しろくまさんのレビュー一覧
投稿者:しろくま
紙の本君主論
2015/11/06 11:40
タイトルに臆することなかれ
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君主のために書かれたハウツー本であることを超えて、人間の行動を冷静に見つめた、マキアヴェリの真摯な姿勢が感じられます。世界史に明るくない私でも、なるほどと思わず膝を打つような話が豊富に用意されています。意外にも今日的な話題に通じる、(翻せば世の中そんなに変わっていないともいえるわけですが)十分楽しめる内容です。
2015/08/28 17:59
「個」の意識を確認
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ほぼ小澤征爾さんが聞き役に徹していますが、解説を読む限り、音楽に対する考え方は、大江健三郎さんのそれとあまり齟齬はないようです。
大江健三郎さんが、日本文学には動機づけがない、という指摘をしていますが、興味深く読みました。
それぞれのファンであれば、面白く読めると思います。
紙の本ボクの音楽武者修行 改版
2015/08/28 17:51
超人の青春
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とんでもないことがさりげなく書かれていて、驚きの連続。
純粋で疾走感のある青春記です。
でも、この超人的な希望をもった青年の超人的な努力をもって、輝かしい成功を手にしたと思うと、胸に迫るものがあります。
ちなみに、後年彼が家族にどんなふうに接したのかについては、小澤征良「おわらない夏」に詳しいので、ぜひ併せて読んでほしいです。
2015/08/19 14:34
一読では見えなてこない大きな影…
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自分の頭で、作者の意図を行間から探る。今の時代に私がこれを読む意味も考えてみる。読み終えても私にはまだよくわかりません。
まるできめの細かい砂を掴んだ瞬間にはらはらと指の間から抜け落ちていくような感覚を抱えながら読みました。
次から次へと言葉は紡がれ、独特のリズムで読ませてしまう。単に感じればよいのか、思考するとやはり突っ込みどころが多いような気がして、食い下がるようにして批判的に読み続けるのですが、その文体は私にそれを許してはくれません。そこには、隙を許さない完ぺきさがあるような気がします。
紙の本抱擁家族
2015/12/30 13:32
胸やけのような不安
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作家は、主題を特異な切り口で表現しています。例えば、「ウナギ」を見たことのない人に「ウナギ」を説明する際に、うなぎをガッと掴んで「これがウナギです」と説明するよりも、うなぎを掴めずに「ヌルヌルしてつかめないよう…」と漏らしたほうが、「ウナギ」をしっかりとつかんでいるように思える。そんな感覚に似ています。
目くるめく場面の展開、破綻…。読者は以後、この痛さはないが、むかむかする胸やけのような不安を、しばらく感じながら生活することになるのでしょう。
2015/10/22 15:42
圧倒的なわかりやすさ
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もともと講義録をもとにしているようで、非常にわかりやすい。読み手に読み続けさせるコツを披露しているが、まさに本書においてそのコツを実践して見せています。扱っている内容は本来難しいものなのでしょうが、現代思想に暗いわたしも最後まで楽しく読めました。
そして、何より、本書に出てくる書籍や映画に思わず手を伸ばしたくなるという、次のアプローチのための華麗なパスを送ってくれます。
2015/09/18 16:31
百選とともに
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ボリューム十分。
担当者によって、多少の差異はあるものの、概ね気にはならない。
このシリーズは、使っているうちに落丁してくるのですが、わたしだけでしょうか。
紙の本おわらない夏
2015/08/28 17:36
幸せな記憶
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小澤一家のタングルウッドでの記録を中心に、とても素直に慈しむように輝く記憶をたどっています。
幼い子供たちの大切な思い出は、意外にも、大人も一緒になって、一生懸命楽しんでいたという単純なことによるものだったのです。ならば、わたしたちにもできることが沢山ある、ということに気づかされました。
紙の本ユートピア 改版
2015/08/26 16:34
人間の可能性
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時代が古いので、これをそのままユートピアとすることは、世界史を知っている現代の私たちには少々受け入れがたい箇所もあります。ユートピアの人々が築いた国家は、しょせんユートピア人なくしては成り立ちえない国家だとおもわれるからです。また、奴隷制度について何ら疑問を持たない記述からもやはり現代との差を感じてしまいます。
しかし、ちょっと引いて考えてみると、トマスモアはこれをかかざるをえなかったのではないか、どうにも進歩しない国家の制度こそが人間の足枷なのであって、人間はもっと自由に生きられるはずだということをいわんがため、こんなにもユートピア人を前面に出したのではないか、と思うようになり、そう考えると、この本を書き上げたエネルギーは相当なものだったのではないかと思われます。
結局、時代が移っても、世の中が抱える悩みはそんなに変わらないということを改めて感じます。
紙の本地下室の手記 改版
2015/08/25 18:27
光はさすのか
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いや、光は差し込んではくれません。
でも、「地下室の手記」という題名を読んで少しでも興味をもったひとは、何かしら闇を持っているはずなので、かならずや共感できる部分があるはずです。なぜなら、「闇自身には大きさがない(『方舟さくら丸』安部公房)」から。
紙の本幸福な死 改版
2015/08/23 16:00
新たな感動
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「異邦人」の基礎となった作品です。たしかに登場人物のセリフや描写、使われるシーンにも「異邦人」と重なる部分が一部存在します。
しかし、小説として不完全な部分もありつつも、まったく別の物語として仕上がっています。「異邦人」に感動された方はまた新しい感動に出会えるでしょう。
紙の本銀河鉄道の夜 童話集 他十四編 改版
2015/08/22 14:48
銀河鉄道の夜
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久しぶりに読んで驚きました。
こんなに直接的なメッセージを盛り込んでいたとは思いもよらなかった。
それまでの日本文学にこれほど遠くまで想像力を広げた人はいたでしょうか。
人生の折に触れて何度も立ち返り、その度に新たな発見を与えてくれるそんな作品です。
紙の本わたしを離さないで
2015/09/04 16:35
切なさをこえてこそ
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作者はこの小説で何を言いたいのか。ひとことで言い表すことは難しいですが、読書中も読後はさらに頭を抱えてしまいました。丁寧な心理描写や極めて慎重に物語を展開している点など、なぜこういう書き方をしたのか。
なるほど作者自身はあらゆる可能性に触手を伸ばし、物語を紡いだのでしょう。あるいは読者に考えるきっかけを与えたかったのかもしれません(その意味でわたしもしっかり作者のフックにひっかかってしまっていますが…)。しかし、そうであれば、ああいう小説の書き方をすることに戸惑いを感じてしまいます。切ないという気持ちより、何か居心地の悪さ、気持ち悪さを抱えてしまいました。爽やかにすぎる。作品の読み方も含めて、読者に多くの宿題を与えてくれる作品、労作であることに違いはありません。
紙の本世界から猫が消えたなら
2015/09/26 11:38
誠実であることの疑わしさ
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テーマや設定もよく見られるのですが、それだけ普遍的なものを扱おうとしているわけですから、さほど問題にするべきではないでしょう。部分的に丁寧に書いている点については好感が持てます。
しかし、…テーマの扱い方が納得いきません。仮にも人の生き死にです。もっと、ちゃんと考えてほしい。例えば、人が悲しいことを伝えるのであれば、人それぞれいろんな悲しみがあるはずです。「天気が悪くて悲しい」「ひそかに狙っていたブラウスを、いざ買いにいってみると売り切れてしまっていて悲しい」では違うはずです。「気になっていた同僚の男の子に、実はカノジョがいることが分かって悲しい」というのも、どれくらい思い続けていたのか、その男の子とカノジョはどのくらい付き合っているのか、1か月前なのか高校生時分からなのか、ちょっと考えてみただけでも、それぞれ受け止める感情や状況はかなり異なるはずです。それを一切排除してしまって、一言「悲しい」という言葉で、片付けてしまう。この作品は、そんな乱暴な扱い方をしているようにしか思えないのです。
途中、主人公が、正しいことばかり言う父が嫌いだ、という感情に気づく場面があります。これは重要な感情です。しかし、なぜその感情に気づくことができた主人公が、後半あんな考え方しかできないのでしょうか。主人が自分の命や人生に向き合うことを、設定にして始まった物語のはずです。少なくとも自分の人生、自分の命は、もっと切実に真剣に貪欲になりふり構わず、こだわるはずなのではないでしょうか。
加えて、死はまわりの人間のもので本人のものではない、と書いてありますが、それでもそれに沿った書き方ができているとは、少なくとも私にはとても思えません。
生き方よりも生きることが大前提であることを踏み外すと、命を乱暴に扱うことにつながる気がしてなりません。その誠実さ大いに疑わしい。