本編を読み終えて久坂部羊先生の解説に至り、ここでようやく味方を得た心地になった。久坂部先生も「いったい何を描いているのかと、必死に考えながらページをめくるが、あまりの飛躍と難解さに、作者はまじめに書いているのかとさえ思えてくる(もちろん真剣にはちがいない)。疑問符だらけになりながら読み進めると、次第に脳が熱くなり、体温が三十八度くらいになったが、本質が見えないのは私の読み方がまちがっているからではないかと、そこはかとない不安に駆られた。」(p265)と振り返っておられ、私もまさにこの通りの思いであった。
続く解説で、医療小説の書き手である久坂部先生が医学目線からの分析を加えておられる。「現在、病院で行われている治療は、すべて信じるに足ると思っている人が多いだろうが、実はそうでないものも少なくない。」「見方を変えればおかしなこと、危ないことは枚挙にいとまがない。」(いずれもp269)という指摘は意外な盲点ではないか。
単純に反科学や反医学主義者に対するハードパンチなのではないかと理解をした気になっていたが、目線を変えれば現在主流とされている医学も、民間療法と呼ばれるような手法も紙一重の所はあり、いわゆる権威的なものとか胡散臭さみたいなものに巻き取られている無知なわれわれ一般的患者は、それらの間で踊らされている儚く剽軽な道化的存在であるというアイロニカルなメタファーなのではないだろうか。
いやー、難し過ぎますって。再読も厳しいなあ。
解説でこんなにほっと一息出来る作品もなかなか珍しいですね。
1刷
2024.2.24