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  3. ドン・キホーテさんのレビュー一覧

ドン・キホーテさんのレビュー一覧

投稿者:ドン・キホーテ

816 件中 61 件~ 75 件を表示
黙示

黙示

2020/09/29 22:03

まさか、ネタ切れなのでは?

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

今野は数多くの警察小説を発表しているが、今回は警視庁捜査3課の萩尾警部補と部下の女性刑事、武田とのシリーズである。3課は窃盗を担当しており、これまでも展覧会の出展作品で百貨店関係者、美術館学芸員、警備会社、コンサルタント等と接点があった。

 今回はIT長者である館脇の保有する歴史的な価値のある指輪が盗難に遭ったという通報があった。渋谷の松濤といえば、都内でも有数の高級住宅街である。それでいてすぐそばには渋谷の繁華街があって、利便性の高い土地柄である。館脇の私邸はそこにある。

 このシリーズというよりは、今野の作品には警視庁の主人公が多数登場するが、渋谷署がよく活躍する。今回も松濤なので所轄は渋谷署である。繁華街にある百貨店で美術即売会が開催され、そこでの盗難事件もあった。そこで登場した世田谷の美術館学芸員が今回も登場した。

 きわめて胡散臭い人物で、裏では違法な行為を行っていそうである。というわけで、登場人物は館脇をはじめとして、どれも胡散臭く、館脇自身も狂言を疑われたりしている。関係者としては、館脇の秘書の女性、お手伝いの女性で犯人は絞られてきた。

 館脇邸にあった骨董的な価値の高い指輪の行方は如何に。警視庁捜査3課の萩尾はどのようにして経験を生かして難事件を解決していくのか? 警視庁内部の葛藤も渋谷署だけであるし、いつもの内部での揉め事はないのか? 精々犯人に狙われているとの情報で捜査1課の2人の刑事が執拗に喰いついてくる程度であった。

 やや盛り上がりに欠ける今回の事件であった。その原因の一端は、「ソロモンの指輪」にある。指輪の謂れを書き過ぎたのである。世界史の歴史的な品物に興味を持っている読者ならばいざ知らず、その説明を延々と述べたのは失敗であったろう。ストーリーを構成するうえで、よほど材料がなかったことを露呈しているとみられても仕方がない。

 松本清張までもが陥った罠である。否、編集者に指示されたのかも知れない。これが壺にはまれば言うことはないが、興味のない者には価値はない。まさか、我らの今野敏がそうなるとは思えない。窃盗に関するものには様々なアイテムがある。本編でも紹介されている防犯装置などはその一つであろう。防犯上公開を憚れるものなのであるが、住宅用まで普及しつつあるので、材料としてはもう少し発展させることができるように思うが。

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オフマイク

オフマイク

2020/09/19 21:36

布施京一を前に

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

今野敏の警察小説ならぬワイドショー小説の、しかもシリーズ第5作である。やや変わった趣向で登場したテレビのニュースショー付記者布施京一であった。このシリーズが5作も書かれるとは思わなかった。しかし、内容はたしかに面白い。ニュースショーがどのように制作されていくのか等、表には登場しない場面が多いからであろう。

 今回は女性キャスターである香川が被害者であった。いつものように警視庁捜査一課の黒田と谷口のコンビが継続捜査で、捜査二課の同僚から助太刀を頼まれた。すると、IT業界の寵児が浮かび上がる。

 今でこそ天下を睥睨する大物になりつつあったが、学生時代の昔はイベント企画者として活躍したという経歴である。黒田と谷口が継続捜査を担当していることもあり、随分過去の殺人、自殺などの古い事件が問題となってくる。

 その過程でキャスターの香川が誘拐され、監禁されて番組に穴を開けてしまう。こういう場合にはどのように本番を乗り切るのか、そこにも読者の興味はある。男性キャスターだけでは負担が過重になるので、誰かが代役を務めることになる。意外な代役が指名される。

 デスクの鳩村の立場も楽ではない。常に責任を持たされているからである。シリーズ五作目ともなると、少しずつ環境を変えていかねば読者に飽きられてしまう。布施のキャラクターは相変わらず顔が広く、皆を驚かせる。それはよく分かったが、今後は主人公である布施をもう一歩前に進めてもらいたいものだ。

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鉄の骨

鉄の骨

2020/09/08 10:31

エンタメ小説としては物足りない

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本書は池井戸が十年ほど前に書いた小説で、舞台は中堅ゼネコンである。建築系の大卒で建築現場に勤務していた主人公は、異動で営業部業務課に転属となった。業務課とは公共工事で業界内の調整を行う部署であった。本来建築系出身なので、営業を行うつもりもなかったが、次第次第に濁り水を飲むことになっていく。

 業界内の受注調整が仕事である。入社仕立ての主人公にとっては面白くないが、同業、下請けメーカー、銀行などとの付き合いを深めていく。結局中堅ゼネコンの悲哀で望んだ契約が取れず苦戦する。

 その周辺のプレイヤーといえば、同業他社の営業部長などであるが、他社のOBである調整役と知り合いになり、同郷であることも手伝って親しくなる。この関係で主人公は若年ながら調整業務に絡んでいく。同時に学生時代から付き合いのある銀行勤めの女性との恋愛、そしてその彼女が銀行員との二岐恋愛とサービス精神に富んでいる。

 結局、社運を賭けた工事の入札で、大きな波乱があった。池井戸の小説としては大した波もなく、読みどころも多くはない。そして、登場人物の描き方も材料不足である。とくに主人公の相手の女性については、少なくとも池井戸の記載内容からは、それほど魅力的な女性という印象は受けなかった。

 ゼネコン内部の日常的な社会の規範に反する問題提起する小説であった。もう二捻りくらいはしないと、企業モノのエンターテイメント小説としては物足りない。

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小説外務省 2 陰謀渦巻く中東

小説外務省 2 陰謀渦巻く中東

2020/09/03 11:18

小説として楽しむには不十分であるが、外務省の実相を学べた

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

小説外務省の第2弾である。前回は主人公が外務省方針に反対を唱え、予想通り在外公館に出されることとなったところまでであった。今回はその在外公館での話である。それは在イラン日本大使館であった。参事官という大使、公使に次ぐ地位である。ここで各国、といっても主として米国の情報機関との情報交換に専念する。

 情報交換の具体的な行動、誰を訪れるのか、などかなり詳細に書かれている。その虚実については不明である。しかし、そこまで積極的に動く外交官が本当にいるのか否かは疑問がある。イランにおいては米国の大使館はなく、その代わりをスイス大使館が行っているようだ。

 主人公は在米のイラン出身者と緊密に連絡を取っている。この情報戦の目的はイランの核開発阻止を狙う米欧と、イラン政府との合意形成である。この数年後、米国大統領に就任したトランプは核合意のグループを離脱して、再度混乱が生じているのはご承知のとおりである。

 これから感じることは、国連安保理で常任理事国を目指しているわが国が、機動的にこれら世界で生じる出来事に的確に対応していけるのかという疑問である。まず人材がいない。これは致命的である。本編の主人公のように外務省本省の他国追従型のスタイルではとてもやっていけないことは、小説である本編を読んでみてそう思う。

 より戦略的に人材育成を行い、外務省全体の意識を変えなければやって行けまい。外務省が国民から離れた立場に安穏としているようではとても実現不可能であろう。いずれにしても、孫崎の小説は、小説としての面白さは感じられないが、内容は国民へのアラームとして大いに共感させられるものがあった。

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小説外務省 1 尖閣問題の正体

小説外務省 1 尖閣問題の正体

2020/09/03 11:16

外務省の中身

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著者の孫崎は最近でもテレビで見かけることがある。外務省のキャリア外交官で、本省局長や大使経験者であるが、外務省の方針に反旗を翻していた。とくに日本の対米追従政策に我慢がならなかったようだ。キャリアの外務官僚でありながら、次官、OBらの米国派の厚い壁に堂々と立ち向かうというのは自殺行為だと思うが、外務省にも不満を持つ人が少なくないということかもしれない。

 本書の登場人物は通常の小説とはやや趣が異なっている。主人公は架空の人物であるが、これは孫崎の仮の姿であろう。孫崎は実名で小説に登場している。実名で登場する幹部もいれば、仮名と思われる幹部もいる。本書のスコープは外務省全体であるが、中でも尖閣諸島に関する日中間の争いに焦点を当てている。著者は尖閣については田中角栄、周恩来会談の時点で課題として扱わないという合意があったことを主張したいようだ。

 丁度民主党政権のときに石原都知事が都民の税金で尖閣を買い上げるという提案をし、実際に募金活動まで行ったことは記憶に新しい。そこでときの野田内閣は強引に国有化してしまった。これで火がついて中国政府がプロデュースしたデモ行動によって、中国に進出していた日本企業の施設や商品が膨大な損害を被ったわけである。

 その先ぶれとして中国は漁船を利用した。漁船を海上保安庁の巡視艇にぶつけてきて、海保は漁船を拿捕し、船長を逮捕した。この際の政府の対応にも一貫性がなく、国民の大きな批判を浴びたのであった。

 小説はそのすべてを明らかにはしていないが、かなり具体的な材料を出して記述している。外務省は国民からは離れた存在なので、日常的に何を行っているかは分からない。課長補佐級の主人公が日々どのように動いているかは覗けるので、興味深く読んだ。

 日本政府が、その逐一を米国にお伺いを立て、米国がNOといえば、何もできないというのでは、それが真実ならば限りなく属国に近い。大統領がオバマからトランプに代わり、アメリカ・ファーストを掲げる政権になった結果、米国の力は急速に低下し、とくに安全保障に関しては世界の警察官を務める実力を喪失しつつある。

 そういう点ではわが国独自の外交政策は、中国の進出を見るまでもなく、これからの政権に必須の宿題だと認識させられた。

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余命二億円 How much is your price?

余命二億円 How much is your price?

2020/09/01 23:34

家族・親族間の人間模様を描く

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いろいろなジャンルの小説を発表している周防であるが、今回は複雑な家庭環境にある家族同士の葛藤を描いている。タイトルからは、如何にも犯罪の匂いがするが、ストーリー自体は犯罪の陰はない。しかし、ミステリーと見れば見られないことはない。

 中心となるのは兄弟である。ぐーたらで性悪な兄と真面目な弟の間での葛藤である。兄は自分で事業を行っているが、どれもこれも失敗が続き、生活する金さえ覚束ない。それにも関わらず、新たな事業を探し出してきては損をしている。弟は生まれながら腎臓に疾患があり、うまく機能していない、腎臓障害の行き着くところは透析か移植である。

 病気を抱えながらの生活であるが、父親が交通事故にあい入院する。当初は怪我だけだと思われたが、脳に障害が残り、意識を失ってしまった。兄弟の間では植物人間になった父親の延命措置をめぐってもめてしまう。その際に工務店を経営していた父親の財産が2億円だという。

 この財産をめぐって事業継続を目論む兄と、父親の生存を重視する弟の争いとなる。加えて、それぞれの配偶者、子供を加えて家族、親族間の付き合いが不安定になる。そこに意外な事実が弁護士からもたらされる。

 これまで周防の歴史ものが気に入っていた。『逢坂の六人』、『蘇我の娘の古事記』、『高天原―厩戸皇子の神話』がそれである。とくに『逢坂の六人』はもっと人気が出てしかるべきであろう。それ以外もその切り口に特徴があって面白い。残念なのは寡作家なのか、作品数が少なく、新作を待たされることである。

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清明

清明

2020/08/25 10:29

今までにない竜崎の能力に舌を巻く

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お馴染み今野敏の隠蔽捜査シリーズの第8作目である。ここまで続くとは思わなかったが、内容も回を追うごとに興趣を増してくるように感ずる。とはいえ、最近の今野敏の軽擦小説はどれも似たようになりがちである。最も多いのは警視庁内の刑事対公安の対立を軸にしているものが多い。あるいは、昔からのキャリア対ノンキャリもそれとミックスされて登場しているようである。

 さてこのシリーズは主人公の竜崎がスキャンダルで警察庁長官官房から警視庁大森署長に左遷されていた。大森署長になってからだいぶ長い年月を経ることになったためか、竜崎は異動することになった。神奈川県警刑事部長である。本来であれば、警務部長くらいが年次に見合った適当なポストだと思われるが、他県警本部長の経験がない竜崎ではまだ座布団が足りないので無理であろう。

 今回は東京と神奈川の境界付近、すなわち町田で発生した事件が中心である。捜査本部は警視庁だが、神奈川に囲まれている地域なので伊丹に頼まれた竜崎が協力要請に応じたものである。この過程で各々が相手に今まで気づかなかった性格を発見するシーンもある。動かさないものを動かすのがこのシリーズの面白さである。

 今回も被害者が外国人で、その関係から警視庁公安部が出てくることになった。これはむしろいつものパターンと考えてよい。外国人絡みで神奈川県警OBが登場する。自動車教習所の所長であるが、県警の刑事部長に対してさえ敬語を使うことなく、OB風を吹かせる元交通部の警視である。

 従来の竜崎であれば、対決姿勢を明瞭にするところだが、そのOBは地元の情報通であった。これも竜崎は鮮やかに手の者にしてしまう。今まで見られなかった竜崎の姿に成長を感じてしまった。単に硬派一辺倒ではなかったということか。

 まだ続くと思われる本シリーズであるが、立場(ポスト)が変われば、今まで表に出ていない竜崎の能力が難局を切り抜けることを期待したい。

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盤上の向日葵

盤上の向日葵

2020/08/24 16:37

将棋界のミステリーは如何に?

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最近将棋界では藤井八段の活躍が話題をさらっている。まだ18歳ではあるが、将棋は実力の世界である。その他の要素はその実力に隠されてしまう。本書は柚月のミステリー小説と言えるが、その中心となるテーマは将棋である。

 本書にも小学生の将棋の天才が登場する。この少年の不幸な生い立ちなどが縷々紹介されていく。この過程がなかなか読ませるのである。清濁併せのませるのが柚月の物語の運び方である。今回もアマチュアではあるが、真剣士と呼ばれる棋士と親しくなる。いわゆる賭け将棋である。

 周囲の環境の問題であろうが、将来を嘱望されている東大卒の棋士の登場には、やや不自然であろう。この主人公が出世を重ね、大学を卒業後にベンチャー企業を設立し、実業家として成功したが、将棋への思いを断ち切れず、ついに将棋界に身を投じる。

 奨励会を特例でパスし、プロの棋士になったのだが、そこからが波乱万丈のストーリーの面白さであろう。ただし、将棋に興味のない読者には面白さは半分かも知れない。将棋のシーンが多く、その内容も詳しく掲載してあり、将棋ファンへのサービスは満点である。ミステリー小説としては、柚月の作風は、松本清張を想起させる展開だと常々思うのだが、出会いから殺人までの過程がやや雑で不自然であった。

 主人公の生い立ちがかなり複雑で、ミステリーとはこのくらい入り組んだ生い立ちを持った主人公出ないと、耐えられないのかも知れない。松本清張風の作風もそこに源があるのかも知れない。もっともそこも作家の力量のうちの一つではある。

 藤井八段の登場で私が読んだタイミングは良かったと思うし、文庫版が出版されたのも出版の後押しと解釈したい。しかし、すでに述べたように藤井八段と真剣士とはタイミングも雰囲気も馴染まないであろう。

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昨日がなければ明日もない

昨日がなければ明日もない

2020/08/23 10:19

探偵事務所の仕事は大変疲労する

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本書は宮部みゆきの杉村三郎シリーズの最新作である。このシリーズでのこれまでの杉本の身辺は常に動乱状態であった。それだけに本書は読者、ファンにとっては待ち望んだ続編であったと言えよう。本書ではタイトルとなっている『昨日がなければ明日もない』他、『絶対零度』、『華燭』という3本立てである。

 いずれも依頼人は女性であるが、これまでの杉村の経験からすれば、事務所やご近所、会社などを震撼とさせるほどの問題ではなかった。それでは退屈かと言えば、けっしてそうではない。それではシリーズ作とはいえない。

  『絶対零度』は依頼人が探している自分の娘と連絡が取れなくなったというごくありふれた事件調査である。ところが娘の亭主は、娘は入院しており、面会できないとつっぱねる。そこで引っ込んでいたのでは商売にならないので、杉村はぐいぐいと押していく。

  『華燭』は家族関係が複雑である。その家族とは杉村探偵事務所のご近所である。どういうわけか、その依頼人の姪と一緒に披露宴に出て欲しいというものである。何だか便利屋のような仕事である。それも探偵の仕事のうちなのだろう。しかし、その披露宴では想像外のことがおこる。

  『昨日がなければ明日もない』は救いようのない女性に関する相談である。こういう人がいてもおかしくはないが、何だか自分が杉村の立場に立たされて、相談を受けているような気にさせられる。故意に他人を苦しめるように行動しているとも思えないが、それでよく生活できるなあと感心させられる。

 いずれにしても、ここに描かれている杉村は、今まで同様、とくに芯のしっかりしている青年という印象はないし、心の中は闘志にあふれているということもない。これでよく探偵ができるものだと思う。ああ、そうか、杉村の告白集でもう1本別にストーリーを造り上げるという宮部の表裏の両面作戦か?

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火定

火定

2020/08/23 08:44

天平時代の小説で気になること

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本書は歴史小説で直木賞候補となった澤田瞳子の一冊である。ここでは奈良時代、藤原不比等が首皇子を聖武天皇にした頃、国全体を襲った天然痘で貴族から庶民までこの災禍によって大勢の人々が亡くなった。不比等が期待の4人の息子も呆気なくこの世を去ってしまった。

 しかし、舞台は朝堂ではない。光明皇后が建設した施薬院と悲田院である。735年から37年までが大流行したと言われており、まさに天平のパンデミックが発生した。人口の3割が死亡したともいわれている。

 主役は施薬院の若手であるが、登場人物は多様である。中でも医師が際立つ。医師仲間で疎んじられ、ついには追い出されてしまうが、藤原房前に雇われてから、天然痘に対する御札作りでぼろ儲けをするに至る。結局昔の仲間と出会い、医師としての職業に目覚めるという猪名部諸男がストーリーの柱である。むしろこちらが主役と言ってもよい。

 天平時代を時代背景にしており、部分的にも史実を踏まえている。現代人の気質をそのまま天平時代に持ち込み、まるでタイムマシンに乗って天平時代に生きる現代人を描くというほど単純、素朴な訳はない。偶然であるが、この時代は天然痘のパンデミック、現代は新型コロナウィルスという共通点がある。

 どの時代でも同じことが言えるのだが、天平時代に生きる人々と現代人とは何が共通し、何が異なっているのか。天平時代は今から1300年も前の時代である。人間同士が抱く感情が同じであっても不思議はないが、では何が異なるのであろうか。江戸時代の時代小説であるならばそんなことはたいして気にはならないが、天平、鎌倉、平安となるとどうにも気になるのである。時代小説にそこまで求めては行き過ぎなのかも知れない。

 澤田はすでに直木賞候補作品を幾冊か発表している。是非、古代の日本人の心情、傾向などを描き続けて欲しいものだ。

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稚児桜 能楽ものがたり

稚児桜 能楽ものがたり

2020/08/22 18:35

能楽と文学のかかわり

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本書は澤田瞳子が描く、能楽を下敷きにした短編小説である。能楽を下書きにした小説はないようで結構存在している。最も有名なのは三島由紀夫の『近代能楽集』であろうか。また、中山可穂の『弱法師』というのもあった。

 能楽のストーリーは、ストーリーだけを楽しむものではないせいか、きわめてシンプルである場合が多い。また、パターン化されている場合も多く、登場人物も同じ人物が登場することがある。

 そのシンプルなストーリーに触発されてか、前出の三島由紀夫の『近代能楽集』は、能のストーリーを現代モノにアレンジし、それを脚本化してそのまま舞台で演じることもできるようにしている点に特徴がある。中山の『弱法師』は、3つの能楽のストーリーを現代版に練り直しており、その原作のストーリーをうまく短編小説にしたものであった。

 本書澤田の『稚児桜』は、8篇の作品をあまり手を加えず、そのままアレンジし、別のストーリーに仕上げている。登場人物は原作とほぼ同様であるが、ストーリーでの役割やかかわりなどは原作とは異なる場合が多い。いずれの作品も興味深いが、中でも『小鍛冶』、『国栖』、『善知鳥』、『班女』などは印象に残る。本書も直木賞候補作品に選ばれている。

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パーフェクト・ブルー 新装版

パーフェクト・ブルー 新装版

2020/08/10 22:37

殺人事件に絡む謎解き

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本書は宮部みゆきが初めて世に出した単行本である。実はこの本の登場人物はすでに読んでいた『心とろかすような マサの事件簿』のそれと同じであった。つまり、シリーズものであった。蓮見探偵事務所の活躍譚である。先に後から出たシリーズモノを読むのは、やはり順序が逆なので何となくぎくしゃくしてしまう。

 マサの事件簿は、蓮見探偵事務所の面々が関係する事件の記録とでもいうような短編集である。しかし、本編は一つの事件で前頁を費やしている長編である。マサの事件簿ではそれほどの露出度のなかった諸岡進也が大活躍である。どこにでもいそうだが、きわめて頭の回転が速く、行動的な性格である。

 ストーリーについては読めば分かるので、差し控えるが、作者宮部みゆきのそれ以降の重要な作品について、なるほどと納得させられる点がある。そのような端緒があちこちにちりばめられているということである。ストーリーの進行は、『模倣犯』を想起させるし、少年や糸子のやり取りなどは中学生が活躍する『ソロモンの偽証』を思い浮かべることができた。

 いずれの作品も殺人事件が絡んでいるが、本書でも殺人事件の解決に探偵事務所の面々が活躍する。もちろん、武器も何もない民間人ではあるので、実際にはありえないと思うのだが、小説の中の出来事なので、納得してしまう。被害者を含めて、登場人物には意外な人物が驚かされてしまった。含まれている。製薬会社の社員が絡んでくる。

 その登場振りに意外性があり、現代であればそれほどではなかったかも知れないが、発表当時の世相では、読者には想像外のプロットであったかも知れない。いずれにしてもその先見性に驚かされてしまった。

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マスカレード・ナイト

マスカレード・ナイト

2020/08/05 17:26

あくまで警察小説であって欲しい

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人気作家、東野圭吾のマスカレードシリーズの最新作である。登場人物は主人公の警視庁捜査一課の新田浩介、勤務するホテルのコンシェルジェに昇格した山岸尚美を中心に展開していく。本編はマスカレードシリーズの3作目である。マスカレードホテルは昨年木村拓哉で映画化された。

 こういう場面で、警察とホテルが協力し、犯人逮捕に辿り着くことがあるのだろうか?今までの実績で新田と山岸が再々登場するわけであるが、事件、あるいはもめ事については、ホテルの様々な業務実例紹介の合間に描かれている。その辺りのバランスは非常にうまい。うっかりすると、事件の本質を見逃して今いかねない。

 それは警視庁側、ホテル側も同様である。警視庁側がホテル宿泊客の荷物をチェックしたり、職務質問したりとホテル外での警察権の行使については、当然両者の立場は対立する。この辺りが本シリーズの面白さかもしれない。

 ホテルが舞台になっているので、当然ながら一癖も二癖もある人物が宿泊客として登場する。この中の誰が本編の殺人事件に絡んでいるのか。それがこのシリーズの最大の見せ場であろう。かなり手の込んだストーリーが考えられており、東野圭吾お得意の筋書きである。3作目ともなると、レギュラーの登場人物も読者にとっては様子が分かってくるので、新田や山岸の私的な部分も知りたくなってくる。

 しかしながら、本編ではあくまで警察が追及する事件を中心に組み立てた続編を望みたい。せっかく作ったキャラクターは大事に扱い、それに行き詰まったからといって、別方向に逃げてしまうのはテレビドラマに任せて、東野圭吾特有のマスカレードシリーズを描いてもらいたい。

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恋衣とはずがたり

恋衣とはずがたり

2020/08/02 00:13

昭和に発見された鎌倉時代の公家文学に驚愕

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本書は奥山景布子の描く平安時代がテーマとなっている。「恋衣 とはずがたり」は、有名な「とはずがたり」という紀行文あるいは日記として遺された文学作品である。単なる記録文学ではなく、名の残る貴族の娘が主人公となっている。この主人公は養父母に育てられており、実の父母は誰だか分かっていない。時代は鎌倉時代で、政を司る皇族や貴族の天下であった平安時代から大きく変化した時期である。

 父親は時折訪ねてくるので何とか分かってきたが、母親は全く分からないし、誰も教えてくれない。ある日、父親が五巻から成る書を預けていった。それを読み始めると主人公は夢中になる。自分の実の母親の日記のように書かれているからである。読み解くうちに母親は
南北朝時代持明院統であった後深草院に仕える女御であったらしいことが分かる。

 そこからは院の側に仕える女御としての生活が描かれる。院自身を含めて、大勢の皇室、公家との交わりが描かれているが、後半は院との関係が悪くなり、院の側を離れて流浪の旅に出る。ここからは日記文学になっている。これらは主人公ではなく、主人公の実母の記録である。とはいっても真実が描かれているのかどうかは分からない。

 それにしても石清水参り、伊勢参りのみならず、鎌倉を訪問し、鎌倉親王将軍、執権北条貞時に近付き、院の女御の実績を誇示している。ときの鎌倉は蒙古軍襲来の直後であったが、すでに得宗平頼綱に実権が移っていた記述も出てくる。

 「とはずがたり」はこれまでも瀬戸内寂聴始め多数の作家が自説を開示している。すなわち、自分なりの小説として出版している。奥山作品も大変興味深く読み、当時の公家、武家、皇族の立ち振る舞いがよく理解できる貴重な作品であると思う。歴史とくに中世の歴史を舞台にした作品は希少で、今後もぜひ鎌倉、室町時代の人間模様を描いてもらいたい。

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心とろかすような マサの事件簿 新装新版

心とろかすような マサの事件簿 新装新版

2020/07/30 18:22

探偵事務所とは?

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本書は宮部みゆきが小説家としてデビューした作品のシリーズ第2作である。副題の「マサの事件簿」のマサとは、犬である。元警察犬でそれなりのキャリアを持っていることになっている。OB警察犬が引退すると、後は気楽な隠居暮らしなのであろうか? 実際都のところは分からないが、それまで培ってきた経験を活かしたいところであろう。まるで人間の老後とほとんど同じであるところが面白い。

 本書は2作目であるが、このマサは蓮見探偵事務所の所属である。とはいっても、この探偵事務所は他でも同様、個人経営の事務所である。ここでは用心犬と呼ばれている。所員として調査員が在籍しているが、主要な探偵は所長の蓮見氏と長女の加代子である。その他、侍女の糸子がいる。

 構成としては短編5作から成っている。あくまで主人公はマサなので、マサから見た事件のエピソードが語られている。小説やテレビドラマには私立探偵はよく登場する。しかし、わが国ではあまり表に出てこない地味な調査では顔を出すが、一般にはなじみがない。昔からの興信所にはお世話になっている方も多いかもしれない。

 探偵業を個人で営むことはなかなか難しそうである。わが国では人に関する調査業が主たる業務と言っても過言ではない。特別な資格が必要なわけでもないので、すぐに開業できるのだが、優良な顧客基盤がないとすぐに干上がってしまう。したがって、弁護士、司法書士などの資格者が行う調査業を受託するなどの工夫が必要となる。米国のテレビドラマ、ペリー・メースンにも探偵のポールがいつも付き添っている。

 では、本書のマサは探偵事務所でどのような活躍を見せるかは、色々な展開があるので興味深い。やはり社会を相手にする商売なので、リスクも少なくない。用人犬は役に立ってくれるのだろうか? 本書を読む前に、1作目のパーフェクトブルーを読んだ方がよいかも知れない。そういうは小生もこれからであるが。

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