紙の本
シェークスピアはただの台本にあらず(あたりまえだけど)
2024/02/01 15:32
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ふみちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
私は高校時代、シェイクスピアを熱心に読んでいたのだがある友人に「シェイクスピアって、所詮、台本なわけだろ、何が面白いのか、意味が判らない」とからかわれたことがある、そういった男はまともに本なぞ読んだこともない男だったが、何はともあれそう思っている人はこの本を読んでみてほしい、そして一冊でもシェイクスピアを読んでほしい、まずは読みやすいロミオとジュリエットあたりから
投稿元:
レビューを見る
シェイクスピア作品をもっと楽しむために、シェイクスピアの人物像(育った環境や家族、収入、犬派か猫派か…)、シェイクスピアが生きた時代の文化的背景(大衆劇場の構造や観客の様子、憂鬱キャラがモテたかどうか…)、最後に作品について(どんなキャラクターが出てくるか、どんな英語が書かれているか、よく劇中劇が使われる理由は…)、合計100のQ&A形式で解説したもの。
「英語教育」の雑誌に広告が載っていたので、読んでみた。たぶん世間一般の人よりはシェイクスピアについて知っているつもりだし作品も読んでいるつもりだけど、シェイクスピアという人そのものについて、当時の時代背景について、というのは結構知らずに作品を読んでいた、というのが分かった。以下、面白いと思った部分のメモ。まずシェイクスピアは「大変な資産家」(p.25)だった、というのが最も驚きかもしれない。家を買ったり土地を買ったり投資したり、「待遇の良い学校教師がもらっていた年収の十倍」(同)っていうのは驚き。なんかイメージと違う。また、当時の劇団がどういうものか、パトロンがいなければ成り立たない、ということもこの本を読んでよく分かったが、「庇護を与える貴族にもそれなりの旨味がありました。自分の名を冠した劇団が国の津々浦々まで巡業すれば、自らの威光を知らしめることができます。また、私信を運ぶ使者として、地方の政治・宗教情勢を探るスパイとして使えます。」(p.27)というのは納得。「好きな食べ物は何ですか?」(p.30)という質問自体も面白いが、当時の食材について作品から分かることが書かれていて、「サツマイモやジャガイモは新大陸からの贅沢品で、催淫剤と考えられていたようです」(同)っていうのは面白かった。催淫剤って…。確かにマクドナルドのポテトとか無限で食べられそうな、別の魅力があるのは確かだけど。どういう時にイモを食べてたんだろう、って感じ。あとは、こういう文献の記述から当時の食材とかスポーツとかその他の文化について、文学者がやるのではなく、例えば家政学とかスポーツ科学とかその文化の専門家による研究、があるのか探してみると面白そうだなと思った。また別の話で、シェイクスピアの劇団とは別の劇団の存在、というのもあまり意識していなかったが、思った以上にたくさんあって、そのリストまである。こんなにいっぱいあるのにシェイクスピアしか知らない、っていうのも不思議。逆にシェイクスピアがいなかったらこの時代の文学の勉強は全然違ったものになったのかもしれないなあ、とか。でも少年劇団、ってのがあったんだ、っていうのを知った。その次の質問で、「出演者は全員男性だったのですか?」(p.51)の質問もそうだけど、日本の歌舞伎とかと同じ?で女性は演技しちゃいけない、っていうのは、どの程度共通する文化なんだろうか。p.50に書いてあるハムレットの中の英語で、cry out on top of questionっていうのが面白いなあと思ったけど、調べると"question" frequently means 'dispute' or 'controversy'ということらしい。あと当時の客層について、ロンドンの人口の「四〇パーセント近くが五歳から二四歳だったそうです。大衆劇場は、私たちが想像する以上に、多くの若者たち��溢れていたことでしょう。」(p54)というのは確かに意外。そして当時の精神的な病に、「狼狂(lycanthropy)」(p.58)というのがあって、調べると自分を狼や獣だと思う、という病らしい。lycanthropyという単語があって、勉強になった。werewolfのこと?あと、「寝取られ亭主(cuckold)」(p.59)というのを辞書で調べたら、カタカナで「コキュ」って書いてあるのがあって、フランス語のカッコウのことというのもわかるけど、日本語のコキュって聞いたことないわ、と思った。でも最も興味深かったのは、芝居とは、演技とはどういうものだとシェイクスピアは考えていたのか、という部分。「最高の芝居でも人生の影にすぎない、だから最悪の芝居でも、もし想像力で補えば、影ほどにはなる」(p.70)という、要するに「想像力が芝居の肝」(同)というのが、最近読んだ「コスパ、タイパ」の新書(『映画を早送りで見る人たち』)に書いてあった、全てを言葉で説明して、想像力を一切必要としない演出、見せ方が受け入れられている、という話と真逆で、興味を持った。「演劇がどんなにリアルなものであっても、人生の『影』=虚構にしかすぎないことを正直に告白した上で、それが観客の想像力と結びつく時にこそ、演劇はダイナミックな力を帯びて立ち上がり、演劇として成立する」(同)という部分は、逆に演劇ってカッコいいなとか思った。「芝居は『聴く』もの」(p.96)というのも、想像力が必要、という部分とつながるし、『冬物語』の台詞(It is required / You do awake your faith.)(p.97)も面白い。つまり、「どんなに信じられないような物語でも、その虚構性を意識しながら自ら進んで私たちがそれに騙される時、理性と感情において体験するリアルが存在する、それが演劇なのです。」(同)という部分が、本当に演劇の醍醐味を表しているようで、これからもどんどん演劇を見ていきたい、と思った。「進んで騙される」、「理性と感情で体験するリアル」とか、自分から求めないとなかなか出会えない領域なんじゃないかなと思った。
他にも、作品について「おすすめの喜劇的人物」とか「悲劇的ヒロイン」とか「悪党」が紹介されているのも面白いし、「オススメのシェイクスピア映画作品一覧」があるのも面白い。「勇気あるもの」っていう映画をおれは好きなのだけど、この中のリストに入ってなくて残念。てかシェイクスピアの作品をもとにしたものではないから、そもそもこのリストには入らないのか。残念。あと「四大悲劇」と「『ロミオとジュリエット』や『タイタス・アンドロニカス』などの初期の悲劇」がどう異なるか(p.76)というのは、どこかでも聞いたことがある気がするが、まだ確かめられていないので、作品を読んで納得したいと思う。
最後に、「現代人の指針になる台詞を一つ挙げると?」の項目では、「寛容と忍耐をもって不確実性や不可解さの中にとどまりつつ、理性と見識を用いて事の本質を見極めていくことの大切さ」(p.115)が、ハムレットの中にあるらしい。他にも自分にとっての指針となる台詞というのを探しつつ読むのも楽しいかなあと思った。
シェイクスピアを知っている人は知っている人で、知らない人は導入として、とても読みやすい本だと思う。(24/01/20)
投稿元:
レビューを見る
シェイクスピアという名前、そしてその作品のいくつか、それしか知らないことに気づく。
その人シェイクスピアはどんな人か、どんな人生か、作品の特徴、セリフの意味、質問に答える形式の100の答がありました。
なかなか面白い。