紙の本
父は何をなしたのか
2024/04/09 16:41
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「私は英雄ではなく、市井の人々が生き生きと立ち上がる創作を志す者です。」
これは『つまをめとらば』で第154回直木賞を受賞(2016年)した青山文平さんが
『父がしたこと』(2023年12月刊行)出版に際してなされたインタビューで
語った一文です。
この長編小説は「医療時代小説」と称されていることもあるようで、
確かに全身麻酔で日本で最初の乳がん手術を成功させた華岡青洲の高い技術を受け継いだ
地方の名医が施す麻酔治療を描いてはいますが、
医療という世界だけではなく、
藩主とそれに使えるもの、父と子、母と嫁といった
人間が生きていくなかで生まれていく関係を描いた作品といえます。
主人公である目付永井重彰の父は長年藩主に仕える小納戸頭取の職にある。
痔ろうの病の重い藩主は、名医の呼び声高い高坂に麻酔を用いた施術を行うことになる。
立ち合いは重彰とその父。
重彰の息子は肛門がない鎖肛として生まれ、
高坂は施術で見事に肛門を作り出してくれた恩人の医師でもあった。
藩主への施術も成功し安堵する重彰に高坂の不慮の死が伝えられる。
物語はその後、急転していく。
『父がしたこと』という、なんともそっけないタイトルだが、
読み終わったあと、このタイトルが持つ重みを感じることになるだろう。
「父」がなしたことを、「男」がなしたことと言いかえた時、
あなたならどう感じるだろう。
それこそ、主人公の重彰の心でもある。
紙の本
痔瘻に対するシートン法手術
2024/02/20 15:41
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:nekodanshaku - この投稿者のレビュー一覧を見る
江戸時代後期の、とある藩での医療を軸にした時代小説。参勤交代をする大名に多かった痔瘻に苦しむ藩主が、麻沸湯を用いた麻酔下に、薬線緊紮という今でいうシートン法により根治する手術を受ける。その手術の手はずから治癒後の流れまでを、納戸役頭取の父、その息子の目付が支えるのだが。主治医の死、父の死が起き、その顛末を息子が知った時、父がしたことの訳が、全身麻酔に絡むことであったとわかる。ミステリー時代小説である。医療者の守秘義務とは、疑いを招きやすいのかな。
電子書籍
時代モノ
2024/02/20 00:37
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:エムチャン - この投稿者のレビュー一覧を見る
手に取ったときは、時代モノとは思いませんでした。しかし、江戸時代の医術のお話で、裏があったり、命がけの手術や、麻酔の話など、この時代ならでは、でした。しかしラストは…、えー……それって。
投稿元:
レビューを見る
っぽく無いタイトルですが、生粋の時代小説です。
英邁な藩主。その身の回りの世話をし、藩主からの信頼の厚い小納戸頭取の父。そして目付の主人公。藩主の持病は痔。領内に住む蘭学の医者に全身麻酔下での手術を受け、成功するのだが・・・。
痔、あるいは主人公の子の鎖肛(肛門が生まれつきうまく作られなかった病気)と、蘭学に関係して下半身の病気を取り上げたのはなかなか面白い試みです。
相変わらず厳しい文体で、武家の生き様を描いていきます。父と子のみならず、母や嫁も、みな異常に張り詰めている感じです。そして、他に登場する脇役(武士以外)たちも悪人が居ないというばかりでなく、弛緩した人物が出て来ません。もともと奇矯と言っていいほどの武士の倫理観を描くのが得意な青山さんですが、ちょっと行き過ぎかも。デビューして10年以上たち、もう少し肩の力の抜けた作品が出てきても良いような気がします。
一種のサスペンスドラマで、最後に謎解きがありますが、少々無理があるかな~。
投稿元:
レビューを見る
「本売る日々」に続いて2冊目の作品。武士としての生き方の第一はなんとしてもその当主を守ることなのかなと感じました。自分の家族よりも重き置くというのは、現代社会の価値観で考えると理解に苦しむ一端もありました。私息子も先天性の腸の病気があり、この時代に生きていたら、とても耐えられない状況に置かれたのかなと思います。鎖肛の孫や息子を護ろうとする凛とした女性たちの生き方には感服しました。
投稿元:
レビューを見る
藩主の手術に秘密裏に麻酔を使うことを決めた側近、江戸時代の蘭学の位置。
物凄く渋く、江戸時代蘊蓄に溢れ、意外なラスト。良かった。
投稿元:
レビューを見る
物語の前半はちょっと読みにくい、ちょっとこの世界に入りにくいところもあるが、中盤以降は青山文平ワールドに浸ることができた。青山氏の本は残らず読んでいるが、今回も期待に違わず最後まで一気読みしてしまった。
隠居した父の年齢を超えているせいか、主人公よりも父に感情移入するところが多かった。
願うしか救いようがない時に禁句はない。謀るのは好まぬが、謀なければならぬときには能く謀る。
投稿元:
レビューを見る
時代に於ける、医療の歪んだ思考に唖然とした。漢方を扱う内科医が頂点で、麻酔術を扱う西洋外科医が底とは…全身麻酔で藩主、そして重彰の息子を救った向坂先生。その向坂先生が何故…未だモヤモヤしている。
投稿元:
レビューを見る
「父がしたこと」
タイトルに惹かれ
読む前から(父は何をしてしまったの?)と
気になって仕方がない。
青山文平さんが描く世界だから
「父のしたこと」の大きさは
とても許されることではないだろうと予測はつく。
蘭学排撃の嵐が吹き荒れる中
藩主の病の治療は外科手術で行われることになった。
当時は漢方医が主だ。
手術で藩主に危機が及べば一大事。
相当な覚悟が必要だったと思う。
どのように蘭方外科が成ってきたのか。
丁寧に書かれているのでその歴史も知ることができる。
曲がらぬ一本の筋。
ときには、それが厄介なのだと改めて思う。
投稿元:
レビューを見る
譜代藩の譜代筆頭の家に生まれ、一旦はともに医師を志した父子。
藩主と我が子の恩人である蘭方医を山の事故で失い、一家の柱となる母を卒中で亡くし、更に隠居したばかりの父も海の事故で亡くすという悲劇を続けざまに経験し、その中で父が果たした役割を知った主人公は、自家で武士であるとはどういうことかを痛切に理解し、別の道を選ぶ。
静かな佇まいの中、武家の覚悟を感じる味わい深い一品。
題名は地味すぎるきらいがある。
投稿元:
レビューを見る
タイトルに惹かれて手にした
みんな立派過ぎて・・・
感嘆しかない
それでも、そうしないといけなかった??
それが悲しい
投稿元:
レビューを見る
一気読み。参勤交代で痔になる大名。初耳。大変だ。エコノミークラス症候群も多発していただろうな。「父のしたこと」まったく肯定できないが、それが忠臣という時代…。それにしても、あまりに実直…。教科書でしか知らない江戸時代の蘭方医が、生きた“お医者さん”として目の前に。資料探しも大変だったろうな青山さん。次も楽しみ。「守旧のためなら捏造でも誣告でもなんでもする妖怪・鳥居耀蔵」「人はいったん相手を敵と識別すると、とことん残酷になれるものらしい。己の酷さに昂るらしい。それが武勇伝にさえなるようだ」「藩士に動き癖をつけてはならぬ。動けば出世できるのが前例になれば、次の藩政の曲がり角でも必ず動くものが出てくる。あるいは、次の曲がり角を待ち切れずにみずから曲がり角をこしらえようとする者も出て来る」
投稿元:
レビューを見る
主人公・永井重彰の父・元重は、御藩主の世話をする小納戸頭取。ある日その父から、御藩主が内密に外科手術を受ける、と聞かされる。執刀するのは、全身麻酔を扱う町医・向坂清庵。実は向坂医師には、重彰の嫡子・拡の命を救ってもらった経緯があり…。
結末はあまりにも想定外の結果で、しかしそれぞれの人物の“命”をかけた物語が、とても良かった。藩主と家族の両方を守った元重は、「武士の鑑」だと思う。
投稿元:
レビューを見る
初青山文平。
久しぶりに、華岡青洲の「麻沸散」(全身麻酔薬、通仙散)の文字を見た。
史実を土台にした医療時代小説だけど、本筋は武家小説。
気になって、いろいろ考えてしまった。
藩主の妄言とは?どこの藩?
向坂先生は気の毒だとか。
関係ないけど、
華岡青洲の直系の子孫は東京で歯科医院を営んでいる。
投稿元:
レビューを見る
藩主の痔瘻の治療や新生児の鎖肛など、肛門の話を扱った小説は稀でありながら興味深く読ませてくれた。
御城の小納戸頭取を勤める永井元重は、藩主より絶大な信頼をよせられていた。藩主の治療に必要な麻酔は、この時代には蛮夷として忌避されていたが、医師の向坂清庵は痔瘻手術に麻酔を使ったのだったが…。
藩主を思う元重は様々な思惑、恩義、葛藤を抱えていたが、譲れない事象の為に家族の思いを裏切り自戒の念に苛まされる。
苦しみながら父がしたことを捉える息子の心情が、感情を抑えながらも沁みるように感じさせる結末だった。