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精神科医の著者が読み、明確な“恐怖”以前の不穏さや不気味さ、不安、グロテスクさを覚えた各種文学作品17編を題材に、自身の体験と随想を加えつつ人間精神の不可解さと闇を覗き込む異貌の“恐怖”文学論。
全部で17編の小説が採り上げられ(文庫版で1編が新録)ているが、怪奇幻想色が濃厚なのはホーソーン、パトリック・.マグラア、HPLそれにブルーノ・シュルツの作品くらいで、後は純文学系の作品が占める(ブラッドベリ「目かくし運転」も彼の他作品に比べると幻想味は薄い)。が、どの作品も(紹介される内容だけでも)何かしら不穏さや不安、不気味さを覚えるもので、時に人間とはかくも醜悪なまでにグロテスクな存在ないしそのような側面を持つものなのか―と気が滅入ってくるものすらある。その辺りは恐怖という食材を“エンターテイメント”という一品料理に仕上げず、生の素材のまま―譬えるならば生魚の腹を割いただけで内蔵を取り除かずに皿に盛る如く―“人間の様々な側面、内面”を表現、提示しようとする純文学だから、とも言えるのか(純文学ってそういうものか?)。
どの作品も概要は勿論、あらすじから結末までが書かれているのでブックガイドとしては些か不向きだし(そんな意図でそもそも書いていないだろうが)、ネタバレを避けたい向きは目次で事前にチェックが必須かと。ちなみに自分はホーソーン「牧師の黒いベール」とラヴクラフト「ランドルフ・カーターの陳述」しか既読がなかったが、その他の作品にしても本書の記述だけでお腹いっぱい気味で、個々の作品を新たに読んでみたいという気には……なれず。