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Skywriterさんのレビュー一覧

投稿者:Skywriter

149 件中 91 件~ 105 件を表示

紙の本陸軍良識派の研究 見落とされた昭和人物伝

2005/11/07 00:22

「反戦平和」ではなくとも、あの時代に独自の世界観を持って行動した軍人達をピックアップ

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

太平洋戦争のイメージではどうしても陸軍=悪の巣窟、海軍=陸軍よりマシとなってしまうのは否めない。大局的な見通しもなく無駄に中国戦線を広げて消耗戦を繰り広げながらもソ連を仮想敵国に軍備を拡張し、やがて無謀な太平洋戦争へ突入する。駐独武官(後に大使)が三国軍事同盟に邁進したことこそ最終的に日本を戦争においやった。政府の統制が全く利かない、そんな組織であったのは間違いない。
しかし、だからと言って陸軍という組織に属した者の全てが大局に立った見地を持たなかった訳でもないし、目先の戦果に釣られて無謀な戦争へ突き進んだ訳でもない。それぞれの立場にありながら、長期的な展望を見据えた行動を取ろうとした軍人も確かにいたのだ。
決して「反戦平和」を唱えたからと言って良識と判断するのではなく、きちんと自分なりの世界観を持ってあの時代を生きた陸軍軍人を取り上げ、彼らがどのような行動をとったのかをおおざっぱに纏めている。彼らの全員が戦争に反対だったということもないし、拡大する戦線を縮小しようと動いたわけでもない。そこには時代の限界もある。だが、だからと言って陸軍という集団を悪の巣窟と乱暴に纏めてしまっただけでは何故無謀な戦争が引き起こされたのかということも分からない。むしろ、良識派の動きが何故政策として結実させられなかったのかという流れを知ることこそ、過去にしっかり見据えていることになるだろう。
悪の陸軍というイメージから脱け出し、戦前・戦中の実像に近づくための入門書としてはとても良いと思う。

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紙の本新・トンデモ超常現象60の真相

2007/03/18 22:38

不思議や謎を愛する人こそ楽しめる本

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 世の中には不思議が溢れている。そこを通った船や飛行機が謎の消失を遂げるバミューダ海域の謎や、乗組員が忽然と姿を消してしまったメアリー・セレスト号事件などは多くの人々の興味をひいてきた。私も世界の謎といった類の本を読んでは世界の不思議に思いを馳せてきたものだ。

 ところが、実はこれらは不思議でもなんでもなかった。バミューダ海域の謎とされているものは謎でもなんでもなく、何百キロも離れた所で起こった遭難事件までもバミューダで起こったとされているようなでっちあげに過ぎず、メアリー・セレスト号事件では室内にまだ冷めていないコーヒーがあったなどとしてあるのは全てウソで、その謎を解くのに最も重要と思われる鍵である救命ボートがなくなっていたことは意図的に触れられていないことが明らかになっている。

 不思議とされていたものの謎が解かれてしまっては面白くない、というのも人情かもしれない。しかし、そんな事件を通して見えてくる真相の方が、面白いのもまた事実であったりする。事実を捻じ曲げ、不思議を捏造する人々の多さは驚くほどである。

 本書が取り上げているのは、そんな話題の数々。

 オーパーツとされる水晶のドクロ、2000年前のバクダッドで電池が使われていたか、ノアの箱舟はトルコに埋まっているのかといった古代史関係の話題を読めば、珍奇なものよりも実際の歴史の方が面白いと思わせてくれる。

 アメリカでは超能力者が警察の捜査に協力しているとか、日本でもたまにテレビでやっている超能力者の捜査はどれほど真相を当てているのか(皮肉なことに彼らの的中率は一般の大学生よりも低かった)、超能力は実証されているのか、宜保愛子はロンドン塔の悲劇を霊視で再現したのか、果ては聖書には予言が書かれているかといった超能力や霊の話はどれも実証されていないことが明らかにされる。超能力者による捜査は小説としては面白いかもしれないが、実用性はゼロで科学捜査をはじめとする地道な捜査活動がいかに優れているかを思い知らせてくれる。

 その他、宇宙人やイエティなどの謎の生物など、超マイナーな話題からメジャーな話題まで斬って斬って斬りまくっている。マイナーなものの中には、その超常現象が地域の文化に根ざしているものなどがあり、余程超常現象に興味がある人にしか知られていないだろうし、それを解き明かす過程も退屈なものがあるのも事実だ。

 しかし、本書が伝えようとしているのは、メジャーな話題の真相というわけではないと思う。むしろ、不思議とされる話に安易に飛びつくのではなく、懐疑的に、冷静に見つめ、その上で楽しむ姿勢が大切だとしたいのではなかろうか。

 恐らく、このような本は超常現象に対する愛情抜きには書けない。愛情がなければ膨大な文献を丁寧に調べ、事実に当たり、当事者の話を聞くことなどできないだろう。不思議を愛するからこそ、でっちあげられた不思議を排斥したいのではないか。

 世の中に不思議は沢山ある。だから、もう解決済みの話にいつまでもとらわれないで、次なる不思議を探そうではないか。きっとその方が楽しいと思う。不思議や謎を愛する人こそ楽しんで読めるのではないか。

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紙の本放射線利用の基礎知識 半導体、強化タイヤから品種改良、食品照射まで

2007/01/22 22:48

放射線の利用に無意味に怯える前に読んでみよう

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 放射線利用には大きな課題がある。それは人々が抱く負のイメージ。平和利用においてもチェルノブイリやスリーマイル島、そして東海村の事故があり、軍事利用では数十万の被害者を出した原爆の使用と相互確証破壊(MAD)という略称に相応しい狂った理論が大手を振ってまかり通っていた。

 しかし、だから放射線は危険だから使用するべきではない、というのは合理的な立場とは言えないだろう。

 本書は寺田寅彦の名言「ものを怖がらな過ぎたり、怖がり過ぎたりするのはやさしいが、正当に怖がることはなかなかむつかしい」を引き、正当に怖がるための知識を深めようと呼びかける。孫子曰く、彼を知り己を知れば百戦して危うからず、というやつだろうか。

 読者の多くは、放射線が実に多様で生活に密着した使われ方をしている事実に驚かされるのではないか。

 たとえば夏に欠かせない野菜、ゴーヤを食べることができるのは放射線を利用して害虫の根絶に成功したから(この話に興味がある方には『害虫殲滅工場』をお勧めしたい)。

 病院にいけば診断にMRIやレントゲンを使うし、旅行先ではラドン温泉で体の芯から温まり、ゴミ焼却炉ではダイオキシン除去に一役買い、歴史学では年代測定の強い味方となる。そのほかにもタイヤや半導体の製造には欠かせない技術として確立され、食品に照射することでO-157などの有害細菌を殺菌しジャガイモの発芽を抑えることにも使われる。

 多くの例を取り上げることで放射線を無意味に恐れる必要はないのだと納得させてくれる。利用方法が正しければ我々の生活を豊かにしてくれるすばらしい技術になりうる、ということだ。

 利点もあれば欠点もある。チェルノブイリでも東海村でも残念なことに死者が出てしまった。その危険性については正しく認識する必要がある。そして危険性についてもきちんと評価をしているのが心強い。利点を認識しつつ、どのように安全を確保するかを考えるのが重要だろう。

 もう一つ。それでも放射線とかなんとかというのは難しそうだと思う方もいるかもしれない。しかし、本書は実に平易に書かれている上、キュリー夫人などによる発見の歴史をかいつまんで解説しながら放射線の性質や原理を丁寧に教えてくれている。中学生でも十分に理解できるほどのレベルではなかろうか。ちょっとでも興味を感じたら、タイトルだけで敬遠せず、どんな使われ方をしているのかを覗いてみるつもりで手にとって見てることをお勧めしたい。

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紙の本狂気の偽装 精神科医の臨床報告

2006/05/30 23:19

精神疾患の正しい姿を冷静に知るのに絶好の書

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 ふと気が付けば、多くの人が精神病の専門用語を知っている。しかも、自分ももしかしたら特定の病を患っているかもしれないと思う人も沢山いる。およそ、他の分野では考えにくいことだ。

 そのうちの一部の方は実際に精神疾患を患っているかもしれない。しかし、実はそのほとんどはマスコミが事件が起こるたびに面白おかしく精神医学の用語を濫用し、世間に広めてしまっていることに原因がある、と本書は指摘する。

 たとえば、PTSD。この病気は、戦場や災害、事故現場などで悲惨な光景を目の当たりにすることで継続的な精神症状を訴えることだ。ところが、いまやほんの些細な家庭の問題ですらPTSDという言葉で語られてしまったりする。それも、症状が全く異なるような場合にまで応用される。

 似たようなことに、アダルト・チルドレンが挙げられる。これも本来はアルコール依存の親の元で育った子供についてのことだったのに、正しい理解のないまま不必要に範囲が広められ、病本来の姿がゆがめられてしまっている。

 このような現状に対し、臨床医としての立場から冷静に精神疾患がどのようなものなのかということを明らかにしているのが本書である。その過程の中で、世間に誤った形で広められてしまっている上記の説や、誤解されがちな統合失調症、自閉症などの原因について丁寧に追いかけている。

 また、現在進行形で騒がれているゲーム脳についても取り上げられている。

 しかし、マスコミが飛びついていてさも正しいように報道されているとしても誤っていることは多々ある。精神疾患を面白おかしく取り上げ、いいかげんで誤った情報が蔓延する中で、このように冷静な本が出版されたことはとても望ましいことだと思う。センセーショナルな言葉や概念に飛びつく前に、このような本を読んでおくと過ちから逃れやすくなるのではなかろうか。

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紙の本子供たちは森に消えた

2010/04/13 23:51

少なくとも52人を殺した稀有な殺人鬼は、なぜこれほどまでに犯行を重ねられたのか。また、犯人の素顔はどのようなものだったのか。世界を震撼させた事件を追いながら人の心と歴史の闇に光を当てている。

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 ソ連崩壊前夜の1980年代。まだ情報公開<グラスノスチ>が行われる前、即ち、政府による情報統制がまだ社会を覆っていた時代。

 ソ連の至る所に存在する、制度上は誰のものでもない森や林で、惨殺死体が次々と発見された。死体にはいずれもナイフによる執拗な刺し傷があり、幾つかの現場からは犯人のものと見られる精液が検出された。特徴的だったのは、眼窩に刻まれた多数の傷である。犯人は何らかの理由により、犠牲者の目を刳り貫こうとしていたようだった。

 犠牲になっていたのは、成人女性と、年端も行かない少年少女たち。性器が傷つけられ、抉り取られていることが多いのも犯行の特徴であり、証拠からは犯人あるいは犯人たちが連続殺人に及んでいることが明らかだった。

 これが西洋社会の事件であれば、実際に連続殺人として捜査が行われたことだろう。また、情報が公開され、多くの親が子供を守ったことだろう。

 しかし、事件が起こっていたのは1980年代のソ連だった。快楽殺人は資本主義という歪んだ社会に特有の問題とされ、連続殺人であることを認めない風潮すらあった。加えて、無謬性を要求される巨大な官僚組織は、幾つかの事件で単独犯と見做した容疑者を拷問の末に自白に追い込み、自白に基づいて処刑する事例まであった。

 殺人犯は勿論やっかいだが、捜査に当たる民警も民衆に信用されているとは言いがたい存在だったのである。情報を公開しないままの捜査で、民警が民衆の協力を得られなかったのも無理はない。

 本書の前半から中盤は、これらの困難を掻い潜って遂に犯人を逮捕するまでの民警の活動を追っている。不十分な科学捜査、遅々として進まない捜査の間にも次々と起こる殺人事件の数々には、本当に胸が悪くなる思いがした。特に犠牲者はまだ幼い少年少女たちであったことが一層後味を悪いものにさせる。

 終盤に至り、いよいよ読者は犯人の実像に迫っていくことになる。悲惨な家庭、独ソ戦による PTSD、そして数百万の農民が餓死させられた、スターリンが現出させたウクライナ飢饉。そこには現代史の闇が立ち塞がっているのを見て、やはり愕然とさせられる。ソ連の崩壊と歩調を合わせるかのように進展した事件が、ソ連勃興期の闇に少なからぬ影響を与えられた犯人に引き起こされていたというのは、歴史の皮肉なのだろうか。

 ただ、本書では犯人の残忍で冷酷な性格が、暗い時代や閉鎖的な社会によって形作られたようにしているところについては、それは違うと思わされた。快楽殺人ならば宮崎勤事件や、アメリカの多くの事件(ジェフリー・ダーマーやエド・ゲインなど)を挙げられる。その他の事件についても枚挙に暇が無い程だ。

 それに、ウクライナで地獄を見た人々、愛情の無い家庭で育った人々、閉鎖的で抑圧的な社会での生活を余儀なくされてきた人々の、その殆ど全員はこのような犯罪を犯さない善良な人々だった。一方で、健康で幸福な生活を送ってきた者でも異常な殺人を引き起こす。犯罪は社会的なものである面があるのは事実だが、社会に責任を押し付けすぎても行けないと思う。

 なお、ベストセラーになった『チャイルド44』は、この事件に題材を取っている。多くの犠牲者、殺人儀式といった犯人側の行動に加え、犯人以外の容疑者を死刑にして事件を解決したと思っていた警察組織、ウクライナ飢饉という暗黒時代など、往時のソ連社会を描き出すのに成功していると思う。本書に興味を持たれた方には『チャイルド44』もお勧めしたい。


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紙の本インカに眠る氷の少女

2010/04/08 00:18

遥かな高地に眠る少年少女たちの発見物語

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 スペイン人の征服者(コンキスタドール)によって滅ぼされた、インカ帝国。この高地に栄えた帝国は黄金文明に加え、人身御供という血生臭い儀式でも知られている。生贄に供されたのは、15歳以下の少年少女だった。子供たちは、標高6000メートルを越える高地で、生きたまま神に捧げられたのである。

 本書は、これらの少年少女たちの凍結ミイラ発見の物語である。

 そもそも、凍結ミイラの発見自体が容易なことではない。標高6000メートルを越えるということは、高山病や雪・風といった低温という、発掘困難な環境を意味する。加えて、発掘するための道具を引っ張り上げ、発掘品を持ち帰らなければならない。高地考古学は、歴史学の中でも最も過酷な学問分野である、と言っても過言は無いだろう。

 著者は1980年以降、20 年以上もアンデスで研究を続けてきた人物。たまたま趣味で山登りをしていたときに、少女の凍結ミイラを発見する。火山の噴火により地表に現れたらしい。放置するわけには行かない。太陽熱で痛んでしまう可能性も有るし、盗掘者に見つかれば何処かへと姿を消し、二度と研究対象となることは無いであろう。

 そこから奮闘が始まる。まずは、凍れる少女を山から下ろすこと。その研究を進めるのと平行して、その他にも凍結ミイラが無いか探すこと。

 研究の模様が学問と冒険の融合にあるようで、読者としては楽しく読めるが、苦労が偲ばれてならない。次々と発見される貴重な遺物、凍結ミイラ。加えて、学者間の軋轢や主導権争いなどの問題も絡んでくる。それにより、人間ドラマにもなっているのが興味深い。

 一方で、研究によって明らかにされた成果は余り記されていない。まだまだ研究が進んでいない状況で書かれているためであるが、そこが少し残念であった。オーストリアとイタリアの国境付近で発見された男性の凍結ミイラについては、『5000年前の男―解明された凍結ミイラの謎』でその成果が詳しく記されていたので、落差が大きいように思われた。

 研究が進み、インカに光が当てられる日が来るのが楽しみになった。


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紙の本秘密結社を追え! 封印された、闇の組織の真実

2009/02/05 22:47

陰謀論に流れるのではなく、冷静に秘密結社の歴史を追いかけている貴重な本

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 絶対ゲテモノだと思って読み始めたのだが、良い意味で予想外れ。冷静に秘密結社の歴史を追いかけていたのに驚いた。

 話はローマの初期キリスト教に始まる。キリスト教が秘密結社で陰謀を企んでいた、というような話ではない。キリスト教が弾圧を受ける中で信仰を守るために秘密結社的な組織へ変貌したことを説明している。この説明は秘密結社がなぜ生まれるのか、という問いへの答えとなっているのである。

 次に取り上げられるのは暗殺教団。アサシンの語源にもなったこの教団は、今に至るまで秘密結社が持つ組織体系を作り上げたといって過言は無い。最高権力者以外、どこが権力の中枢なのかを誰も知ることができない不思議な組織である。暗殺教団の組織のあり方は、アルカイダまで連綿と受け継がれていることが示唆されているのは大変に興味深い。

 テンプル騎士団、イルミナティ、フリーメーソン、薔薇十字団等の歴史を彩った秘密結社の真偽が要領よく纏められている。加えて、秘密結社ではないにしても同じような展開を遂げているロズウェル事件のようなものまで取り上げているのに脱線した感じを受けないのが凄い。

 怪しげな秘密結社本が氾濫する中で、このように冷静な立場から秘密結社の成り立ちやそれぞれの性格を明らかにしている本書は極めて価値が高いと思う。秘密結社に興味がある方は是非どうぞ。

 ちなみに、私の個人的なツボは、薔薇十字団の創始者であるクリスチャン・ローゼンクロイツが架空の人物だった可能性の示唆である。『化学の結婚』、いつか読んでみようかなあと思っていたのに・・・・・・(笑)


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紙の本変な学術研究 1 光るウサギ、火星人のおなら、叫ぶ冷凍庫

2008/04/16 23:27

科学の世界の見方を変えればたちまち面白い話題があふれ出すのだ

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 科学にはどこか難しいと言うイメージがあるためか、あまり好まれないようだ。そりゃあ、聞いたことも無いたんぱく質が興味も無い現象をコントロールしていることが分かったとか言われても困る、というのが人情だろう。

 しかし、真面目に行われている学術研究の中にも視点を変えてみれば面白くなるネタが混ざっているものである。例えば、ペンギンは空を見上げて転ぶのか。トーストがテーブルから絨毯に落ちるときにはなぜ必ずバターを塗った面が下を向くのか。当人達は真面目に研究している分、面白さが増してくる。

 そう、本書のサブタイトル「光るウサギ、火星人のおなら、叫ぶ冷蔵庫」のような、一風変わった研究が実際に行われているのだ。

 研究者達の名誉のために言っておけば、これらの研究にもしっかりとした根拠があり、いずれも科学の発展に役立つものである。サブタイトルの中で最も意外な、火星人のおならの研究とはどのようなものか。それは、火星に生物がいるのならば、代謝をしているはずなので代謝の副産物があるはずだ、との考えに基づいている。

 例えていうのであれば、地球の大気は自然状態と比べて酸素の量が異常に多い。酸素は極めて反応しやすいため、たちまち他のものと結びついてしまうため、空気中にはほとんど存在しないはずなのだ。ではなぜ地球には酸素が大量に在るのかというと、植物が代謝の副産物として放出しているために他ならない。無機的な条件から外れた大気組成を持つ星には生物がいる証拠だ。

 真面目に解説したらどれだけの人の関心を引けるだろうか。ほとんどいないだろう。ところが、それを代謝の代表として「おならの研究」としてしまえば科学に興味を持たない人も読んでみようかとなるのではないか。

 本書は、科学の成果や意味などをバッサリと切り落とし、研究内容の面白さにのみ目を向けている。科学は面白いからこれだけの科学者がいるわけだから、このような取り上げ方は有益だと思う。特に専門を決める前の学生諸君にはお勧めしたい。

 そして、できればこの研究の裏にどんな意味が隠されているのかを考えてみて欲しい。きっと更に魅力的な世界が広がっているはずだ。

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紙の本生き物たちの情報戦略 生存をかけた静かなる戦い

2008/01/09 23:12

生物は環世界をどう認識し、いかに適応しているかを魅力的な事例から解き明かす

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 あらゆる生物が自由に生きるには地球は狭すぎる。だから食べられるものと食べるものが居る。しかし、苦も無く食料が手に入るわけではない。なぜなら、食料とされる側も生きるためには捕食者から逃げ回らなければならないからだ。

 食物連鎖が、現在の生物の多様性をもたらす原動力となった。食料を得ることが容易な生物はそうではない生物よりも、逃げるのが上手い生物は下手な生物より子孫を残したのだから当然だ。

 そのため、生物は様々な手段で外界を認識しながら世界に適応している。著者は生物を取り巻く世界を環世界と定義し、なぜ環世界を見詰める必要があるのかを生物の歴史から辿っている。

 初っ端に著者が訪ねるのは南極。このペンギン以外の生物とは無縁そうな地においても、息づいているものたちがいる。スプリングテールこそ、その求める生物だ。日本ではトビムシとして知られる、たかだか1,2mm程度の虫。そんな詰まらぬもの、と多くの人は思うだろう。しかし、ここにも生物の魅力が隠れている。

 そもそも、どうしてスプリングテールは凍らないのだろうか。ペンギンは恒温動物で内部から熱を出すのに加え、防寒着たる羽毛で覆うことで凍らないようにしている。ところがスプリングテールは裸に近い格好で、おまけに変温動物なのだ。従ってスプリングテールの体温は南極の温度と等しい、マイナス数十度にまで下がるはず。

 知ってのとおり、水は凍りになるときに体積が膨張する。もしスプリングテールの体内で氷の結晶が出来てしまえば、そのちっぽけな体は容易に破壊されてしまうはずなのだ。ではどうして彼らは生きていけるのか。

 答えは本書に譲る。しかし、生物世界を覗き見ると、このような奇跡とも言えそうな適応を果たした種が多いことに感嘆する。生物たちの神秘の世界に、環世界との関わりという切り口で迫っている本書は、生物の多様性を知るのに格好の書と思う。

 また、原始的な生物がエディアカラ生物群のような軟体動物を経て、カンブリア爆発へ辿り着いた流れについて、著者なりの見解を提示してくれているのも魅力だ。仮説に過ぎずとも、生物進化が猛烈に進む情景を描けるようにしてくれている功績は大きい。

 更に、著者が生物を求めて彷徨うのは先述した南極からアフリカ、高山と実に広い上に通常の人なら行かないようなところが多い。それらの地での体験を面白おかしく書いているので、旅行記としての部分も楽しむことが出来た。

 ただし、入門書というには言葉の説明がやや足りないこと、図版が少なく説明文から状況を理解するのに時間がかかる点が難点と言えば難点である。

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紙の本漢文の素養 誰が日本文化をつくったのか?

2007/11/21 22:32

漢字が日本を変えた? 日本において漢字が辿った意外な文化史

6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 漢文はかつて東アジアのエスペラントだった。著者はそう喝破する。

 日本も政治的に中国の支配を受けたことは無くとも、文化的には明らかに色濃い影響を受けている。文化の受容を可能にしたのが、漢文の素養だったのは間違いがない。

 大変に意外なことに、漢文による利はそれだけではない。遥か後世において、西洋文化を受容する際にも漢文の素養が役立ったとなると、俄然興味が沸いてくる。

 今の我々も、ひらがなを飛ばして漢字だけ拾い読みしても文章の大意は読み取ることが出来る。同じ流れで、学生時代に漢文も読めたという記憶を持つ方も多いのではないか。私自身、教科書に載っていた韓非子や荘子から持ってきた文章を眺めては楽しんだものである(残念なことに授業そのものは楽しめなかったが)。

 それと同じことが、かつては東アジア文化圏全体で行われていた。言葉は地域によって違えども、漢文を筆談に用いることで意思疎通が可能だったのだ。それも、つい100年ほど前まで。

 明治の軍人、乃木希典は二百三高地を占領したときに漢詩を読みそれを北方軍閥を率いた張学良が好んだ、あるいは孫文が日本へ亡命中に漢文で筆談をしていた、という例を本書で挙げている。

 また、中国や朝鮮で書かれた史料が、日本にだけ残っているものも多いというのは面白い。日本において、昔から識字率が高かったこと、漢文の素養が出世に必須だったことから多くの文献が出回ったことが原因だろう。それが喪われてしまったのは残念に思えてしまう。

 本書の魅力は、これら漢文がもたらした多くの影響を、歴史上の人物と重ねて書くことで関心を持ちやすくさせていることにある。例えば、第一章のタイトルは「卑弥呼は漢字が書けたのか」。いきなりドキっとさせられる。考えたこともない話題を冒頭に持ってくることで一気に話題に引き込ませ、以後も読者の興味をそらさないよう次々と興味深い歴史上の逸話を織り交ぜているので楽しみながら一気に読める良書である。

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紙の本チャター 全世界盗聴網が監視するテロと日常

2007/10/26 23:28

貪欲に情報を集める、史上最大の情報機関の現状と限界

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 ジョージ・オーウェルの『1984年』を読んだときには戦慄したものだ。ビッグブラザーによって何もかもが盗聴された世界。そこでは政府はその情報を使って徹底的に人々を管理しているのである。

 オーウェルが描いたディストピア社会をもたらす盗聴社会は、まず彼の想定通り共産主義国において猛威を振るった。しかし、最も完璧に近い形で盗聴社会をもたらしたのは皮肉なことに民主主義国家においてだった。

 アメリカにおける国家安全保障局(NSA)を中核とするエシュロン・システムはそれこそ世界中の情報を盗聴していると思って間違いはない。ジェイムズ・バムフォードの『すべては傍受されている―米国国家安全保障局の正体』にはあらゆる情報へ貪欲に触手を伸ばすNSAについて詳述されていた。

 本書は、諜報機関としてのNSAとエシュロン・システムに対し、人々のプライバシーは保たれているのかを縦軸に、期待されている役割を果たしているのかを横軸に、現代の諜報組織の姿をあぶりだしている。

 プライバシーについては各自で考える必要があることだろう。本書では、プライバシー擁護派の意見を述べることでとても参考になると思う。

 しかし、ここでは著者が指摘するとおり、あなたや私の電話やメールの内容が全てエシュロンで盗聴されているからといっても、実のところ誰もそんなものに興味を示したりはしないという事実を述べておくに留める。

 諜報機関が役割を果たせているどうかはそれでは済まない問題だ。なぜなら、我々の税金が適正に使われているのかという問題が一点。そしてもう一点は、我々の安全や平和が保てるのか、という問題だ。

 なんといっても、我々はつい最近、NSAをはじめとする諜報機関の大失敗を二つ、目の当たりにしてきた。それは911の同時多発テロを防げなかったことであり、イラクに大量破壊兵器が存在する確かな証拠があるとしてアメリカがイラク戦に踏み切ったことである。

 911では、後知恵の見地に立てばテロを示す数多の前触れがNSAに集められていたことが分かっている。しかし、膨大な情報量の中から差し迫った危機に気付き、対応することは果たして可能なのか。また、イラク開戦では間違いのない証拠とされたものがお粗末なでっち上げだったことが判明している。

 どの情報が重要で、どの情報を急いで解析しなければならないのか。困難さは増す一方だ。多くの興味深い話題を交えながら、現代のスパイの実像と限界を明らかにしている。とても興味深い一冊。


 なお、情報戦に興味があるのなら、この分野における必須技能である暗号について、サイモン・シン『暗号解読―ロゼッタストーンから量子暗号まで』を強くお勧めしたい。

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紙の本つっこみ力

2007/08/17 23:27

楽しく、真面目に情報と付き合う方法

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 メディア・リテラシーって知ってます?いかんですねぇ。メディアの流す情報が正しいのかきちんと判断しなきゃ騙されるってことですよ。

 いやはや、おっしゃるとおりです。あるあるだとかなんだとかマスコミは捏造ばかりやっていますからね。うん、正しい。じゃあこちらもデータで理論武装して過ちを糺す必要があるわけだ。

 そんなこと言っても無駄だ、というのが本書。いや、確かに正しい。垂れ流される情報を全て信じることは危険なのだ。本を読んで、その内容に疑問を持たず全て信じてしまうなら本を読んでいないのと同じ、とは孔子も指摘している。

 しかし、人は正しいからといって自分の姿勢を変えるわけではない。規則正しい生活をし、食べ物は栄養バランスに気を配り常に腹八分目、アルコールはほどほどに。それが正しいことを知っていても実行できないのに通じる。

 正しいことをさせようと思っても限界があるならどうするか。その答えとして、著者が持ち出すのは楽しいこと。メディア・リテラシーなんて根付きもしない難しげな言葉に騙されて真面目に取り組まず、つっこみ力として楽しく同じことをやりましょう、というのである。

 言われればそのとおりで、どうせ同じことをやるなら楽しくやれた方が良いのは間違いない。ではどのように実行するのか。それは本書を当たってみて欲しい。

 正直に言うと、『反社会学講座』や『反社会学の不埒な研究報告 』と比べるとパンチ力が弱いように思える。なので、これらのレベルを期待して読んだ私にとってはやや拍子抜けだった。

 本書の前に書かれた2作では具体的な話題に対してキレの良いつっこみを入れていたのに対し、本書ではつっこみそのものの効力という抽象的な問題を語っているからに思う。総論を面白く書くのは難しい、ということか。それでも新書サイズで硬くならずに情報との接し方を教えてくれているので、手に取る機会があったら活かして損はないと思う。

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紙の本複雑な世界、単純な法則 ネットワーク科学の最前線

2007/04/08 00:22

ネットワーク科学の面白さを教えてくれる良書

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 世界には60億人を超える人がいるというのに、たった6人を介せば全員が知り合いになるという話を聞いたことがないだろうか。実に不思議なことに感じられる。なにせ、市井の一市民たる私が、世界中の政治指導者ともアラブの石油王ともオリンピック選手とも知人の知人の知人の知人の知人の知人の知人であるというのだ。

 なぜこんな不思議な事が成り立つのか。それを解き明かしたのがネットワークの科学である。

 これが人間にしか当てはまらないのだとしたら、それは科学ではなくてただの偶然かもしれない。正直に言うと、私も読み始めた段階ではかなり懐疑的であった。

 ところが、このネットワークの科学の観点からは人間関係だけではなく予想すらしなかった多くのことが共通項を持ってくるという。

 一例として、川の流路と流量の関係、インターネットのリンク構、感染症の広まり方、富の集中の仕方、何万匹もの蛍が同じ周期で明滅を繰り返すこと、脳が上手く働く理由などなどが挙げられている。この項目だけを見ても驚かれるのではなかろうか。

 全てを説明できる理論は、実は何も説明していないこともありうる。たとえば、神が世界を作ったという理論が当てはまる。なにせ、どんなことを持ち出しても「それが神が世界を作った証拠である」と言えばいい。それで説明したとしても他人を納得させられるかは不明だが。

 だが、ネットワークの科学は、この類のイカサマとは一線を画しているように感じられる。というのは、6人を介して世界中のほとんど全ての人々が知り合いのネットワークでつながるという事実は、純粋なシミュレートでも再現される。川の流路と流量は計測が可能だし、脳のネットワークもカウントできる。

 つながりを持つものが、カウントして見るとこれ程までに一致した構造を持つということは、そこには何か有利な点があると思って良い。

 タイトルの『複雑な世界、単純な法則』は、実に上手く内容を表しているといえる。世界の事象は、外から見たら実に複雑に組み合わされているように見えながら、外皮を剥いで見ると単純な法則によって成り立っていることが明示されているからだ。
 そういう意味で、まさに本書は科学の本である。大胆に細部を切り落とし、多くのことに共通する本質部分だけを追求している姿は、科学のあり方そのものだ。で、きっとそれだけだったら面白くない本になっていたのだろうけれども、決してそうはなっていない。ひとえに取り上げる例の巧妙さによると思う。なにせ、就職のコネはどんな人から与えられるものか、なんて科学のネタには見えないのだから。

 そう。例が面白いのが特長なのである。突然梅毒患者が増えたのはなぜかとか、アメリカで公式的に差別は撤廃されてもやはり黒人と白人が別れて暮らしている真の理由、クジラが減ったら魚は増えるのか、などなどと、読者が飽きないような話題が次から次へとやってくる。

 本書の凄みは、これらの話が“ただの面白い話”として取り上げられているわけではなく、全然関係が無いように見える事象が共通点を持っているという枕で述べていることだろう。しかも、枕の方がずっとボリュームがあるというオマケ付き。そんなわけで、ネットワーク科学の醍醐味を教えてくれる良書だと思う。

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紙の本ガイアの復讐

2006/12/16 11:29

ガイア仮説を理解して環境問題を正しく捉えよう

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 著者のジェームズ・ラヴロックはガイア説の提唱者として広く知られている。では環境分野の人物なのかというとそれは違う。彼は化学者で、偉大な発明者でもある。

 彼がガイア説をひらめいたのは、地球の大気に酸素とメタンが安定して存在していることから。酸素は高い反応性を持つので、通常メタンと同時には存在できない。それなのに大気中の酸素-メタンバランスは恒常性をもっているのはなぜか。ラブロックが考えたのは、地球を一つの生物とし、生物が自分の体を一定の条件に保つように地球もまた同じような調整を行っているのだ、ということ。

 ガイア説はその巧みな隠喩によって科学の世界を離れ環境に興味を持つ人々(なかでもしばしば過激な環境原理主義者)から支持を受けた。皮肉なことに、科学者たちは地球を生物と見做す隠喩を隠喩としては捉えなかった結果として猛烈な反対を行うことになる。不幸の始まりだろう。

 しかし、ガイア仮説は使い方によってはとても役に立ちそうだ。地球を人間に喩えることで表層の滋養が失われることがどれほど大きな影響を持ちうるのかを説けば、多くの人には化学的な説明よりも遥かに説得力を持つだろう。だからラヴロックはガイア説に固執する。私から見ればちょっとやりすぎに見えるほど。

 世間に余りにもラヴロックの誤解が広まってしまっているからこそ、ラヴロック本人の言はより価値を持つ。本書を読めばラヴロックが頑迷な環境主義者などでは決してなく、地球の熱収支に鋭敏な優れた化学者であることが分かるだろう。

 科学の世界に身をおきながら環境にも多大な関心を持ち、バランス感覚に優れるとなると並大抵の才能ではとても対応できない。しかしラヴロックはその数少ない才能の持ち主である。本書には科学と技術が作り上げた現代文明に対するイチャモンは無く、ラヴロックが熟慮の結果としてたどり着いた提案に満ちている。これができる人がどれほどいるだろうか。

 猛烈な反応性によって明らかにがんを引き起こしているだろう酸素に囲まれながら、ようやく検出できる程度の発がん性物質の脅威を煽ることの当否、原子力を使うことの必要性、化学物質を余りに忌避しすぎる”環境負荷が少ない”と信じる行為による環境破壊など、学ばされることは多い。環境問題に興味がある方は是非一読されることをお勧めしたい。

 ただ、私としてはラヴロックがあまりにも生物による地球環境の恒常性維持に注力しすぎているのが気になる。実際には炭素の循環という無機的なシステムによっても地球環境の恒常性は保たれているわけで、それに言及があっても良かったように思われてならない。また、チェルノブイリ後の死者がわずか数十人であるということは述べるが、若年層で甲状腺がんの発生率が高まったことには触れられていないのが残念。そうしたデータがあってこそ冷静な思考ができるのだから。

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紙の本ミュンヘン オリンピック・テロ事件の黒幕を追え

2006/05/14 00:44

ミュンヘンオリンピック事件に端を発する血で血を洗う抗争を緻密に描く、イスラエルの対テロ戦争の歴史

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 1972年9月5日。ミュンヘンのオリンピック会場内、イスラエル選手村に8人の男が侵入、選手とコーチを殺害し、9人を人質に取る大事件が発生した。犯人グループはパレスチナ解放機構(PLO)傘下のテロ組織、黒い九月(ブラックセプテンバー)だった。不手際も重なり、人質全員と警官1名および犯人のうち5人が死亡、3名が捕らえられるという結末を迎える。イスラエルとパレスチナ。今も解決されていない問題は、かつては世界中を巻き込んだ武装闘争だったのだ。

 イスラエル側は報復として非常の手段を採ることを決める。黒い九月幹部の暗殺である。その最終目標は、PLO議長アラファトの側近、アリ・ハサン・サラメ。彼は、イスラエル独立戦争で絶大な力を発揮し戦いの渦中で戦死した父ハサン・サラメの軌跡をたどるように、PLO内で頭角を現し、やがて血塗られた王子の異称を持つ残忍なテロリストとなっていった。

 本書は1972年5月のサベナ航空機ハイジャック事件で幕を開ける。背後で糸を引いた者こそ、アリ・ハサン・サラメだった。そこで場面は父ハサン・サラメの時代に戻る。アリ・ハサン・サラメを語るには、父ハサン・サラメを避けて通れないから。そして驚くべき親子2代の歴史が明かされる。

 パレスチナとイスラエルの闘争は、イスラエルの覇権確立とともにパレスチナが辺境へ追いやられ、すべてを失う歴史となっていった。それとともに、黒い九月の作戦は、無計画ではないが無秩序で世間の支持を失うものとなっていく。一度解き放たれた暴力はどちらかが破滅するまで終わらない傾向があるのかもしれない。イスラエルからの暴力の主体はモサド。モサドと黒い九月の血で血を洗う抗争を緻密に、読みやすく書いてあるのは見事である。名前しか知らなかったような個別の事件が、紛争の一連の流れであることが実に良く分かったのが収穫。

 中東和平に感心のある方は必読といっても良いのではないだろうか。

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