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イチイさんのレビュー一覧

投稿者:イチイ

6 件中 1 件~ 6 件を表示

紙の本扉は閉ざされたまま

2005/08/11 15:32

ロジカルな倒叙ミステリ

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 ミステリではお馴染みの死体発見シーンが、本作にはありません。死体を発見して、その場で一体何が起こったのか、というところから検証が始まるのがミステリの定石ですが、死体の発見どころか、部屋から主が出てこない、部屋の中がどういう状況であるのかも明確でない…、それが最後の最後まで(客観的に)明確にはならないのです。すなわち「扉は閉ざされたまま」、事件が発覚する以前の状況下、犯人と探偵役が静かに対峙し始める。このアイデアだけで、作者の企みは7割方成功しているのではと感じます。そして本作は全編、犯人の視点から物語が始まる倒叙ミステリ。この縛りの中、石持氏は見事なロジックミステリを編み出してくれました。
 豪奢な邸宅が現場だということ、窓ガラスには防犯装置が付いているということ、この根拠を省いても、通常一般人は鍵の掛かった扉を前に、「室内に異常が発生している」ということに核心を覚えなければ「扉を破る」ということは、即座には結び付けられない。それがとても現実味のある考えではなかろうかとふと思わせるところがあって興味深いですね。現実的な思考の集まりの中に「探偵役」という存在が登場することにより、ミステリとしての機能が付随され、発揮されています。
 部屋の中の様子を伝聞と推論のみにより推定し、部屋の中の様子は勿論、主の状態、犯人の指摘、どうやってそれがなされ、なんのためになされたか、というところまで真相に肉薄する…、否、完璧な論理によって、全ては解明されるのです。事実を目にしない限りはどんな論理も推論に過ぎない。しかし、犯人の思考をトレースし、更にはそれを乗り越えてしまうことによる探偵役の真相の指摘の瞬間には、軽い興奮を覚えてしまいました。
 冒頭にて提示される単純な物理トリック、しかしてその裏にある、倒叙ミステリであるからこそ堂々と提示された、犯人にとって致命的な、真相への伏線。全てが密接に結びついているからこそ導き出される、犯人指摘に至る論理展開。読者の納得を得るにギリギリのラインであるからこそ事件が成立している、犯行の動機。倒叙ミステリでありながら読者に突きつけられる、意外な真相。探偵と犯人、同類にして異質である二人であったからこそ成立した、事件の「解決」に至る流れ。全編200ページほどにぎゅっと収められた濃密なロジック・ミステリ。
初出:CANARY CAGE

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紙の本森博嗣の浮遊研究室 5 望郷編

2005/08/11 15:29

さあ、考えよう、考えよう

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 「WEBダ・ヴィンチ」に3年半に渡って連載された共同雑談エッセイ集(どんな表現か)の第5巻にして最終巻。物事を考えるというのはどういうことか、を考える本です…、などと堅苦しいことはなしにして、4人の登場人物が種々多岐に渡る話題に対し、それぞれがどんなことを思っているのか、ときには笑い、時には膝を打つ解釈があり、と、読者の「常識」の範疇を越えてどんな言葉を述べていくのかを楽しむ本であります。
 本当は当然であるはずの個々人の「当たり前のこと」に対するふとした疑問、というものは、「常識」という思考の縛りの中で深く考察する機会を失われるものです。とはいえ、それは内面から表に言葉として出ないだけで、全く同じ考え方をする人間がそうはいないのと同様に、異なる解釈をぶつけあうことにより、新しい物事の定義が生まれてくる。その「定義」が、世間一般に言う「常識」と異なるものであったとしても、そのどちらが真理であるかは即座には断言出来ないもの。考えれば考えるほど、深みにはまって分からなくなっていくことも、本書のような「雑談」の形を取ることによって、軽い気分で読むことが出来るにも関わらず、興味深い考察に一喜一憂してしまったりするから不思議です。
 もっと長く続いて欲しいとも思うのですが、こういうものには絶対的にキリがないのも確か。5巻、という区切りに不本意ではないのが読者として正直なところですが、ここはひとまず不急の連載を続けてきた皆さんにお疲れ様と述べておきましょう。
初出:CANARY CAGE

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紙の本ネジ式ザゼツキー

2005/08/11 15:25

新世紀へミステリは歩む

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 海外が舞台であり、登場人物は全て英語で会話をしているためか、本書の大部分は横書きで書かれています。上から下、右から左に本を読み進める日本の書体に対し、左から右に読む横書きの文章は始めのうちはとっつきにくいものがありましたが、ほぼ全編に渡り2つの物語を読み解く推理パートとして描かれているため、推理小説の醍醐味、少しずつ解きほぐされていく「謎」の解体、推理の過程をたっぷりと楽しめます。
 現世とは思えない世界を描いた奇妙な童話「タンジール蜜柑共和国への帰還」。切断された首とその付け根に、大きなネジが取り付けられていた奇妙な銃殺事件。それぞれ不可解としか言いようのない物語が、探偵役、御手洗の前にそれぞれ提示されます。それらは全く異なる形により登場し合うものなのに、御手洗の手によって解体され、解釈されることによってぴったりと結びつく。多少の薀蓄と、フェアなデータにのみによって語られる論理展開。
 驚愕の真相は、けれども新本格に悪い意味で多用される「どんでん返し」としての「意外な真相」ではありませんね。幻想が現実に置き換えられると同時に、その現実の中から抽出される、更なる事件。その過程を丹念に丁寧に、事件と唯一の真相とを結び付け、徐々に確実に読者を導いていく手腕。この論理的帰結に至る過程で、思いも付かせぬ真実を見せ付けられ、それは探偵以外の(読者を含む)全ての人物にとって意外な真相であり、同時に完全なる得心を得ることに成功しているために、読者は当事者と共に打ち震えるのです。
 氏が求め、自らが示そうとする、「21世紀本格」というものが、或いはこういうものなのかな、とも感じました。古くからの世界の「歴史」を取り入れながら、同時に開けた新世紀でしか用いることの出来ない要素を取り込んでいく。次世代、新世代の「ミステリ」を模索する姿勢が窺える一冊でもありましょう。
初出:CANARY CAGE

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紙の本ダウン・ツ・ヘヴン

2005/08/11 15:22

後には何も残らない

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 戦闘機という名の兵器に乗るパイロットは、やはり兵器なのだろうか。人間ではなく、操縦桿を握り、銃器で敵の戦闘機を落とすことは、人を殺すことなのだろうか。兵器を壊すだけなのだろうか。飛行機に乗るパイロットとと、地上にいる人とでは、何が違うのだろうか。どれほど多くの人を死に至らしめても、多くの血を流させても、彼らの手は決して赤くは染まらない。中空に散る者と飛行機の残骸。そして青い空も、一瞬の後には元の何もない青い青い姿に戻るだろう。そこにはただ虚しさがあるだけだ。だけれど、何もない虚しさの中にこそ、彼らは帰ることを望む。地上に生まれた彼らは、空に帰ることだけを望む。死ぬ場所を求めて、そして生きる場所を求めて。
 これほどストイックさに満ちた戦闘物語が、他にあるだろうか。何処か無機質さを思わせる思考の中、彼ら彼女らは空に向かって落ちていく。その中の幾人か…、それとも数多くは、再び地上に落ちてくるだろう。そこに待つ死は、けれど彼らにとって苦痛ではないのかもしれない。地上で生まれた者の帰る場所は、地上であるべきなのかもしれない。でも、彼らは空に帰ることを誰よりも望む。彼らの生きるべきところも、また、地上ではなく空だからだ。
 飛行機の操縦者と飛行機の動きが、瞬きを繰り返すようなカットバックの手法で描写される戦闘シーン。「彼ら」でしか持ち得ない思考の流れを、静かに記した森氏の文章の特異点は、詩と紙一重であることを改めて認識した一冊。
初出:CANARY CAGE

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紙の本肩ごしの恋人

2005/08/11 15:28

つまり隣にいる恋人

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 自分が一番表に立ちたい者と、自分を表に出さないために、逆に自己を主張してしまう者。るり子と萌は、そんな風に表裏をなしているように思います。性格が正反対であるからこそ、二人は親友でいられるのだろうし、二人ともに、一度恋愛をしたらもう止まらない。極端に言えば、この二人の性格のような性質を、世の中の女性は誰にしも住まわせているのではないかとも思えてきました。本作に描かれるのは言わば極論を歪曲して物語化させたものであり、自分はどちらなのか、自分の好きな相手が好きそうなのはどちらなのか…、といった考察をついついしてしまうところに、物語の一歩先を読者が思う面白さがあるのだと感じます。
 恋愛をすることというのは、誰にでも等しくある権利のようなものです。けれど自由過ぎる恋愛は個人の感情を左右する度を過ぎているのではないか、とも思えるのです。それが恋愛だから、自分の好きなように振舞って良いものだろうか、と。普通、人はそんなことを考えて「恋愛」をするものではありません。けれど、好きな相手に良く思われたい、気に入られたいという思いは、いい意味で向上心として成り立つものです。また、相手が自分をどう思おうと、自分が相手を静かに思うだけでいい、相手の近くにいられればそれでいい、それ以上を望まない、という沈黙を保った恋愛も存在しないわけじゃない。反面、表に出ない情愛は自分に都合のいい解釈で溜め込まれることも多く、歪んだ形で表層化することも考えられるのは、やはり恋愛が感情に左右される者であるだけに、ポテンシャルの幅もそれぞれ起伏があるのだと捉えられそうです。
 男たちと女たちの恋愛物語であると同時に、女と女の友情物語でもある。読了時、不思議な感覚を抱かせる一冊です。
初出:CANARY CAGE

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紙の本水色ステディ

2005/08/11 15:33

裏表「ステディ」。

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 松前氏の書くBLというのは、端的に言えば「ちょっと変わった恋愛」…、というと口当たり滑らか。実のところ、普通に見えるのに全然普通じゃない、という、他の人も書くようで書かないような…、斬新ではないけれど不思議な人物や物語の描き方をする方です。
 本作における流れの核であるので、人物関係や経緯などを詳しく言えませんが、表紙を見るだけでは恋愛模様の展開を全て予測することは出来ないでしょう。数多くのBLが、「表紙に描かれる二人の『発端』から『決着』」という構成で成り立つ「出口への一本道」であるのに対して、本作においては、複雑ではないけれども、横道にそれてみたり大回りをしたりと、実にややこしい経緯を辿るのです。
 読み終えてみて、そんな恋愛の形はありえないよ、と思う人もきっと多いと思います。けれども賛同…、或いは共感する人もいるかと思うのです。僕は、ああ、そういうことなんだな、と思ったうちの一人。好きな相手の望むことならば、それが例え自分から相手が離れることになっても拒絶したりしない、相手の想いを束縛しない、という精神。これは単なる保守的な受け身なのではなくて、誰よりも誰よりもその人を尊重し大事にしたいと願うゆえの優しさなのだろうと感じました。表面だけで取り繕う「優しさ」なんて、それに比べたら本当に上っ面に過ぎない。何かに言い訳をするように、ステディな関係、なんて言う「恋愛」もあるけれども、その中のほんの一握りは、こんな優しくて切ない恋愛を体験しているのかもしれませんね。
初出:CANARY CAGE

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