凹凸地図で鉄道路線と地形の関係が理解しやすい
2021/07/11 16:30
1人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:つばめ - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者は「実業之日本社」で旅行ガイドブックシリーズ編集長などを経て現在はフリーライター。『東京鉄道遺産100選』、『関東大震災と鉄道』などの鉄道関連の著作も執筆している。本書は著者の古巣「実業之日本社」からの刊行である。東京の鉄道網の発展を都心と地方を結ぶ鉄道(第一世代)、街道沿いに開業した東京近郊の路線(第二世代)、地形も街道もあたかも無視するように都心と郊外を結ぶ郊外電車(第三世代)に区分、それぞれの世代が地形とどのように関わって発展してきたかの解説書である。 地形との関係をデジタル処理により立体的に見える地図(凹凸地図)や線路縦断図と対比しながらの解説が明快で理解しやすい。さらに、川越と江戸を結んだ新河岸川の舟運、関東大震災の火災エリアの詳細な地図、京成電鉄の上野乗り入れに伴う地下線の掘削土で墨田川沿いの低湿地を埋立て、住宅地として分譲した千住緑町など直接鉄道に関連しない話題も豊富である。
愛知県立大学大塚英二教授監修の『名鉄沿線の不思議と謎』(2015年出版)は、1頁目の1行目から信じ難い初歩的誤り。この類の誤りがそこかしこに散見される前代未聞の奇書の出版社が「実業之日本社」である。
本書は、同じ出版社からの出版物とは思えない出来栄え。著者は「はじめに」で<名古屋周辺や関西も含めての論考も興味深いが、ここでは別の機会に譲りたい。>と記述している。続刊を期待したい。
投稿元:
レビューを見る
地形と建設目的から鉄道を見つめ直す歴史テツ的視点の一冊。
ブラタモリ風の内容。鉄道忌避伝説を完全に否定した立ち位置は実に説得力がある。
2点間を結ぶことを最優先した国鉄。街道沿いの私鉄、その後の郊外鉄道まで。明治から大正、昭和、平成へ。凸凹地図と古地図を活用した鉄道路線の由来。
壮大なテーマを分かりやすく解説している。
投稿元:
レビューを見る
P114- 新河岸川、川越街道と東武東上線
軍関係がなぜかスルー。私の乏しい知識でも成増、板橋、朝霞、所沢、川越(上福岡)
川越工廠では、新河岸川の水運も構想にあったとか。危険物は自動車、工員と安全な荷物は、上福岡駅と南古谷駅を利用ですって。
P132 関東大震災 都心の震度が5-6。
P136 普通は不通かと
P150 万世橋駅・須田町の衰退は道路のせい。
P173 成城学園前駅が昭和2年で2面4線。
P188 東京山手急行電鉄 未成線をここまで書きますか?なこだわり。
P209 「もはや戦後ではない」って、経済白書が言いたかったのは、戦前の経済水準を越えました。これからは復興需要は一段落で今までの考えを修正しましょうって、調子こいてる雰囲気をいましめるつもりだったかと。
P237 さいたま市西区と川越市間(だけじゃないけど)荒川堤防がスーパー化中なのですが、旧規格の川越線の部分だけは堤防が低くなってます。越水のときは犠牲になるのは確実。
投稿元:
レビューを見る
鉄道と街道の関係を見るとマリアナ海溝並みに深い。昔の絵や写真と地図を引用しながら説明している。
1872年に開業した新橋ー横浜間の鉄道は、海上に線路を敷いた。その理由の1つは戦後、首都高速を東京オリンピック間に合わせるために川沿いに建設した理由と似ている。
当時のメインストリートだった東海道に人家密集していて鉄道用の敷地を確保しにくかった。その上、漁船の船溜まりあり、線路を敷くと漁船の係留に困る。
この時代ならでは理由があった。それは陸海軍を統括する兵部省が鉄道建設よりも軍艦を建造することを優先して反対した。
様々な事情が積み重なって海上に線路を敷くしかなかった。ここだけでも鉄道と街道の密接した関係なのが分かる。
よく、沿道沿いの人々が鉄道建設に反対してきたと言われるが、必ずしもそうではなかった。鉄道史研究のパイオニアと著者が評している青木栄一氏によると、ほとんどの場合、事実とは異なる伝説にすぎなかった。著書の「鉄道忌避伝説」で明らかにしている。
当時を想像しながら鉄道に乗ってみるのも楽しいかもしれない。
投稿元:
レビューを見る
まちづくりと鉄道の整備における、先人の構想力と因縁、果たせなかった夢がわかった。しかも自然の地形が人間の胆力、知力を試す。新しいものを受け入れるかどうか、人は葛藤し選択し、その影響は数年後〜十数年後に明らかになる。鉄道はそれくらい地殻変動をもたらすものなのだろう。
ヨーロッパの大都市は遠距離に向かうターミナル駅がバラバラであることが多いが、東京は山手線という存在があるがゆえに便利なのだと改めて思い知る。
投稿元:
レビューを見る
あーー、面白かった。
知人曰く、ブラタモリと近しい話題だね、とのことだったけれど、関東の鉄道と馴染みの深い生活を長くしていた身からすると、発見が多く楽しい一冊だった。
馬車鉄道という歴史をまず知らなかったし、線路を引くときの考慮要素(寄りたい町を通らせる、用地買収が難しそうな場所を避ける、山谷崖など地形的障害物をなるべく避ける、大きな川は直角に渡る、急カーブ急勾配を避ける)というのも良くわかってよかった。
街道と関係ありなしで作られた鉄道の変遷も面白かったし、山手線の上半分と下半分の土地的性格や、北品川の由縁、関東大震災とその鉄道への影響、東急の当時の社長の先見の明の度合いなどなど……読んでよかった。
読み物として面白い。
この辺りのネタに興味のある人にはぜひ薦めたい一冊。