サイト内検索

詳細検索

ヘルプ

セーフサーチについて

性的・暴力的に過激な表現が含まれる作品の表示を調整できる機能です。
ご利用当初は「セーフサーチ」が「ON」に設定されており、性的・暴力的に過激な表現が含まれる作品の表示が制限されています。
全ての作品を表示するためには「OFF」にしてご覧ください。
※セーフサーチを「OFF」にすると、アダルト認証ページで「はい」を選択した状態になります。
※セーフサーチを「OFF」から「ON」に戻すと、次ページの表示もしくはページ更新後に認証が入ります。

  1. hontoトップ
  2. レビュー
  3. あおいさんのレビュー一覧

あおいさんのレビュー一覧

投稿者:あおい

148 件中 31 件~ 45 件を表示

紙の本

紙の本ムージル著作集 第7巻 小説集

2002/06/24 03:04

「合一」について

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

未完の大作『特性のない男』と処女長篇『若きテルレスのまどい』に挟まれた中短篇のうち、「合一」あるいは「一体化」と訳されるVereinigungenという表題で1911年に単行本としてまとめられた二篇は、静謐と熱狂、観念と感覚が極度に凝縮され研ぎ済まされた形式によって把握された《愛》を描き出している。あらゆる小説がそうであるように、この作品も先行する文学類型のパロディの体裁をとっており、『愛の完成』は姦通小説の、『静かなヴェロニカの誘惑』はタイトルからも察せられるように聖女伝説を踏襲している。
主題論的には理不尽な欲望の寓話だが、それを小説として成立させるのは先に述べた如く極めて精緻に組み立てられた文体の力である。「〜のような」「〜のような」と繰り返し反復される隠喩の重なり合いの描写技法の幻惑性から、「いきなり」「そうして」と副詞による断絶によって叙述の神秘的とさえ思われる決定的時間を生み出し、何かがとりかえしのつかないほどの変容を見せたと思わせてふたたび「〜のような」と繰り返しなにごともなかったかのように隠喩に満たされた空間の海に溺れ込むこの形式は、本質的沈黙と物の饒舌のあいだを辷るように閃く《わたし》の「獣」を呼び覚まし《地》と《図》を何度も反転させ抽象を現前させる。その反復と断絶の文章は息を呑むほどに官能的で濃密だ。小説家古井由吉の原著者と一体になったかのような鏤骨の訳文は素晴らしいの一言に尽きる。
作者ムージルは職業軍人にして機械工学を修めた技術者であり、大学では哲学・数学・物理学の学位を有している明晰かつ厳密な科学的思考の持ち主である。その作品の一種神秘主義的とさえ思われる難解さは、世紀末から二十世紀初頭のウィーンにおける《知》が対象を分割(分類・整理/選別・排除)するものだけではなかったことを知らしめてくれる。ここに書かれている文章は決して晦渋ではなく、それどころか極めて平明なものであり、そして知において平明さこそはもっとも難解であるものなのだ。官能の悦びを、愛を《生きる》のではなく《理解する》ことがおよそ不可能であると思われるように。
しかし人は理解することを望む。この作品の悲劇的な美しさはそのような情熱に由来するのかもしれない。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

暗い青春のリアリティー

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

コバルトを読むのは随分ひさしぶりで、特にファンタジーとはいえ学園ものなので最初少し入るのに手間取ったが、読み進めていくといつもの吉川トリコ作品のノリなのでするすると読めた。いわゆるハリウッドの「天使もの」のヴァリエーションで、ある町に住む四人の少女にそれぞれイケメンの(ここらへんがいかにも現代のコバルトらしい)天使があらわれて、少女の輝きを狙う悪魔(もちろん美形)の企みから少女たちを守りつつ、さまざまな事情(多くは劣等感的なもの)を抱える少女それぞれがみずからの本性的な輝きを自覚して成長する、といういかにも少女漫画的な物語を、同じ時間/物語のパターンが四回にわたってリピートされる(同じシーンやエピソードが視点を変えて反復される)という一種のオムニバススタイルで展開する連作である。こういうスタイルはもちろんおおもとはやはりハリウッド映画だろうし、作者が参照したのはおそらくは少女漫画なのだろうと思うのだが、小説として非常にすんなりと消化されていて、嫌味や気取った感じがしないのがあいかわらず良い。面白いのはコバルトだというのにほぼ全編「恋愛」の要素が登場しないことで、しかも今回は友情へと発展しそうな予感だけがあって友情そのものは明示的に描かれておらず、ほとんどがある意味で「孤独」な少女の内面を描くことに徹している点で(天使と悪魔はそれこそ映画で頭の両側にあらわれる内心の象徴としてのそれの具象化のようにすら思える)、そういう意味では実にあっけらかんと「希望」に満ちたラストになるとは言えど、基本的にとても「暗い青春」の話なのだなと思う。たぶん私が吉川トリコという作家に感じている最大の魅力はこの「暗さ」のリアリティーなのだ。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

紙の本反解釈

2002/07/23 12:15

エクスタシー

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

60年代のアメリカを代表する批評家である著者の第一評論集。
T・S・エリオットを代表とするヨーロッパに亡命したアメリカ人作家(批評家)の多くが芸術において革新的であるために政治的に保守化したのに対し、あくまでユダヤ人的な故郷喪失者的前衛に固執し、芸術に置いても政治的にもラディカルな姿勢を崩さず「現実にコミットするために必要なものはエクスタシーである」との理念のもとアカデミックな領域とジャーナリスティックな領域を自由に往来しつつ文筆活動をつつける姿勢は、先日の同時多発テロ事件以降の空爆の批判などでもいまだ鮮やかである。
人はこの個性的な批評家を<ナタリー・ウッド>という称号を揶揄をもって冠せたりしたのだが、しかし「芸術にレッテルを貼り安心しようとする俗物根性」が、一個の自由な精神を蝕むことは出来ないと言うことを、この清新な著作をいま現在において読み返すことで確認できる。
なお「ロマンス」と副題を添えられた著者の小説「火山に恋して」が少し前に翻訳刊行されたが、小説家として驚くほどの成熟を見せた傑作なので是非ご一読を。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

ゆったり旅気分

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

この文庫の親本「聖パトリック祭の夜」が収録されていた岩波書店のImageCollection精神史発掘シリーズには、松浦寿輝氏の「平面論」やら平野嘉彦氏の「プラハの世紀末」やらとても面白い本がいっぱいあって、出来れば本書のように文庫で再刊してもらいたいものだとつねづね思っている。
鶴岡真弓氏についてはもはや現在ではケルト芸術について研究の蓄積から一般向けにとても親しみやすく、しかし通俗に堕しはしない清潔な文章を書く一として知らない人はいないだろうと思うのだけれど、ちょっとぼんやりしたところのある僕などには前著「ケルト的思考」よりもジェイムズ・ジョイスを中心として小説のように楽しげに物語る本書のほうではじめてその魅力に触れたのであった。
実際いま読んでもこの本の語り口のゆるやかさはそれ自体が旅のようであり、ウンベルト・エーコに倣った「ケルズの書」とジョイスの作品の関連を綿密に分析する核心部分をクライマックスとしながら、むしろ本読みとしてこの本に愛着を感じるのは誰か作家や作品について批評的に分析するようなところではなく、章と賞を繋ぐ柔らかな遊びのような文章の部分である。それは「漂泊」「エグザイル」「航海」という本書全体を貫く主題とも相俟って、決して悲劇的な、というよりもむしろ生真面目な深刻さとは一切無縁の高貴さのようなものを感じさせてくれ、とても感動的だ。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

風と魂

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

別冊「花とゆめ」で平成七年から八年にかけて「砂漠に吹く風」というタイトルで連載されいったん中断し(のち同題で単行本化)、「ふぉん」という生命体の設定のみを残して書き継がれた傑作SF漫画。
尋常ではない経歴を持つ登場人物たちの複雑に絡み合った愛憎を、風のように過ぎ去っていく生の運命を魂に昇華させる物語の中で、登場人物たちのとぼけた性格づけや微妙にずれた会話がとてもおかしく、強引なラストの感動もさることながらずっと読んでいたいという気にさせる温かさがある。
著者の本はあまり書店でも見掛けずどうも一部のマニア向けとなっているようだが、萩尾望都以来の少女漫画SFの正統を継ぐ佳作だが素晴らしい漫画家であって、もっと多くの人に読んでもらいたいと思う。
というか小説もいいけど次の漫画が読みたいよ〜。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

紙の本宇宙船ビーグル号

2002/07/07 06:08

エイリアンの原作だって知ってる?

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「ケアルは飢えていた」
この一行からはじまる傑作をもし読んでいないSFファンがいたら幸福である。なにしろあなたの前には宝の山が待っているからだ。
SFというジャンルは「未来」や「宇宙」を巨大な「外部」として規定し、「侵入」「遭遇」「逸脱」などさまざまな手法によって「人間」を存在論的な領域で葛藤させる巨大な実験室である。SF以前においてそのような「異世界」への旅は倫理的な問題であったことを忘れてはいけない。
ヴォクトの作品にある巨大な虚無は、そのような道徳律を破壊する二十世紀の娯楽のエネルギーに満ち満ちている。むしろ近年内面化(道徳化)が進行しつつあるSFに活を入れるためにも是非とも再読されるべき一作。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

紙の本フランス恋愛小説論

2002/07/07 05:19

はじめて読むときも、本当は読み返しているのだ

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

タイトルは著者があとがきでイタロ・カルヴィーノの「古典とは何か?」という著作から引いた言葉である。
工藤庸子氏は、フランス文学の研究者として「68年」を中心とする文学理論の「科学」と「政治」に揺れ動いた世代の遺産を継承し、研究室の内部に自足せず、またいたずらにジャーナリスティックに振る舞うこともしないまっとうでいて実りの多い活動をしている文筆家である。本書は中公新書の「プルーストからコレットへ」の続編とも考えられる「恋愛」を主題とする近代フランス小説論だ。「風俗を意匠としつつそれ自体が風俗的な存在」である小説というジャンルを年代順に分析する手さばきは鮮やかで、まるで歴史の本を読んでいるような気分さえ味わえる。
選ばれている作品はどれも名作ぞろい。「クレーヴの奥方」(ラファイエット夫人)「危険な関係」(ラクロ)「カルメン」(メリメ)「感情教育」(フローベール)「シェリ」(コレット)の五篇であり、うち二作は彼女自身による邦訳が存在する。選ばれている作品が名作であるということは、近年の批評理論の成果をふんだんに盛り込めるということもあって、フランス近代小説についての分析もさることながら、同時にフランス近代小説に関する批評についての構図も二重写しに浮かび上がってくる仕掛けになっており、しかもその文章そのものは具体的な細部の分析から決して離れない平易な文章となっているので、古典と呼ばれる作品がどうにもそっけなく、難しいものだと思われるような少しばかり柔軟性に欠ける読者にとってとても魅力的な読書案内になるばかりでなく、文学理論の「味わいどころ」も学ぶことが出来るだろうと思われる好著である。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

「証明」とは何か?

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

トマス・アクィナス研究の著者が、中世と近代をオッカムの理論(テクスト)を認識論的切断として読解した本。ヨハネス・ドゥンス・スコトゥスの存在論も一部出てくるが、基本的に認識論の本であり、近・現代に於いて霊魂論がいかにして廃棄されたかを詳しく論じていて面白い。やはり中世は宝の山だ。
とくにアクィナスの「論証」は、「抽象」とか「証明」とかいう概念がひとつの歴史的な方法にほかならないと思わせてくれるくらい決定的にわかりにくいもので、「いったい何故それが「証明」なのか?」を少し真剣に考えないと、中世キリスト教文化というのはなかなか近代人にはわかりにくいものなのだ、と再確認できる。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

紙の本マラルメ論

2002/07/03 03:33

抜群に面白い評伝

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

サルトルの書く作家論はめちゃめちゃ強引で、おいおいあんたあんたと思いながらもついついいつの間にか語り口に引き込まれてしまう。小説よりもうまいんとちゃうやろか。ところでマラルメはわっけわっからん詩人ですけど、いま筑摩から出ている銀色の函に入った法外な定価のついている全集本は詳細な註がついていて読みやすいのでフランスの詩に興味のある人は図書館で読んでみて下さい。ほとんど暗号解読に近いのでミステリ好きの人にもいいかも。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

紙の本約束

2002/07/02 01:47

アンチ・ミステリの古典

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

二十世紀スイス文学の代表的戯曲作家によるメタ・ミステリの先駆的傑作。42年前にハヤカワポケミスに収録された本書は、ミステリの文脈においてではなくホフマンスタール以来の世紀末ウィーン文学の系譜に連なる幻想小説の傑作として長らく復刊が望まれていたものなのだが、この作品は、もともと著者が決定的名声を得た『貴婦人故郷に帰る』の映画化の成功によってハリウッドに迎えられ、脚本を担当するも当時のハリウッドの自主規制コードのために充分な仕事が出来ず、最終的に制作された『真昼の出来事』という作品に不満を持ち、帰国後「推理小説へのレクイエム」という副題を添えて書き下ろされたという作品で、それがどういうわけか現在のハリウッドで「映画作家」として徐々に地位を固めつつあるショーン・ペン監督によって再映画化され、ここにこうして文庫による再刊が実現した。
その作品成立の経緯と副題からも察せられるように、この作品は「推理小説」というジャンルそのものについての批評性がその内容の多くを規定している。けれどもこれは「メタ・ミステリ」ではない。近頃の「新本格」ブームの対策と較べると本作品の批評性はむしろ素朴とさえいえ、ミステリファンがオタク批評的な新鮮味を求めるとすれば大いにがっかりすることになるだろう。
本来的に戯曲作家であり、散文詩のような哲学的エッセンスに満ちた文体によって描き出される物語は、むしろ最小の要素を的確に配することで主題を明確にさせる手法的意識に支えられており、その主題は「天才」という存在の不条理に焦点が当てられ、日本人にはなかなか理解しがたい神学的構図のもとで悲劇の廃墟としての喜劇があっさりと語られている。それはメタ・ミステリにおいて重要視される「探偵」という存在の英雄性と同じ系譜に属する問題ではあるのだが、そうであるがゆえに、まったくヒロイズムとは無縁なこの荒涼たる風景に、ミステリファンは違和感を持たずにはいられないだろうと思われるからだ。むしろこの作品は、ウィーン世紀末文学からカフカ、第二次世界大戦後のフランス文学(実存主義とヌーヴォ・ロマン)の読者にもっとも歓迎される質のものである。

なお、そのような経緯の小説であるのでいたしかたないことだが、「訳者あとがき」でいわゆる「ネタばれ」をやっているので、結末がわかっているミステリを読むのが嫌いな人は決して「あとがき」を先に読んではいけない。いろいろ書いたけれども、オールドスタイルのアンチ・ミステリの中篇としてならミステリファンも楽しめる内容の小説ではあるので、この独特のアイロニーを楽しんで欲しい。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

紙の本神の御使い 1巻

2002/06/30 10:24

動かないマルドロール

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ロック・ミュージシャンにして映画俳優の処女長篇小説だが、かなり本格的で読ませる内容になっている。むろん、奇妙に複雑で思わせぶりで造り込んだ作品は、素人ならではの傲慢さが弾けまくっているが、同時のその偏執に惹きつけられる人も多いのではないかと思うし、その意味では著者が芸能人であることはマイナスに作用しているかもしれない。ざっと読んだ印象では「動かないマルドロール」といった感じ。もう少し突っ込んで書けばメルヴィルに通じるようなところもある。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

お喋りのあいだ

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

のほほんラヴコメ。とにかく登場人物がよく喋る。しかもそれはすべてがどう考えてもどうでもいいようなことばかりなのだが、しかし考えてみれば(というか、考えるまでもなく、というべきかもしれないけれど)もともとラヴコメ、あるいは恋愛なんていうものはその物語自体がどうでもいいことの集積であるのでなんとも面白おかしい。そのお喋りの隙間に覗く狂気なんてものを大袈裟にとってはいけない。それは当たり前に、つねに、すでに、そこにそのようにあるものなのだ。
一巻が上梓されてもうだいぶん経っているのだが、続刊はまだなのだろうか。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

テクノロジーの夢

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

作品という概念がテクノロジーといかなる関係を描いてきているのかという僕の関心事にかなり包括的な見通しを与えてくれる本だった。けれども、ここで話題となっている技術と、作品行為のあの魅惑は、なにがしかの関係を結ぶことは理解できるものの、この著者のほとんど浅薄ともいいたくなるような明視性によってほとんど取り逃がされているようにも思える。もっとも、この著作自体はこれでいいのである。これはひとつの物語なのだ。どれほど著者がそれを嫌おうとも、作品の群を前にして語られる言葉はあるひとつの纏まりを作り出す。その荒唐無稽さを前にしてテクノロジーが夢を見せてくれるのだとしても、現実を生きることより他に<いま・ここ>に表象することなどできはしない。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

紙の本家事と城砦

2002/06/30 09:17

息苦しさ

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

『文藝』連載の文芸時評を纏めた本。本来文芸時評は文脈を捏造し文学の現在を紹介する役割・機能が冠せられているはずなのだが、「いうまでもないことだが」とか「旧聞に属するが」などの冒頭でもってはじまるこれらの文章はほとんど時評になっていないその暴走ぶりがとてつもなく面白い。単行本になったものを再読すると、やはり何よりもこの文章は非常な美しさに陶然とする。この緊張が崩れない倦怠はまったくもって貴重だ。
しかし著者の潔さはとても感動的だし理解もできるのだが、ジル・ドゥルーズの言葉に発する「男であることの恥ずかしさ」が、ややもすると「男嫌い」に帰結してしまうようで、ときにこの「おフランス」には息苦しさのようなものを感じてしまう。「読む」という、言葉の海に溺れることの息苦しさ?

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

紙の本覆面作家の夢の家

2002/06/30 08:26

夢の空間

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ミステリ作家が名探偵なんていうのはもう本当に使い古された設定なんだけど、少女漫画的な「超二重人格者」というそれ自体ではやっぱりお決まりでな〜んにも面白くない設定と組み合わせて「本格」ライトミステリーを書いてしまうんだからやはり北村薫のストーリングテリングの才はずば抜けている、といっても、北村薫は才よりも芸の人で、念入りにというより繊細に物語を登場人物の人生から汲み上げていく文章を読んでいると、そのミステリらしい文体に溺れることをきっぱり排した姿勢といい清廉な作家像が浮かび上がってきて、ああそうかだから愛の成就が夢の家(=空間)として、人格を越えて描かれるわけなのかと納得してしまうので、円紫師匠と私シリーズも私の結婚で終わるのかなあなんてことも思うのだが、だとすれば是非そこでは新婚旅行の船の上での密室モノをやって欲しいなんてことも思ったりするのであって、そういう《未練》を残すのが、優れた作家の証なのであります。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

148 件中 31 件~ 45 件を表示
×

hontoからおトクな情報をお届けします!

割引きクーポンや人気の特集ページ、ほしい本の値下げ情報などをプッシュ通知でいち早くお届けします。