求道半さんのレビュー一覧
投稿者:求道半
![アンデッドアンラック 19 (ジャンプコミックス)](https://img.honto.jp/item/1/f8f7ef/75/110/32890635_1.jpg)
アンデッドアンラック 19 (ジャンプコミックス)
2023/12/12 00:40
保身と継承
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不老と不死は別物だが、不死のアンディは老いない事を気にしていた。
何度も、親しい人に先立たれ、幾度となく、死に方を模索するものの、望みは叶わず、風子に出会うまで、虚しく月日を過ごしていた。
一方、長年、武術の鍛錬に励むファンは、不死ではないものの、老け込まず、同世代の猛者が、次々と、衰え行く事に憤慨しては、躍起になって、新たな対戦相手を求め続ける。
ファンは弟子を殺せる男だ。
出雲風子は、ファンとは同門の腕の立つ少女であり、彼が執拗に手合わせを願う相手である。
だが、風子は、無理難題をファンに吹っ掛けて、試合の先延ばしを図る。
ファンには、後事を託したい弟子がおらず、尚且つ、誰かに何かを託す必要性を彼は感じていない。
他人を不運な目に遭わせる事に嫌気が差して、自殺寸前にまで追い込まれた風子は、不老でも、不死でもないのに、大勢の人々の思いを受け止めて、生き永らえた。
その間、他者の救済を念頭に置きつつ、元凶たる神々の暴挙を阻止すべく、風子は次なる戦いへの備えに、万全を期す。
世界が変われば、人の心も変わるのであろうか。
世界が変わっても、神の心は変わらない。
余興で、殺人を楽しめるのが、神である。
神に寿命があるのか否かは定かではないものの、何十回も、世界が終わる様を見続けられるだけの期間を、神々は過ごして来た。
そして、生き続けられる事を嘆きもせずに、人間の生活に悪影響を及ぼす事に執心する。
神は、風子の同輩を見殺しにするであろう。
壮健な肉体を維持するファンに悩み事などあるのであろうか。
神は、人殺しにも力を与える。
![つらねこ 2巻](https://img.honto.jp/item/1/f8f7ef/75/110/32845952_1.jpg)
つらねこ 2巻
2023/11/24 17:42
正当な闖入者
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人類は移動する。
アフリカから南米の端まで、居住域を拡大した後も、何度も、民族大移動を繰り返す。
引っ越す理由は様々であろうが、一度獲得した縄張りを捨てて、先住者がいる土地に侵入しては、いざこざを起こす。
不条理な理由で、極端に行動範囲を制限された中学生の知里ちゃんは、旅行やレジャーに憧れていた。
だが、事態の打開策を見つける為の情報収集の成果により、現在、少しずつではあるものの、彼女は活動領域を広げている。
その方法とは、異界を探訪し、あちらこちらで現実世界に繋がる出口を見付ける事によって、通常とは異なる形での移動経路を確保する事である。
しかし、それは容易な事ではない。
異界には、人間ではない住民がいるからだ。
例えば、知里ちゃんの正体が人間だと知られたら、相手は血相を変えて、群れを成して、襲い掛かって来る。
それを防ぐには、変装して、異界の住民から怪しまれない工夫が必要だ。
また、何らかの事情で、発見した出口が塞がれていて、復旧作業を要する事もある。
そして、その工事は、屡、肉体的及び精神的に加重な負担を知里ちゃんに強いるものである。
更に、異界の住民同士で争っている場合も多々あり、大抵、工事は難航する。
現実世界で起こり得る事は、異界でも、同様に、起こり得る事だ。
意見が食い違えば、殺し合いにまで発展するのが、人類である。
幸いな事に、知里ちゃんには、彼女に対する助言や助力を惜しまない、知り合いが増えた。
けれども、皆、何かを隠している。
異界には、知里ちゃんと同世代の少女がいるのだが、神出鬼没な彼女は、知里ちゃんの指を舐めたがる。
現実世界には、知里ちゃんとの再会を待ち望む男の子がいる。
そもそも、人間はこの世の仕組みを理解していないのに、それにも拘らず、合理的ではない事象に対する拒否反応を過剰に呈し、解決が困難な事態に直面しては、人知れず、苦悩する。
困っているのは、知里ちゃんだけではなさそうだ。
![ノーマルガール 1 (YOUNG JUMP COMICS)](https://img.honto.jp/item/1/f8f7ef/75/110/32827375_1.jpg)
ノーマルガール 1 (YOUNG JUMP COMICS)
2023/11/24 00:31
傲慢な食い意地
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幼い頃は無敵であった。
だが、童心に自尊心が芽生え、それが傷付けられると、少女の性格は激変し、高校を卒業する迄、家族以外の他人との接触の機会が激減する程に、御影伊織の生活は様変わりした。
彼女は、突如、決意する。
上京して、一人暮らしを始める、と。
進学して、キャンパスライフを謳歌する、と。
母を亡くし、父と妹との三人暮らしが長く続いた九州育ちの娘の門出を、老眼の進んだ男親と、姉と友人関係を保つ中学生の女子生徒は、素直に祝えない。
父は娘に試練を課す。
伊織は常識に疎く、都会で人波に揉まれれば、無事では済まないであろう。
彼女の欠点は、何かにつけ、他人と比較し、勝手に、自身の至らなさを痛感して、落ち込む事である。
経験に裏打ちされた自信があれば、彼女の人生は輝きを取り戻せるであろうが、現在の伊織には、誰かの助けがなければ、それを獲得するのは不可能だ。
彼女の昔の姿を知る人は、彼女に備わる行動力と決断力を高く評価するに違いない。
彼女は普通の概念に囚われる様な人間ではなかった。
社会規範を凌駕し得る精神力の持ち主であるからこそ、伊織は、六年間も、隠遁生活を送れたのだ。
彼女は衣食住の流行に無頓着ではなく、生活の質の向上に関しても、無関心な態度を示さない。
打ち拉がれていても、食欲は旺盛だ。
東京には、善人も、悪人も、変人も、いる。
犯罪者ではない伊織が卑下する必要など全く無いのだ。
だが、不審者には見える。
不審者の動きを観察するのは楽しい事である。
伊織に幸あれ。
![アンデッドアンラック 2 ロマンチックな否定者の休日](https://img.honto.jp/item/1/f8f7ef/75/110/32768488_1.jpg)
アンデッドアンラック 2 ロマンチックな否定者の休日
2023/11/23 00:43
本音の配当
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前作と同様に、小説版を読む前に、原作に目を通しておいた方が、物語を楽しむ上で、無難である。
不死と不運が揃って登場するエピソードもあるのだが、全四篇の各篇において、敵味方を問わず、原作の記載に則った、幾人もの否定者の恋模様が語られるので、各篇の登場人物や舞台に関する知識が欠落していては、小説版を味わい尽くすのは困難であろう。
更に、本作では、原作で、度々、注目される少女漫画が、重要な小道具として、用いられており、その存在を知らなければ、架空の漫画の話を断片的に読まされる事になるので、原作は必読だ、と言い切った方が適切かもしれない。
但し、表紙のイラストを見て、一人でも、その人となりが気になるようであれば、試しに、小説版から、原作の雰囲気を感じ取ろうとするのも、一興である。
副題にあるロマンチックのニュアンスを読者が如何様に受け取るのかは、明らかにしようがなく、その必要も無いであろうが、恋心に付随する悲喜交々の感情を、各篇の登場人物は、様々な場面で体現し、発露する。
激烈な感情の表出を伴う話がある点では、原作も本作も、ロマン派の流れを汲む作品であるとも言い得るが、他人に聞かれては小恥ずかしくなる様な、甘ったるい話題が、本作では全編で繰り広げられる。
だが、副題に含まれる休日の意味を、読者は軽く考えてはならない。
常住坐臥、否定者は戦っている。
寸暇を惜しんで、戦いに備える者や、病気に苦しむ者、信頼を寄せる相手から裏切られた者等、生き地獄の様な暮らしを送らざるを得なくなった否定者が、ほんの一時、胸の内に眠る繊細な感情と向き合えるのは、稀な事であり、それが、如何に貴重な瞬間であるのかについて、読者は考慮し、その観点から、彼らの休日の過ごし方の是非を判断すべきである。
アンディの全裸が目立つ原作と本作との違いが如実に分るのが、各篇における女子のファッションへの言及である。
休日だからこそ着られる服を選んで、街に出る喜びは、少女や若い娘にとって、何物にも変え難い、特別な気持ちである事に議論の余地はなかろう。
隣には、恋焦がれる人がいる。
普段なら、歯の浮く様な科白でも、甘美な響きとなって、心を震わす。
![SPY×FAMILY 12 (ジャンプコミックス)](https://img.honto.jp/item/1/f8f7ef/75/110/32734567_1.jpg)
SPY×FAMILY 12 (ジャンプコミックス)
2023/11/22 17:07
感情の喪失
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敵地での任務に従事していたとしても、自国での勤務であったとしても、スパイ活動は一時も気が休まらない激務である。だが、それを言い訳にして、生活の質を低下させたら、家族から不満が噴出したとしても、弁護の余地はない。
黄昏は偽りの家庭で、夫の務めを卒なくこなし、妻の機嫌を損なうような真似は仕出かさない筈であった。
だが、女心は複雑だ。
秘密警察の仕事も楽ではないが、ユーリにとって結婚した姉の身を案じる事は、プライベートのみならず、勤務時間内でも頭を悩ませる、精神的な負荷が強く掛かる悪癖であった。
殺し屋にも、身内にさえも打ち明けられない事情はある。
政治家の妻や息子も、他人が知る由もない葛藤を抱えて暮している。
雪解けムードが醸成されつつあるものの、東西両国の情報戦は、熾烈を極めており、幼児から大人まで、所属する社会階層を問わずに、人々は疑心暗鬼に陥っている。
表立って、心身の不調を訴えられない立場の人物も、専門家の手に掛かれば、自身がひた隠しにする病理を、追認せざるを得なくなる。
誰しもが、絶対、戦争は起こらない、と信じて疑わない安全保障環境が整わない限り、人心が安らぐ事は無いであろう。
幼き日の過酷な体験が、スパイであり続ける原動力となった黄昏にとって、仮初の人間関係など、未練も、迷いも無く、断ち切れるものである筈だ。
スパイに情は不要である。
裏切り者には容赦せず、己の任務に支障を来たす者に対しては、有無を言わさず徹底的に排除する手段を、黄昏は選択する。
スパイであったとしても、全員が従順な性格の持ち主ではなく、月日が経てば、性格も激変するので、スパイとの接し方には注意が必要だ。
![ギンカとリューナ 4 (ジャンプコミックス)](https://img.honto.jp/item/1/f8f7ef/75/110/32663527_1.jpg)
ギンカとリューナ 4 (ジャンプコミックス)
2023/10/29 23:39
恩人の口車
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魔法使いは全能ではない。
遺恨は判断力を鈍らせ、絶望は自制心を失わせる。
ギンカとリューナは旅に出た。
二人は雪山から南国の海を目指す。
道中では、人助けをしたり、ギンカの身体を捜したり、マガラカと戦ったりしながら、寝食を共にする仲間を増やしつつ、二人は支え合って、旅を続けた、リューナがある決断を下す迄は。
ギンカは孤独であった。
リューナも孤独であった。
魔法使いには師匠がおり、ギンカの師匠は狡猾である。
雪だるまになったギンカには、ギンちゃんと言う、幼い頃のギンカの人格を反映した分身がいるのだが、その性格は本体とは大きく異なり、真面目で、純真だ。
もう一人のギンカの師匠は、複数の弟子から軽んじられる、不甲斐ない人物であった。
ギンカは道を踏み外した。
ギンカは後悔したが、後の祭りである。
リューナの修行時代と後日譚の二篇が収録されて全四巻で完結する本作は、タイトルに違わず、ギンカとリューナの物語であった。
本編では、二人の来歴と行末を描き切れなかったものの、補遺として追加されたこの二篇により、一応、纏まりのある旅の記録としての体裁が整ったと言えるであろう。
ギンカは孤独であった。
リューナも孤独であった。
魔法使いにも不可能な事はある。
ギンカはリューナに嘘を教えた。
リューナがいなければ、雪だるまのギンカは雪山から降りられなかった。
ギンカはリューナに顔向け出来ない。
自責の念に苛まれるギンカに救いはあるのであろうか。
![有限世界のアインソフ 2 (ジャンプコミックス)](https://img.honto.jp/item/1/f8f7ef/75/110/32734578_1.jpg)
有限世界のアインソフ 2 (ジャンプコミックス)
2023/10/22 00:01
増幅する憎悪
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所属する集団の違いにより、無垢な新生児に、先天的な罪が背負わされる。
血縁関係の有無は不明でも、数世代前の犯罪者の汚名と不名誉が、民族を構成する全ての個人を修飾する言辞となり、他民族からの迫害を受忍せざるを得ない根拠とされて、人々は疲弊しながらも、圧政を追認する。
事を複雑にし、人権状況の改善策を見出し難くするのは、被差別の理由に、忌まわしい吸血鬼の発生が関連付けられているからである。
吸血鬼の駆除を専門とする狩人は、外交官でも、司直でも、行政官でもなく、人権が蹂躙される現場に一介の狩人が立ち会っても、政治的な解決策を提案する能力も権限も有さず、公平且つ中立的な立場の者の意見や視点が、施策に反映される事は無い。
アインは稀有な存在だ。
権謀術数に長けた彼は、有能な狩人であると同時に、不世出の社会活動家でもある。
そして、それは、彼の出自に負うところが大きいのである。
吸血鬼の生態は単純なものではない。
人間が活動する場は、吸血鬼の生息域と重なり、その姿形は千差万別だ。
鄙びた人里にも、都会にも、吸血鬼は出没して、悪事を働く。
一見すると、理性的な振る舞いが可能な個体でも、突発的な出来事に遭遇して、精神的な負荷に耐え切れなくなれば、我を忘れて、暴虐の限りを尽くす。
吸血鬼に苦しむ者が、吸血鬼を擁護すれば、官憲から目を付けられて、行動を制限される。
為政者は民衆の不満を逆手に取って、差別を助長する。
そして、民族の浄化を図るのだ。
![アンデッドアンラック 18 (ジャンプコミックス)](https://img.honto.jp/item/1/f8f7ef/75/110/32734558_1.jpg)
アンデッドアンラック 18 (ジャンプコミックス)
2023/10/15 23:51
無力な大人
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この世に安全な場所など存在しない。
仕事にかまけていたら、妻子が死に、保護者の目の前で、子供が死ぬ。
世界各地で知己との再会を果たし、組織の再建に邁進し、その勢力を再拡大しつつある風子であったが、必ずしも彼女の計画通りに事が運ぶとは限らない。
戦場で規律が重んじられるのは、指揮官の指示に従って各自が行動する事により、予測不能な事象の発生を防ぎ、任務の遂行の確率を高めるのが目的である。
だが、リーダーとしての経験が不足している風子には、脇が甘いところがあり、彼女を含む任務の遂行者は、時々、致命的なミスになりかねないアクシデントに見舞われる。
神の意思を代弁する黙示録が課す難題には、仲間集めと武器の確保とを捗らせる側面があるものの、参加するには多くの制約があり、神のお膳立てに唯々諾々と従っていては、風子は本懐を遂げられないであろう。
適切な時機を見計らい、複数の企画を同時進行させて、事業を円滑に執り行う手腕が、風子に求められる。
前任者のジュイスが率いていた頃の組織には、峻厳さと苛烈さが備わっていた。
構成員やその家族に対する組織側の配慮は申し分のないものであったが、部外者や用済みの者への対応には、冷酷な一面が認められた。
その挙句、ジュイスは失敗した。
彼女に後を託された風子には、ジュイスには無い能力があるに違いない。
組織に加入してから、風子は行動力が増した。
密林での戦闘が終結したのも束の間、今度は、地球を離れる決断を下す。
風子は活動資金の調達と配分の面でも、その才能を開花させつつある。
![ココロのプログラム 3 (ジャンプコミックス)](https://img.honto.jp/item/1/f8f7ef/75/110/32663540_1.jpg)
ココロのプログラム 3 (ジャンプコミックス)
2023/09/17 23:18
我執に唆されて
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何年間も恋心を胸に秘めた少女の恋敵はロボットだった。
人間の心を学ぶ為に、少年の家にホームステイしたいちこは、恋心を理解し得る段階に達しつつある。
中学三年生になった二人の人間と一体のロボットの一年間に焦点が当てられる第三巻では、九に振り向いて貰いたい愛の内面が吐露されて、この三角関係が新たな局面を迎える過程が丁寧に描かれる。
高校受験を控えた時期に、勉強に身が入らなくなる出来事が、九の周囲で起こるのだが、それが尾を引いて、晴れて高校生になった少年と少女の心は曇ったままだ。
小学生の頃から、九はいちこの事を気に掛けていた。
幼馴染の愛の事も、九はいちこと同様に気に掛けてはいるのだが、愛からすれば、九の気持ちは、人間よりもロボットの方に傾いていると、思われるのであろう。
級友から、いちごが好きなのでは、と指摘されても、九は即座に否定する。
ロボットを好きにはならない、と。
断っておかねばならないのは、愛よりも九の方が、ロボットとしてのいちこを意識している点である。
むしろ、愛は、いちこを人間と同等に見て、ライバル視する。
まるで、人間がロボットを好きになる事に微塵も疑問を抱かずに、人間とロボットの心が通じ合う事を信じて疑わない様子である。
愛は苦しんでいた。
九も苦しんでいた。
いちこにも内面の葛藤が生じた模様だ。
いちこは家政婦のように宇佐美家に尽くすが、宇佐美家には金銭的な負担は無く、いちこは無給で働く。
それでも、いちこは九の面倒をしっかりと見て、九に対して情愛の籠もった行動をとる。
人間の心を育む機会がロボットに与えられるのが、その対価であるからだ。
人間は成長する。
ロボットは劣化する。
獲得したココロと毀損するボディとのバランスが崩れる時、当該のロボットのみならず、そのロボットと関わる人間にも、不調が生じるであろう。
いつしか、九の身長は、いちこの背を追い越した。
![ドリトライ 1 (ジャンプコミックス)](https://img.honto.jp/item/1/f8f7ef/75/110/32663547_1.jpg)
ドリトライ 1 (ジャンプコミックス)
2023/09/10 23:35
神国のチョコレート
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両親が不在の十代の兄妹が、太平洋戦争末期から、終戦を経て、一年間、東京で、生き延びた。
二人の寝床は畳の上ではない。
腹を空かせても、悪事には手を染めずに、糊口を凌ぎ、なんとか食い繋いで来たものの、限界が差し迫っている。
生きて帰ると言い残して、出征した父親はボクシングの王者であった。
その血を継いだ妹の星は、兄の青空よりも、腕っ節が強く、母親から、将来を心配されたものだが、戦後は、立場が逆転して、兄の手を煩わせている。
星は生きる気力を失くしていた。
青空は、粘り強い戦い方で、最終的に勝利を得る父親の姿に憧れており、苦しくても、弱音を吐かずに、逆境に立ち向かう。
理不尽な暴力によって、生命と財産を脅かされる日々の中、二人に手を差し伸べたのは、ヤクザの頭であった。
金が無ければ生きられない。
ヤクザにならなければ生きられない。
青空は、星の為に、ヤクザ者になった。
だが、道を踏み外す積りは、毛頭、無い。
ボクサーとして、戦い、稼ぎを得て、家族を養うのだ。
打たれ強さだけが取柄の非力な少年が、父の口癖を真似て、リングに立つのは、無謀な事であるのかもしれない。
気合は十分であったとしても、負ける時もある。
大人が野垂れ死に、ヤクザでさえ、甘い汁を吸えない、苛烈な環境で、青空と星は、あと何年、生きられるのであろうか。
街中には、二人と境遇の似通った少年少女が溢れている。
大神青空は、何度、殴り飛ばされても、笑みを浮かべて立ち上がる。
![アンデッドアンラック 17 (ジャンプコミックス)](https://img.honto.jp/item/1/f8f7ef/75/110/32520352_1.jpg)
アンデッドアンラック 17 (ジャンプコミックス)
2023/07/15 00:15
漁夫のリクルート
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敵対した相手の記憶を頼りに、百年以上も経ってから、風子は、世界各地で、人探しをする。
この任務は、他者から強制された場合と、彼女自身の都合で遂行される場合と、両者が混在する場合とがあり、一度に探し当てるべき人数も、一人の時も複数人の時もあり、毎回、短期間で目標を達成するのは容易ではない。
もちろん、風子が単独で行動している訳ではなく、彼女と共に戦う、或いは後方支援する、力強い仲間も徐々に増えている。だが、芋蔓式に、人員が増えて、組織の規模が急拡大し、人手不足が解消して、風子の負担が一気に軽減したりはしない。
風子は転戦し続ける。
比喩ではなく、彼女は戦場に立つ。
戦地は優秀な人材の宝庫であり、人の本性が曝け出される場所でもある。
仲間を見殺しにしかねない醜態を曝す者、部下を消耗品と看做して酷使する者、自己犠牲の精神で粉骨砕身する者等、最前線は利己的な行動の見本市の様相を呈する。
砲弾が降りしきる中で、風子は、仲間に成り得る逸材を探すのだが、神から授けられる特殊な能力の発現条件は、完全には解明されてはおらず、風子とその協力者は、場当たり的な行動を甘受しつつ、適切なタイミングで、相手と接触して、組織に勧誘する機会を窺わねばならない。
神は否定者を産み出し続けており、風子が動かなければ、悲劇の連鎖は食い止められず、他に犠牲者の発生を防ぐ手立ては無さそうだ。
古代遺物の発掘や保管に関する事も、風子が手掛ける事業の一つである。
本来、神々の娯楽の一環で産み出された筈の事物が、人類の争いの種となり、不幸を招く。
否定者と言えども、この世の理を完全に理解し得る訳ではないので、神の胸中を知り、確固たる己の行動指針を打ち立てられる者は、この世に存在しないであろう。
組織の前任者ジュイスの試行錯誤の果てに、風子は神の意向を知り得た。
風子の言葉は、否定者であったとしても、俄かには信じ難く、仲間の勧誘には骨が折れる。
それでも、風子は、銃を片手に、鍛え上げた肉体に鞭打って、先陣を切る。
![大東京鬼嫁伝 4 (ジャンプコミックス)](https://img.honto.jp/item/1/f8f7ef/75/110/32461710_1.jpg)
大東京鬼嫁伝 4 (ジャンプコミックス)
2023/06/19 00:03
日陰者のカノン
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もののけ蛙人が上京した。
蛙人は人を襲い、食べようとする、もののけだ。
花札進太は蛙人に命を狙われる。
幸い、自称進太の許婚、鬼の愛火童子に助けられて、進太は事無きを得たのだが、進太と蛙人との縁は切れなかった。
人界で暮らす蛙人の娘、翠川けろるは、職を転々として、花札家に転がり込む。
生活苦に耐えかねて、命を絶つ人間がいる一方で、けろるは里に帰らずに、都会で懸命に働いて、生きている。
勤め先では、理不尽な目に遭い、プライベートで進太と一緒にいれば、嫉妬に狂う愛火から、脅迫めいた暴言を吐かれる。
水が無ければ、能力を活かせない蛙人が、何故、東京に留まり続けるのであろうか。
異界に有る蛙人の里では、母親が娘の身を案じている。
花札家の周辺がキナ臭くなっているにも拘らず、けろるは逃げず、進太と愛火を心配して、助力を惜しまない。
けろるは義理堅いもののけだ。
そして、友達想いだ。
蛙人に食われそうになった進太も、けろるを信頼している。
人間も、もののけも、何かに失敗すれば、落ち込み、立ち直るのに、結構、時間が掛かるであろう。
けろるは悪夢に魘されても、朝になれば、起床して、家から出る。
酒浸りの生活を送らずに、真面目に働く。
人間に騙されても、人間から叱られても、弁明はしても、反撃せずに、けろるは耐え忍ぶ。
けろるは人波に揉まれて、精神的に、逞しくなった。
他のもののけに、人間社会での立ち居振る舞いを指南する事も出来る。
けろるがいなければ、花札家は、一家離散していた、と言っても、過言ではない。
「大東京鬼嫁伝」は「大東京蛙人伝」である。
![サラダ・ヴァイキング 5 (ジャンプコミックス)](https://img.honto.jp/item/1/f8f7ef/75/110/32461720_1.jpg)
サラダ・ヴァイキング 5 (ジャンプコミックス)
2023/06/14 17:33
偏食の落とし前
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父祖伝来の法の正しさは自明の事ではない。
不文律な悪弊を受忍するのは子孫の有るべき姿ではなく、誰しもが、疑問を抱いたら、口に出し、年長者と若者は、お互いに胸襟を開いて、正々堂々と、問答すれば良い。
だが、ヴァルマン族では、永年、これが叶わなかった。
戦闘力に長けていなければ、同族から見殺しにされ、或いは、服従を強いられ、たとえ、強者であったとしても、気が休まらない。
同族とでも、他民族とでも、戦わなければ、生き延びられない、と彼らは信じ切っていた。
ヴァルマン族は、代々、女王が統治し、その力は絶大である。
何の因果か、地球を侵略する為に、調査隊を派遣した事が、ヴァルマン族の社会に変革の機会を生じさせる事となる。
地球の食材の摂取は、ヴァルマン族の体質に、劇的な変化を齎した。
それは、ヴァルマン族の各個体と共生関係にある、被征服民の反応に起因するものである。
野菜が、地球を侵略の危機から、そして、ヴァルマン族を絶滅の危機から、救う。
地球で農業を学ぶヴァルマン族の青年は、上層部に対して、生業の変更を申し出て、説得を試みるものの、彼らは、農耕の導入を、頑なに拒否する。
ヴァルマン族に、流血を伴わない社会改良は、望むべくも無い。
ヴァルマン族にとって、地球人は、食材としての肉だ。
地球人に感化されたヴァルマン族の一員が、政権の転覆を狙って、不健康な菜食主義を広めようとしている訳ではないのにも拘らず、ヴァルマン族の指導者層が狩猟経済に固執して、反抗分子を粛清しようとするのは不可解である。
ヴァルマン族の女王が地球に降臨し、日本の田舎で、小規模な内戦が、勃発した。
インフラが破壊され、負傷者が続出する。
ヴァルマン族に於いては、君主の退位は、珍しい事ではないようである。
そして、代替わりは、必ずしも、先代の死を意味しない。
老婆は強い。
腕の立つ青年に深手を負わせられるのが、ヴァルマン族の女傑である。
休戦は可能なのであろうか。
![ギンカとリューナ 3 (ジャンプコミックス)](https://img.honto.jp/item/1/f8f7ef/75/110/32461708_1.jpg)
ギンカとリューナ 3 (ジャンプコミックス)
2023/06/11 09:57
日頃の行い
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猟奇的な犯罪の被疑者は、全員、魔術師である。
このような短絡的な推理が成り立ち得るのは、偏に、魔術師の素行の悪さが目に余るからだ。
窃盗、誘拐、暴行、殺人等、一般人も犯す罪状でも、魔術が絡むと、被害の規模が拡大し、凄惨さが増す。
人権を蹂躙し、人命を軽視した挙句に、生体実験に手を染める魔術師の存在も珍しくはなく、魔術師は信用されない。
それ故、初対面の相手から、リューナは敵意を向けられる。
だが、ギンカは違う。
動く雪だるまになったとは言え、ギンカの名は、魔術師の界隈では、知れ渡っており、同道するリューナとは反りが合わない者からも、ギンカは敬意を以って遇される。
酒癖が悪く、大事な杖も紛失した、粗忽者のギンカであるが、師匠からの信頼は厚く、彼の弟子になりたい魔術師は、雪だるまになっても、現れる。
ギンカは強い。
それでも、何者かに身体を奪われて、雪山の中で、身動きが取れずにいた。
ギンカは諦めていた。
リューナに魔術を教えていなければ、ギンカは、彼女と旅に出たい、とは思わなかったであろうし、リューナが魔術師になっていなければ、ギンカが自力で脱出しようとしても、それは不可能であった、と思われる。
世界中に、リューナの知らない事がある。二人は旅を満喫しながら、時々、人助けをしつつ、ギンカの身体を取り戻す方法を探る。
魔術が隆盛していた時代の歴史は、現代にも、引き継がれており、魔術が衰退した理由を、ギンカの師匠は知っている。
過去を顧みない魔術師は、惨劇を、繰り返す。
民衆は子孫に真実を伝え損ねた。
ギンカは勇猛だ。
リューナは勇敢だ。
この二人の魔術師は信頼するに値する。
![花園に幹が立つ 1 (HARTA COMIX)](https://img.honto.jp/item/1/f8f7ef/75/110/32396429_1.jpg)
花園に幹が立つ 1 (HARTA COMIX)
2023/05/19 00:39
エレガントな剪定と施肥
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遠野幹は苦学生である。
私立の櫻凜学園高等部に入学した彼は、成績が優秀で、特待生に選ばれたものの、アルバイトをして、生活費を稼ぐ。
今年度から共学化された元女子校に通う、唯一の男子でもある彼は、不純な動機で、この学園への進学を志望した訳ではないようだ。
共学化に踏み切ったとは言え、急激な変化を学園側が望んでいないのは、幼稚舎から大学までを擁するこの学園の内部で、男子に門戸を開放したのが、高等部のみであるらしい事から、窺える。
それを裏付けるのは、今年度の男子の合格者が、彼一人ではなく、最終的に、遠野幹しか、入学の意思を示さなかった際の、学園側の対応の仕方である。
女子校であった時にも、男性教諭は何人かおり、櫻凜学園は、禁欲的に、男の立ち入りを制限する校風ではないようだ。
それでも、男子学生が、戸惑う、カリキュラムが組まれており、彼の入学によって、授業の中身が、抜本的に、見直されたりはしない。
女子学生の中には、遠野のように、高等部から、櫻凜学園に通い始めた者がおり、三枝音も、その中の一人だ。
遠野と同じクラスの三枝は、共学校の出身者で、女子校文化に触れる事を楽しみにしている。
お嬢様ではない、二人の新参者に対して、この学園に馴染めるように、気を配るのが、源瞳である。
彼女に導かれる形で、遠野と三枝は、この学園の独特な雰囲気に、慣れ親しんで行く。
当然の事ながら、突然、同級生となった男に、拒否感を抱く女学生はいる。
面と向かって、彼に、侮蔑的な文言を言い放つ、高飛車な女子もいるが、大半のクラスメイトは、遠巻きに、彼との接し方を模索する。
挨拶の仕方と言う、社会生活の基本的な事柄からして、カルチャーギャップが生じるのが、元女子校と共学校との違いである。
乙女との何気ない接触が、遠野幹の心を乱す。
特待生は品行方正でなければならない。
この花園の園丁たる、教師の目が光っている。