ビアス短篇集
著者 大津栄一郎(編訳)
『悪魔の辞典』のビアス(1842-1914)はまた,芥川龍之介が「短編小説を組み立てさせれば彼ほど鋭い技巧家は少ない」と評した短篇小説の名手である.北軍の義勇兵として南北...
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商品説明
『悪魔の辞典』のビアス(1842-1914)はまた,芥川龍之介が「短編小説を組み立てさせれば彼ほど鋭い技巧家は少ない」と評した短篇小説の名手である.北軍の義勇兵として南北戦争の激戦地を転戦したビアスは,そこで人間の生死をつぶさに眺め,人間をみつめ,社会を知った.短篇集『いのちの半ばに』他から秀作15篇を収録.
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毒薬、いや劇薬注意
2003/02/08 00:23
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投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
三部から構成される短編集。
最初の部分は、怪奇もの、といっても恐怖や情念を描くのでない、実に淡々と乾燥した、むしろ幽霊譚とか死人譚とでも言った方がいい作品が収められている。それが虚無的な感性のなせるものか、自然に対する畏敬の念で生まれたものなのかは分からない。
次が戦争を題材にした作品で、これはビアスが軍人として南北戦争に参加したときの経験が元になっていると思われる。むろん戦争賛歌ではない、死にゆく兵士たちの、その時代、19世紀アメリカの牧歌的な風景の中での悲しい物語。
そして最後が、「悪魔の辞典」でよく知られたビアスについてのイメージにもっとも合っていると言っていいだろう、皮肉とユーモアに満ちた、ごく平凡な(と本人達は主張するだろう)市井の人々を描く物語。
この最後の部分で特に顕著な、あまりにも強烈な諧謔とブラックユーモアがいったいどうやって育まれたのか。一つには軍隊経験にあるのだろうと思われるが、その元々は、ビアスの、人間の理性や進歩といったものに対する懐疑心によるのではないかと考えれば、人間の無知無力さを提示する怪奇ものにも通じてくる。またその冷徹さがあったからこそ、軍人として優秀だったのかもしれない。
といった具合に、ビアスの作家として持っていた要素をいろいろ分析してみるのも楽しいのだ。こういった傾向の違う作品を、時期を分けずにいろいろ書いていたというのも、不思議に思えたりする。無論どの作品も期待にたがわぬ強い毒を持っていることは間違いない。
そしてビアスは1913年、一人メキシコ国境を越えて、その後の行方は知れない。
解説では、大正11年の芥川龍之介によるビアス紹介文も紹介されており、また映画「羅生門」の原作となった「藪の中」が、本作品中の「月明かりの道」に着想を得て書かれたのではないかとも述べられている。