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  3. ドン・キホーテさんのレビュー一覧

ドン・キホーテさんのレビュー一覧

投稿者:ドン・キホーテ

816 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本

紙の本警察庁から来た男

2022/05/27 11:13

読者の期待を裏切らない小説

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

佐々木譲の警察小説である。しかも今回は北海道警に出張して来た警察庁キャリアの監察官の話である。監察や監査がうれしい人はいないであろうが、特に道警では警察本部ぐるみでの裏金プール問題が世間を騒がせていたから、なおさらであろう。

 冒頭にその監察の対象となった事件が2例紹介されている。一つはすすき野のバーでの転落事故死、もう一つは外国人の人身売買があり、交番に駆け込んできた被害者を保護せずに反社勢力に送り返したという驚天動地の事件であった。

 キャリアの監察官なので、事件捜査の経験も乏しいし、現場の実情を知りもしないであろう。しかし、監察は内部監査なので、取り調べは行われる。それを繰り返し行い、事情を把握するわけである。この辺りが興味深いところであろう。

 本編のシリーズではレギュラーである津久井巡査部長が警察学校の雑用係から引っ張り出され、この監察官の仕事を助ける。津久井は道警の浄化委員会で、正直に実情を語ったことで道警内部では裏切り者という目で見られていた。監察官はそこを見ての起用のようだ。

 こうしていつもの道警のメンバーの活躍が始まる。タイトルから見て、もう少し破天荒な監察官かとおもいきや、常識的な人物なので勝手に考えていた小説の雰囲気が壊れてしまった。活躍の主体は監察官ではなく、いつものメンバーだったようだ。そういう点で読者の期待に応えてくれる佐々木譲であった。

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紙の本

紙の本最高の盗難 音楽ミステリー集

2022/04/15 17:56

アイデアは面白いが・・・

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深水が描く音楽ミステリー集である。自分で音楽ミステリーというあたり、かなり自信があるのかも知れない。ミステリー集というので、本書には「ストラディヴァリウスを上手に盗む方法」、「ワグネリアン三部作」、「レゾナンス」の3編が収められている。

 「ストラディヴァリウスを上手に盗む方法」は、若手ヴァイオリニストがコンサートで演奏することになっていたヴァイオリンのストラディヴァリが演奏直前に盗まれたというテーマである。ストラディヴァリに限らず、弦楽器の名品の由来について詳細に解説が書かれていた。深水は本小説を誰に読んでもらいたかったのであろうか? ミステリーの中でもクラシック音楽のファンを読者に想定したのであろうか?

 ミステリー好きの読者にとってはストラディヴァリは単なる材料に過ぎず、楽器の由来などには興味がないであろうから、下手をすると読み飛ばされる恐れがある。それならば楽器、クラシック音楽に興味がある人はどうであろうか。ここまで詳細な説明を本書で読まされようとは思っていないであろう。

 それとも単に知識の自慢をしたかったのかも知れない。それでも気になるのは作中に出てくる「リブラリアン」という言葉である。通常は「ライブラリアン」であろう。そして、リード楽器の手入れに別控室が必要だと書かれていたが、オーボエは分かるが、クラリネットについてそれほど本番前に慌てる奏者は少なかろう。強いて言うならばファゴットであろうか。どうも知識のみを仕入れた結果のような気がするのである。

 加えて、弦楽器の手入れや保管方法などは、通常は奏者が簡単に済ませるのではないか。そこまでできるのなら楽器製造を職業にした方がよろしいと思う。発想は面白いのだが、現実からはあまりにかけ離れていよう。

 「ワグネリアン三部作」はアイデアは秀逸だったと思う。しかし、「レゾナンス」は何のことだかよく理解できなかった。絵画や音楽に蘊蓄がある作家であることはよく分かったが、小説としての積み重ねが不足していると思われる。

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紙の本

紙の本虚像のアラベスク

2022/03/27 21:41

バレー好きにはたまらない小説

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深水黎一郎のバレーに関わるミステリー小説である。本書はバレーに関わる小説2編であるが、バレーに関わるというのは、一作目がバレー団のドン・キホーテの公演に、欧州委員会の女性委員長が会議のために来日し、ついでにバレー公演を鑑賞するものである。二作目はバレー団内部で発生した社長殺害事件?がメインである。

 一作目を読んだ限りでは、作者の深水はよほどのバレー好きのようである。まるでバレーの解説書を読んでいるようで、バレーの基本技について詳細に解説しているのである。一般読者、とりわけミステリー愛好家にとってはここまで詳しく書かなくともよかった。これでは途中で挫折してしまうであろう。

 作家が自分の思いを小説にぶつけるのは結構だが、あまりやりすぎると逆効果である。しかし、わが国のバレー人口はかなり増えてきているようだが、それでもバレー団の経営は苦しいであろう。NHKだけがバレー公演を時折放映している程度である。バレー界の今世紀のセンセーションは、何といってもディアギレフ、ニジンスキー、ストラヴィンスキーの『春の祭典』であろう。このセンセーションについても深水は逃してはいない。

 通常は白鳥の湖などで舞台上を踊るバレリーナが登場するが、ストラヴィンスキーの春の祭典はバレー界に革命をもたらした。それは興味のある方が実際にご覧になることをお勧めしたい。

 バレーを強力に押し出す深水の心情は理解できるが、小説の内容は面白く読めた。ただし、解説部分を除いてだが。しかし、バレー好きには応えられないであろう。ただ、世間の実情からは遊離していると思う。

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紙の本

陽が当たり始めると、続々と異なる義時像が現れる

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

久しぶりに高橋直樹が描いた文庫本へのダイレクトの書下ろし小説である。NHK大河ドラマで、北条義時が取り上げられて、文芸面でも出版が盛んに行われている。奥村景布子、伊東潤、高橋直樹と名うての時代小説作家を読んでみた。とくに比較する必要もないのだが、大半の小説が『吾妻鏡』を下敷きにしているので、ストーリーに大きな違いはないはずである。

 高橋は今までに頼朝などを中心に鎌倉時代の短編を書いてきた。本書もその総括となる一冊であるが、歴史の解説書を読んでいる印象である。というのも近年会話文をそのまま記す様式が増えている。たしかに読みやすく、スピード感はあるのだが、その分中身が薄いことは間違いない。小説ではあるが、たしかな歴史を知りたい向きにはぴったりとマッチしている。

 従来の歴史学の積み重ねで、史実と判明している事柄は明らかにして欲しいし、不明な点は小説家の腕の見せ所であろう。その点、高橋の小説は歴史の解説書を読んでいると書いたのだが、オリジナルのアイデアもよく織り込まれており、読んでいても納得しやすい内容、書き方であったと思う。

 登場する人物がどのような性格であったのかは、歴史書を読んでもそこまでは書かれていないのが普通であろう。とりわけ鎌倉時代となれば、今から九百年以上も前の話である。また著作物もそれほど多くないので、確かめようもないわけである。

 江戸時代でさえ登場人物の人間関係などは解明できない。ましてや鎌倉時代ではそういう人物がいるのか否かさえ定かではない。鎌倉時代の小説が今後面白くなりそうなのは歴史全体というよりは個々の人間ドラマが未開拓だからであろう。もっとこの時代の史実における社会的な意義だけでなく、登場人物の人間的な側面を掘り起こしていくことが求められていよう。

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紙の本

紙の本夜叉の都

2022/03/08 08:42

北条家の内紛 吾妻鏡にない争い

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本書は伊東潤が描く鎌倉時代前期の歴史小説である。鎌倉時代は今から約900年も前の時代であるが、所謂伝説としての逸話などは吾妻鏡、愚管抄などの古文書が遺されている。伊東はそれほど前ではなかったが、頼朝を中心とした武家社会の在り様『修羅の都』を描いたことがあった。しかし、あまり良い出来ではなかったと記憶している。

つまり鎌倉時代とは言え、かなり多様な物語が描けるにもかかわらず、焦点がぼけていて何を描きたかったのかについて霞がかかっていて、判然とはしなかった。伊東は小説を描く際はかなり入念に調査をする作家だと思うのだが、前作の『修羅の都』は描く以前に情報整理が不十分で、散漫になっていた。

 本書はその不備を取り返すかのように、描き方が溌溂としている。鎌倉時代前期にも独特の伝説、あるいは逸話があるが、それはかなり本書に網羅されている。NHKの大河ドラマに合わせるとすれば、難しいのは頼朝ではなく、北条義時であろう。頼朝に付き従う義時は、徐々に頭角を表わし、最後には姉の政子を凌ぐリーダーシップを発揮しているのだが、自己主張が弱いのか、歴史上のリーダーとしてはもう一歩であろう。

 歴史小説は史上有名な逸話は逃せないが、有名なものについて創作は無用であろう。却って読者に受け入れてもらえず、違和感を抱かれるのがオチである。この時代もこの逸話を連ねていけば、相当な部分は出来上がってしまうが、それでは作家の主張が通らない。どうにも難しいところである。

 北条家の力は承久の変の頃には義時、泰時と著名な武家が執権に就き、いよいよ時頼、時宗と充実するが、面白いのは代替わりしていくと、親族同士の覇権争いが必ず起こる点である。この物語はその部分の続編に読者を楽しませる要素が残っていそうである。

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紙の本

紙の本折れた竜骨

2022/02/14 22:42

ミステリーだが魔法とファンタジーのエンタメ

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本書は米澤の初期の作品で、イングランドとデンマークの間に浮かぶソロン島という小島の領主と、ソロン島を戦闘で失ったデンマーク人との戦いを描いている。領主の娘が物語の語りを担っている。舞台設定そのものが珍しいもので、米澤が作家になる以前に習作として書いたものである。

 温めていたといえばそうなるが、米澤作品の中でもこれに類したものは見つからない。時代も不明であるが、欧州の話らしく魔法が登場するいわばファンタジーである。しかし、そのコアになる部分はミステリーである。

 小ソロン島の城の衛士が殺害され、犯人探しが始まる。さらに領主が自室で殺害されるという事件がその後に勃発する。これらの殺人事件の解決に当たるのが南方の国から来た騎士という割り付けである。しかし、この後の解決編ではファンタジーでの解決となるので、ミステリーとは異なるようだ。

 本格的なミステリーとは言えないが、その着想や登場人物などは映像化すれば、かなり見栄えのする作品になるのではないか。我々とは全く縁のない時代、場所、登場人物が読者を楽しませてくれると思う。

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紙の本

紙の本義時 運命の輪

2022/02/06 22:40

鎌倉の政変を丁寧に著す書

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北条義時という鎌倉武士の中でも地味な主人公を奥山が取り上げた。おそらく出版社の要請でNHK大河ドラマに合わせて出版したものと想像がつく。あまり取り上げられることの少ない鎌倉時代だが、結構小説の材料は方々に転がっている。折角だから読ませてもらうのだが、時期的に大河ドラマと一緒にはしてもらいたくなかった。

 本書は鎌倉幕府草創期の有名なエピソードが書き連ねてあるが、それぞれの内容が精緻に書き込まれている。それが真実なのか否かは別として、これもおそらく吾妻鏡の記述をもとにしているのであろう。細かい部分は全体から見れば、些末かも知れないが、これがあるのとないのとでは読み物としては大きな違いがある。

 また、それぞれの人間関係までは史書には出てこないものであろう。本書でいえば、北条政子と義時の姉弟の関係も不明である。こういう場合に小説になると主人公の性格も作家のさじ加減で大きく変化する。

 大河ドラマでも義時は気弱な決断力の弱い武士のように描かれている。本書でも当初はそうであっても、承久の変辺りになると、政子を表に出して、演出自体は義時自身が行っているように見える。朝幕間の緊急事態発生時に、義時の性格が突然に変化するがやや不自然さが残り、気になるところである。

 鎌倉史の時代的な変遷を辿る作品としては、貴重な書である。なにしろ北条家が源家の覇権を握るまでには、様々な有力御家人を倒してきたので、その政変の順序や登場人物にはかなり混乱をきたすからである。

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紙の本

読者に答えを突きつける官兵衛

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米澤穂信が描いた小説である。どの分類に属するのかは分からないが、ミステリーといえばそうであるような気がする。時代小説であるともいえよう。どの時代かと言えば、織田信長が天下人になろうとしていた時代である。織田が秀吉、光秀を従えて京に上っていた際に、織田に反旗を翻していた戦国武将、荒木村重が主人公である。

 ただし、よく読めば村重が主役なのか、相手の黒田官兵衛が主役なのか、よく分からなくなるというストーリーである。その辺りがミステリーと言えないこともない。織田方の官兵衛が村重を説得しに使者として有岡城を訪れた。村重は官兵衛を牢に閉じ込めてしまう。

 本書はいわばエピソードが複数ある短編集が実体なのであるが、各々のエピソードで有岡城主の村重の頭を悩ます問題が起こる。散々考えても納得のいかない解決策しか見いだせない。その際には牢に閉じ込めてある官兵衛に、意見を求めに行く。この辺りがミステリー風の出来上がりになっていると言えるかも知れない。

 いかにも軍師として名を馳せた官兵衛らしい答えであるが、明快な答えを出すわけではなく、いわばヒントを出すので、あとは自分で考えろと言わんばかりの答えなのである。もちろん、村重ばかりではなく読者にも突きつけているわけである。

 米澤穂信の時代小説は今回が初めてなのかも知れないが、こうなると時代や登場人物によるミステリー仕立てではなく、ストーリー自体がミステリーで、読者にも考えさせる一種のミステリーサービスなのかも知れない。さすがに直木賞受賞作品である。面白かった。

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紙の本

紙の本最後のトリック

2022/01/23 18:27

ストーリー全体を見て面白さを感じる

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ミステリー作家深水黎一郎の小説である。この小説のテーマは読者が犯人であることがありうるかというものである。ある作家に手紙が届く。その手紙には読者が犯人である小説のアイデアがあるので、それを買い取ってくれないかという持ち掛けである。始めは相手にしていなかったこの小説かも、何度も執拗に誘いかけてくるので、わずかながら興味を持ち始めたのである。

 この取引も徐々に具体的な提案が含まれるようになり、対価が2億円だという。何度も来る手紙の内容には、ミステリーの歴史的な変遷が詳細に書かれ、かなりのミステリー通であることも分かってきた。

 この小説家へのアイデアの売り込みだけならどうということはない。読者が犯人となるプロセスが一般に通用するものではなく、特殊な人物にしか当てはまらないからである。それよりもこの売り込んできたミステリー通には様々な事情があることが分かってくる。ストーリーが複層的な構造になっていることの方が面白い。

 本書の看板である「犯人は読者」自体に興味を持った読者は落胆するかも知れない。しかし、ミステリーの面白さを提供してくれたことには価値があるような気がする。

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紙の本

紙の本ロータスコンフィデンシャル

2022/01/13 10:57

公安、警備からみた刑事部門

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今野敏も多分野の小説を書く作家で、今回はその中でも読ませる公安、警備に焦点を当てている。この公安、警備では特定の主人公や舞台設定が定まっていないようだ。しかし、本書では以前登場した主人公が再登場している。警視庁公安部外事第一課の倉島警部補である。ゼロと呼ばれる研修を受けた公安分野のエリートである。

 このエリートが前半は周囲の助言、警告などを軽視して、失策を招いてしまう。上司からは叱責され、同僚からも疎まれてしまう。本編は明らかに前回(『防諜捜査』)の続編になっており、倉島の仕事内容の解説はすでに前回説明済みという前提である。

 実際はどうなのかは不明であるが、ロシア担当の倉島は駐日ロシア大使館の書記官と連絡を取り合って情報交換したりする場面が数回出てくる。スパイを直接取り締まる法令がない日本では、スパイは小説の中だけの話かと思っていたが、本書を読むと現実感が出てくる。

 通常の警察小説は刑事部や刑事課が活躍し、そこに公安、警備との衝突や折衝、あるいは共同作業が出てくるわけであるが、本書では公安、警備の立場から見た刑事が描かれており、興味深いものがあった。その違いが鮮やかに描かれており、続編にも期待をつなぎたい。

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紙の本

紙の本返事はいらない 改版

2022/01/09 10:07

短編は侮れない

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本書は宮部みゆきの短編小説集である。宮部は長編が有名で名を馳せた小説家であるが、短編小説でも優れた筆力を感じさせている作家である。宮部の短編集は数冊が発表されている。最初は『我らが隣人の犯罪』、であとは『淋しい狩人』、『人質カノン』など多数ある。

 本書はその第2弾である。冒頭の同名タイトルの「返事はいらない」は、経済犯罪絡みである。ATMを利用した犯罪が描かれているのだが、まるでATMの利用歴史解説書のような内容である。さすがに相当以前の作品ので、現在はさらに進歩している。最後の落ちが読者に肩透かしを食わせる仕掛けである。

 次は人気のある一編で「ドルシネアにようこそ」というタイトルである。昔は駅頭にあったが、今はもう消えてしまった伝言板に書かれていた伝言をヒントに社交場のドルネシアを介した出来事を小説にしたものである。宮部の才能が存分に弾けた傑作である。

 短編小説集は、ややもすると読者の興味を掴む間もなく終わってしまうので、作家の習作だと考えている方も多かろう。短編の書き方は作家によって異なるが、長編のヒントとなる題材を日頃蓄積しておくと、それが作家のネタ帳になるのかも知れない。そういう点では短編といえども侮れないジャンルであろう。

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紙の本

紙の本転がる検事に苔むさず

2022/01/05 16:20

検察の仕事を理解する

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最近警察小説も相変わらず盛んに書かれているようだが、主役が刑事から検事になった小説も目立ってきた。今まで知られてこなかった検事という職業の法曹人にも光が当たるようになってきた。光が当たって喜んでいる人ばかりではない。おそらく法曹人としては迷惑しているのかも知れないと想像する。

 主役がまた変わっている。本書では簡易裁判所のカウンターパートである地区検察庁の検事が主役である。その同僚の若い女性検事がペアになっている。さすがに地区検察庁の検事は初めて読む。なぜならば、地区検察庁は簡裁が相手なので、大事件は扱われないからである。それを小説化してもうけないであろう。

 また、この地区検察庁は東京は浅草にある。誰もそんなところに検察の仕事場があるとは思わないであろう。所轄の刑事課長から相談を持ち掛けられた主人公の検事は、首を突っ込むと意外な展開となってしまう。その間、主人公の検事としての立場は揺れ動く。過去の経緯から司法機関のあちこちに苦手な人物がおり、最悪は上司として年下の検事があらゆる手でいじめにかかる。

 それにも耐えて検事は奮戦する。検察内部の様々な人間関係もホンモノらしいのだが、さもあらん。作者の直島はジャーナリストで、しばらくは司法機関担当だったそうである。検察は今まではあまり表面には出てこなかった。つまり国民に開かれた国家機関ではなかったということである。検察審査会等で叩かれるのもそこに原因の一つがある。また、どこの組織でも不都合な事実は隠蔽されるが、検察も同じで組織内部で処理する悪い癖が残っているようだ。

 主役の検事は捜査の最中に進退を考えるシーンがあったが、是非次回作を発表して作者の考える検事像を描いてほしい。なお、本作品は警察小説大賞を受賞している。

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紙の本

紙の本名画小説

2022/01/05 15:58

芸術とミステリー

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本書はミステリー作家、深水黎一郎による絵画をモチーフとした短編小説集である。この書籍自体にも作者の創意工夫があり、様々なメッセージをうけとることができる。作者と読者の間のダイアログといってもよいであろう。

 タイトルのみを見て手に取って読んでみたのだが、想像とは異なる書籍であった。名画となれば、世間でも多少は名の通った絵画であると思われる。たしかにその通りで、有名絵画ではあるが、それを小説仕立てにするところが面白い。

 一見理解できたと感じても、隠喩が多用されており、その解釈は人によって様々であろう。初めて読む作家であるが、読者を意識しての多様な仕掛けは大いに気に入った。ついでにこの作家の既存の作品にも手を伸ばしてみたいと思った。

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紙の本北条義時 小説集

2021/12/26 09:29

主役登場はこれからだが、楽しめた小説集

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本書は著名作家がこれまで書いてきた鎌倉幕府に関する小説を集めたものである。に、タイトルには北条義時小説集とある。集めたといっても単に寄せ集めたものではなく、小説、戯曲などヴァラエティに富んでいる。作家も海音寺潮五郎、永井路子、高橋直樹、岡本綺堂、近江秋江などで最後には三田誠広の解説が付されている。

 ところが、海音寺潮五郎は梶原景時、永井路子は頼家、高橋直樹が頼家、岡本綺堂も頼家を主人公にしており、肝腎の義時は永井が小説というよりは考察として承久の乱での義時の振る舞いを描いているに過ぎない。本来、このタイトルで集めた理由は、NHK大河ドラマの主役が義時だったからであろう。

 しかし、義時を選んだのはNHKとしては苦渋の選択だったような気がする。頼朝であれば、また頼朝かと落胆されるし、時宗は前作からそれほど時間を経ていない。十三人衆として取り立てての実績はないので、どのように物語の進行を持っていくかも成否を分けるであろう。

 本書では岡本綺堂、近江秋江は小説ではなく、戯曲である。これは面白かった。読んでいると舞台が目に浮かぶようだ。こう考えてくると、北条義時という人物は、誰かを支えていく参謀型の性格なのかもしれない。ある時は、頼朝を支え、ある時は政子をささえ、ある時は父親の時政を支えたが、自分が表に出ることはなかった。

 したがって、義時を主人公にした作品はこれまでにはほぼなかったといえよう。この大河ドラマによっていくつか新たに執筆されたものはあるが、さて、出来はどうであろうか?
本書はその点上記のように工夫が随所に見られ、読者としては楽しむことができた。

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紙の本

紙の本暴雪圏

2021/12/14 22:13

クライマックスだけを変えてはどうか?

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佐々木譲の長編小説である。が、以前発表した『制服捜査』の続編という位置付けである。前刑事の交番巡査部長が活躍する長編である。とはいっても、全体を通してみると、登場人物は同じで、粗暴犯事件の捜査が中心に置かれている。

 この地域の反社会的勢力である組の大半が横浜に出かけていたが、拳銃を保持した粗暴犯2名が組幹部の家宅に侵入し、金庫の現金を奪おうとしたが、その際に幹部の妻を拳銃で射殺してしまった。粗暴犯は慌てて二手に分かれて逃走したが、外は低気圧で猛吹雪となり、道路が閉鎖となってしまった。

 この後、そのうちの1人が拳銃を持ったまま、近くのモーテルにたどり着いた。モーテルにはこの難気象を逃れてきた一般客数組が居合わせた。

 本編では制服捜査のように主人公の巡査部長が主体的に活躍する場面は少ない。ごく通常の交番警察官の活動が描かれているだけのようである。北海道らしい猛吹雪で通常の警察活動が行えないシーンが強調されているが、偶然通りがかり、モーテルに避難してきた客が人質となり、粗暴犯の行動が見ものではあるが、読者が特にその点に興味を惹かれることはないであろう。

 何か中途で水が差されて呆気なく事件は集結してしまった感がする。執筆途中で方針転換でもしたかのようであった。この主人公はこのままシリーズが終了してしまったようである。町の顔役たちとの確執や、無茶な人事が後を引いているマイナス面を、主人公がどう処理をするかが面白いのだから、本物の続編を書いてもらいたいものだ。

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