よしあきさんのレビュー一覧
投稿者:よしあき
紙の本真夏の死 自選短編集 改版
2002/06/08 16:19
真夏の死
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ギリシャ悲劇であれば、劇の最後に悲劇をおくが、三島は真夏の死において悲劇を一番最初に配置している。これは得意な構造であるが、三島はこれを承知で真夏の死という小傑作を完成させた。
悲劇にふさわしくなく、作品はぼんやりと終わりを迎える。
2002/05/07 13:57
ヒュウガ・ウイルス
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5分後の世界の続編。現在より5分だけずれた世界が存在するという設定のもと、日本が本土決戦を行ない、残った兵士たちにより結成されたUGによる活動を描ききっている。たんに、戦争というモチーフが描かれているいるだけではなく、今回は前作ではなかったウイルスという要素が加わっている。人物描写が充分になされていないという批評はあとがきにもあったとおりだが、それが独特のハードボイルドにも似た、文章の無機質さというものを感じた。
紙の本90分でわかるフーコー
2002/04/27 19:09
90分でわかるフ−コー
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哲学というととかく難解な印象をお持ちの方が多いと思う。だが、この本は簡単にフーコーの生涯を説明している。簡単にというと十分な説明がなされていないのではないかと思われる方もいるかもしれないが、たまには楽しみながら哲学に親しむということのいいのではないだろうか。
さて、フーコーの哲学はとにかく反抗的である、反逆的とさえいってもいいかもしれない。彼は緻密な考察を通して哲学の欺瞞を暴き立ててきた。その異様な風貌は殊に目立った。そんな難解なフーコーを生涯から始まり、作品や言葉を簡潔に纏めている。
これでたった90分である。なんとも便利な本ができたものだ。これもある種のエピステーメの産物なのだろうか。
2002/05/07 16:21
貧困の克服
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いろいろ考えさせられた一冊だった。たんに経済のシステムにたいする考えを述べているのではなく、その先にある、システムの影響を必ず受ける人間についても触れているセンさんの考えには、多くの経済学者の金銭そのものについての考えだけに比べると非常にヒューマニスティックなものを感じ、また、経済学そのものの本来の姿を見たような気がした。たしかに経済を優先するのもいいが、やはり人間を軽視してはいけないのだ。
紙の本新世紀へようこそ
2002/06/20 19:41
新世紀へようこそ
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池沢夏樹さんが発行しているメールマガジンをまとめたもの。たしかに、書かれた時間が短いせいか簡略なものが多いような気がしたが、現代という刻々と変化する時代において、すべてをカヴァーすることなど不可能なのかもしれない。いや、これは現代の必然的な趨勢なのかもしれない。
そのような時代にあってメールというツールを使い、自分の言葉を発信し続ける池沢さんを僕は支持したい。マスメディアのように絶対的な影響を行使できるわけではないが、池沢さんのような自分の言葉を持った人が増えればこれからの世界や社会には希望があると思うのだ。
いずれにせよ、僕たちは新世紀へと足を踏み入れたのだ。
紙の本回転木馬のデッド・ヒート
2002/06/12 15:55
回転木馬のデッドヒート
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回転木馬のデッドヒート。この題名を見たときその理由を思い浮かべることは出来なかったが、読後初めてその意味がわかった。そして、さすが村上春樹さんらしいと思った。
我々は我々自身をはめこむことのできる我々の人生という運行システムを所有しているが、そのシステムは同時にまた我々自身をも規定している。それはメリーゴーランドによく似ている。それは定まった場所に定まった速度で巡回しているだけのことなのだ。どこにも行かないし、降りることも乗りかえることもできない。誰をも抜かないし、誰にも抜かれない。しかしそれでも我々はそんな回転木馬の上で仮想の敵に向けて熾烈なデッドヒートをくりひろげているように見える。
こんな文章で現代の社会を的確に捉えることができる村上春樹さんはさすがだと思ってしまう。事実、そのとおりなのだ。
社会の枠にはめられることに違和感を抱きながら、どうしようもなく生きてゆく群像を鮮やかに描ききっている短編集。
紙の本思い通りの家を造る
2002/06/06 12:58
思い通りの家を造る
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イギリスに留学したこともある著者が思い通りの家を造ろうとした経験を生かし本書を記している。日本の本来の建築様式や生活スタイルを各国の文化と比較していきながら、なおかつ、自分自身の意見を述べる林望さんのイマジネーションゆたかな思考には日本的な謙虚さと欧米的な自己主張を感じるが、それはいやらしいものではなく、そこに林望さんの人間性や家にたいする思いやりを感じられる。これから自分の家を建てたいと思っている人におすすめの本。
紙の本日本人は思想したか
2002/06/05 08:34
日本人は思想したか
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日本を代表する思想家である三人の思想家。吉本隆明氏と梅沢猛氏と中沢新一氏による鼎談。五つの鼎談からなっている。日本という、世界からみれば極東の国で行われてきた思想を総点検するという意味で、彼らはそれぞれの思想的スタンスを保ちながら日本人というものを探り出そうとする。
近代の超克から現代の超克をめぐっての議論がもっとも知的にスリリングだったような気がした。
紙の本夜明け前のセレスティーノ
2002/06/01 21:47
夜明け前のセレスティーノ
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ラテンアメリカ出身のレイナルドアレナスの自信の幼児期を主題にした小説。
ラテンアメリカ独特というのだろうか、文章というものがそうとう日本とは違うと感じた。とくにアチャス、アチャス、アチャスと繰り返す表現や、「アチャスは斧という意味で暗喩的に権力をあらわしている」途中に色々な人の言葉が挿入されているのには驚いた。言葉が踊っているという感じがした。
紙の本言い難き嘆きもて
2002/05/31 21:28
言い難き嘆きもて
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2、3ページの文章が集められた本。これまで大江さんが書き綴ってきたものを集めたという感じがした。内容はどれも違うが、読んでいてどこかで大江さんの思いが繋がっているという感じがした。大江さんの思想そのものの厚みを感じた。
紙の本緑の資本論
2002/05/08 09:14
緑の資本論
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緑の資本論。商品を主体にした資本論を一神教的に読み解いてゆこうというこころみ。宗教との関わりの中で近代社会を読み解いてゆく。
西洋の祝祭が繁栄を祝う、クリスマスなのにたいして、イスラムの祝祭は禁欲的なラマダンであるという対比は両者の思想の違いをわかりやすく理解することが出来た。
近代社会の必然的趨勢として、ラカンにいわせるのなら、象徴界と想像界の曖昧さにより、社会がヴァーチャル化するという意見にも素直に賛同できた。
紙の本ある男の聖書
2002/05/07 16:12
ある男の聖書
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自らの生い立ちを著者はそれが彼自身の聖書と呼ぶに相応しいものであるよう、丁寧に綴ってゆく。これは回顧ではないのだ。
彼は、おまえで、おまえは、彼だ。二人の同一人物がある距離をとりながら自らの歩んできた人生を生生しく描いてゆく。そして、そのようにして自らの人生を小説にした、著者はどのような思いでこの作品を書いたのだろうか? 読後、そう感じずにはいられなかった。
著者はまだ、生きているのだ。
紙の本鎖国してはならない
2002/05/07 16:05
鎖国してはならない
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大江健三郎氏の講演集。長年をかけて日本に近代から今日に至るまでを視野にいれて思想してきた大江健三郎氏だからこそいえる鎖国してはならないという言葉には重みを感じた。渡辺一夫、丸山真男という二人の思想家の足跡を追うようにして思想を重ねてきた大江健三郎氏の思想はこれからの世界を考えてゆくうえでも非常な示唆に富んだものであったと感じた。
紙の本「語りえぬもの」からの問いかけ 東大駒場〈哲学・宗教・芸術〉連続講義
2002/05/07 14:03
「語りえぬもの」からの問いかけ
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東大駒場で行なわれた連続講義を纏めたもの。
表題の「語りえぬもの」とは言わずと知れた、ウィトゲンシュタインの論理哲学論考の最後の文章の
「語りえぬものについては、沈黙しなくてはならない。」
から来ている。その「語りえぬもの」をコンセプトにして、東大の教授陣がそれぞれの講義を簡単にしている。内容はそれといって難しくない。「語りえぬもの」について語るという試みはさすが東大といったところか。