ワーキングドッグ わたしたちの社会ではたらく犬たち みんなのレビュー

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ワーキングドッグ
わたしたちの社会ではたらく犬たち

著者：福澤めぐみ
（日大生物資源科学部獣医保健看護学科准教授）
発酵：2023年12月30日
緑書房

使役犬について、その訓練や仕事内容、引退後の生活などについて解説している。具体的には、警察犬、動植物検疫探知犬、外来種探索犬、災害救助犬、身体障害者補助犬（盲導犬、介助犬、聴導犬）、ファシリティドッグ。おそらく、海外ではこのほかにもワーキングドッグが存在しているのであろう。

訓練は、昔は強制的な手法だったようだが、今はイヌが楽しみながら覚えていくような方法で行われる。その時に与えるご褒美は、食べ物とは限らない。遊びもご褒美になる。

言うまでもなく、ワーキングドッグは人の奴隷ではない。ハンドラーというプロフェショナルと一緒に仕事をしたり、身体障害者補助犬のように飼い主という家族とともに生活をしたりする。ハンドラーは、警察犬なら警察官であり、ファシリティドッグなら看護師などの医療専門家であり、単にリードを持ってイヌを連れ歩いている人だと勘違いしてはいけない。イヌとペアで仕事をするプロである。

仕事時間以外は家庭犬としてリラックスし、引退後も家庭犬として可愛がられ、穏やかな生活を送る。引退するのは10歳ぐらいが多いようである。


＜人とイヌの歴史＞
イヌの家畜化は約1万5000～3万年前（諸説あり）
発情周期：オオカミは1年1度、家畜化されたイヌは1年におおよそ2度（バセンジーなどは1度）
性成熟：オオカミは2歳、イヌは生後6～9ヶ月
イヌは社会的成熟が18～36ヶ月と性成熟より遅い点と、ネオテニー（幼形成熟）は、家畜化における人為選択が影響


＜警察犬＞

・直轄警察犬と嘱託警察犬（家庭犬を訓練し事件があった際に協力）
・警察犬はジャーマン・シェパードが多く、ラブラドールもいる
・生後半年～1年ぐらいで訓練所に。持来欲（咥える、運ぶ意欲）と執着心の強さ、運動能力、気質などを考慮して選ばれる。
・持来欲を高める訓練では、イヌにとって最大のご褒美がタオル棒やボールなどでハンドラーと遊ぶこと。
・昔は、軍用犬や過酷な環境で作業する警察犬の育成で強制的な訓練をしていたが、今はイヌが楽しみながら遊びの延長と思える雰囲気で訓練。

・おもな仕事は三つ：①犯人追跡や遺留品の発見②隠された薬物や爆発物、銃器などの発見③行方不明者の発見

・引退年齢は特に決まっていないが、動きや意欲などを観察して決める。引退後は家庭犬として過ごすが、神奈川県警の場合は警察職員に限り警察犬の里親になることを認めている


＜動植物検疫探知犬＞

・肉や果物など日本に持ち込めない食べ物の臭いを嗅ぎ分ける。国際線が到着する空港や、外航船が到着する港の手荷物受取所で活躍
・臭いがしたら、荷物の前で「おすわり」をしてハンドラーに知らせる
・日本に導入されたのは2005年、オーストラリアからの2頭
・犬種はビーグルとラブラドール・レトリバーの2種。好奇心旺盛で食いしん坊なイヌが向いている。ご褒美はおや��。
・ハンドラーは客の動きを絶えず観察し、探知犬をリードしていく
・10歳前後で引退し、ハンドラーに引き取られたり、一般の人に里親になってもらったり


＜外来種探索犬＞

・生物多様性を脅かすおそれがある「侵略的外来種」から固有種を守る。ここでは、奄美大島でマングースを発見する外来種探索犬が紹介されている。
・2008年にニュージーランドからボーダー・テリアとフォックス・テリアのクロスブリード子犬3頭が奄美大島に入ったのが初代
・マングース探索犬は、マングース生体を探索する「生体探索犬」と、その糞を探す「糞探索犬」の2タイプが活躍している。前者はテリア系、後者はジャーマン・シェパードやジャーマン・ショートヘアード・ポインター
・5年ごとに更新試験を受けて認定を受けなければいけない。イヌだけではなく、ハンドラーも評価される。
・生体探索犬には、マングースを捕獲することが究極のご褒美だが、現在の奄美大島ではマングースの生息が認められていない（根絶宣言直前）ため、ご褒美はゼロに等しく、それ以外のものを用意する必要がある


＜災害救助犬＞

・犬が最も得意とする「生きている人」の臭い＝揮発性脂肪酸を求める
・日本では一次大戦後に軍犬として救護犬の育成を始めたが、実際には活躍しなかった
・日本でクローズアップされたのは、1995年の阪神・淡路大震災でスイスやフランスなどの国際救助隊が災害救助犬を連れて来た時
・最近では、2021年７月の熱海市伊豆山での土石流、2016年４月の熊本地震で日本の災害救助犬が出動。もちろん、2011年の東日本大震災でも。
・災害救助犬のハンドラーにとって、現場で役立つ災害救助犬を育成することはもちろんだが、危険な現場で自分の実を守り、まわりに迷惑をかけないで助け合えるかが重要。東日本大震災では、余震や津波警報が出るなか、危険な状況での任務遂行となった。


＜盲導犬＞

・アメリカ＝7703頭、イギリス＝3711頭、フランス＝1328頭、オーストラリア＝1047頭、日本＝836頭
・盲導犬はじめ補助犬と他の使役犬との最大の違いは、ハンドラーがいないこと。補助犬ユーザー（使用者）の身体の一部として24時間一緒に生活をする。心の支え、家族、相棒、体の一部。

・盲導犬は原則として道路の左端を歩く。左を向いて止まることで、ユーザーに曲がり角があることを教えるが、道案内ではなくい。そこで曲がるかどうかを判断して犬に指示するのはユーザー。犬は角の存在を教えるだけ。
・段差を教える、障害物を教える
・家の中ではハーネスをつけず、ユーザーが世話をする。食事、トイレ、ブラッシング、シャンプーなどで健康チェックすることも大切

・生後２ヶ月まで母犬やきょうだい犬と過ごす。その後、１歳まではパピーウォーカーとよばれるボランティア家庭で過ごし社会や家庭での暮らすルールを学ぶ
・１歳で訓練センターに入り、「基本訓練」「誘導訓練」「共同訓練」の３つの訓練を受ける。
基本訓練：遊びなどを通じて「グッド」という褒め言葉を教える。
誘導訓練：ハーネスをつけて訓練。
共同訓練：パートナーとなる人との訓練（初めて��ーザーになる場合で約４週間、訓練センターで生活を共にする）。

・訓練犬のうち、盲導犬になるのは全体の３～４割ほど
・引退は10歳がめど。引退犬飼育ボランティアのもとで暮らす


＜介助犬＞

・アメリカ＝3000頭、日本58頭
・ユーザーの合図により、落としたものを拾って渡す、手の届かないものを持ってくる、緊急時に家族を呼びにいく、携帯電話を探してもってくる、ドアを開閉する、玄関の鍵を開閉する、衣服の脱衣補助をする、段差などで車椅子を牽引する、など

・日本では、1992年にアメリカで訓練された介助犬を連れ帰ったことから始まった。翌年から日本でも育成。
・生後２ヶ月まで母犬やきょうだい犬と暮らし、１歳までパピーホームボランティアの家庭で愛情たっぷりに育ててもらう
・訓練施設で１年間、訓練。「基本訓練」「介助動作訓練」「乗車訓練」「パブリック訓練」

・最終段階までいくのは全体の約２～３割
・ユーザーとの合同訓練は約40日間


＜聴導犬＞

・アメリカ＝4000頭、日本52頭
・音が鳴っているものを探し出し、ユーザーを探して体の一部に触れて知らせる。鼻や目線などで鳴っているものを指し示してユーザーに教える
・家の中ではチャイム、お湯の沸騰、食品が温まった音・・・
・外では、後ろから来る自動車や自転車音、近づいてくるもの、消防や救急車などの音、運転中の安全確保の手助け
・外出は「聴導犬」と書かれたケープを身につけ、周囲に「耳が聞こえない、聞こえにくい人」であることを伝える
・1975年にアメリカで誕生。1981年に日本小動物獣医師会がアメリカの獣医師との交流でヒアリングドッグという言葉を資料に見つけたことが日本での登場のきっかけになった

・聴導犬の候補は、そのために繁殖された犬ではない。動物愛護センターや愛護団体などに保護された犬から選ばれる
・犬種や体の大きさに決まりはない
・音に敏感な犬がいいと思われがちだが、敏感だと色々な音を拾いすぎて、必要な音だけに反応することができなくなる

・訓練は生後2ヶ月ごろから始まり、2～4年続く
・引退は10～12歳ごろで、そのままユーザーのもとで余生を過ごすことが多い


＜ファシリティドッグ＞

・医療施設などで働く。ファシリティ＝施設。毎回、同じ病院や施設に勤務。
・アメリカを中心に2000年ごろから台頭し、世界の育成事業者数は79団体、2021年度は1749件の導入が報告されている
・日本ではNPO法人「シャイン・オン！キッズ」などが初。ここでは、ハンドラーは全員、臨床経験5年以上の看護師
・患者である子供たちの状況にあわせ、ふれあいや遊びの機会を提供
手術室への移動の付き添い
薬が飲めない子供の応援
食事が進まない子供の応援
麻酔導入までの付き添い
きょうだい、家族のケア
緩和ケアチームに所属し、会議に出席
採血や点滴ルート確保の際の応援
ベッドでの添い寝
最期を看取るときの同席
骨髄穿刺（せんし）や腰椎穿刺など処置中の付き添い
リハビリの応援
ケースカンファレンスへの出席
口腔ケア時のサ���ート
・手術室への移動の付き添いも年々リクエストが増えている。
・疼痛緩和作用の研究では、健常な子供の採血時に犬が同伴することで、針を刺す直前のストレス行動が少なく、血清コチゾール値が有意に低くなっていることが明らかになっている
・動物介在療法は医療行為の一環とみなされ、動物介在活動とは区別されている(高齢者施設での動物ふれあい活動などはこちら)。

＜ワーキングドッグのことを学べる教育機関＞

北里大学、倉敷芸術大学、帝京科学大学
日本獣医生命科学大学、日本大学