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藩主の痔瘻の治療や新生児の鎖肛など、肛門の話を扱った小説は稀でありながら興味深く読ませてくれた。
御城の小納戸頭取を勤める永井元重は、藩主より絶大な信頼をよせられていた。藩主の治療に必要な麻酔は、この時代には蛮夷として忌避されていたが、医師の向坂清庵は痔瘻手術に麻酔を使ったのだったが…。
藩主を思う元重は様々な思惑、恩義、葛藤を抱えていたが、譲れない事象の為に家族の思いを裏切り自戒の念に苛まされる。
苦しみながら父がしたことを捉える息子の心情が、感情を抑えながらも沁みるように感じさせる結末だった。
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目付の永井重彰視点で語られる静謐な物語。
蘭方が認められ、発展し始め、漢方医からの反発が強まるなかで行われた藩主の外科手術。執刀医の向坂は重彰の息子の恩人だった。藩主の信頼厚い小納戸頭取永井元重は、失敗したときに孫の恩人を守るため、策を巡らし、息子と二人だけで藩主の手術・療養を乗り切ることにする。
医師を志したことがあり、世の中の流れにも敏感で、思慮深く、柔軟な思考をもっている元重。先進的な考えを持つ英明な若き藩主。父と同じく医師を志したことがあり、息子の療養に際しても妻を守り、夫婦協力することを当然と思う重彰。芯の通った聡明な母と妻。良心的な名医向坂。
どこをとっても悲劇になりそうもないのに、静かな語り口が不穏を孕む。
そしてあってはいけない出来事が起こる。
遺書で全ては明らかになるが、が!
結局のところ自己満足にしか思えないのは仕えるべき主をもたない、現代人だからか。
聡明で柔軟だと思えた人が犯した二つの罪。二つめはずるいなとすら思ってしまう。封建制の呪縛からまだ逃れられない世代というべきか。
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最期の最期までミステリと気づかずに読んでました……。
てっきり医療系の人情ものかと読み進めていたのですが、最期にミステリだったのか、と気づきました。(鈍感なもんで)
結構詳しく江戸時代の医療の流派について語られているので、その辺の知識が肝になるストーリーなのかと思い慎重に読んでいったのですが。(とにかく漢字が多いのです)
ミステリに関わるところではあまり関係がない感じなんですよねぇ。
肩透かしを食らった感じです。
医療知識もミステリに絡めてあるとよかったのでは?と個人的には思いました。
全体の2/3までは医学の話で、残りの1/3はミステリとストーリーが分断されている感があります。
今までミステリ要素が全くなかったのに突然話の流れが変わって「?」な違和感がありました。
ストーリーを急展開させなくてはならない理由が突如出てきてしまったのですかね??
感想です。
権力者にとって、一番怖いものは「身内の裏切り」なんだろうな、と思いました。
自分の仕えている主にどこまで忠誠心を誓えるか。
そして、他人も自分と同じレベルで忠誠心を持っているのか。
どちらにしても約束できるものではありません。
今の時点では裏切っていない人間が未来永劫、裏切らないとは限らないんのです。
実際、ちょっとしたことで人を裏切るのが人間じゃないですか。(諸行無常と言ったものです)
この本の父(元重)はそういったものを見越したうえで、ある決断をします。
うーーーむ。
ミステリ部分は妙にしんみりするのですが、とってつけたような感じになってしまっているのが残念なんですよね。(あくまで個人的感想です)
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幕末の漢方蘭方医療のリアル。それぞれの考え方、効果、限界などがよくわかる。
タイトルのことを忘れて読んでいて、すっかり医療小説だとばかり思っていたところでのミステリ展開。
「父がしたこと」、しなければならなかったこと、その重みと意味。小納戸頭取(というお役目を初めて知った)の立場としては正しい選択なのだろう。そこは納得なのだけど。
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いかにも青山文平らしいというか…
でも、納得いく結末かと言われれば、ちょっと。もし、本当に「父がしなければならなかったこと」だとしたら、真相は息子にも書き置くべきではなかったのでは(それでは小説にならない、というのは置いとくとして)。
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青山氏の向かわんとするところに疑問を生じた時代劇ミステリー。
小納戸頭取という役職にどれほどの重みがあるかを理解できぬまま、自らの命をとして「暴走」としか受け取れなかった「父 元重」
最期まで己の考えを突き進めていった先に、何を観たかったのか、何を伝えんとしたか、不可解なままで幕を閉じた感がある。
紀州の山奥の蘭方医 華岡青洲
たまたま私が住むところの近くでもあり、その館を幾度も訪れた事もあって非常に親近感を覚えている。
それだけに向坂医が滑落していくときの想いはどうだったんだろうと、暗然とした。
名医と言われる彼のほか、子を孫を必死に守り続けた母、嫁の熱い想いと脇を固める人々皆か一つの方向を見据えて生きて行っていると感じられた展開だけに・・・
現代人の心では押し切れぬ「父がした事」への憶測。私の深謀熟慮が浅すぎる所以か
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うーん…父のしたことに全く納得出来なかった。誰よりも忠臣ではあるが、藩内に争いの火種を生まないために自身の出世すら望まない父親が、領民たちの健康やこれからも多くの人を救うであろう優秀な蘭方外科医の命を藩主の名誉と天秤にかけて、後者を選ぶのだろうか…。しかも、父親の元重は頭が固い武士ではなく、知見も広く賢い人として描かれているので尚更疑問を感じる…。人物像がうまく繋がらず、ラストが急に感じた。