朝ドラ「なつぞら」のモデルとなった女性アニメーター
2020/01/29 16:46
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
NHK朝の連続テレビ小説(通称朝ドラ)の影響力は大きい。
さすがにかつての「おしん」のように視聴率が50%を超えることはなくなりましたが、現在でも20%を超えることもあって、日本で一番見られているドラマといってもいいでしょう。
その100作めの作品が「なつぞら」で、広瀬すずさんが演じた主人公のモデルとなったアニメーターが奥山玲子さんです。
もし、朝ドラのモデルになることがなければ、奥山玲子という名前もその夫である小田部羊一の名前もアニメファンだけのものに終わったかもしれません。
まして、こうして「おしどりアニメーター」として一冊の本になることはなかったともいえます。
まさに朝ドラ恐るべし、です。
この本は小田部さんと奥山さんのことをよく知る、当時の友人関係者たちからのインタビューと小田部さんの回想聞き書きで出来ています。
インタビューを受けているのは、奥山さんが日本で初めての女性作画監督をした作品で演出をした勝間田具治さんや宮崎駿さんの奥さんで奥山さんと同じ時期に女性アニメーターだった宮崎朱美さんなどです。
特に同じ女性という立場で、共働きで子育ての忙しかった日々を送った宮崎朱美さんのインタビューは、現代の女性から見ても共感を得るところが大きいと思います。
朝ドラでも描かれていましたが、昭和40年代の始めに子供を預けて女性が働くということは現在以上に大変で、奥山さんはそれでも仕事を続けます。
そういう姿が後輩の女性たちに勇気を与えてといいます。
当時を知ることのできる写真なども多く、アニメファンだけでなく、楽しめる一冊になっています。
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共にアニメーターであった奥山玲子・小田部羊一夫妻の互いに強い信頼で結ばれつつ精神的に自立し互いに尊重し合う生き方、そしてアニメーションという仕事への思いの強さとが軸になっている一冊。
印象に残ったのは、小田部さんがスイスに『アルプスの少女ハイジ』のロケハンのため旅立った時、2人で働きながら懸命に育てていた幼い息子さんが入院中であったにもかかわらず奥山さんは黙って送り出し、しかしスイスの話は以後家族でスイス旅行を果たすまでの25年間、家庭内でタブーになったというエピソード。決して綺麗事ではないけれど困難を乗り越えた家族の絆と、そうした状況下で生み出されたからこその、ハイジという美麗な作品のかけがえのなさと。それぞれに重みが感じられたお話でした。
そのように感じられたのは、インタビューから滲み出る、小田部さんの一見控えめでありつつ、実は奥山さんと同じかそれ以上の意思の強さを秘めたお人柄ゆえでもあると思います。
なお、今更ですが、奥山玲子さんは朝ドラ『なつぞら』のヒロインのヒント(モデルではない所がポイント)となった方でもあります。朝ドラでその周囲に恵まれた強運ぶりと周囲に忖度しない押しの強さとが叩かれがちなヒロイン像と、夫の小田部さんを含む近しい仕事仲間の方々の口から語られる、実際の奥山さんの強い意思に裏打ちされた当時にしては奔放な生き方とを引き比べると、
「いやあ、ドラマコードの制約と、平均的朝ドラ視聴者と目される存在、それに女優さんのイメージとに総合的に配慮してヒロイン像を形成せざるを得ない朝ドラって、本当、作るの難しいよね」
と思わずにはいられないのでした。
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東映漫画まつりの記憶はあるのですが、アニメ映画の黎明期のこと、何も知らなかったので、いろんなことにいちいち驚きながら読みました。
その頃のアニメーター、正社員やら契約社員やら、人によって処遇がかなり違っていたとか、有名な美大を卒業して入社した人が結構いたのだとか・・・。
添えられている写真も、いちいちびっくりで、同世代の男女でわいわい楽し気な雰囲気とか、奥山さんが美人でおしゃれなとことか。
ただ、読んでいるうちに、奥山さんのおしゃれは、美術の世界に身を置く者としての矜持のようなものかもと感じました。ひと昔前のパイオニアと言われた女性には、おしゃれとかは後回しで馬車馬のようにってイメージが付きまとうのですが、彼女は、おしゃれをして馬車馬のようだったのかも知れませんね。かっこいいです。
少しだけしか触れられていないけど、労働組合活動にも熱心で「ただ働くだけでは半分しか生きたことにならない」って言っていたとか。従業員の処遇の問題にも向かい合った方だったのですね。
この時代の「アニメ界の偉人」とその作品に詳しかったら、もっと楽しめたのに・・・とそこだけは残念でした。
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朝ドラは一切観ないので、本書については奥山さんではなく小田部さんの仕事への興味から。
ただ、より面白かったは、勝間田さんや池田さんといった関係者のインタビューの方。
勝間田さんの「オレはマキノの弟子だから"泣き"も上手いんだ」には痺れた(笑)
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夫が、取引先の方から頂いたそうで私も読んでみました。
朝ドラ「なつぞら」のモデルになった女性(ご夫婦)のことを、業界の重鎮方にインタビューした記録です。
奥山さんが女性の社会進出の先駆者であったことや、安月給の長期労働で頑張っていたアニメーターの方々の苦労など、時代を切り開いてきたと自負する皆さんの熱量は伝わりましたが、私自身はなつぞらも観ていなかったし、アニメ業界に特別な関心がないせいでレビューを書かれている他の皆さんよりは楽しめなかったかも。。
私のせいで評価を下げてしまったらごめんなさい・・・
私の中では宮崎駿監督の奥様のインタビューがよかったです。
アニメーターを辞めて家庭に入ったことを未だに納得出来ずにいることをはっきりおっしゃってて、プロ意識や情熱の高さを感じたし、他の皆が奥山さんのことをオシャレだという中、がんばってるなと思う程度だった、などど話したり、銅版画家としての作品への感想も率直で、評価するところはしつつも必要以上に親しさをアピールしたり故人を持ち上げたりしないところが好感度が高かったです。かっこいい女性なんだろうな、と想像しました☆
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テレビドラマ「なつぞら」はあらゆる意味で惨憺たる内容だったが、本作を機にモデルとなったアニメーター奥山玲子の再評価と、関係資料やオーラル・ヒストリーの発掘・刊行が相次いだのは歴史的意義があった。本書は奥山のパートナー小田部羊一のインタビューがメインだが、幕間に宮崎朱美、山下恭子、ひこねのりお、池田宏、勝間田具治、葛西治らの寄稿・インタビューが副えられている。特に「ホルス」→「ハイジ」「三千里」→ジブリという「高畑・宮崎」史観では無視・軽視される「アンデルセン童話 にんぎょ姫」や「龍の子太郎」についての勝間田や葛西の証言は希少である(1970年代の「混乱期」の東映動画の状況が伺える点でも重要)。
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東映動画から日本アニメ、テレコムへの流れは大塚さんや宮崎さんの絡みで語られることが多いですが、この本は小田部さん、奥山さんからまとめられています。特に、東映動画に残った奥山さんの仕事ぶりが語られているのは珍しいのではないでしょうか?今のところ最後の東映まんが映画といって良い「竜の子太郎」について語られているのも良かったです。ただ最終的に今のアニメ界ではお二人が活躍できる場がなくなっているように感じられて、そこは寂しく思いました。
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『なつぞら』は視ていた。ドラマでは奥山玲子のようなアニメーターが高畑勲のような演出家と結ばれている。
実際の結婚相手 小田部羊一による『龍の子太郎』の談話が興味深い。浦山桐郎監督がご存命の頃、武蔵野美大の講堂で鑑賞した。上映後の監督による講演では、天狗の声を演じたなんて話は出なかったように思う。
大塚康生『作画汗まみれ』でも思ったこと。当時の東映動画の男女らが実に楽しげで、拡大版トキワ荘のようだ。
巻末の宮﨑朱美インタビュー。死んだ人はみんないい人になりそうなものを、亡き奥山の銅版画に批判的で、意思的な女性だとお見受けする。
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再放送されていた連続テレビ小説「なつぞら」を観ていたところ、昔のアニメーションの業界に興味を持って読んでみた。
テレビアニメーション黎明期における業界の雰囲気がとてもよくわかり、広瀬すず演じる朝ドラの主人公なつとそのモデルとなった奥山玲子さんとの、似ている面、また異なる面がよくわかり、朝ドラを一段と面白くみることができた。
また、朝ドラ出演のキャラクターの面々が本当はどのような人なのかもしれた。
また、何よりも自分自身が子供時代に楽しみに見ていたテレビ漫画番組のことが知れて、少年期を思い出して心が弾んだ。