只野ようこさんのレビュー一覧
投稿者:只野ようこ
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2000/08/04 17:26
収穫。ただのファンタジーと思うなかれ。
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
基調の物語の中、スルスルと違った味わいの9つの物語が始まって終わるのですが、その一つ一つに、読み手の先入観をかわす心地よい「裏切り」が用意されています。と言ってもトリックではない。登場する「騎士」「ドラゴン」「魔女」「怪物」が、それぞれの思いを抱えていて、予想外のドラマが展開するのです。完成された短編映画のよう、と言っては語弊があるでしょうか。
作家の内面が反映されながら、情に走らず、抑制が効いている点、ある種、爽快感があります。特に6つ目の物語「乙女」。読むと、あなたはある動物になって体毛を逆立て、森を疾走する快感を味わうのでは。8つ目「スキオポド」も不思議な読後感。トールキン「指輪物語」で著名なアラン・リーの絵もゆったりレイアウトされ、こういう媚(こび)のない本こそ、膝の間にこどもをはさんで
読んでみたい。
読んでいる大人もひき込まれて字を追う、こどもはきっと、その雰囲気も一緒に味わうのではないでしょうか。
紙の本つきよのかいじゅう
2000/08/01 17:21
シャレてる絵本。疲れたあなたに
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大判の青い絵本。とてもとてもシャレた本です。
でも、こういう本を紹介するのが一番困る。
ゴチャゴチャよけいな説明すると、後で「ヤボ」って叱られそうで。
−−山の奥の深い湖に、むかしから住むという伝説の恐竜を、10年間、待って待ち続けた男の目の
前に、ある晩ぽっかりと現れたのは……。
2回目でも、私は夜中に声出して笑いました。待ってる男が重装備の「カメラ野郎」なのも、またオカシイ。大好きだった変わり者の中学の生物の先生が「微生物には同じコトなのに、人間は自分の役に立つのを“醗酵”、立たないのを“腐敗”と言う」と笑ってたのを思い出しました。
これは「おとなの絵本」だと思うのですが、近所の図書館の一冊には、手アカがしっかりついていて、どうやら「こどもにも」人気らしい。
シンプルで力強い、リッチな絵。
そしてこの本、字が大きくて、ごく少ないのです。
「読み」たくない人、そして「この頃笑ってないや」という人は、ぜひぜひ。
紙の本しずかなおはなし
2000/08/01 17:15
眠れない夜、「ヒツジ勘定」のかわりにどうぞ
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題名通り、ほんとうに静かな静かな本。
オオカミに襲われる、ハリネズミの親子の話だが、ボウっとにじむような月明かりの中、リアルに描かれた動物の絵が、とても美しい
。夜の森の話で、しかも、いっさい音がしないので、動物好きの人だけでなく、精神的にキリキリして、自分のリズムをスローダウン、クールダウンしたい人にも向くのでは。
その場合は、できれば寝る前、ベッドの中で開くのが最適かと思う。
寝入り対策にも効くだろうが、彼女(または彼)がそのベッドに遊びに来た時、これを見つければ、惚れなおすかもしれない。
福音館は、こういう美しいけれど甘すぎない絵本をたくさん出しており、「夜の森の話」では他にも「しろいうさぎとくろいうさぎ」という、超のつくロングセラーがある。
ただしこちらは、うさぎの恋人たちのズバリ「結婚」の話なので、つきあっている相手が見つけると、強いメッセージになり過ぎるかも。この点のみ、どうかご注意を
紙の本五月の力
2000/08/04 18:12
こどもは“みんな”知っていた
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大人には二種類ある。こどもだった記憶を持つ大人と、持たない大人、と誰かが言った。こどもは「コドモ扱いしない珍しい大人と、する大勢の普通の大人」と答えるか。
そうだった。こどもの頃は体中がアンテナで、バカにされれば一発で分かった。その上でどうすべきかこどもなりの正義で考え、みんなが動いた。だから学校が成立した。そういったことがよみがえる。
これはコドモでないこども、でも、こどもでしかないこどもたちの話であり、物語の中で物語が開く、これ自体が玉手箱のような本であり、大人が自分の“こども”、あの時期の匂いを取り戻す本であり、見えないものが「見える」こどもの話である。そしてカメの話であり、猫の話でもある。
いろんな要素のカケラを持ち、覗くたび見えるものが違う万華鏡。すきがあるかもしれないが、光る−−。登場するこどもが自然でピンピンしてること。
書いた人が、特別丈夫なアンテナを今も立てていることは、保証付き。
紙の本ぼくがとぶ
2000/08/01 17:28
「飛ぶ夢」をしばらく見ない
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突然ですが、一時ゲームセンターにあったナムコの「プロップサイクル」を知っていますか。飛ぶ自転車に乗り、赤い風船を割っていく単純なゲームなのですが、付属の自転車を足で漕いでも、高度がうまく調節できない感じといい、景色がかまわず目の前に展開するとこといい、自分の「飛ぶ夢」と重なって、不覚にも涙しました。
そして、こどもの頃よく見た「飛ぶ夢」を見ないことに気がついた。
しかし見つけたのです。
ひとりで空を飛ぶ、あの浮遊感と、不安感とがあるこの本を。
男の子が、木と、たぶん防水布とで複葉機を作ってます。失敗、やり直し、成功、極地で記念撮影。
そのあとは? まるで証拠写真のように、一枚一枚絵が見せられ、あいまに気が向くと(その男の子の手がすくと)こっちに声かけたり、ひとりごとしたりしてくれる。
ことばはそのときだけ。読み手は、ごく近くで見ている気になる。見られているような感覚もある。これ、とても不思議な本です。
紙の本日本幻想小説傑作集 1
2000/08/01 17:25
大人が楽しむ、大人のためのシュール
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「童話集」でなく「こどもの本」でもない。あえて加えた第一の理由は、ここで、小川未明(「赤い蝋燭(ろうそく)と人魚」の作家)の「金の輪」という短編が読めるから。しかも選び抜かれた他の作家の作品と一緒に、「挿絵なしの文章だけ」という最良の形で。
読んでみてください。なんときれいで残酷か。
また書いた「童話作家」のなんと残酷なこと。
「中学生の頃、改造社版現代日本文学全集の中の“少年文学全集”で読み、ずっと記憶に残っていた。
つい最近まで小川未明の作とは知らなかった」と編者は書く。探したんだろうな。もし、これが好みでなくても、同じ本には、筒井康隆「佇(たたず)むひと」小松左京「くだんのはは」江戸川乱歩「押絵と旅する男」他、続く・巻でも夏目漱石「夢十夜」川端康成「不死」阿刀田高「あやかしの樹」等の「粒選り」が揃う。
戦前のこどもが読むなと言われながら覗いたのは、こんな本だったのでは。大人が楽しむ、大人の本。
2000/08/01 17:18
ズボラでテキトウで「大好き」だ
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タイトルは忘れても、手に取れば「ああこれ、知ってるッ」って言う人は多いのでは。私もそうで、読みかけてから、幼稚園で奪い合いをしたのを思い出した。
それと映画「となりのトトロ」でメイとサツキの姉妹が「本に出てきた“トロル”に会ったー(舌が
回らず後から「トトロ」となる)」と叫んでいたのは、多分この本に登場する、食い意地のはったトロルではないか、と。なぜなら体型がソックリだから。
全編を通じ「食い気がすべて」「めんどうなことは先のばし、強い人に任せればよい」という、なんともおおらかというか、ズボラなストーリーが展開し、怠け者の私は、読むとなんだかとても落ちつく。ズボラもズボラ、出てくるヤギの名前も(三びきいるのだが)「どれもがらがらどん といいました」。最後は「あぶらがぬけてなければ、まだふとってるはずですよ」「チョキン、パチン、ストン。はなしはおしまい」。
いいでしょう。昔ばなしはこれでなくっちゃ。
紙の本セロひきのゴーシュ
2000/08/01 15:54
夜半の虫の音、夜明けの空気がしみる本
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宮沢賢治の童話の本は数あれど、これは極め付き。
ノビノビして、絵自体に詩情がある絵が添えられたことで、これはもう、ただの童話の本でも、絵本でもない、本としてひとつ、別の命を持ってしまっていると思います。ほとんどこれくらいにしか作品を残さず、頼まれるままに絵を描き散らして早世した画家・茂田井武の水彩画がすばらしい。
物語にも、読む人を元気づける「動き」があります。小さな町のトーキー映画館付きオーケストラの、下手くそで指揮者にいじめられるセロ(チェロ)弾きの青年が主人公。猫が嫌がる「インドのとらがり」という曲が出てきたり、夜中にとぼけた狸の子がスティックかついで太鼓の稽古に来て、逆に稽古をつけられたり、かっこうの「かっこう」にも音程があったり。田舎の夏休み、虫の音聞きながら「ああ音がしない」と思ったことがありませんか。そこにこういう音が加わるのです。
湿った土の匂い、明け方の青い空気までがただよう本。
2000/07/19 19:55
目からウロコの「色っぽさ」。
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「本当は恐ろしいグリム童話」など多くの関連本の原典。
「残酷すぎる」と当時(19世紀)ドイツの親からのクレームで、修正を加えてしまう「前」のオリジナル初版の完訳「初版グリム童話集・全4巻」は話題になったが、これはそこから「白雪姫」等のおな
じみや、初版ならではの話を選び、往時の挿絵も添えた“ベストセレクト”版。
騒がれたように「白雪姫」も「ヘンゼルとグレーテル」も、子捨て・子殺しをしたのは「実母」だったのだが、より重要なのは、それも含めて、それぞれの話の細部や語感がなんとも「色っぽい」こと。例えば「白雪姫」の冒頭、くだんの母妃のひとりごと、「この雪のように白く、この血のように赤く、この黒檀のように黒い子どもがほしい」。
冷たい雪の上に、誤ってこぼした自分の血を、黒々した窓枠から白い彼女の顔が覗きこむ。
なんてきれいな視覚イメージ。
口伝えの伝承文芸ゆえの、この「艶っぽさ」。
あなたも一度は体験すべき。
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