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mikanさんのレビュー一覧

投稿者:mikan

17 件中 16 件~ 17 件を表示

紙の本狐物語

2007/05/13 22:08

謀略・食欲・バイオレンスのけもの道

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

このところ、気づくと日本人が書いたおフランス絡みの本ばかり手にとっています。羨望・絶賛から失望まで振れ幅が大きくて、風土・食べ物・国民性などなど、日本の真逆を行ってるんじゃ?と思えるあれやこれやが面白くて仕方がないのです。そんな中で、必ず出てくる話題がフランス人の超個人主義。その理由として、子どものころから性悪狐が悪事をはたらく話を聞かされて育ち、周りの人間はすべてよからぬことを企んでいる信用するな、と言い聞かされているから云々…を挙げている文章を二度ほど見ました。それはもしかしたらこの本か?と、珍しく岩波文庫に手をのばした次第。読んでみると、これはちょっと子どもには無理かもしれません。

中世フランスで作られ人気を博した、悪狐ルナールの物語。狼イザングランとの闘争がメイン。第1話は、ルナールがイザングランの妻を手籠めにする話(…)。巣穴にぴったりはまって身動きできなくなってしまった妻。この据え膳逃してなるかと、意気揚々と跨って…と大胆な描写に驚きました。性の描写も露骨なら、食べ物への執着もすごい。食べるときは一心不乱、目の前に食べ物があるのに手に入らないと、体が震え身もだえし、舌が今にも焦げそうな思い…。そして、バイオレンス。ルナールとイザングランとの決闘の場面では、「口の中の歯をへし折り、顔に唾と鼻汁をひっかけ、目に棒を突っ込み、爪を立てて顔の毛をひきむしり…」。そして、確かに全編「謀略」の話、「人の話は簡単に信じるな」という話ばかりなのでした。甘言を弄して相手を油断させ罠にはめる、嘘に嘘を重ねて窮地を逃れた挙句にシラを切る。う〜ん、相手をひたすらハメ続ける展開のしつこさは、ちょっと日本の「とんち話」とかとは次元が違うような気がします。「トムとジェリー」が口をきいたらこんな感じ?

ただ、この動物の国は欲と嘘だけかと思えば意外な面もあって、どれだけ罪状が挙がった極悪狐でも問答無用では裁けない。ルナールも、何度も弁解・申し開きをする機会を与えられ続けます(で、これを逆手にとって逃げるわけですが)。こんなところに「法律の国」フランスの一面を垣間見たような。当時、「法廷物語」が愛読されていたため、というのもあるそうですが、それは日本ではちょっとありえなそう。

筋だけあげれば殺伐そのものの話が大らかでおかしく感じられるのは、訳文がふるっているところが大きいかと思います。よどみなくお下品かつ大らかな言葉遣いは、大学の先生たちの文とは感じさせない(笑)読みやすさ。中には、「王ヨ、余ノ考エヲ聴クヨロシ。コノ悪ノ権化ヲ石打チノ刑ニテブッ殺スヨロシ、丸焼キニスルモヨロシ」なんてのも…結構とばしてます。(当時の教皇使節のイタリア語混じりフランス語をちゃかした部分の訳なのだそう)

美とセンスと弁論の国、おフランスの根っこにあるえらくワイルドな面に触れられて、個人的にはかなり面白かった本でした。

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類書なし!「茶」の反体制ドキュメンタリー、そしてひけらかさない出雲の奥深さ

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

利休の侘び寂びの茶道と現代の茶会に参じる艶やかな和服の群れが同じものであるはずがない!? 素朴な疑問を抱いた著者が全国の茶人を訪ね歩き、出雲で知られざる真の茶人・金津滋と運命的に出会った。金津は七件所有していた貸家をすべて茶道具に換えたという粋人だった! その生涯を追いながら茶道を論じた類例なき人物評伝。(カバーより)
内容は↑そのままです。茶道は門外漢の著者が「茶」を書こうと一念発起、金津滋との出会いから別れまでを会話も多用してドキュメンタリータッチで伝えます。現代の千家らによる「体制」の茶を批判する本を読むのも初めてなら、「茶」をめぐるノンフィクションも初めて、そして「反体制」本を著すにあたっての意気込みに満ちた熱い(少し暑苦しい)文体…、類書がないのは間違いないでしょう。そして、「真の茶」を求める対話を通じて、茶道の歴史から茶道具、茶事のありかたまでを自在につないで提示した、マニュアル本では掴みきれない「茶」が概観できてしまう、門外漢にとっては有難いガイドブックともなる一冊です。

七件の貸家を売った粋人・金津滋については、本で触れていただきたいです。粋人=遊び人??という私の浅薄なイメージを覆して、語り口は穏やかで教養に満ちた人でした。染色、書画、文章、料理、何をやらせても才能を発揮したものの定職に就かず、才能を何かの役に立てることはせず、蒐めた茶道具4〜5000点も死後には散逸した模様。 「「茶」に明け「茶」に暮れるのが「茶」です。忙しくて仕事などしている暇はない」と言い切る生き方を貫いた人なのです。

ただ、個人的に、一番興味深く読んだのは、金津を生んだ茶どころ・出雲にまつわる文章でした。私の親の実家は出雲なのですが、確かにお茶との接点はとても濃かった。おやつの時間にお抹茶が登場するのは日常で、何のお手前もなく、皆が一服、二服とおいしそうにいただく様子は、とても豊かな生活に見えたものです。また、和菓子もとてもおいしかった。松江銘菓とされる若草、朝汐、山川、薄小倉あたりは、デザインはこれ以上ないほどシンプルですがそれでいて、選び抜いた材料を使って手間をしっかりかけているな、と一口で実感させる、しっかりと決まった上品な味をしています。それは、街のお菓子屋さんの上生菓子でも同様。見た目が仰々しくなくて、でもしっかりとおいしいのです。そういった、子供心に不思議だった生活に密着したお茶の楽しみが、出雲人気質と結び付けて語られるところは、かなり腑に落ちるものでした。山陰の長い閉鎖的な社会の中で、かすかな自然の変化を感受する精妙な感性を養った出雲人、それが、一部の特権階級のものだった茶の湯を庶民がひそかに楽しむところへとつながっていった、というようなことのようなのです。

一般に茶どころの筆頭といえば「京都」。歴史・伝統を守り抜き、また、守り抜いて外の人にありがたく拝見させることがお金を生む歴史的観光都市の凄みもとても魅力的だと思います。その奥深さに圧倒されるもします。が、ひけらかさない、声高に言い立てないこの街にもかなり凄いものがある、奥が深そうだ、という私の個人的な感覚を、出雲の風土から解き明かし、知られざる茶人・金津を通じて実体化してくれたこの本は、改めて出雲を見直す契機になりました。
<文庫版改題前のタイトルは私が死ぬと茶は廃れる>

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