ミケランジェラさんのレビュー一覧
投稿者:ミケランジェラ
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2002/07/09 20:01
十年越しの恋の必然が感じられない
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一ページ目の告白が最後まで裏付けられることはなかった。辻仁成と調整しながら書くというプロセスが江國香織の才能にブレーキをかけてしまったのだろうか。だけど「恋の持分はいつも二分の一」なのだとすれば、その不完全さやギャップも含めて、よくできた小説よりもリアルなのかもしれない。いずれにせよ、この小説のよさは恋の展開ではない。江國香織は無関心のベールでおおわれていた風景や空気の記憶に、はっとするほど的確な形容詞を与えてくれる。Rossoではアメリカ人の体温と、その理路整然とした行動に感じる距離に、ナイーヴな感性への懐かしさ、傷つきやすすぎる男性のうっとうしさに。うっとうしいほど暑いBluとは対照的に、冷静がRossoとあおいのキャラクターを貫いており、涼しくて心地よい。いっぽうで、言葉のわからない外国にいるときのように、軽くて、薄くて、ぎこちない単語を羅列した日常の描写は、ひとつの主題のメロディーをかなでるまでにはいたっておらず、そのクールな都会的情緒と無責任さは彼女のよさでもあるけれど、この幼稚なプロットからは特に浮いており、読み終わったあとには中途半端な印象だけが残る。
紙の本虹
2002/07/09 19:58
異国で感じるノスタルジア
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ああ、これは感じたことがある、覚えている、どこかできいたことがある。初めて来る世界なのに、こんなに近くて親しくて、懐かしい。自分では言葉にはできないけれど、確かに経験した気持ちや愛や葛藤を再現してくれる、ばななさんの小説は解放の文学です。ただし冷静に考えてはいけない。読み手は主人公のように強くもないし優しくも無い。大切な人とは懐かしい思い出ばかりじゃないし、何よりも不倫は、たいがいの不倫は、あんなふうに綺麗な印象だけを残したためしがない。みんなもっとずるくて自分の都合やお金のことをもっと一生懸命考えているような気がする。だから休暇先の美術館でメルヘン画を見るようにこの本を読みましょう。メルヘンなんだからあの旅行の詳細とか写真とかはなるべくならつけないでほしかった。まるで本当にあったお話のような印象を読後も持ち続けていたかった。表紙はいっそのことゴーギャンにすればよかったのに。でもそんなのは贅沢というもの。よい本です。
紙の本アルケミスト 夢を旅した少年
2002/07/10 02:56
神様に近づける一冊
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この物語は少年が宝物を探す旅にでるファンタジーなのだけれど、同じような渇きを持ち、夢を見て、たくさんの小さな失敗と成功を繰り返してきた大人が読めば、それが現実的な知恵に満ちていることに感動するだろう。スペインからエジプトまでの霊的な砂漠の旅のなかで、少年は誰しもが必ず直面する葛藤をひととおりくぐりぬけて、ある確かな答えにたどり着く。何よりも自分の運命たるPersonal Legendとその運命をよく生きる資格について、アルケミストは厳しく読者に問いかける。勇気のでるファンタジーでもある。コエーリョの世界には、決して押しつけがましくはない神が君臨している。その神は、直接的に間接的に聖書やコーランの教えとしてもあらわれているけれど、もっと普遍的な漠然とした宇宙の魂という形で登場する。そもそもその魂が人の働きかけによって良くなったり悪くなったりする柔軟さに頑なな宗教にはない希望がある。世界を旅した作者はきっと、本当に重要なのは神が誰なのかをはっきりと見極めるということではなくて、ただその意志と魂と言葉とが存在して、しかもそれはわたしたちの心の中にも在るということを知ることだと知っていたのだろう。わたしはこの本を、神様に近づける一冊だと思う。
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