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かけだし読書レビュアーさんのレビュー一覧

投稿者:かけだし読書レビュアー

282 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本静寂の叫び 上

2002/04/04 23:49

恐るべきリアリティ

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 物語自体は至ってシンプル。人質を盾に篭城した犯人と、説得にあたる交渉人の物語。少し変わったところといえば、人質にとられた者が聾者だったということ。犯人と交渉人のやりとりが延々と繰り広げられる内容なのに、これがリアルで臨場感抜群。

 言葉一つで人質が死に追いこまれるかもしれないという緊張感、焦り、そして人質が解放された時の安堵感。読んでいて実際に自分もその場にいるようなリアリティ。あと面白いのは事件に対する取り組み方のギャップ。日本とは全く異なるアプローチの仕方なので、読んでいて新鮮です。最後もあっと驚く仕掛けがあるんですけれど、思わぬ展開に驚きました。知的好奇心も満たされ尚且つ、手に汗握るサスペンス。文句ナシにお薦め。

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紙の本燃える男

2002/03/20 02:03

陵辱されて死んだ少女復讐を誓う初老の元傭兵

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 戦場を離れ、生き甲斐をなくしていた初老の元傭兵クリーシィが主人公。ひょんなことから少女のボディーガードをすることに。はじめは心を閉ざしていた彼だったが、少女の無垢な心に触れ変わりはじめる。戦うことでしか己の価値を見出せなかった男に訪れた一時の安らぎ。しかしマフィアの手によって少女は誘拐され、クリーシィもその身に銃弾を浴びて倒れる。後に少女が陵辱された挙句死体で見つかったことを知り、彼はマフィアに復讐を誓う。

 レオンとランボーを足したような作品。無骨な男が少女との出会いによって変貌する過程がとても良い。少女も変に子供っぽくなくて、レオンに出てきたマチルダを何処か思わせる。中盤〜後半はロッキーとランボーの世界。物語とは直接関係ないけれど、食事シーンがやたらうまそうに描かれているのでグルメな方も要チェック。文章も読みやすく一気読み必至。

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紙の本はなはなみんみ物語

2002/02/08 14:57

ちょっと複雑な読後感

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 はなはなとみんみは双子の小人兄妹。銀色つのの山の麓に広がる森の巨人の木で、両親や白ひげじいさんと共に暮らしていた。かっては魔法を使い栄えていた小人族だったが、過去に起こった小人大戦争をきっかけに一族はほとんど死に絶え、世界から魔法も失われてしまった。そんなある日、驚くべき知らせが訪れる。彼らの他に小人の生き残りが存在するというのだ。一家は仲間を求めて旅立つ決意を固める。

 はなはなみんみ物語といった親しみやすいタイトルやほのぼのとした表紙の絵、そしてやわらかな文体から受ける印象とは異なり、内容の方はシビア。作者自身あとがきの方で記しているように、物語の中に深く暗い戦争の影が垣間見える。例えば、過去の戦争で登場する「いかり玉」という爆弾を身につけて敵地に突っ込む空中部隊は特攻隊を思わせるし、生き残ったことに対して負い目を感じている老人がいたり。残念ながらそういったエピソードが、この物語の持つ他の魅力的な部分まで撲殺しているように感じられた。

 要所、要所、良い場面もあるし、魅力的な登場人物(動物)もいる。物語自体の雰囲気や展開も凄く良い。読んでいて作者の作品に対する愛情や真摯な姿勢も伝わってくる。家族で力を合わせて困難を乗り切る場面や、夜空を飛行する場面など、楽しい部分も沢山あった。それだけにスッキリと楽しめない部分(特に結末)が残念だった。そこさえなければ子供から大人まで広く親しまれる作品になったと思う。といっても決して悪い作品ではない。個人的にはとても気に入っている。これから先の展開に期待したい。

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紙の本あなたの魂に安らぎあれ

2002/04/09 06:06

ディック+星新一「ブランコのむこうで」

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 作品に漂う雰囲気はディック、文章は星新一の「ブランコのむこうで」を思わせる。特にブランコの出だし「その日は朝おきた時から、なにかが起こりそうな感じがしていた。どんなふうな感じかと聴かれても、ぼく困ってしまうんだな。でも、こんな時にはっきり説明できないのは、だれだって同じじゃないかしらん」といった部分を比べても違和感がない。繰り広げられるのはディック的な濃厚な世界だが、星新一を思わせるような文体ということもあってか比較的この手の作品にしてはとっつきやすい。

 物語の舞台は火星。地上にはアンドロイドが都市を築き、人は地下で生活をしている。幻想の教師、性を売る女、予知能力を持つ男など、何処かうさんくさい世界観が秀逸。面白いのはアンドロイドの世界で囁かれる神「エンズビル」の光臨の噂とアンドロイドの秘密。最後はかなり意外だった。質の高いSFだと思う。お勧め。

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紙の本海賊モア船長の遍歴

2002/04/28 08:58

海賊稼業も楽じゃない。ひょんなことから海賊船の船長となったとある男の物語

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

荒くれ海賊どもの活躍を描いた単純な冒険活劇というよりも、海賊の実体(日常)をリアルに描いたユニークな作品。映画や本で登場する海賊のイメージといえば、目の前を通る船を襲撃し金品を強奪。邪魔者は殺し、女は犯し、我が物顔でこの世の海を支配する、といったいささか画一的で単純なものだが、この本に登場する海賊はまた違った味わいがある。

後に海賊の船長となるこの物語の主人公、ジェームズ・モアの経歴からして異色なのだ。もともと東インド会社に勤務する航海士だった彼は、ある日海賊の襲撃を受け、そこに行方不明だった兄の姿を目撃する。それが発端となり海賊に内通する者としての疑いをかけられ解雇されたばかりでなく、妻の不可解な死の容疑者としての嫌疑をかけられる。何もかもを失い人生に悲観していた折、彼は当時の同僚「大樽」の誘いをうけ、イギリス国王ウィリアム三世から海賊討伐の委任状を授かったキッド船長率いる「アドヴェンチャー・ギャレー号」に乗りこむ。だが、目当ての海賊船に遭遇することもなく、金も食料もつきかけて苛立ったキッド船長が下した判断は、事もあろうか自らが海賊となって他の船を襲撃することだった。

と、この物語の主人公モアが歩む人生は波乱万丈だ。望んで海賊になった訳ではなく、気がつけば海賊となっていた、といった有様。後に独立し海賊のボスになるのだが、力で他者を支配するのではなく、乗組員は共通の目的を持って集まった自由人であり、それぞれの役割は評決で決められるなど、どこか民主的。他にも戦闘による負傷者への保証金を支払うことを定めたり、無益な殺生をしないようにするなど、従来の海賊の姿とは大きくかけ離れている。

部下もモアよりもよほど海賊のボスとしてふさわしいような貴族風の謎めいた「男爵」、何処か薄気味悪い医者の「ドクター」、東洋の刀に憧れる鍛冶屋の「プラトン」など、個性豊かな面々が勢揃い。物語も謎の秘密結社「薔薇十字団」を含め、兄の死の鍵を握っている海賊船タイタンの船長ブラットリーとのからみなど変化に富んでいる。この手の海賊小説とはまた違った魅力を持つ作品だった。

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紙の本エレンディラ

2002/04/11 06:21

百年の孤独の作者による、大人のための残酷な童話

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 マルケスといえば百年の孤独が有名だが、これは大作「百年の孤独」と「族長の秋」の合間に発表された、大人のための残酷な童話だそうだ。確かに読んでみると民話や伝承を思わせるようなところがある。文章の方も味はあるが難解ではない。

 あとがきによると、南米にはニメートルの大ミミズなるものが存在するそうだが、それも現地の人からすると特に驚くようなことではないらしい。そういった土地柄もあるのか物語中に奇妙な事件が発生しても、日曜日の次は月曜日、といったごくごく普通の出来事のように描かれているところが面白い。

 例えばはじめの短編の出だしは蟹の死骸の山を捨てに行ったら、ぬかるみで倒れてた翼の生えた老人を見つけるというものだが、凄い奇跡が起こる訳でもなく、淡々とした日常の中のちょっと物珍しい出来事、といった風情。そういったシュールともいえる独特の雰囲気が魅力的だ。一つ一つの物語がそれほど長くないので気ままに読める点もありがたい。

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超能力漫画の先駆け的存在

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 これはアニメにもなっていたので知っている人もいるんじゃないでしょうか? 砂嵐に守られるようにして天にそびえるバベルの塔。その主となるのが超能力を持った少年浩一。超音波を口から発射する怪鳥ロプロス、ロボットのポセイドン、そして姿を自由自在に変えるロデムの3つのしもべと共に、世界征服を企むヨミと熾烈なサイキックバトルを繰り広げる物語。さすがにポセイドンなどは今見るとちょっとデザインが古臭いけれど、面白さの鮮度は不滅です。ちなみにバビル好きなら少しマイナーですけれど同作者の「マーズ」もおすすめ。

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紙の本月神の統べる森で

2002/02/18 18:50

壮大な物語のはじまり

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 はるか太古の昔。人々は山にも川にも獣たちにも神が宿ると考えて、月神の支配する森の恵みを受けて暮らしていた。あるとき海の向こうから異なった言葉を話し、人を殺める武器を携えた人々が現れた。ヒメカという日の神の巫女に従う彼らは土地を囲ってクニと称し、ムラへの攻撃を開始した。ムラの若き長アルテイと、半人半神の月神の巫女シクイルケは、傷ついた体でヒメカのクニを逃れてさすらう旅の途中、翡翠色の目をもつ少年ポイシュマと運命的な出会いをするのだったが……。

 古代日本を舞台にしたたつみやファンタジー四部作の第一弾。不思議な力を持つ巫女シクイルケや実直なアルテイに加え、不思議な運命を背負うポイシュマ、そしてヒメカのクニの少年でありながらシクイルケに命を救われたワカヒコなど、様々な人の想いが交錯して織り成される物語は重厚で、深い味わいがある。特にポイシュマと父のエピソードは感動的だった。これから先運命に翻弄されることになりそうな二人の少年、ポイシュマとワカヒコの先行きが気になる。物語に添えられた東逸子のイラストも素晴らしい。 

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紙の本ごんぎつね

2002/05/11 14:24

最後がかなしい

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

新見南吉が残した作品の中でも、多分一番知名度が高いと思われるのが、こ
のごんぎつね。これは十七歳の時に書かれた作品だそうです。国語の教科書
にも掲載され、さまざまな出版社から発売されていますが、個人的に一番お
勧めしたいのは、この絵本版ごんぎつね。シンプルで読みやすいのが特徴で
すが、何といっても箕田源二郎氏の描く子ぎつねごんの姿が愛らしい。

籠の隅からひょっこりと顔だけのぞかせるシーン、くりやまつたけを届け、
嬉しそうに帰るごんの姿など。ただ、それだけにこの物語の悲劇的な結末に
胸が痛みます。今回大人になって改めて読み返してみると、ラストが意外に
淡白な書き方であることに驚きました。

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紙の本八十日間世界一周

2002/03/18 05:33

これは面白かった。痛快!世界一周大冒険

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 物語の序盤、刺激的な事件などを取り入れて読者を作品の中に引き込もうといった手法があるが、この本の場合は主人公の英国貴族の紹介から始まる。

 どうやらフィリアス・フォッグ卿なる人物は、金はしこたまあるが執着心は薄く、名を隠して慈善を必要とする団体に寄付はするものの、どうやって財を築いたのかは誰も知らない。おまけに目立つのは嫌いで、何故か旅についての知識が豊富。そして下男が持ってきた髭剃りの湯の温度がニ度低いということでお払い箱にした、と、なんだか風変わりな人物像。

 だが、この主人公の魅力はそれだけじゃない。どんなピンチを迎えても全く取り乱すことはなく、頭の回転は常にシャープで行動力も抜群。そんな彼がひょんなことから新しく雇った下男と共に世界を八十日で一周しようとする物語だ。これが波乱万丈、コミカルで痛快。途中、日本も出てくるのだが、今読むとなんだか可笑しい。

 飄々とした性格ながら、心の中に熱いものを持つ奇妙な英国紳士フォッグ。彼に魅了されながら共に旅する世界ツアー。あなたも出かけてみませんか?

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紙の本えんの松原

2002/02/04 11:20

日本の児童文学の良さが実感できる一冊

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 主人公の音羽は居場所がなく、男子禁制とされる温明殿に女の子の格好をさせられ預けられる。彼はある日賢所の奥に神鏡を見ようと忍び込んだ男の子と出会う。少年の名は憲平、次の天皇となる予定の若き皇子だったが、彼は夜な夜な得体のしれない怨霊に悩まされていた。やがて身分の差を越えて打ちとけあった二人は、力を合わせ困難に立ち向かう決意を固める。

 鬼の橋が良かったので今回も読んでみることに。それほど派手なドラマがある訳でもなくどちらかといえば地味な内容なんですけれど、やっぱり良いです、この作者。怨霊が棲むといわれる「えんの松原」の不気味さや夜の静けさ、心細さ、闇に浮かぶ光のあたたかさなど、何気ない情景描写が抜群にうまい。落ち着いて読める安心感があります。また鬼の橋と同じく脇役も良いんですよね〜。特に今回の作品では音羽をそっと見守る伴内侍の愛情に胸を打たれました。個人的にはこの作品に合ったどっしりとした装丁や挿し絵も気に入ってます。

 印象に残った台詞は音羽の「怨霊のいない世の中というのは、ほんとうにいい世の中なんだろうか。悲しい思いをしたまま死んでしまった人間のことなんか忘れてしまうような世の中は、今よりずっと恐ろしい……」 。

 人の哀しみを理解することの大切さを、そっと訴えかけているような物語。良い意味で今の時代と読者に媚びていない作品だなぁ、と感じます。オススメ。

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紙の本闇の守り人

2002/01/16 00:29

深く重厚な物語

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 守り人シリーズの2作目。精霊の守り人が読んでスカッとするような娯楽作品だったのに対して、今回はじっくりと読ませるような重厚な物語。読み終わった後に読んだ、って気にさせられます。

 主人公は前作同様バルサ。彼女が自分の心の中に積もるわだかまりを清算すべく、生まれ故郷のカンバル国に戻る場面からはじまります。そこに待ちうけていたのは都合よく塗り変えられていた過去の歴史と、愚かな男が目論む恐ろしい陰謀。歯がゆさとやりきれなさを感じるような物語で、読んで得られる爽快感は前作に劣るものの、それだけにクライマックスの壮大さに胸を打たれました。

 またディティ−ルが細かい。本を開くと簡単な地図、登場人物紹介、用語集などがあるんですけど、作者のこだわりを感じます。特に昼は洞窟のなかにくらし、月の美しい夜は山のいわばで狩りをする小人「ティティ・ラン」なんて良いですね。精霊の守り人とはまた違った魅力のある作品でした。

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紙の本星の王子さま オリジナル版

2002/07/15 09:57

シンプルでいながら心に響く

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

作者自身の手による素朴な水彩画と共に、「目には見えない大切なもの」を、シンプルな言葉で描き出した美しい寓話のようなもの。特に王子さまと薔薇との関係が有名ですが、個人的には知恵の象徴として登場するキツネが好きだったりします。読む度に違った印象を受けることもある、不思議な一冊。

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紙の本子ブタシープピッグ

2002/05/19 08:57

映画「ベイブ」の原作となった物語

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

これは映画「ベイブ」の原作となった物語です。主人公はひょんなことから
羊飼いのホギットさんの家にやって来た子豚のベイブ。彼がシープドッグの
コリー犬フライを母代わりに、有能なシープピッグに育つまでの過程が楽し
く描かれています。個人的に好きなのは、お喋り好きのホギットさんの奥さ
んと、口数は少ないけれどなんだか味のあるホギットさんのやりとり。読後
感も良く、読みやすく、万人にお薦めしたい一冊です。

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紙の本どろぼうの神さま

2002/05/16 22:30

月の都ヴェネツィアを舞台に繰り広げられる少年たちの物語

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

物語の舞台は月の都ヴェネツィア。理解のない叔母夫婦から逃げ出してきた
兄弟プロスパーとボーは、亡き母が語っていた憧れの地ヴェネチアに辿りつ
きます。そこで廃墟同然の映画館を根城に暮らす少年たちと出会った彼らは、
謎めいたどろぼうの神さまと呼ばれる少年が盗んできた品々を換金し、大人
達のいない生活を満喫していたのですが、叔母夫婦から捜索を依頼された探
偵に、楽しかった生活が徐々に脅かされはじめ……。

表紙とタイトル、そして大人になりたかった子どもと、子どもになりたかっ
た大人と、そしてありのままでいたかった大人と子どもの物語。といったフ
レーズに惹かれて購入した本ですが、少し思っていたような内容とは違って
いたので意外でした。

物語の序盤は映画館の廃墟で暮らす少年たちの姿と、彼らを探す探偵のパー
トが交互に語られるような展開で、運河や謎めいた石像のあるヴェネツィア
を舞台に、テンポよく物語は進んでいきます。特に月の都ヴェネツィアの情
景が伝わってくるような文章が秀逸で、序盤から作者の描く世界に魅了され
ました。意外だったのはどろぼうの神さまが、子供たちの憧れのような遠い
存在として描かれているのではなく、実際はかかとの高いブーツを履いて賢
明に大人を演じようとしていた少年だったこと。ある事件がきっかけで仲間
たちの信頼を失う場面があるのですが、それでも認めてもらいたい一心で行
動を起こしたり、虚勢を張る彼の姿が印象的でした。また何処か憎めない探
偵も良い味を出していると思います。

そうやってどちらかといえばリアリスティックな描写で物語は進むのですが、
終盤に子供が大人に、大人が子供になる不思議なメリーゴーラウンドの存在
が描かれます。ただ、そこまでがリアルな描写が続いていただけに、突如現
れるファンタジーの要素に少し違和感を感じた点と、物語終盤の最大の盛り
上がる場面かと思えば描き方が淡白だった事、そこから一気にまとめに入っ
たような性急な展開が残念でした。また早く大人になりたい子供たち、子供
に戻りたい大人たちといったテーマをもっと掘り下げて描き込んでほしかっ
たようにも思います。

個人的には怪しげな依頼を受け、忍び込んだ屋敷で語られる不思議なメリー
ゴーラウンドの話、そこの女主人と共にボートで伯爵を尾行する場面、囚わ
れた少女を救済に向かう中盤〜終盤までが一番面白かったように思えます。
日常の中のちょっとした冒険こそが、実は極上のファンタジーだったのかも
しれません。

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