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螺旋さんのレビュー一覧

投稿者:螺旋

6 件中 1 件~ 6 件を表示

紙の本

紙の本輝く日の宮

2003/07/26 01:18

精緻な意匠が施された工芸品のような

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古文も漢文も苦手だったから古典なんて手に余る。かと言って何も知らないというのはみっともないと裡なる民族意識が恥ずかしがる。古典方面の教養を深めたいという欲求はあっても、敷居の高さを乗り越えるほどの動機も学力もない。こういう人間を優しく導いて世界を広げてくれた「あさきゆめみし」や「日出処の天子」には、だから感謝している。最近では「陰陽師」シリーズもある。こうした作品に親しむだけで民族主義者としての自意識も満たされる程度の自分である。
 
 ところで「源氏物語」はやんごとなき人物の派手な女性遍歴の話だから、今の社会通念からは、倫理的にも道徳的にも奨励されるようなものでは無い。いたいけな少年少女達の為にはいっそ発禁にするのが相応しいようなもんだろう。「源氏物語」を知らなくても決して恥じるようなことはないし、それどころか、「源氏物語」が好きなどというのは、顔を赤らめながらカミングアウトする類のこと?という立場も考えられる。

 そんなわけで、「輝く日の宮」の評判には興味を覚えたものの、自分のような頭の及ぶところではなかろうと躊躇していた。がしかし、今回勧めてくれる同僚に従って読んでみた。すると、どうしてどうして、自分程度の知識教養でも充分楽しめるよう入念に配慮された極上のエンターテインメントではないか。

 定説重視権威絶対のアカデミズムが忌み嫌う大胆な仮説。気鋭の学者が清新な発想で打ち出すみ「奥の細道」や「源氏物語」の成立を巡るスリリングな考察。「源氏」から失われたとされる一巻「輝く日の宮」という謎の魅力。こうした学問的な素材の面白さを、夢見がちな少女が豊かに成長していく過程とともに語る作者の筆捌きが素晴らしい。
 
 軽快であり品格もある文章で綴られた物語は、精緻な意匠が施され蒔絵の象眼細工の工芸品のようだが、これみよがしでもなく肩ひじ張ったところもない。ただただ自然であり、淡々としていながら艶めいている。第一章の短編から、過去と現在がイマジネーション豊かに交差する見事な最終章に到るまで、間然とするところない面白さ。何気ない佇まいにの中に滲むユーモアが粋を極めている。

 螺旋式2

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紙の本

紙の本おかしな男渥美清

2000/10/24 22:09

おかしな男渥美清

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 強烈な自我と上昇志向を持った渥美清というコメディアンが、やがて「寅さん」というあたり役を得て、国民的アイドルに変貌していく様子が、それをリアルタイムで見てきた筆者の、極めて私的な交友の記録を基に綴られる。

 同様の視点と手法によるものとしては『天才伝説横山やすし』に次ぐ作品だが、作者の批評性が対象とうまくかみ合わず、その分、辛くも重くもなった『天才伝説横山やすし』に較べ、『おかしな男渥美清』は批評性と対象との相性や、バランスがはるかによく、スケールの大きい、より面白い作品に仕上がっている。

 田所康男から寅さんへと至る道のりの背景には、戦後から東京オリンピックをへて平成不況へと、日本の風景が劇的に変貌を始めてから現在迄の、掛け値ねなしの現代史そのものがあり、同時に、この間の変化は、この作者が尤もこだわりをもって描き続けてきたテ−マでもあって、筆の運びもツボの押さえも申し分無い。

 当初、困ったやくざ者として登場した寅だが、シリーズが続くにつれ、人々に愛される好人物の寅さんへと変化した。寅さんの27年間は、実質的に効率優先、開発優先の列島改造に日本国中が邁進した時間でもあり、言うなれば寅さんのような存在がますます生きにくい世の中へと日本は作り替えられていった。一方で寅がもたらす「癒し」を求め続けた。
 シリ−ズ全48作!。言ってみれば、これは一人のやくざ者に慰めを求め続けた無邪気な日本人が、当のやくざ物から与えられた癒しの総量に他ならない。渥美と山田監督は寅の持つ癒しの能力を27年もの間に渡って増幅し続けたのだとも言える。しかし、寅さんに殉じたと言っても過言でない俳優の生き方から窺える価値観と、彼を愛した世間の価値観との何と隔たってもいたことだろう。

 時に、作者が前面に出過ぎるきらいがあるが、この本の面白さが、渥美清の道程と、優れた喜劇論で注目を集めた気鋭の評論家中原弓彦が、作家小林信彦へと歩み続けた道のりとが、見事にシンクロしていることから生じているのを見れば納得できる。当然、濃厚に私小説的、というより見事に私小説だが、小林信彦の私小説作品群からは頭一つ抜き出た面白さがあり、代表作の一つに数えられるべき作品となっている。

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紙の本

紙の本ボーン・コレクター

2000/10/24 20:43

ボーン・コレクター

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 コンビとひとくちにいってもその組み合わせたるや、老若男女動物ロボットを含め多岐にわたる。ホ−ムズ・ワトソンからR2D3・C3POと魅力的なコンビは、沢山生まれてきた。「コンビ」にはそれ自体にドラマを生み出し加速させる大きな力がある。

 中でも、テクニック依存のベテランとパワーが取り柄の新人が、摩擦を繰り返し関係をヒートアップさせながら目的に向けて補完し合うという、新・旧対立のコンビネーションは、ハリウッドも好んで採用する基本的なパターンの一つだ。
 そんなコンビ物の黄金律に「ハンディキャップ」という概念を取り込んで、「ボーン・コレクター」が現代性も豊かに展開するのは、力感と躍動感と人間味あふれた破格のサスペンス。

 ベテランは泣く子も黙る科学捜査のスペシャリストにして権威だが重度の四肢麻痺を得て引退した元刑事リンカン・ライム。対するルーキーは警邏巡査アメリア・サックス、若く美しい女性である。この、相反する二人を、犯行現場を自己表現のステ−ジとするシリアルキラ−と「ハンディキャップ」とが繋ぎ止める。
 
 およそ「ハンディキャップ」には二つの側面がある。一つは「自己実現」の妨げとなるもので、これは個のレベルで克服されるものであり、一つは「社会参加」の妨げとなるもので、これは社会が解決するべき問題としてある。例えば、車イスの操作に習熟するのは個人の課題だが、車イスで生活する時に、不利益や制約を得ることのないような社会環境を整えることは社会の責任としてある。というような。
 
 リンカン・ライムは重度の障害者だが、身体能力の不足は最新鋭の福祉機器と優れた介護者により考えうる最高のレベルで解決され、市警から捜査を請われる程の能力で社会参加の機会にも不足しないが、生存への動機づけの低下という問題を抱えている。
 アメリア・サックスは志を持って警官になったが、意に反して世界が思うように開けていかない。トップモデルにも遜色ない容姿を持っているが、その容姿と若い女性であることこそ、警察組織という男社会では「ハンディキャップ」にしかならないことを苦い経験とともに自覚させられてきた。
 
 心理的な「ハンディキャップ」を売り物にするボイルドの月並みが、この二人の前でどれくらい格好つけていられるか甚だ疑問だ。それ程にこの作者の認識は明るく前向きに感じられる。「ハンディキャップとはいったい何をさしていうのか」という問い掛けにも似た、ひねりの効いた設定を受けて、コンビの関係にはそこはかとない緊張感と妙味が生まれている。だが、それはこの本の面白さを構成する、あくまで要素に過ぎない。
 
 リンカンの洞察とアメリアの行動力が摩天楼の闇を徘徊する骨収集家の狂気を暴き、追い立てる。このスピ−ディ−な展開で読ませるパワフルな物語は、優れた小説の常として、面白くて、ためになり、ジンとして、元気がでて心ときめく作品として完成しており、その品格と多面的な面白さ故に、今後も末長く版を重ねることだろう。

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紙の本

紙の本コフィン・ダンサー

2000/10/22 22:16

まことにハイ・テンション、ハイ・サプライズ、ハイ・パワ−な魅力が尽きない

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 狙った標的は必ず仕留めるという「コフィン・ダンサ−」。「死神」のような殺し屋に取り憑かれた3人の検察側証人。正体不明の殺し屋が仕掛けてくる破天荒な奇襲、陥穽の波状攻撃にさらされ、彼らは果たして無事大陪審の法廷に立つことができるのか。仇敵コフィン・ダンサ−を迎え撃つ車イスの超人リンカン・ライムの超絶頭脳が活性化し、赤毛が燃え立つアメリアの怒りが爆発する。

 ライムとのコミュニケ−ション成立の手段として「証拠」を利用し、自分の存在を主張するしかなかった『ボ−ン・コレクタ−』の抱え込んだ病理、そのキャラクタ−的特質が、微細な証拠物件の全てに意味を与えたのは理解できる。しかも、その証拠に込められた意味を完ぺきに読み切ってしまうリンカン・ライムの凄さにはリアリティも豊かだった。超人的な洞察による白熱の攻防は快感を極め、飛びっきりの面白さに全身を浸して、至福の時間を過ごしたのも確かだ。しかし、謎の全てが鮮やかに解き明かされる、その整合の見事さには、かえって「出来過ぎ」の不自然さがつきまとってしまったのも確かだった。

 「リンカン・ライム」シリ−ズ第二作『コフィン・ダンサ−』には、前作のシリアルキラ−ように甘えた犯行動機はない。パ−フェクトな殺し屋としての職業的信念に情緒や感情の介在する予知がない分、戦いはよりハ−ドに、よりドライなものにならざるを得ない。ダンサ−のアタックにライムのカウンタ−アタック。惜しみなく繰り出されるイベントの数々。更に、死の誘惑を克服したリンカン同様、自分の弱さや他からの圧力を跳ね返していく精神の強さを持った登場人物達の、心理的屈折も程がいい。陰影に富んだ魅力的なキャラを造形しながら、文学方向に色目を使わぬ節度が物語の統一感を高めている。最新の鑑識法や独創的な犯行手口のレクチャ−で楽しませながら、目まぐるし攻守が入れ変わるスリリングな展開で読者の鼻面を思いっきり引きずり回して飽きさせない。一介の民間人に、あそこまで捜査の指揮がとれるかと言う疑問さえ、リンカン・ライムというキャラ造形の魅力に押さえ込まれてしまう。「コフィン・ダンサ−」のタナトスに対抗する「アメリア・サックス」のエロス。その狭間で、両者をこそ切実に必要とする「リンカン・ライム」という構図も素敵で、まことにハイ・テンション、ハイ・サプライズ、ハイ・パワ−な魅力が尽きない。

 高純度な面白さを徹底追及するディーヴァーには全く頭が下がる。過去の「面白さ」を更新し、常に自己最高、最長不倒を目指すかのような高品位作品を連発してくる知力、体力が圧倒的だし、此処まで通俗に徹しながらこれ程品格を湛えたいるのも素晴らしい。なにはともあれ『コフィン・ダンサ−』は、大型エンタ−テイナ−、ジェフリー・ディーヴァーが放った特大ホ−ムランであり、目の覚めるような放物線を描いて翔ぶボ−ルの、ひたすらを軌跡を追いかけるだけで、そりゃもう存分に楽しめるのだ。

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紙の本

紙の本悪魔の涙

2000/10/22 23:12

とにもかくにも、エンタテインメント力が漲った、カタルシス度抜群の嬉しい娯楽大作なのだ

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 『ボ−ン・コレクタ−』で人気爆発のディーヴァーの新作は500ページの文庫本。
 大晦日のワシントンDC、あっという間にショッキングな事件が起きる。精妙にプログラミングされた殺人兵器が放たれての大量虐殺。えっ!何それ。漫然と読んでたので急な展開が良く理解できない。前に戻って確かめる。うん間違いない。思わず気をとり直して読みつげば、更に唖然とするような展開を見せる。厄介なことに標的も不明なら制御は不可能という殺戮マシンが街に放たれ、対抗するのは「文書鑑定人」なのだという。ヲイヲイ、こんなにしちまって、これから先一体どうすんだよ、と途方に暮れる面白さのど真ん中へと一挙に放り込まれた。ここまで僅か2章の50ページ。50ページでこんなに掴まれたことは近来にない。
 
 主人公のパーカー・キンケイドは文書鑑定人という珍しい職業。ささいな物証を手がかりに、その背景に広がる犯人の心理を鮮やかに絵解きし、それが犯人との心理戦となってサスペンスが盛り上がるところ、要所に配された魅力的なアクションシーンが炸裂して物語に速度とうねりが加わると、もーいけません。意表をつくシチュエーションと細部まで入念に創り込まれたプロットで語り尽くすディーヴァーの何という巧妙さ、かゆいところに手が届くサービス精神。そのかかれ心地の良さに次々とページを繰らされてゴールまで一気、一気。キャラクターにもプロットにも、至る所にディーヴァー印のパターンが強く刻印され、気になるところが無いといったら嘘になるが、長所とも短所とも分かちがたいけれん味こそがディーヴァーの持ち味ってこともある。「情報」もたっぷり。アクションも派手。証拠の分析と洞察を専らとするリンカン・ライムと同様の「ホームズ型」探偵としては本格派も納得のなぞ解きもあり、キャラも前向きで読後感も爽やか。とにもかくにも、エンタテインメント力が漲った、カタルシス度抜群の嬉しい娯楽大作なのだ。

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紙の本

紙の本始祖鳥記

2000/10/24 21:46

始祖鳥記

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 行いの全ては、止むに止まれぬ思いの末に、己が己の為にすること。ならば善行もなければ悪行もない。事の善し悪しは利害がからむ他人が決めること、とは昔も今も変わらぬ浮世のならい。
 
 「お前のためを思えばこそ」と、親が子に尤もらしく因果をふくめても、「それはあんた自身が安心したいからでしょ」と、子は親の身勝手を手もなく見抜く。
 「子のため」「親のため」「世のため」「人のため」「お国のため」はたまた「組織防衛のため」と、大儀も名分もひと様々だが、立派な名分であるほどに、それを言っちゃーお仕舞いよ、言わないうちが花なのよとは、これも人の世の常。始祖鳥記の登場人物たちがいくら立派な行いをしようと、決して口にしないのが「人のため」というこの一言。

 豊かな生を全うするには、豊かな心持ちで生きるがいい。人に先んずる事も、人より利する事も、他と比して己の貧富を確認することも真の豊かさへと通じるものでないことなど重々承知はしていても、市井の凡人はただ仰ぎ見るばかりで、たどり着くさえ難しいその境地。
 
 だが、難しくはあっても決して不可能ではないその場所に、己を見いだし、力まず、奢らず、飾らぬ自然な佇まいのうちに、かつてこの日の本を、誇り高く颯爽と駆け抜けた人達がいたことを、「嵐を越えずに咲いた花などない」その花の軌跡が、人の心に刻み込んだ陰影の深さ、滴り落ちた色彩の鮮やかさとを描いて、この『始祖鳥記』は間然とするところがない。

 飢饉と悪政に疲弊した時代とそこに生きた人々が、抑制された筆致で端正に造形される。無常観は諦観や諦念と馴染みやすいが、この作者の無常観にはそれらを拒否し、より能動的な力となって主人公の行動を支えるという新鮮さがある。
 
 年代記の体裁をとりながら、それぞれのエピソ−ドを象徴するような名場面をイマジネ−ション豊かに用意し、重い素材もグラフィティ−感覚で軽やかに演出するセンスの良さと確かな力量。例えば、暮れなずむ空のはるか高みに、金色に輝く凧が一つというビジュアルの見事さ。塩、船、凧などの素材の意外性、考証の明確さや、描写の新鮮さから、書かれたことの背景に沈み込んだ書かれなかった言葉の膨大さが伺える。
 
 自分の仕事に誇りを持ち、志と共に生きることによって生まれる尊厳が、やがて周囲に少なからぬ影響を与え、人を動かす見えない力になるのだとしたら、「空飛ぶ表具師」備前屋幸吉の翼同様、飯嶋和一の誠実な仕事振りにも、その確かな力が満ちているようだ。

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