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関 智子さんのレビュー一覧

投稿者:関 智子

25 件中 1 件~ 15 件を表示

食と日常生活を描く佳作

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ドラマチックな「大奥」とは全く異なっているばかりでなく、人の心の機微を描いた「愛すべき娘たち」などこれまでの作品より、さらに事件の少ない日常を描いている作品。それだけに難しいところがあると思いますが、さすがに名手ですね。読ませます。
私は主人公たちと同世代のため、健康の話題が出てきた5話は頷くところ多し。
作者のよしながふみさんは主人公たちよりかなり若いのに、若い時には気づきにくい健康や日常生活の大切さをよく把握されていると思いました。
また、健康のための節制話題のすぐ後に鰯に包丁を入れてさばく場面がありますが、人間は他の生き物のいのちをいただいて、生きているのだと思う話の流れでした(だいぶ深読みかもしれないですが)。
「食べる」ことをテーマにしている作品だけに、こうしたいのちのつながりなどについても、今後日常モードの中で考察を深めていただけると嬉しいと思いました。

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天才の光と影を描いた名作を収録、バラエティーに富み、密度が濃い一冊

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

実在の人物をモデルにしたバレエ漫画「牧神の午後(モデルはニジンスキー)」、「黒鳥(同バランシンの3度めの妻・マリア・トールチーフ)」の2編、エッセイバレエ漫画2編、ローザンヌ国際バレエコンクール見学ツアーの記事(山岸凉子さんが同行、文は瀧晴巳さん)を収録。
「牧神」と「黒鳥」はモデルとなった2人の人間としての光と影の両面を掘り下げた名作。光には伴う影が克明に描かれるとともに、人種、文化、親子関係などいろいろと考えさせられる要素がエピソードとして織り込まれています。
ニジンスキーもトールチーフも繊細な人物として描かれていますが、個人的には、あの時代に牧神の午後や春の祭典を振付けたニジンスキーの大胆不敵さと恐らく持っていたであろう自負、バランシンに「偉大な女性」といわしめ、シカゴバレエ団の芸術監督となったトールチーフの強さについて、もっと描写があってもよかったかなと思います。
作者自身のバレエ発表会体験記、首藤康之さんのバレエ教室取材記であるエッセイ漫画、ローザンヌ取材記はバレエに興味がある人なら楽しめる内容です。
全体的にはバラエティーに富み、密度が濃い一冊かな。

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膨大な資料を消化。しかも人物造形が凄い

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

安野 モヨコさんというと、最近のワカモノの生態をセキララに描く、感覚派の作家だと思っていたのですが、この作品や最近モーニングで連載している「働きマン」やこの「さくらん」を読むとどうもそうではなさそうと思い始めました。
 両作品とも、1カット1カットを支える細部のリアルさは膨大な資料を駆使して使いこなしている証拠。
 また表面の華やかさだけでなく、記者の労働の過酷さ、組織力学(働きマン)、遊女に対する遊郭側の折檻(さくらん)といった裏面がしっかり描かれている点も、ただの感覚派ではないです。しかも、主人公たちの人物造形が凄い。
 ちょっと前の世代の作家だったら、遊女の「哀れさ」とか「伝法さ」とか、いわゆる社会一般に流布している花魁のイメージにもっとよりかかったと思いますが、「さくらん」の場合、性を売り物にする花魁としてしたたかさと性格の強さ、現状を認識するさめた目を持ちながらも、一方で場違いなほどのかわいげも心の傷も持っている、一筋縄ではいけない人間をリアルに描いています。
 また私はつねづね、澁澤龍彦の翻訳での江戸情緒に引きずられない江戸の性的隠語の遣い方はうまいと思いながら、女性作家にこういう言葉遣いはできないとずっと思っていたのですが、この作品はそういうところもさらっとこなせていて、そういう点でも女性作家の表現もここまできたかと思うところがありました。
 1つだけ気になったのは作品の時代設定。主人公があの吉原の伝説の花魁「玉菊」とするなら、生きていたのは江戸中期。この作品に描かれた風俗は江戸後期のものなのでそうだとすると時代考証ミスかな? でも全くのフィクションともとれるストーリーなので作品の傷ではありません。

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紙の本学生たちの道

2004/08/14 02:12

70年代の内向が始まる前の作品登場人物が大人!

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

最近水野英子さんをはじめ、これまでほとんど刊行されていなかった60年代の少女漫画が復刊しはじめ、リアルタイムでは知らない私としては新鮮な気持ちで読んでいます。
 この作品は漫画史の中で言及されることは少ないですが、今回読んで重要作品だと思いました。
 解説に、男子寄宿学校をとりあげた少女漫画初の作品であったこと、竹宮恵子さんの「風と木の詩」との雰囲気の類似が指摘されていますが、男子校に男装をして紛れ込む向学の意志に燃えた女性、身分が高い教え子の子どもを誘拐して育てる家庭教師(オルフェウスの窓外伝に全く同じ設定が・・・)といったモチーフや、ジョアンナ(庶民的な服装はロザリーそっくり)、ザザ(ジャンヌそっくり)とか池田理代子さんの「ベルサイユのばら」「オルフェウスの窓」ともおそらく強い関係があります。
 貧窮に陥った主人公に突如奨学金の道が開かれたとき、恩師がとまどう主人公を説得する言葉やその恩師もまた若い頃の試行錯誤があったのだと1ページ足らずの表現で悟らせる部分なども、作者の深い世界観があって、それが凝縮されて出ている感じでうまいのですが、こういうところは初期の萩尾望都さんにも影響しているかもしれませんね。1冊の中にさまざまな作品の源泉となる表現満載。密度が濃かったです。少女漫画もすぐれた先行作品があってこそ、黄金期の作品が生まれたということなのでしょう。
 なお、漫画史的な事情を別にしたとしても、人生観が成熟していて完成度が高いです。
 ストーリー的には主人公の父親が急死したり、同級生過失致死事件があったり、ヒロイン格のジョアンナにお金持ちの実の親がみつかったり、という荒唐無稽さはあるものの、登場人物たちは神様や他力に頼らず自分たちが成長することによって現実的に困難を克服。しかも70年代の内向・私探しが始まる前の作品(1967年発表)とあって、人生の目標を「社会や他者にどんな貢献ができるか」に置いていて、いや〜大人。今のマンガの登場人物より精神年齢は高いかもしれません。
 あとがきの中で西谷さんは近況報告を行っていて、この作品成立時の話を書いていないのですが、ぜひ他に機会にでも書いて欲しいですね。1967年当時のマーガレット(小学生対象の雑誌)にこんな作品が書かれていたことこそ、今読むと奇跡にしか思えません。

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紙の本環境と国土の価値構造

2002/06/09 20:34

熊楠の神社合祀反対を再評価した論考も

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近代化の過程で変貌した国土空間の意味について考察し、国土政策と環境政策の根底にある価値の問題について考察した本です。本のキーワードは「価値構造」。編者の桑子敏雄さんによると、社会を取り巻く環境の変動と、既存の制度の中に組み込まれた価値観の衝突の構造についての研究を指すということです。

このうち、千田智子さんの論考は博士(学術)取得論文をもとにしたもので、明治期の神社合祀が国土空間にもたらした変貌と、その変貌の中で、神社の森という自然と人間が接触する空間の廃絶を指摘、反対を唱えた南方熊楠の思想と行動をを、卓越した環境倫理思想として再評価しています。

神社合祀とは明治39年末に内務省が日露戦争の戦後経営策の一環として布告した「神社合祀令」にもとづく施策で、佐藤哲朗さんの「大火まさに起こり林野を焚く 神社合祀政策・南方二書」 
によれば、社殿が荒れ、祭神が不分明な神社を整理し、一町村一社を標準とした合併を行うという神社経営合理化策でしたが、そこにはそれまでの部落単位の共同体にかわって、明治22年の町村制に基づいた村内統合を図ろうという狙いがあったということです。

特に伊勢・熊野を控え小さな神社が多かった三重県や和歌山県では神社の数が極端に減少。不要となった神社跡地で「手付金を取りかわし、神林を伐りある」く人が現れるという状況となり、熊楠は「木の国と呼ばれし紀伊の国に樹林著しく少なくなりゆき、濫伐のあまり大水風害年々聞いて常時となすに至り、人民多くは淳樸の風を失い、少数人の懐が肥ゆるほど村落は日に凋落し行くこそ無惨なれ。」と訴えています(白井光太郎宛 明治四十五年二月九日の書簡)。

中央集権や短期的貨幣的利益の追求という近代の政治的・経済的価値観が、歴史性をもった宗教的価値観や、環境的な価値を収奪していくという構造がそこにはあるのですが、価値が空間自体を変容させていったこの問題をテーマに選んだのは、空間と時間という具体的な場の中での価値観を研究している桑子研究室関係者ならでは。目の付け所がよいと思います。

東京工業大学大学院社会理工学研究科の桑子敏雄研究室ホームページ
http://www.valdes.titech.ac.jp/~kuwako/welcome.html

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「歴史は人類がつくる」に異議申し立て

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

自由な雰囲気の中で、環境変動が歴史に及ぼした影響事例について、文明の発生前後から、現代まで概観する、というような内容です。ただし、概観といっても、情報量はかなり多く、読みごたえがあります。

 石さん、安田さん、湯浅さんの共通認識は、下記のようなものと思います。
==========================================
 これまでの歴史学では「歴史は人類がつくるもの」であって、特に戦後の日本の歴史・地理研究では「環境が歴史を決定することはありえない」という考え方が支配的なまま、ずっときてしまった(特に大塚史学とマルクス主義史観の浸透により、との安田発言あり)。

 ところが、欧米では「環境史」というジャンルの研究の蓄積が少なくとも20年ほどあり、環境が歴史・文明に与える影響についての研究が市民権を得ている。ヨーロッパでは地理と歴史を統一的にとらえる伝統があり、もともとのマルクスの発想の中にも地理的な視点があったはずである。

 環境が歴史を決定することがあり、また、人間の活動が環境を変えることもあるという事実を認識し、これまでの歴史学を総括する必要があるのではないか。

 環境の視点から歴史を考えるべきである。
==========================================
 そして、環境と結びついた歴史とは…という事例が文明の誕生から、ほぼ時系列で展開しています。また、環境は衣食住、ライフスタイルのありかたと直接に結びつき、間接的に思想形成とも結びつくという説明になって、釈迦・キリストの出現の背景にまで話は及びます。

 ただし、後半、肉食文明=家畜の文明=奴隷を必要とする文明として、西洋文明を総括してしまった部分は、肉食しない東洋(環境調和派) 対 肉食する西洋(環境克服派)という図式的なまとめ、に近くなってしまい、そんなに単純ではないのではという感想を抱きました(途中、湯浅さんの「アジアの思想は自然にやさしいと僕は思っていません。中国などは自然を徹底的に破壊している」という発言もありますが)。

 とはいえ、なにしろ、膨大な論点が3人の発言の中にあるので、読みごたえ十分。考えさせられることしきり。今後の環境研究においても、内容を検証し掘り起こさなければならないテーマがかなり埋まっていると思いました。

 なお、この本を作ったのは本の中の紹介によれば藤原清貴さんという編集者とのこと。1度だけお目にかかったことがありますが、たしか以前、『徹底討論地球環境 : 環境ジャーナリストの「現場」から/ 石弘之, 岡島成行, 原剛著』という本を作った方で、そういえば3人の鼎談という形式といい、話題が深く掘り下げてあることといい、本書は『徹底討論地球環境』と似たつくりです。ただし、藤原さんは歴史書が得意とうかがったことがあるので、前書よりもっと力が入っている気もします。この本の編集者として藤原さんは、うってつけだったのではないでしょうか。

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紙の本花音 3

2003/05/19 20:42

さいとうちほ作品の中では一番好き

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この作品の縦糸は3つあり、1つは主人公である天才バイオリニスト花音のバイオリニストとしての成長、父親探し、恋愛のゆくえです。
 特に父親探しについては、その過程で父親候補のガードをしていたマフィアに拉致されてしまったり、水野英子先生の「ブロードウェイの星」と通じる超古典的な少女漫画の要素もありながら、3巻の展開はそれを突き抜け、少女漫画の歴史の中になかった新たな領域を切り開く結果になっています。
 実は誰が父親であるか、私は1巻の「1度聴いたら忘れない」という花音のせりふで予想がついてしまった(少しネタバレ)のですが、こういう結末にするとは思っていませんでした。
 一方、作品のスケールが大きく、キャラクターがとてもよく描けているといった点と並び、恋愛はさいとう作品の重要な要素で魅力ではありますが、「花冠のマドンナ」「ワルツは白いドレスで」のように、あらゆる価値観に恋愛が優先する恋愛至上主義のところ、展開や結末が主人公の恋愛成就をすべて肯定していてものすごく甘い点、が欠点ともいえました。
 特に「花冠のマドンナ」では女性教皇という立場に対する主人公の禁欲性や責任感があまりに希薄な部分(教皇という立場を恋人の政治的立場を好転させることに利用させることしか考えていないとか、教皇という立場のままベッドインしてしまうとか)や、にもかかわらず、政治的な達成も失敗したまま主人公の行方が曖昧に終わってしまう部分は大いに不満です。
しかしこの「花音」は違いました。
 これ以上のものはないという甘美な恋愛関係を描いてしまいながら、その恋愛をあえて放棄し、別に進むべき到達点(幸福)があることを示しています。
「結ばれないのも人生」というのも今回の境地がきちんと追求できれば、今後のさいとうちほ作品にも深みが期待できるのではないかと思いました。

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紙の本環境学の技法

2002/06/02 19:49

社会学の立場から環境学研究の意味・技法を整理

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

この本は主に「社会学の立場から、環境学の定義、目的、モデル化、データの評価、フィールド研究などに切り込んだもの」だそうです。全体の構成は「問題を設定する」、「状況を解釈し、一般化する」、「データを集め、判断する」という3部構成になっており、この流れの中で社会学の立場から環境を研究する場合に、とりうる研究の手法を整理しています。

研究手法の整理を行った本として、同じ東京大学出版会の本で以前『知の技法』という本が大ヒットしましたが、タイトルからいっても、この本はその環境学版という意図があると思います。

なお第1章 石弘之さんによる「環境学は何を目指すか」では、流動的な状況を示す「環境」という言葉のあいまいさを認識した上で、「環境とは何か」「環境学が対象にする環境とは」についての定義を試みています。

このうち、環境学が対象とする環境の範囲については「自然に関わる状況」と「社会文化に関わる状況」と規定。一般にこれらの状況が人為的要因により、一定条件以上の悪質な方向への変化をきたした場合に、環境問題として認識されると整理しています。なお、環境の変化を「環境問題」にする条件としては(1)状況悪化・汚染のスピード、(2)状況悪化・汚染の規模、(3)変化にさらされた人々の価値観、(4)環境情報の伝達状況の4つがあげられています。

また「環境」という概念を「自然」「公害」「エコロジー」「グリーン」など、同義語的に使用されることがある関連用語も含め、そのなりたちから整理しています。

環境ということばのなりたち、起源については、私も短い文章にしたことがあり、その際にいろいろな方から教育学や哲学の論文の中で取り上げられている例を教えていただいたのですが、同じテーマであっても対象となる学問ジャンルが違う論文だと、結構まちまちだたりしました。今回の本の説明は、その中でももっとも詳細に調べたものだと思います。「環境」ということばを見ることがない日はないくらいですが、こういう基礎的なことをきちんとやった取り組みは意外となかったので、貴重です。

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自然の中を散策するような趣向の本

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

93年まで刊行されていた自然科学系雑誌「アニマ」での連載コラムをもとにした本です。
 12か月の時の流れに沿って、自然の中を散策するような趣向の本で、アウトドアに出かける際のお供にもおすすめです。

 モノクロですが適宜イラストも入っており、5月ならアオバズク(木菟)、タケノコ(筍)、トノサマガエルとダルマガエル(殿様蛙と達磨蛙)、ムカデ(百足)、カッコウ(郭公)、カツオ(鰹)、五月晴れ、フジ(藤)、ムツゴロウ、ノウサギ(野兎)、オトシブミ、カワセミ(翡翠)、5月の風、アヤメ(菖蒲)、スズメバチ(雀蜂)、ヤマメ(山女)、サンショウクイ、八十八夜がテーマになっています。

 自然をテーマにした歳時記的な本としては、ネイチャープロ編集の写真がきれいな「空の名前」シリーズがロングセラーになっていますが、「ネイチャーカレンダー」のほうはより時間軸に沿った構成で、説明+エピソードを加えた内容になっているので、自然理解+文章などを書くときの種本としてよりストレートに使えそうです。また、そういったことを意図してだと思いますが、漢字表記が併記してあるのはありがたい配慮です。

 「空の名前」シリーズもそうなのですが、日本人は手紙の時候のあいさつ、俳句の季語など自然現象と言葉が密接に結びついた文化を持っているので、教養書的でありながらも実用的でもあり、自然科学分野のエッセイのようでありながら文学的でもあるという面白い性格の本に仕上がっています。

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読者ともに成長した作品の軌跡

14人中、14人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

『エロイカより愛をこめて』は連載開始当初からリアルタイムで読んでいましたが、 ロックミュージシャンをモデルにした伯爵やジェームズ君のキャラクターなどは当時の少女漫画ファンにわかってもらえばいいや、というスタンスではじまった作品だと思います。
私たちの世代では「この作品のせいで大学の第二外国語にドイツ語を選択する女子学生が増えた」といわれたように(実際に当時ドイツ語教育雑誌にそのような記事がのった記憶があります)そのねらいは成功。
しかしそれから、連載継続二十余年。この作品の影響はそんなものにとどまりませんでした。
この本を読むと、現在は世代、性別を超えこの作品の読者が多数いることのほか、ドイツ本国にまでファンを獲得しているとことがわかります。作品を描き続けるというな積み重ねの中で、作品自身が国境や漫画というジャンルも超えた高いクオリティを獲得してしまったのです。
連載開始当初からの読者としては深い感慨を覚えるとともに、作者と作品を応援したいと思います。
なお、内容はライターがまとめた解釈本ではなく、青池さん自身がこつこつとマガジンハウスの広報誌に連載していたものなので、
『エロイカより愛をこめて』の中身同様とても濃い。この値段でお宝映像や情報満載。お買い得だと思います。
個人的に特に面白かったのは、クリスマス島での研究調査隊との交流の経緯や青池さんが自分の生い立ちを振り返った「青池保子のつくりかた」。デビューに水野英子さんが口添えしていたこと、売れない時代のつらい思い出などの漫画史的に興味深い情報や、新潟出身のご両親ゆずりのねばり強さ−−など作品だけではわからなかった青池さんのパーソナリティの魅力も感じることができます。
なお、この本には『エロイカより愛をこめて』の熱心な読者だった私の友人も登場しています。彼女は アマゾンの畑で採れるメルセデス・ベンツという環境問題・国際協力についての本を書き、ファンであった青池さんに「少佐が好きなベンツではこういうことをしている」と本を贈ったのですが、青池さんがその内容に目をとめ、『Z・最終話』に反映させたというエピソードが掲載されていました。
本には書かれていませんが、彼女が大学で国際関係論を専攻したのは、当時青池さんの影響もあってのこと。現在環境問題そのものを生涯のテーマとし、さまざまな調査活動を実施している彼女は、最初のきっかけをふだん意識することはないそうですが、この彼女のように作品の成長とともに、この作品をきっかけにして成長した読者も多いと思います。
幅広い問題を視野に入れた青池保子という作家だから可能になったことかもしれませんが、成長した読者がさらに作品の成長に寄与する−−という読者と作品の幸せな好循環のケースを見ることができました。

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「フラワー・オブ・ライフ」の意味とあっと驚く挑発

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 お話は生活のまわりの小ネタながら、最初ににやっと笑い、何度も聞きたくなるくせになる味わい。
 お話の中にはいちおう、白血病を克服した経験がある春太郎くんや、性格のよい三国くん、無駄にハンサムな真性おたく間島くんなどの一応の主人公たちがいますが、脇を固めるクラスの一人一人がいい味出してます。
 なおピラミッドをはじめ、世界の多くの文化でみられる、いくつもの円がつらなった幾何学パターンを、「フラワー・オブ・ライフ」とよびますが、もしこの図形からタイトルがとられているとすると、よしながさんがこの作品で書きたかったのは、クラスメンバーそれぞれがそれぞれの人生の主人公であり、同時にクラスという社会の中でそれぞれの役割を果たしている存在であるということ、人の人格や人生観、いきがいなども人と人のかかわりの中で形成されていくものであること、人間の関係性そのものなのかもしれません。
 3巻になってそれがはっきりしてきたように思います。
 よしながさんの作品には人の心の痛みや、社会問題に対する視野を備えた深い面や、常識を転倒するような挑発が隠されているので、馬鹿話を展開しているようでいながら、なかなか目が離せない作品です。
 常識を転倒するような挑発という意味では最後で、あっと驚く展開が用意されています。

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原発に関する問題把握も深い

7人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

原発事故をゴルゴの射撃の腕ですんでのところで食い止めるという話なのですが、原発に関するアプローチが秀逸。
原子力を持ち上げず、かといって浅薄な批判論にも流れず、中立的に考えさせる視点は見事で、さらに読者である私たち自身が原子力でつくられたエネルギーの消費者であるということを最後に問いかけています。
ふつうの作品だったら、ゴルゴの狙撃成功でそれなりに劇的に盛り上がったところで終わってしまうところ、わざわざ原発リスクの説明とこの問いかけを入れたのは、背景を徹底的に調べるゴルゴならではの問題把握の深さの表れ。
しかもチェルノブイリ事故の前に発表した話だそうです。
今の目で見ると原子力のリスク論の中に放射性廃棄物管理の問題が
入っていないことが物足りなくはあるのですが、1980年代前半で、これだけ大人の見方をしていた作品があるとは驚きです。

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深い味わいをたたえた名作

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

樹村みのりさんの作品を最初に読んだのは、小学校時代。りぼん誌上だったと思う。
生活の中で漠然と感じていた心の澱のようなものを、等身大の子供の視点のまま明晰に形にした作品は、子供であった私自身にとって虚を突かれた感じで深く心に残った。
高校生ぐらいになって、意識して樹村さんの作品を読むようになると、樹村さんがプロデビューした中学生時代(!)からその作風が一貫し、完成度が高かったことを知り、更に驚いた。

約20年ぶりの新刊であるこの本の作品も、(自然の成り行きで視点が年相応のものになっているものの)、人生の基本的なことへの洞察力を失わず、深い味わいを湛えたものになっている。

「見送りの後」での母親の描写や捉え方、「柿の木のある風景」の二軒の家と家族の時系列に沿った丁寧な描写は見事。名作です。
最後のページまで読んだ時、ふいに涙が出ました。

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進行中の中国政府の政策を検証・評価

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

聞き慣れない「生態移民」ということばは遊牧生活をしている人びとを移住・定住させるという中国政府の政策です。
この本は、内モンゴルで過放牧によるとされる沙漠化が問題になる
中、中国政府が対策として打ち出した、この「生態移民」政策の効果を検証しています。
編者は、国立民族学博物館教授の小長谷有紀氏と内モンゴル出身で現在日本学術振興会の外国人特別研究員として日本で研究しているシンジルト氏、総合地球環境学研究所教授の中尾正義先生で執筆者としてはこれ以外に11名の研究社が参加しています。
現地調査したデータをもとに
・沙漠化は・大躍進時代の森林伐採、地球全体の気候変動、黒河流域(上流)の農業開発なども要因となっている可能性があるが、その検証が十分でないまま、少数民族の「生態移民」が突出する形で進行している
つまり、沙漠化の責任を少数民族にしわ寄せする形で行っている
・移住先の地下水消費が増えるなど、移住先での環境が悪化している可能性があるが、その評価はされていない
・貧困対策としての評価に対象者の精神的充足感が評価されていない
といった問題点が指摘されています。
政策が現に進行中である中で、国際共同研究として行われた現地調査データは貴重。

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紙の本アジアにおける循環資源貿易

2005/07/24 15:02

現場を踏んでいる編者のタイムリーな政策提言

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

アジアで急増する再生資源・中古品貿易の実態や、各国規制、問題
点を現地調査を踏まえ、レポートするとともに、アジア地域での
循環型社会構築への政策提言を行っています。
今年の4月に東京で 3Rイニシアティブ閣僚会合が開催されましたが、製品の生産拠点のかなりの部分をアジアに移している日本にとって、ブラウン管など使用ずみ製品リサイクルが国内では十分に出来ない事態も発生してきています。
そのため、日本政府はバーゼル条約の改正も視野に入れ、アジア全体での資源循環を可能にする体制づくりを考えているところでこの本のテーマはとてもタイムリーです。
政策提言としては
規制面で
・再生資源・有害廃棄物・中古品の区別明確化
・規制当局間の情報交換
・再生資源の国際移動に関する追跡可能性確保
・罰則強化
・有害廃棄物越境移動手続きの制度化、簡素化
・中古品の越境移動についてのコンセンサスづくり
リサイクル産業育成面で
・公害規制強化と公害対策技術情報の普及
・小規模リサイクルが盛んなコミュニティへの環境教育
・金融面の支援
・インフォーマルなリサイクル産業への流通規制
・再生資源への輸入関税と適正なリサイクル業者への補助金
(関税と補助金の組み合わせ)
・天然資源との競合を避ける政策
・拡大生産者責任の適用
などが提言されています。
編者の小島さんは統計データや政策をまとめるだけではなく、アジア各国の資源リサイクルの現場も数多く見てきている人で、提言内容にも説得力があります。
(表紙写真や中に掲載されているリサイクル現場の写真も編者自身のもの)

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