由良 博英さんのレビュー一覧
投稿者:由良 博英
紙の本ブタのふところ
2006/10/03 22:08
ゆっくりとページをめくるべし。
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「ブッタとシッタカブッタ」シリーズ姉妹編第2作。ひとの持つ様々な煩悩をシッタカブッタが鋭く突く漫画集。前作同様、ブタをキャラクタにした絵がかわいらしい。4コマ漫画だが、スラスラと読むなかれ。ひとつひとつの漫画に深い真理が託されている。じっくりとその言わんとするところを反芻し考えながら、ゆっくりとページをめくるべし。心のつかえが癒えていくはず。枕元にお守りのように置いて、私はときおり読み返している。
紙の本俺、不良品。
2006/09/23 23:34
読む者をして反省を促されることが多い。
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いまや「Vシネマの帝王」と呼ばれる哀川翔さんが、生まれてから役者となるまでの波乱万丈の人生を綴ったもの。話は幼い日の父親の事故死から始まるが、語り口に陰惨さがない。故郷の鹿児島から単身東京に脱出、雑誌のライター業を経て、一世風靡セピアとしてデビュー。その解散後、役者となり、そして結婚。どんなときにも筋をまっすぐ通す哀川さんの生き方は、読む者をして反省を促されることが多い。爽快な余韻の残る自叙伝だ。
2005/01/01 21:15
その意味する所がよく分かる【明解】な辞書の傑作。
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赤瀬川原平さんに「新解さん」と名付けられた、個性的な辞書の第6版。前版までの一言多い主観的なユニークな語釈が、一部の批判を受けたためか若干抑えられた傾向も感じられるが、新たに「運用」欄を設け「表層的な意味の背後に潜む含意」(序より)を探るなど、パワーアップもしている。「いちいち説明されなくても、その意味する所がよく分かる」【明解】(語釈より)な、しかし、かなり細かく説明し尽くした感のある名辞書だ。
紙の本幕末政治家
2004/01/16 19:18
その業績をつぶさに取り上げ、冷静に論評している。
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近代日本のジャーナリストの先駆け、福地桜痴(1841−1906)が、闊達な名文で幕末の政治家を語ったもの。刊行は明治33年、日露戦争の4年前。人物を丸ごと単順な善悪に裁断せず、その業績をつぶさに取り上げ、冷静に論評している。維新の記憶のまだ生々しい時代にあっての、この精緻な記述には驚かされた。今日の知識人の書いたもののほうが、むしろ予断に満ちたものが多い。旧幕閣の要人から福地の聞いた直話も、価値の高いもの。
紙の本シンプルに使うパソコン術 傑作フリーソフトでつくる快適環境
2007/09/29 22:16
シンプルに軽快に作動するパソコン環境を構築する。
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朝日新聞の土曜版に連載の「ソフ得!」に大幅に加筆し、新書化したもの。ヴァージョンアップを重ねるほどに、余分な機能が増え起動が重くなるWindowsの初期設定を変え、便利なフリーソフトを用いることで、シンプルに軽快に作動するパソコン環境を構築することを提唱している。また、文書については汎用性の高いテキストファイルによることを推奨している点、私も同感だ。紹介されているフリーソフトの作者には改めて感謝したい。
紙の本不肖・宮嶋金正日を狙え!
2006/04/20 15:30
軽妙な文体のなかに、痛烈な宮嶋節が健在である。
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2001年夏、金正日のロシア訪問を、時に危うくスナイパーの標的ともなりながら、不肖カメラマン・宮嶋茂樹さんが追う。ゴロツキSPを従え、勝手気ままに旅程を変える北の将軍様に、ロシアの警備陣も混乱。ビルの上階から著者の撮った偉大なる将軍様の写真には、何と恐るべし、彼の「地上の楽園」の国家最高機密が捉えられていた。軽妙な文体のなかに、痛烈な宮嶋節が健在である。
紙の本新明解国語辞典 第6版
2005/01/01 21:13
その意味する所がよく分かる【明解】な辞書の傑作。
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赤瀬川原平さんに「新解さん」と名付けられた、個性的な辞書の第6版。前版までの一言多い主観的なユニークな語釈が、一部の批判を受けたためか若干抑えられた傾向も感じられるが、新たに「運用」欄を設け「表層的な意味の背後に潜む含意」(序より)を探るなど、パワーアップもしている。「いちいち説明されなくても、その意味する所がよく分かる」【明解】(語釈より)な、しかし、かなり細かく説明し尽くした感のある名辞書だ。
2004/07/30 22:09
今日、範とすべき課題を提起する好著でもある。
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岩倉使節団を扱った一般書の数は、少ない。著者の指摘するように、岩倉や大久保など維新史では不人気な人物が中心であったことも一因であろう。廃藩置県という大事の直後、欧米に遅れじと世界一周に発ったこの使節団の実見が、その後の日本に与えた影響は、しかし絶大なものであった。その勤勉ぶりへの諸外国からの賛辞、留守を守った西郷や江藤らとの確執の章もすこぶるおもしろい。今日、範とすべき課題を提起する好著でもある。
紙の本生きかた下手 自伝小説集
2004/05/21 05:07
「一期は夢よ、ただ狂え!」
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相場で失敗、教員から転じSM作家として名を馳せ、豪邸に住むも、またも借家住まいに…数奇な人生をいまも愉しむ団鬼六さんの自伝小説集。「世間的にも安泰であるという理論は自分を欺く事が出来るが、面白くないという感覚は自分を欺き得ない」と語る団さんの見解を頽廃的、刹那的な「生きかた下手」と私は思わない。「一期は夢よ、ただ狂え!」をモチーフに綴られる痛快な一冊。しかし、実のところ狂っているのは誰なのだろう。
紙の本岸信介証言録
2003/06/04 04:08
いまの時代にこそ見直されるべき、岸信介の功績。
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1980〜82年に、編者・原彬久氏のインタビューを受け、岸信介の口述した記録。戦後の、特に日米安保改定にかかる内容は、貴重な第一級史料だ。編者の周到な質問への岸氏の回答には、韜晦さ迂遠さが全くない。徹底した政治的信条を実現していく過程の証言は闊達かつ明晰、どこまでもプラグマティックだ。社会・共産主義活動家によって、かつては右翼の謀略的な政治家の像を刷り込まれた岸氏。その功績を、いまこそ見直す時代であろう。
紙の本日本国憲法とは何か
2003/05/08 19:52
不誠実な国家の様態を示す日本国憲法を問う。
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憲法、即ち「コンスティテューション」の概念には二重性がある。その国の政治の拠って来たる伝統や文化を記した法、また近代的意味において、個々人の権利を保障するために国家と交わす、ロック流の「社会契約」としての法。前者から乖離し歴史の断絶の上に立つ後者の憲法は、美辞に満ちていても正統性の希薄さから機能しない。解釈改憲を重ね、対外的に不誠実な国家の様態を示す日本国憲法を、諸外国のそれと対比させながら問う。
紙の本クラシックBOOK この一冊で読んで聴いて10倍楽しめる! 「世界の名曲&作曲家」の知識が深まる最強版!
2007/10/07 13:50
決して初心者のみを対象に限る本ではない。
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古今のクラシックの作曲家40人を取り上げ、その人物像をエピソードを交えながら軽妙な親しみやすい文章で紹介している。また、代表的な曲を4曲ずつ掲げている。私も相当なクラシック党であることを自認する者だが、知らなかった裏話が満載で大いに楽しめた。「おもしろ雑学集」の章もためになる。これは決して初心者のみを対象に限る本ではない。「『世界の名曲&作曲家』の知識が深まる最強版!」の副題どおりの充実した一冊だ。
2007/10/03 22:06
応援したい。
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私は野球には興味が薄いのだが、書店でこの本を立ち読みして、惹かれるものがあったので買った。「とにかく感謝することと驕らないこと、そして自信を持つこと、この三位一体だ。」本書はそのテーマに貫かれた桑田投手の自叙伝である。1994年のシーズンの話題が中心になっており、各場面で著者の謙虚な心情の窺い知れるところが興味深い。現在、米メジャーのパイレーツを退団になった著者だが、復帰を望んでいる様子。応援したい。
紙の本白洲次郎占領を背負った男
2006/08/19 22:39
GHQと丁々発止と渡り合う姿の頼もしさよ。
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白洲次郎については、エッセイストの正子の夫、戦後の日本を吉田茂の懐刀となり支えていったひと……という漠然としたイメージしか私は持たなかった。今回、この著を読んで「こんなカッコいい日本人が占領下にいたのか」と改めて驚かされた。裕福な家庭に生まれ育ち、英国の大学に学んだことが、次郎にノブレス・オブリッジの精神を具えさせたのであろう。GHQと新憲法制定を巡り卑屈にならず丁々発止と渡り合う姿の頼もしさよ。
2005/04/02 03:49
語源を辿りながら、古人の智恵を我々の生活に生かす「教養」を説く。
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例えば、「沐猴にして冠す」、「久闊を叙す」等、この本のなかにある語の意味を知ったからといって、日常に用いる機会はほとんどあるまい。下手に使えば、却って鼻につく。しかし、著者の谷沢さんの狙いは「物知り」辞典として、これを読者に知らしめることにあるのではない。深長な示唆を含む語源を辿りながら、古人の智恵を我々の生活に生かす「教養」を説くところにある。辛口の谷沢節の冴える「人間通」の名コラムだとも思う。