紙の本
核兵器装備の原子力潜水艦の行動が明らかにされるのはいつになるのだろうか
2024/04/25 19:50
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投稿者:雑多な本読み - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、ロシアの軍事・安全保障の専門家であり、ウクライナ侵攻に関する書を出された方である。ロシアのウクライナ侵攻は日本とあまり関係ないと思う人々に、どう関係しているかを示している。すでにロシアに対する経済制裁に日本も加わっているから、当然関係している。それでも天然ガスの取引は続いているようだが。著者はそうした角度でなく、地政学という見方で、オホーツク海の位置づけを、歴史的な経過を踏まえながら説く。目次を見ると、
はじめにー地政学の時代におけるオホーツク海
第1章 オホーツク海はいかにして核の聖域となったか
第2章 要塞の城壁
第3章 崩壊の瀬戸際で
第4章 要塞の眺望
第5章 聖域と日本の安全保障
おわりにー縮小版過去を生きるロシア
あとがき あるいは書くという行為について
注 となっている。
以上のように展開される。冷戦時代、米ソの軍拡競争、核兵器の開発及び配備で、危機的な時代を経て、双方の核兵器の削減時代を経験し、ソ連の崩壊、混乱を経て、今のロシアがある。現在のロシアは人口は1億4千万台であり、GDPも低迷している日本よりも少ない。核兵器の配備では、ICBMといった長距離核ミサイル、長距離爆撃機による攻撃、原子力潜水艦による核ミサイル攻撃となるが、潜水艦の隠密行動は米ロの神経戦を呈する。ここに、中国が加わってきているが、本書は日本との関係で、オホーツク海がロシアの聖域になった経過を取り上げ、ソ連崩壊とともに、軍備が大幅に後退したことを記す。そして、ロシアは縮小した覇権国家の道を歩んでいると捉える。経済力の低下は明らかだが、その中でオホーツク海を含む2海域での展開を取り上げる。ロシアの夢よもう一度かもしれないが、その姿と限界を感じさせる。中国に目が行きがちであるが、無視ができない存在である。一読してほしい本である。
紙の本
興味深い
2024/04/11 12:52
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投稿者:なつめ - この投稿者のレビュー一覧を見る
ロシアの極東軍事戦略が、わかりやすく解説されていてよかったです。衛星画像など、興味深く分析されていて、素晴らしかったです。
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「新書」というのは、少し特殊な内容も含めて、専門的な研究を踏まえた知見を一般向けに説くような内容を含むモノが多いと思う。本書はそういう「新書」が有する「らしさ」を色濃く備えていると思う。この一冊を大変に興味深く読了した。
ロシア等の軍事に纏わる研究を手掛けているという著者なので、「ロシア軍に纏わる内容?」とは思いながら、本書の題名を視て少し首を傾げた。「オホーツク核要塞」なる表現は、正直なところ耳目に触れ易いというのでもないのだと思う。
「要塞」とでも聞けば、「難攻不落の堅固で大きな城」のようなモノを思い浮かべる。他、何やら禍々しい武装で敵対勢力の行動を阻む存在というような様子を思う。さもなければ、「要塞」という語を比喩的に用いて何事かを表現しようというようなことなのかもしれない。が、本書を読む限り、「要塞」というのが「兵力展開をする場合の概念」というようなモノに冠した呼び方というような感じであると解せる。
ロシアの海軍は、非常に大きな原子力潜水艦を保有している。それらの艦にはミサイルが搭載されている。ミサイルが大きいので、ロシア海軍の潜水艦はサイズが大きくなったのだそうだ。これらの艦は2万トン台や3万トン台というような話しも在るので、日本国内で150台以上のトラックを積んで航行している大きなフェリー(1万3千トン台から1万5千トン台程度。北海道内であれば、苫小牧港や小樽港で見掛ける、本州方面の港を結んでいるかなり大きく見える船が該当する。)よりも更に大きなモノが潜航するということになる。
ミサイルを搭載した潜水艦は、簡単に所在を掴めない海中を航行し続け(原子力艦の場合、原理原則としては無限に動き回り続けられるが、乗員は交代が必要なので定期的に母港に帰還はする)、何時でもミサイルを敵対する陣営が擁する様々な目標に撃ち込むことが可能である。そうした能力が「存在感」を発揮して、諸国間の様々な関係性や軍事行動に影響を及ぼすというような訳である。
そういうミサイルを搭載した原子力潜水艦に関して、ロシア海軍は「要塞」と呼ぶべき、各種施設が辺りに配置され、様々な兵器も配置されている、少し攻められ難いような海域、侵入する敵対勢力を排除することも十分に可能と見受けられる海域を中心に展開している。そういう「要塞」というような概念の場所に在るミサイルを搭載した原子力潜水艦が、「存在感」を発揮する訳だ。その「要塞」の一つが「オホーツク海」なのだという。そして潜水艦に搭載のミサイルには核弾頭も備えられる。そこで「オホーツク核要塞」という本書の題名の用語が登場する訳だ。
本書を読み進めると、ソ連海軍、更にロシア海軍の太平洋艦隊というモノが辿った主に第2次大戦後の経過、核兵器の登場と発達、そうした中での潜水艦に搭載される核弾頭を備えたミサイルの経過、その運用の変遷が判る。艦や兵装に関する技術発展の経過と、それに伴う戦術や戦略の変化というようなことも語られる。ロシア海軍の歴史であり、ロシア海軍の潜水艦と兵装の歴史という感だ。本書の「あとがき」に、著者は歴史を得意としているのでもないというような言も在るのだが。
第2次大戦後のソ連海軍の、更に最近30年程のソ連海軍を後継したロシア海軍の経過が本書に詳しいが、なかなかに興味深い。ことに太平洋艦隊に非常に詳しいと思う。太平洋艦隊は、沿岸部や航路の安全を護る存在だったが、潜水艦の発展でもっと戦略的な、重大な役目を担っていく。ミサイルの射程が延びるに連れ、潜水艦から発射するそれで敵対勢力の様々な目標を狙い撃ちという役目が重視される。1960年代頃に起こって発展し、1980年代に絶頂期を迎えるのだが、ソ連の破綻で1990年代以降は様子が変わる。混乱し、困窮し、1980年代に在ったような姿からは退潮してしまう。そこを何とか抜け出し、2010年代に持ち直して再建が図られて2020年代に入っているという訳だ。
そういう様子を概観しながら、最近の潜水艦の運用状況を推定するような試みが為され、合わせてロシア・ウクライナ戦争も進展中という中での「軍事」という問題の種々の論点も挙げられている。大変に重要なことであると思う。本書に在る話題の多くは、より広く、より多くの人達が知っていても好いと思われる話題だ。それが供されている本書は価値が高い。御薦めだ!
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オホーツク核要塞
歴史と衛星画像で読み解くロシアの極東軍事戦略
著:小泉悠
朝日新書943
潜水艦とその探知技術の革新史と理解しました
イノベーションの流れは、以下のようなものではないか。
■第2次世界大戦終了 ⇒ 冷戦の軍拡競争がはじまる
通常潜水艦 ⇒ 原子力潜水艦 乗員の体調が許すかぎり潜航できる
核ミサイルを搭載 ⇒ 航行距離が短いので、沿岸にまで忍び寄って発射する必要
⇒ 世界中の海にソナーを設置 潜水艦を探知
海峡にソナーを設置 ⇒ 対馬海峡、津軽海峡、宗谷海峡 ⇒ 日本海は我ら、日米の内海化
⇒ソ連の原潜の無音化 ⇒ 海流にのって、対馬海峡から宗谷海峡へ
大量のミサイルを原潜に搭載可能に ⇒ 核による標的の集中攻撃が可能に ⇒ 報復攻撃の大規模化
ソ連海軍の大演習 ⇒ 全世界的な、海軍兵力の展開
米第七艦隊の空母に対して、ソ連の重航空巡洋艦ミンスク
核ミサイルの燃料の改善 ⇒ 大陸間弾道弾搭載 ⇒衛星で探知 ⇒スター・ウォーズ計画
⇒ソノヴイ 哨戒機
安全な領域から、ミサイルを発射できるように ⇒ オホーツク海の要塞化 ⇒ 直接米本土を攻撃可能に
極東艦隊への上陸用水上艦艇部隊の配備
ベトナム カムラン湾での、ソ連海軍の基地化
極東レーダ設置 早期警戒レーダー ⇒ 日本海をカバー カムチャッカ飛来の核探知は謎のままに
⇒ 1991年ソ連崩壊
■ソ連崩壊後 ⇒極東艦隊は、財政難のため、大幅縮小へ
核保有しつづけるロシアは、核抑止能力を保有しつづけている
核抑止の信憑性
限定核 狭い地域での使用であれば、阻止できない ⇒ 報復はない
参戦の抑止 核を使えば、追加参戦してくる国が減る ⇒ これも報復はない
地域的核抑止論の登場 ⇒ でも運用されたことはない ⇒ 報復がないという確証はないから
■第2次ロシア・ウクライナ戦争(現代)
極東ロシア軍の地上兵力は著しく減少 ⇒ ウクライナ戦に投入
極東の米ロの衝突の可能性は低い ロシアの戦力は、極東艦隊からも、北方艦隊からも、ウクライナへ
⇒ロシアの思惑 日本が北方領土を実力で奪還しない限り、オホーツクは安全
⇒日本には平和憲法があり、ウラジオストックなどの海軍基地を戦略的に排除するシナリオはない ⇒ つまり、日本は攻撃されなれば先に攻撃ができない
目次
はじめに―地政学の時代におけるオホーツク海
第1章 オホーツク海はいかにして核の聖域となったか
第2章 要塞の城壁
第3章 崩壊の瀬戸際で
第4章 要塞の眺望
第5章 聖域と日本の安全保障
おわりに―縮小版過去を生きるロシア
あとがき あるいは書くという行為について
注
ISBN:9784022952530
出版社:朝日新聞出版
判型:新書
ページ数:384ページ
定価:1050円(本体)
発売日:2024年02月28日