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関 智子さんのレビュー一覧

投稿者:関 智子

25 件中 16 件~ 25 件を表示

人と自然環境の関係全般を考えさせる本

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

環境省で自然保護行政に携わっている3人の女性が書いた本が発刊されました。
メインテーマは「生物多様性とは何か」。
日本の政策、国際協力事例などのほか、人と生物多様性の間に問題が生じている事例(クマ、カラス問題など)、自然再生・創出の事例、環境保全意識の形成につながる人と自然のふれあい事例など扱っている話題は多岐。
いわゆる自然の豊かな場所のことだけではなく、カラス問題など都市での生物多様性も扱い、人と自然環境の関係全般を考える内容になっていることが特色です。
生物研究者だと対象フィールドから出ることが難しいと思うのですが、生物多様性全般にかかわる行政担当者としての視野の広がりを活かした本だと思います。
一般的なよみものとして書かれているので表現は平易。

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2004年の漫画作品最大の収穫の1つ。壮大なテーマを繊細に描く

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

いま、ここに繰り広げられている平凡な日常が、人類の歴史の中に存在する多くのできごとの集積によって実現している「必然」だという事実を実験的な表現で描いた第1話、南極で遭難した2人の男の少年だった時からの因縁と愛憎を描いた第3話、中世から続く貴族エッシャー家の創建時と没落時に生きた2人の女性を通じて歴史の無常、人の強さを浮き彫りにする第3話−−。いずれも壮大なテーマを短編で展開してみせた作品だが、密度の濃い、構成のしっかりした話に仕上がっている。
 特に第1話の実験的表現・テーマは圧巻で、手塚の「火の鳥」をも彷彿とさせる。時空を超えて存在する「不思議な少年」という設定を最大に活かした話。テーマは壮大だが決して看板倒れにならず細部の演出も絶妙。2話の橋のむこうのあこがれの女性の存在、エッシャーー家の最後の女当主につきまとう元おぼっちゃまなどの細かい設定も話に奥行きを与えている。
 丁寧な筆致は、描かれた出来事を1つ1つ繊細にタピストリーの中に織り揚げた手仕事を思わせる。
 2004年は「PLUTO」「日露戦争物語」など、大きなテーマを扱った作品に収穫が多かった。この話もまちがいなく2004年の最大の収穫の1つ。
 

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「ベルサイユのばら」リバイバルに火をつけた本

4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

2002年秋からの何回めかの「ベルサイユのばら」リバイバルに火をつけた本です。小学生の頃、リアルタイムで読んだ印象がいまも鮮烈に残っている世代としては「連載開始30年記念」というキャッチコピーは感慨深いものがありましたが、連載当時の掲載誌のようす、各回の表紙なども収録されていて、当時のわくわく感に引き戻されてしまいました。

華麗な登場人物、品位を守りながら実はしっかり濃い恋愛描写といった部分から、小学生の頃は「ベルサイユのばら」が好きですというのは、気恥ずかしかったのですが、実は硬派な問題設定、しっかりした物語の骨格、人物の出し入れのうまさ、いきいきとしたキャラクター、時代考証など大人になって読むと、驚異的な完成度です。20代の女性が週刊連載ハードな状況で描いたものとは思えないです。
(こういった作品と小学生の頃に出会えたというのは、幸運といってよいと思います。)

ところで、この機会に池田理代子さんの作品自体を読み返してみたのですが、本当に硬派。質が高い。

「ベルサイユのばら」だけでなく、そういった他作品の紹介もしてほしかったです。

ロザリー、ベルナール、アランのその後、そして決して平板ではない戦争と国家の問題が描かれた「エロイカ」も読んでみていただきたいですが、同時代のロシアの啓蒙専制君主であった世界史の巨人エカテリーナ2世を描いた「女帝エカテリーナ(中公文庫)」やエカテリーナが関与したポーランド分割が描かれた「天の涯まで」もぜひどうぞ。

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幕末の江戸の町並みを正確に再現した超力作!!

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

東宝映画「ゴジラ」の美術さんでもあった、台東区在住の都市建築デザイナー
立川博章さんの力作です。

立川さんに1度お会いしたことがあり、そのとき聞いたのですが、1枚書くのに4か月かかるという超細密画。しかも、地図には100メートル(約1町)ごとの目盛りが四隅に振られており、空間の大きさは感覚ではなく、資料に基づいて厳密に表現されています。

明治時代の測量図をベースにして地形を確認し、三次元の基本線を描き、幕末の古地図などで区割り町の施設配置をさらに確認し建物を描き入れていく手法がとられているそうですが、このほかに実際にその地域を歩いて、1枚書くのに6000枚くらい写真を撮っている場合もあるとか。

私は台東区で育ち、現在は荒川区在住、港区と千代田区に勤務した経験があるので、「江戸の町並み景観復元図」が書かれた範囲内は土地勘や町の歴史がある程度わかっているところが多いのですが、細部まで本当に正確です。

ただし、どこどこの大名屋敷であることは古地図で確認できてもその屋敷内の配置は資料があるケースが少ないのでそのあたりは空想になっているそうですが…

また、本は3D鳥瞰図のカラーページとその部分が何の建物であるかの説明を印刷したトレシングペーパーのページを重ねて見ることができるようになっており、資料としても使いやすいつくりになっています。

東京の歴史や町歩きが好きな人にはと〜っても面白いと思います。

この巻は
・駒込・三ノ輪・根津・谷中・上野・下谷付近
・寛永寺膝下・湯島・下谷・浅草・新堀川周辺
・外神田・東神田・日本橋・浅草・柳橋・両国橋付近
・両国橋東詰・本所付近
・浅草・駒形・本所付近
・千住・石浜・浅草寺周辺・今戸・向島付近
をカバー。

今の文京区、台東区、墨田区など江戸城から徒歩でいける範囲内でも幕末でもかなり田んぼがあり、農村と都市が混在した土地利用となっていたことがとてもよくわかります。

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紙の本ベルサイユのばら外伝

2003/01/13 07:15

連載終了後10年経って描かれた後日談

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

bk1さん、エリザベート・バートリー伯爵夫人が出てくる外伝はベルサイユのばら 5(集英社文庫)所収。こっちの外伝はさらにその後日談なんです。
連連載終了後10年経って描かれた作品で絵柄が変わっているので、ファンは賛否両論あるようですが、18世紀の時代考証からいえば、この外伝のほうが正確かつ細密。18世紀好きには納得できる内容になっています。この作品が描かれる前、シリアスで綿密な考証に基づいた「女帝エカテリーナ」を描いたと思うのですが、外伝の内容は「ベルサイユのばら」本編にも通じる活劇ものの要素を持ったコメディとなっており、作者の表現の幅の広さは驚き。

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生活者を納得させる緻密さ、リアルさ

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

浅草、千住、向島、神田などの下町の街角風景を描いた「こち亀」各話の表紙絵そのものと、こち亀の舞台としてのそれぞれの街に関する裏話、街の取材にあたってのエピソードを交え綴った本。
 驚愕するのは表紙絵の中の街の描写がきわめて正確なことである。
 ここに取り上げられている街の多くは私の生活圏の近くにあるので、モデルになった場所もだいたいわかるが、ほとんどふつうの街の一角で特に有名な場所ではない。
 にもかかわらずその1つ1つの場所がきわめて正確に取材され、かつ高い画力により消化され表現されている。(つけたすと表紙絵だけでなく、本編の背景で特定の場所をとりあげる際もかなり正確)。すでに消えてしまった風景は貴重な場の記録にもなっているし、これだけの記録の集積は江戸時代の名所図絵さながらおそらく後生にも残ると思われる。
 なお東京スタジアムの項で、その時に入手した資料や取材の結果から、想像して再構成した背景を作品に描いたところ、後に実際に同様の風景が写真に収められているのを追体験したことが触れられているが、ただ資料を正確になぞっているだけでなく、想像で描いた風景が実際にあった街の景観に迫るほどなっている箇所もあるらしい。このような絵の数々をエピソードとともに確認できるだけでもおすすめの内容である。
 もちろん絵の部分だけでなく、本文も読んでいて面白い。下町がドラマなどに登場する場合、ステロタイプの登場人物で人情話的な処理、経済力はなぜか比較的少なめに描かれることが多い(そういうステロタイプな下町に思い入れがある人も意外と多く下町に住んでいるというと困ることがあるのだが)、実際はさまざまな性格の人が住み、経済力もさまざまである。
 こち亀の場合はステロタイプの下町のキャラだけでなく、さまざまな人間が生活する下町を実はきちんと描いているし、「超神田寿司」のようにリアルで新しい下町のキャラを開発している。生活者として納得できる視点なのだ。そのような生活者の視点がきちんと入っている秋本さんのまちの紹介文書はガイドとしても秀逸である。
 なお私は秋本さんよりかなり年下だが、小さい頃母親などに連れられたおでかけコースは上野動物園、松坂屋か赤札堂、じゅらくかナガフジで秋本さんの「定番コース」とほとんど変わりがない。秋本さんはこのコースが定番であるとの自信がないまま「定番」と描いたのだそうだが、私の友人の範囲を考えてもこの記述は間違いではない。このような細部のエピソードも生活していないとわからないリアルさが満ちている。

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超細密な江戸城周辺の町並み再現D鳥瞰図

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

東宝映画「ゴジラ」の美術さんでもあった、台東区在住の都市建築デザイナー
立川博章さんの力作です。

立川さんに1度お会いしたことがあり、そのとき聞いたのですが、1枚書くのに4か月かかるという超細密画。しかも、地図には100メートル(約1町)ごとの目盛りが四隅に振られており、空間の大きさは感覚ではなく、資料に基づいて厳密に表現されています。

明治時代の測量図をベースにして地形を確認し、三次元の基本線を描き、幕末の古地図などで区割り町の施設配置をさらに確認し建物を描き入れていく手法がとられているそうですが、このほかに実際にその地域を歩いて、1枚書くのに6000枚くらい写真を撮っている場合もあるとか。

私は台東区で育ち、現在は荒川区在住、港区と千代田区に勤務した経験があるので、「江戸の町並み景観復元図」が書かれた範囲内は土地勘や町の歴史がある程度わかっているところが多いのですが、細部まで本当に正確です。

ただし、どこどこの大名屋敷であることは古地図で確認できてもその屋敷内の配置は資料があるケースが少ないのでそのあたりは空想になっているそうですが…

また、本は3D鳥瞰図のカラーページとその部分が何の建物であるかの説明を印刷したトレシングペーパーのページを重ねて見ることができるようになっており、資料としても使いやすいつくりになっています。さらに各図掲載の建物の由来などの説明もついています。

東京の歴史や町歩きが好きな人にはと〜っても面白いと思います。


この巻は
皇居・麹町・四谷・番町・市谷・牛込付近
皇居・大手町・飯田橋・神田・外神田・湯島付近
赤坂・永田町・霞が関・虎ノ門付近
皇居外苑・丸の内・銀座・新橋付近
東神田・浅草・両国・人形町・本所・深川付近
茅場町・新川・八丁堀・永代付近
をカバー。

皇居周辺図に施されている説明を読むと、江戸城の一橋、竹橋はそれぞれ家康入城時に「1本の丸太の木の橋」「竹で編んだ橋」だったことに因むとか。

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紙の本のだめカンタービレ 6

2003/08/10 20:41

生活する音楽家たち、画期的なキャラ

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

地味な絵なので、最初は本屋に平積みになっている理由がわからなかったのですが、一度読んではハマってしまいました。
 音大を舞台にした音楽漫画なのですが、これまでの音楽もののように、突出した天才が食事もしないで作品と向き合っているような話ではないところがイイです。
 音大裏の中華料理屋「裏軒」でラーメンをたべたり、試験や雑用、俗世に人間関係にもまれるという日常があって、さらに楽譜とにらめっこしながらの地味な勉強を基礎としてこなしながら、最後にアウトプットとして表現がある、しかもオーケストラの場合は個人レベルの表現だけでなく、メンバー同士や指揮者とメンバーの間でいろいろな人間的なやりとりがあって、やっとひとつにまとまるというリアルな現場がうまく押さえられています。
 そのリアルさは音楽版「動物のお医者さん」?
 また、キャラクターがとても個性的で画期的です。主人公のひとり千秋君は有名音楽家の息子で金持ち、才能もあるというできすぎキャラですが、その千秋をふりまわす「のだめ」こと野田恵は、風呂にもあまりはいらず、部屋の中はごみでいっぱい、人のお弁当を勝手に食べる、千秋君の部屋に勝手に押しかける、などヒロインとしてはぶっとんだ設定。こんなにぶっとんだヒロインは土田よしこ先生の「きみどり」以来かもしれなません。もっとものだめのほうは天然で悪気はなく、かわい気もあり、ピアノは天才的(本人はそれに気づいていない)というヒロインらしい部分もありますが…。
 ワキを固める面々も個性的。指揮者のミルヒーや打楽器の真澄ちゃんをはじめ、音楽のと表裏をなす、変なヒト加減の描写が絶妙。
 少し映画の「ほんとうのジャクリーヌ・デュプレ」を少し思わせます。のだめもデュプレほど貪欲でありませんが、常識の枠のはみ出し方はジャクリーヌ・デュプレと共通するものがあるかもしれません。

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世界の環境問題最困難地域の現場リポート

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この本は石弘之さんが環境問題の傍観者(ジャーナリスト)、当事者(UNEP、
JICAなどの当局者)などの立場を行ったり来たりしながら、125か国を訪
ねた経験を集大成した本。
しかもジャーナリストとしての「報道」や研究者としての「論文」という形式を
離れて、初めて1人称で書いた本だそうです。

環境問題になんらかの形でかかわっている人なら、石さんのことはご存じだと思い
ますが、環境問題の情報を伝えるジャーナリスト、というだけではなく、UNEP上級
顧問、国際協力事業団参与、東中欧環境センター理事といった、環境問題の解決に
向けての実施機関の当事者としての経験も重ねておられ、この本ではそのような経
験が生かされています。

(なお石さんの詳しいプロフィールは版元の講談社のページにも書いてあります。http://www.bookclub.kodansha.co.jp/Scripts/bookclub/intro/intro.idc?id=31626
2002年10月7日付けで民間から駐ザンビア大使に任命されました。)

映画の撮影にたとえて言えば、ロングの絵もアップも、あらゆる角度からのアプロ
ーチも頭の中に入っている監督が撮影している感じといったらよいでしょうか。
文章は読みやすいのですが、その環境問題をめぐる複雑な状況が手に取るように
わかります。

また、取り上げられた地域は世界の最も困難な環境問題が生じていると思われるところ。

このうち第1章  環境保護運動家の死、第2章  死に急ぐ先住民たち
の舞台はアマゾンで、以前にも石さんの本「インディオ居留地 地球破壊で追われ
る先住民」((朝日選書)の中で取り上げられていますが、環境(森林)破壊が直
接的に先住民の生きる場所を狭め、その中でばたばたと人が自殺に追い込まれて
いるという悲惨な状況が報告されています。

森林破壊の原因は森林を大豆畑に変えていったこと。ペルー沖ではアンチョビが大
量に捕れ、先進国の家畜の飼料用にこれを輸出し、国の経済を支えるまでになって
いたそうですが、異常気象によりアンチョビが不漁となり、アマゾン諸国がその代
替品である大豆生産に活路を見いだしたという経緯があります。現在ブラジルは1
978年の400倍の大豆が生産される、世界第2位の大豆生産国となっています。

ただ、1978年の400倍の大豆が生産されている畑はもともとは先住民の生活
の場であった森林。先住民の生活と生命の犠牲の上に白人資本による大豆生産が成
り立っているという深刻な状況が出現しています。

この報告の中で考えさせられた点は2つありました。

1つはこの本の中でも指摘されていますが、日本もこの状況と必ずしも無関係とは
いえないこと。日本はブラジルから大豆を年間70万トンも輸入する大スポンサー
にあたります。

もう1つは同じ州の非先住民に比べ120倍にもなるという居留地先住民の高い自
殺率の背景。

この本の別の章で取り上げられている中国の黄土高原も、収入が1日1ドル以下ど
ころではない中国の最貧地帯ですが、その黄土高原の大同で植林をしているNPO
緑の地球ネットワークの高見邦雄さんによると、大同では自殺者はほとんどいない
そう。貧困がそのまま自殺に結びつくのではなく、生きる場所の消失、未来の可能
性の消失のほうが人間の生きる気力を失わせるのではないかということです。

他には東欧、アフリカ、チェルノブイリなどの話が掲載されています。

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アイヌの狩猟技法を伝える“最後の狩人”の発言

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

著者の姉崎さんは単独猟で40頭、集団猟を入れると60頭ものクマを倒した経験があるアイヌの狩猟技法を伝える“最後の狩人”。
 ただし、福島出身で屯田兵として北海道にわたった父親とアイヌの母親の間に生まれたため、アイヌの親戚からは「チポエップ(混ぜ煮/混血児)」と呼ばれ、技術の伝承を受ける立場としては微妙な環境で育ったということです。生活の必要から小さい頃からイタチ猟などで家計を支えてきたそうですが、チポエップとしての立場上、狩猟方法は独学で習得。クマ猟もクマの行動を徹底的に見た結果で編み出したものなので「クマが師匠」と言っています。
 この本に含まれている話の内容は多彩です。
 前半部分では狩猟のノウハウやクマの行動についての話ですが、聞き書きの原稿作成を担当した片山龍峯氏は「今、まとめて記録に止めておかない限り、情報提供者としての姉崎さんの言葉の断片が(姉崎さんから情報をもらった)、それぞれの学者の業績の中に残るだけ。もったいない」という危機感を抱いたように、姉崎さんが長年の狩猟経験で得たクマの生態に関する知識の数々は、確かにそのへんの研究者では追いつかないような貴重な内容だと思います。
 姉崎さんによると、クマは子どもを遊ばせるために地形を利用して滑り台を作るなどとても頭がいい(道具を使うとか、遊ぶとか人間だけだと思っていましたが目から鱗でした)。
 また、クマはもともと慎重で、クマのほうでも人間を怖いと思っているので、よほどでないと襲ってくるということはないそうです。なお、クマが暴れるのも本当は人間がクマのテリトリーを荒らしていることが遠因になっている、という指摘がされています。エサのドングリがなる広葉樹を人間が切ってしまい、針葉樹だけになっている森のそばで、人の残飯などの味を一度覚えてしまうと、クマは森の暮らしに戻れなくなるそうです。

こういった環境問題や生態研究に関係する部分以外にも個人的に興味を覚えた記事がところどころにたくさん挿入されていました。主にアイヌの信仰や暮らしの技術に関する部分なのですが、例えばクマを狩猟するときや、さまざまなシーンでその場にあったお祈りの儀式の形と言葉がアイヌにはあるそうです。なぜお祈りを唱えるかというと、命をもらうことへの感謝と、狩猟の対象であるクマを敬うという気持ちの表れなのですね。自然の中で人間も共に生きているという自然と人間の関係性が窺える内容です。
 アイヌは、自然、動植物、道具など、人間生活に関係するすべての事象・ものの中に神の存在を認め、クマやフクロウを神の化身ととらえていました。アイヌの考え方ではクマを狩猟することは神様を家に招待することなのだそうです。ただし、人を殺したクマは神様として扱わず、その肉も食べないで始末します。
参考アイヌ民族博物館 アイヌ文化入門
http://www.ainu-museum.or.jp/nyumon/nyumon.html

もう1つ面白かったのは、姉崎さんが森に入るとき、冬でも薄い上着だけだという記述。アメリカのスミソニアン自然史博物館で開催されたアイヌ展“Ainu−Spirit of Northern People(アイヌ−北方民族の魂)”を特集した『芸術新潮』に、「アイヌは冬でもアットゥシ織1枚。1枚でも平気だったらしい」という話が載っていたのですが、北海道の冬でなぜ、そんなに薄着でと思っていたのです。姉崎さんは、森の中を動きまわるのと仮の狩猟小屋を作るときの簡易暖炉の作り方にコツがあるという話をしていますが、アイヌの人々は火の扱いがうまかったのかもしれないと思いました。
 小屋づくりの過程は文章だけでなく写真も掲載されていますが、写真や図などのビジュアルな説明がもう少しあってもよかったかなと思いました。

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