前作よりはマシだが
2024/05/15 22:47
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投稿者:オタク。 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「指揮官たちの第二次大戦」のようにクノップの「ヒトラーの共犯者」を使ってデーニッツ提督を書いたのに「水晶の夜」の時点では上官に抗議した事をすっ飛ばしたのでかえって分かりにくくなったりジューコフは騎兵総監ブジョンヌイの下で副騎兵総監だった事があると書きながら軍部の粛清の頃にスターリンが知らなかったかのような無理な事を書いたりしていないので読みやすくはなっている。
ウィンゲートはハガナーと繋がりがあったので第一次中東戦争当時にイスラエルがヨルダン軍に占領されたラトゥルンを迂回して西エルサレムへ補給する間道を「ビルマルート」と命名したわけだ。
北條圓了という陸軍軍医大佐がドイツからアメリカに移送された時に「ワシントン郊外ポトマック河畔の収容所に入れられた」とあるのはフォート・ハント。「兵士というもの」の翻訳に関わった時には明らかに読んでいない中田整一の「トレイシー」を読めば分かる事なのに何故か収容所名を書きたくないらしい。この稿で使っている非売品の「大戦中在独陸軍関係者の回想」は中田整一が使っている本なので、ひょっとしたら「トレイシー」で知ったのかもしれない。例の旭日旗の袖章をつけたドイツ軍の軍装姿の日本人?の写真は北條圓了らしいがドイツ軍占領下のソ連を訪問する時に帝国陸軍の軍装ではソ連が把握した時に国際問題になるからだろう。
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太平洋戦争に関わった、日英米の将官から、やや知名度は低いながらも、転機となる局面で実際に重要な役割を果たした(と考えられる)人物を選び、生い立ち、性格分析、戦時の行動を評論する。
各国が考えていた将器とはどういうものかを、それぞれに浮かび上がらせる狙いがあるものと思われる。
終章で著者は、昭和の日本陸海軍は、修業時代に拳拳服膺したドグマに支配された秀才型が中枢を占めたがために、骨太な戦略家を持ち得ず、過去の延長から逸脱してでも機先を制することが重要となる戦争のような営みでは、個人の性格のダイバーシティを許容する度量が大きい欧米に劣後することになった、としている。
とはいえ、「戦略」が有効に機能するのは、もともとリソースを備え有利な立場にあるときだけではないだろうか。弱者に戦略なし、だ。あがくだけあがいて、状況改善に努める以外はあるまい。
昭和の日本のコマンド・カルチャーが、まじめさと小手先の頭脳働きを評価し、その埋め合わせかのように、オカルトめいた「気概」を重視するようになり、そして各戦線や銃後で悲劇的な結果を招いたのは、悲しいことだが、無理もなかったのでは。
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軍事史家として個人的にかなり信用している大木氏の著作。まず「あの戦争をなんと呼ぶか」というところで、アジア太平洋戦争が最も適切ながら党派性と結びついてしまっていること、大東亜戦争も学術・文芸の言葉としては用いられないとして、手垢がついた凡庸さゆえに最大公約数的な価値中立性を得ている太平洋戦争を使うというところから激しく同意。
どこかで連載していた太平洋戦争中の日米英の将帥の列伝で、分量的には物足りなさがあるものの、逆に言うとそれぞれの人物の指揮統率を理解するうえで重要なポイントに絞って論述している。
シンガポールで降伏せざるえなかったパーシヴァル、上級司令部の指導なく現場で第一次ソロモン海戦に勝利しつつ輸送船段に手をつけなかった三川軍一、戦術レベルで力を発揮したが戦略レベルで強引な作戦を立て破滅に向かった神重徳、日本軍の伝説を粉砕したヴァンデグリフト、細菌戦の北條圓了、フライングタイガースの指揮官シェンノート、近年過大評価されていたとされているがそれでも独創性を有していた小沢治三郎、比島沖海戦や台風で2度失敗している猛将ハルゼー、独混一旅を東条にバラバラにされ近衛と倒閣運動をした酒井鎬次、実は軍政部門で細やかさを見せていた山下奉文、イギリス軍の人事制度で力を発揮できたウィンゲート、ヨーロッパ戦線で名を挙げ日本を爆撃したルメイを取り上げている。
本書のために書き下ろされた終章では、短いながらコマンドカルチャーについて考察している。平時に形骸化・官僚化する軍だが、日本の場合は第一次世界大戦から教訓を集めたときに持たざる国であったことを直視すると軍人たちは絶望したと、結果現実から最適のドクトリンを追求するのではなく、おのれが取りうる戦術や作戦に都合のいい戦例を並べ立てる「教訓戦史」に走ったとする。
最後に一点面白い指摘をしていて、日本の将校が非常に独善的かつ楽観的な姿勢を示す傾向が強いことは知られているが、それはめっけるがすでに1888年に日本将校固有の欠点の三つのうち第一として「物事が容易に為し得るものと妄想していること」だと断じていた。著者は日本人論の範疇に属する問いかけかとも述べているが、ここを掘り下げた著者の研究を見てみたい。
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日米英の様々な軍人の生き様を綴った本書。戦略戦術で成功、失敗など記述があるが、特に日本の敗戦の要因が気になる。それは「情報収集・解析力不足」及び「人事権・官僚化」だという。
太平洋戦争では日本の暗号が完全解読され、古い体質の戦略(対米英の最新鋭の武器・船隊対航空隊、レーダー、長距離大砲、燃料・物資輸送確保)のまま、机上学と学歴重視の上から目線、さらに人事にコネ・先輩後輩序列が何よりの組織で「否定できない組織」となった事だ。現代日本の政治家組織も多くが自民党の年功序列に従うだけで規制改革・変化は政治家自身の為のものが多く、国民の立場のものはほとんど無くなった。例:人口減・少子化対策など殆ど効果なしで先延ばしの対策しかできない、10年後20年後の日本を背負う世代に「多額の負債」を残し、国家予算を右肩上がりに使い続けるのはいつまでだろうか。