サイト内検索

詳細
検索

ヘルプ

セーフサーチについて

性的・暴力的に過激な表現が含まれる作品の表示を調整できる機能です。
ご利用当初は「セーフサーチ」が「ON」に設定されており、性的・暴力的に過激な表現が含まれる作品の表示が制限されています。
全ての作品を表示するためには「OFF」にしてご覧ください。
※セーフサーチを「OFF」にすると、年齢認証ページで「はい」を選択した状態になります。
※セーフサーチを「OFF」から「ON」に戻すと、次ページの表示もしくはページ更新後に認証が入ります。

  1. 電子書籍ストア hontoトップ
  2. レビュー
  3. sheepさんのレビュー一覧

sheepさんのレビュー一覧

投稿者:sheep

106 件中 1 件~ 15 件を表示

活憲 「特上の国」づくりをめざして

2005/12/12 01:14

沈黙せず「それなりの市民」となって憲法を活かそう

18人中、18人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

何かの機会に偶然著者のweb五十嵐仁の転成仁語を知った。以来web記事を拝読している。
マスコミ歪曲情報の中、元外交官天木直人氏のwebと同様、ともすればマスコミ欺瞞にしてやられそうなそうな頭を正常化させる意見が読めるからだ。
そのwebで、記事をまとめたものが本になるという案内を読み早速申し込んだ。
最近知ったばかりで、昔の記事をまめに読んでいないものにとって有り難い。
そもそも本書のなりたち、どなたかがweb記事をまとめ、本にしてはということになったそうだ。紆余曲折あって元の半分の量で出版にこぎつけたのだという。
webで著者の発言を読んでいたので、どういう内容かは想像できるのではと思いながら読みはじめ、予想以上に引き込まれて一気に読了。
防衛的に「憲法を護るだけでなく」「日々の暮らしに活かそう」というのだが、読みやすく、わかりやすく、しかも面白い。
雰囲気を知っていただく為、見出しのごく一部をあげよう。
「郵政をえさに改憲という大魚をつりあげた小泉首相」
この政府はどこの国の政府なのか
日米の二人三脚で進む改憲準備-自民党新憲法草案の読み方
九条改憲は現状の追認ではない
集団的自衛権についての総理大臣の「無知」(無知でなく詐欺だと評者は思う)
アメリカの戦争にひきずりこむための「集団的自衛権」(自民党の草案発表直後にアメリカの新聞に載った記事が、まさに問わず語りに語っていることだ)
「憲法本は売れない」と著者は言う。本書には是非とも例外になってもらいたいもの。
テレビの報道では、いまにも北朝鮮からミサイルが飛んできそうなことを匂わせる。2004年の軍事費予算、北朝鮮は2790万ドル。日本の軍事費424億ドルの0.07%にすぎない。という。アリと象のようなものではないか。冷静に考えるべきだろう。
webから生まれた本なので、本が出版された後も、日々新たな「活憲」記事が著者のwebに追加され、読むことができる。時事の話題を、テレビ、新聞的大本営発表風の見地ではなく、憲法を活かす視点から、鋭く切り取って見せてくれている。
例えば、偽強度計算による違法マンション作りの当事者達に、宗教政党関係が多いというブログ記事を取り上げ、その政党が防衛庁「省」昇格推進に転じたこととの関係を訝るのだ。お固い学者先生というより油ののった硬派政治記者という雰囲気。
本書を立ち読みし、酒を飲んだ勢いで、印象批評で著者をくずよばわりするブログがあれば、誠実に反論を書き込み、それを几帳面に報告してくれる。
どこで売っているかという問い合わせに、どこそこの書店で見かけたという読者の報告が転載される。web更新、著者の書斎で?原稿を拝読している気分にもなる。
911選挙前、IQの低いテレビばかりみる層を動員する与党戦略が国会論議で暴露された。それでも、この国の民度とそうした戦略と資金と圧倒的なマスメディアのキャンペーンで与党はまんまと大成功。一方、著者のような硬派、腐敗した民放に出演して意見を述べる機会など永久に与えられまい。それでかどうか、著者、本書刊行を「ゲリラ戦」と称している。web上にある「活憲」サンバまで探してきて紹介するフットワークの軽さで「活憲」の売れ行きが伸び、今後続編が出ることを、そして「壊憲」阻止が実現することを心から願っている。
自民党のみならず民主党に投票したなるべく多くの方に、愛する家族知人を、みしらぬ異国で、アメリカの理不尽な先制攻撃の先兵として失う前に、本書を手にしていただきたいものだ。
「小泉安倍ファンのお母様方、壊憲数年後に、靖国神社で手を合わせても手遅れですよ!」

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

プロパガンダ 広告・政治宣伝のからくりを見抜く

2006/04/16 16:55

義務教育で

18人中、17人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

遠い昔、キャンパスで「がなり立てる連中」について触れながら、同級生の何人か「ああいう個性のない人々を不思議に思う」と自己紹介をした。数か月後、同級生たちの何人もが、まさに「がなりたてる連中」の仲間になった。
あの時の状況、今考えても不思議。読みながら、あの同級生たちを思い出した。
本書の内容は「腰巻き」が簡潔に語っているので引用しよう。
「あやつられてはいけない!現代に生きる私たちは、大衆操作の企てや集団規模の説得の標的となっている。それらの圧倒的なパワーは、私たちの日々の買い物や選挙での投票や価値観に影響を与えようとしている。本書は、プロパガンダの歴史と社会心理にもとづきながら、私たちがそれらからいかに身を守るかを教えてくれる。」
本のサイズが大きく厚いので一見とっつきにくいが、読んでみると実に面白い。
特に興味深く感じた一つに第5章 感情にアピールする説得「グランファルーン・テクニック」がある。
どうでもよいようなささいな基準によって初対面の集団を二つにわける。例えばコイン投げの結果によって。こうした実験に参加する人々は、参加するまでは赤の他人で、これまでも、そしてこれからも、お互い話しなどするはずもない人々だ。にもかかわらず、無意味なラベル(例えばインディアナ出身者のたぐい)を共有する人々は、あたかも親友や親類縁者であるかのように振る舞った。意味のない社会集団が、自尊心やプライドの源泉になるのだ。「仲間はよい。仲間以外は悪い」
説得する側はそうした無意味な集団を作り上げ、その心理を利用する。政治党派支持者、様々なスポーツ・ファンが連想される。「日本人」「愛国者」もそう。思わず「グランファルーン=granfaloon」という言葉の出典である、カート・ボネガットの傑作「猫のゆりかご」まで読んでしまった。
第6章で「説得の戦略を打ち破るために」として、プロパガンダに対抗する手だてを詳しく説明している。一つだけ気になることがある。「悪魔の唱道者」という悪訳だ。現行訳と比較のための拙訳をあげておこう。
現行の訳:
247ページ。1行目:
宣伝の戦略に対する第2の防衛法は、悪魔の唱道者の役を演じることである。少なくともしばらくの間、反対側の目的を自分にあてはめてみるのである。
247ページ。7行目:
では、説得から自分を守るためには何をすればよいのだろうか。どうやって、悪魔の唱道者の役を演じればよいのだろうか。
この翻訳では、せっかくの「対策」も、うまく使えまい。
仮訳:
宣伝の戦略に対する第2の防衛法は、あえて宣伝説得を批判する役を演じてみることである。少なくともしばらくの間、宣伝説得とは反対の説を自分で主張してみることだ。
では、説得から自分を守るためには何をすればよいのだろうか。どうやって、説得を批判する役を演じればよいのだろうか。
原書「悪魔の唱道者の役」の部分は、devil’s advocate。「悪魔」「擁護者」と単語が並んでいるが「(議論で)故意に反対の立場をとる、殊更異をとなえる」という全く別の意味の熟語だ。devil’s advocate technique(社会心理学)「あまのじゃく技法」、集団の考えを批判する役割を一部の成員に与えることによって、集団決定の質を上げる方法、と小学館スペッド・ベガ英和辞典にはある。
例えば「自民と民主の党首論戦」という記事をみたら、「小泉派と小沢派の自民派閥領主の茶番論戦」と考えてみるというのも、devil’s advocateに当たるだろう。
こうして、こまかい誤訳を上げるのは、よりよい訳を願うからにすぎない。
この文章をお読みになる方は、いい加減な推薦文に「あやつられてはいけない!」と思われるかも知れないが、マスコミ・政治家に「あやつられない」ために、広くお読みいただきたいと思う。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて

2005/03/31 19:13

属国の罠

14人中、14人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

外務省のエリート東郷和彦と、鈴木宗男、著者らが、賄賂、支援委員会資金背任がらみ、あるいはディーゼル発電関連疑惑等で失脚したのは2002年。
大物政治家らしからぬ些少な賄賂額と共に、不思議に思われたのが、超エリート外交官の東郷和彦が、北方四島ではなく二島返還の方向で強引に動いていたという記事。二島返還で手をうてば交渉は進んだかも知れぬが、その犯罪的行為は末代まで伝えられる。超エリート外交官であればそんな交渉を進めるくらいならむしろ潰すのではないかと思えたからだ。

1956年の日ソ共同宣言第9項に記されている。「ソ連邦は、日本国のにこたえかつ日本国の利益を考慮して、歯舞群島及び色丹島を日本国に引き渡すことに同意する。ただしこれらの諸島は、日本国とソ連邦との間の平和条約が締結された後に現実に引き渡されるものとする」。
従い、著者の言う通り、日本としては国後島択捉島が日本領であることを確認することが要諦だ。東郷が二島先行返還によって平和条約締結ができると考えたことはないと著者はいう。著者も鈴木もそうだと。著者らの逮捕当時・以後のマスコミ報道と言い分は大きく異なる。
プーチン大統領と森前総理の会見がセットされていたのが様子が急変する場面の描写にも驚いた。日本から強烈な圧力がかかった為という。著者達らの熱意により日ソ関係が多少なりとも動き始めた、又はパイプができそうになったからこそ潰されたのが真相かとも思える。

118ページに本件の意義が纏められているのを引用しよう。
引用始
小泉政権の誕生により、日本国家は確実に変貌した。
-中略-
冷戦後存在した三つの外交潮流は一つに、すなわち「親米主義」に整理された。
田中女史の、鈴木宗男氏、東郷氏、そして私に対する敵愾心から、まず「地政学論」が葬り去られた。
それにより、「ロシアスクール」が幹部から排除された。次に田中女史の失脚により「アジア主義」が後退した。「チャイナスクール」の影響力も限定的になった。
そして「親米主義」が唯一の路線として残った。
-中略-
第二は、ポピュリズムによるナショナリズムの昂揚だ。
引用終

森喜郎前総理にまでも及ぶか、というところで、捜査は突然幕切れとなる。探偵小説や実際の犯罪では、一番利益を受ける者が真犯人であることが多い。著者が「国策」捜査と称する事件の黒幕、見当がつきそうな気もするが、本書そのあたりは不明だ。ナショナリズムも、国家というより新満州国のそれではないのか。
田中・鈴木の両氏、外務官僚に利用され追放されたということのようで、最終的勝利を得たのは外務省現執行部だと著者はいう。今の外務省、素人には永久戦体制下の某国務省駐日事務所の様に見えるが。

あとがきに「太平記」の天狗の話がある。楠木正成等失意の内に倒れた人物が天狗や妖怪になって現実の政局に影響を与えている様子もおもしろい、と。天狗は世のため人のためによかれと思って事を進め、それは確かに成果をあげるのだが、当時のエリート官僚に認められなかった。日本国家が天狗の力を必要とする状況は今後も生じるであろう。過去の天狗が自らの失敗について記録を残しておけば、未来の天狗は、少なくとも同じ轍は踏まないであろう。それがこの回想録執筆に至った主な動機だという。

基本事実確認の為「日露外交」という本を読んでみた。事実関係の記述は本書と大きく異なっている。さすが「断たれたのは佐藤の将来ばかりではない。佐藤が築き上げた夥しい数の対露人脈のパイプも同時に閉ざされてしまうことになろう」という記述も見えるが、「日露外交」に書かれていることが一般的な理解だろう。機密事項ゆえ、どちらが真実かは時間を経ての文書公開を待つしかなかろう。
著者に全面賛成するわけではないが、せめて外交交渉の事実、この希有な記録こそ真実であって欲しいと願いたい。日本外交を考える際、必読の一冊だろう。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

権力に迎合する学者たち 「反骨的学問」のススメ

2007/08/29 22:08

反骨の学者が「腐敗した社会」に贈る、警世の書

16人中、13人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「ネットカフェ難民が5600人いる」という調査結果が報道されている。住所がないので、就職できない、という人々もいる。「美しい改革」の現実だ。それで思い出すのが、著者の「住宅貧乏物語」、あるいは『居住福祉』。マスコミの記事は、「収入格差」を言うが、大切なのは、生活基盤としての居住保障の視点だ。フローよりストック。

アメリカ産建材を輸入しやすい様に、住宅の耐震性能を緩和してしまった愚劣さは、あの「拒否できない日本」でも指摘されていた。マンション耐震偽装騒ぎでも、新潟地震後の住居問題を語る番組でも、パイオニアの著者はコメントを求められない。「住宅問題」は、エンゲルスの時代でなくとも、タブーのようだ。

建築研究所から神戸大学に赴任した当時の著者、市政について、マスコミから再三コメントを求められた。なぜ他の先輩教授方に聞かないのかと、記者に尋ねた著者、審議会に顔を出している先生がたから意見を聞けるはずがない、という答えをもらう。当時の神戸、議会は全与党だった。既成の権威とは無関係に、学問に基づいて、自説を述べるのでなければ、学者の意味はないと考える著者は、1985年9月、朝日新聞「論壇」に投稿する。いまだにこういう学者がいたのかという、激励の読者反応が大多数だった。

震災前に神戸の危うさを発言する学者もいたが行政幹部に無視された。迎合するばかりの学者だらけ。対抗する意見を明言する専門家の欠如が惨事を招いた一因だ。自治体や政府の審議会、まるでテレビ番組制作と同じ。まず筋を決め、それにあった発言をする教授(タレント)を選ぶ。我慢せずに辞任する良心派も皆無ではないがごく一部。

こうした罪深い教授・専門家を、ある教授は「海賊船のボイラーマン」と評した。巨大船の機関室で、懸命に釜に石炭をくべ、船を推進させる釜焚き人、その船が何であり、何処に行くのかに全く関心はないのだ。
ワイドショーで、したり顔で適当なことを言い、各種審議会に名前を出す人々の大半は「海賊船のボイラーマン」だ。決して「有名=正しい」わけではない。

大学法人化、あるいはCEOという制度の導入についても、著者は手厳しい。短期的に儲かる学問だけを追いかけて、学問の進歩、独立はありえまい。「都会集中、地方衰退」の大学版。
権力に盾をついていたので、著者の研究室は委託研究費をもらえず貧困だった。しかし、それゆえに、委託研究に振り回されず、学生たちに自分の頭で考えることを教えることができたという。恩師故西山卯三との昔の対話が、まるで現状を憂慮して語りあっているよう。

ところで、著者と同じ神戸大学の石橋教授も、「原発震災」に対する警鐘論文を朝日新聞「論壇」に投稿した。こちらはボツだった。1999年東海村臨界事故後のこと。今や状況は悪化するばかりに見える。
石橋教授、今回の中越沖地震で、柏崎刈羽原発は閉鎖すべしという声明(PDF)を出している。『大地動乱の時代』にある持論からすれば当然の正論。地震は防げない。耐震性能の強化も限界はある。根本的な対策はただ一つ。危険地域への建設、集中を避けること。「原発震災」の予防は立派な居住福祉策だ。

浅薄なニュースや外資生保コマーシャルを聞きながすより、こうした反骨学者の本にこそ時間を使いたいものだ。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

生物と無生物のあいだ

2007/06/02 23:04

極上の分子生物学ミステリー

14人中、12人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「もう牛を食べても安心か」の続編にあたる本。広報誌「本」に連載された文章をまとめたものということで、生物と無生物の間について、肩をこらせることなく、面白く語っている。構成も語り口も実に巧み。帯にある通り、「極上の科学ミステリー、読み始めたら止まらない。」
新聞にワトソン博士が自分のゲノム(全遺伝子情報)を公開するとい記事があった。個人で公開するのは世界初だという。DNAの二重らせん構造発見に対して62年ノーベル医学生理学賞を受賞した人々だ。本書を読んでいなければ、ただ素直に「偉い!」と読み流していたろう。
本書6章ダークサイド・オブ・DNAで触れられている、1953年「二重らせん構造発見」の真実は余りに衝撃的。読みながら文字通り我が目を疑った。
ロザリンド・フランクリンという女性科学者が撮影していたDNAのX線写真を、非合法にこっそり見ることで、彼らはらせん構造だという確信をえたのだ。
たまたまワトソンの原書を読もうと手元においていたが未読。その自伝中で、彼はロザリンドのことをののしり、彼女が当然得てしかるべき、「二重らせん構造の共同発見者」という事実を握りつぶしているという。本来二重らせんは「ワトソン−クリック−フランクリン構造発見」と呼ばれるべきなのだ。いんちきな連中だ。
ロザリンドについての数奇なエピソード、よくここまで調べた!と感心したが、実は著者、「ダークレディと呼ばれて」という彼女の伝記監訳者だった。それでついそちらまで読まされてしまった。素晴らしい筆力、そして営業力?
1962年の彼らのノーベル賞受賞式の光景も衝撃的だった。他人の研究をこっそり利用した共犯者の集会ではないか。ノーベル賞のあやしさへの認識をあらたにした。ノーベル平和賞をみれば、とんでもない受賞者連の顔ぶれから、そのインチキさ、すぐわかるのだが。
順序が逆になるが、第5章、サーファー・ゲッツ・ノーベル・プライズも実に面白い。遺伝子研究の効率化を実現するPCRマシンを発明したマリス博士のひらめきについてのエピソードだ。著者は彼の自伝も翻訳している。マリス博士の奇想天外な人生 彼の訳書、面白くないはずはないと思って読んでいた。期待は裏切られなかった。
随所にある、ハーバード大学などでの、著者のアメリカ・ポスドク生活描写を読んで、「アット・ザ・ベンチ—バイオ研究完全指南」や、「アット・ザ・ヘルム—自分のラボをもつ日のために」を思い出した。手取り足取りの研究者指南に感心しながらざっと目を通しただけだが、いずれの本も、グラント取得の手腕など、アメリカ風研究スタイルというの文化的背景から必然的に生み出されたことがわかって興味深かった。
維持するために絶え間なく壊され続ける秩序。
極上のミステリー、あっという間に読み終えたが、随所に興味深い関連書籍があげられており、興味にあわせ、更に先に進めるようになっているのは有り難い。
巻末の文章を読みながら、漱石門下の物理学者、随筆家、寺田寅彦を思い出した。06年、第一回ジャーナリスト賞を受賞しているという。興味深い科学分野を専門とする頼もしい人があらわれたものだ。流行ミステリー作家ファンではないが、次の啓蒙書を期待して待ちたい。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

自壊する帝国

2006/06/07 23:04

自壊する属国から見た、自壊する一つの帝国

14人中、12人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

腰巻きの言葉の半分、全くその通り。いわく「どんな国際スパイ小説よりスリリング」
仕事も放置して読みふけってしまった。同じテーマを理論的側面から書いた「国家の崩壊」は良書だがこれほどは引き込まれなかった。劇的な人間ドラマゆえか。数奇な体験と巧みな語り口、古くはモーム、グレアム・グリーン、最近では、ルカレ、元スパイが書いた小説が抜群に面白いのと一緒かもしれない。しかしこれは実話だ。
帝国が崩壊する様を、崩壊させようとする側、押しとどめようとする側、双方の間に立っていた著者が経験を元に描いている。体制派、反体制派の本音、ユダヤ人問題。おかしな評価だが本当に面白すぎる!
反体制派、体制派の著名政治家や重要人物と深い信頼関係を築いて、重要な情報を入手する異能外交官の面目躍如。現代ロシア文化事情についても貴重な情報に満ちている。
ロシア人に負けない量のウオッカを鯨飲してロシア人の心をつかむことができる体力。アルコールに強いことから得られる猪木とのエピソードも興味深い。
「共産主義」という建前を掲げながら、深い「キリスト教」コップレックスを持つロシア知識人、政治家を圧倒するキリスト教の知識。神学部卒業でなければあり得ない希有の立場を、著者は存分に活用する。ロシアでキリスト教の講義まで公式に行ってしまうというのだから立派だ。
意見を正面から戦わせながらも相手を思いやる誠実さ。仕事の上で知り合ったロシア人の多くは、今の著者の苦しい立場を救いたいので署名運動も辞さないといってくれる。著者の誠実さ故だろうが、ロシア人の誠実さをも見る思いがする。
崩壊途上にある国家のレポートを読みながらふと思い出すのは下劣な民放だ。民放テレビの北朝鮮の貧しい生活や外国人向けホテルの様子の報道だ。著者は国益を目指して体をはって行動したのであり、金もうけが目的だったわけではない。そうした番組スタッフは、相手に対して、著者が払ったような共感も誠実さも持たない。政治的自由もない北朝鮮人を馬鹿にした低劣プロパガンダに過ぎない。民放テレビ作品は、北朝鮮をあざ笑い、視聴者の低劣な愛国心をあおるだけ。帝国の政策「植民地は分割して統治せよ」の補完だ。
腰巻きの言葉、残り半分も真実かもしれないと思えてくる。「今、日本に求められるのはこの男の情報力だ。」そう、拉致・北朝鮮問題、いやイラク、イラン問題にも。
政治的大状況はそれを許さない。「国家の罠」118ページの著者の言葉を再度引く。
”冷戦後存在した三つの外交潮流は一つに、すなわち「親米主義」に整理された。”
鈴木宗男議員や著者が逮捕され追放されて、国益のためにバランスのとれた外交を目指すという選択肢は抹殺されたまま。アメリカ外交、エリート担当者がネオコンのマウスピース役ばかりとは思いたくない。国益のために体を張っている人物はいるのだろうか?村上や土左衛門のような金の亡者が尊敬される国家に未来はない。鈴木宗男議員や著者が、再び外交の最前線で戦ってくれる日が来る夢を見ずにはいられない。
蛇足の補足を二点。
36ページにチェコのリキュール「ビヘロフカ」の話題がある。独特な風味の美酒は通称の「ベヘロフカ」で調べないとウェブで見つからず、飲むこともできない。
178ページには、父親が穀物を隠していることを国に密告することで愛国者とされながらも、リンチで殺された少年パブリック・マローゾフの話がある。別の話題で触れられている富豪やチョコレート会社のモロゾフと同姓、パブリック・モロゾフという表記が一般的だ。Pavlik Morozov
日本でも共謀罪導入後は似たような密告少年が続々生まれるはずなので、先駆者の名は今のうちにきちんとしておきたい。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

「ジャパニメーション」はなぜ敗れるか

2005/12/02 15:58

拒否できない日本アニメ

13人中、12人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本書の題名を見て、頭に浮かんだ本がある。「模倣される日本」だ。
「模倣される日本」には、「和製アニメがすばらしいので、アメリカにさえ真似される」というような論があったように記憶している。「本当に日本はアメリカに模倣されるくらい立派なのか?」と、納得ゆかない違和感があった。
本書のタイトルは「模倣される日本」と逆。結論をいってしまえば、予算と時間があれば二冊の併読をお勧めするが、そうでなければまずは本書をお勧めしたい。
本書の7割近くを占める第一部は、まんが/アニメ史概観。のっけから「日本に移植した文化を回収するハリウッド」という説明がある。学生時代からマンガの世界に入り込んでいたオタク文化専門家?ならではの具体的な指摘は鋭い。なにより「歴史的」視点を明確にしていることに共感する。
日本の漫画、アニメと「思想統制」の歴史は陰鬱だ。一言で言えば、転向左翼までも存分に活用した「体制翼賛」の歴史に見える。「ガンダム」においても、それは再現しているようだ。
「ハリウッドのキャラクターは身体性をもたない」という指摘がある。漫画やアニメの中では、銃剣で刺されても銃弾を受けても、怪我もせず、復活してしまう。日本のマンガもアニメも、そうしたハリウッド流をしっかり取り込んで成り立っている。(アメリカ軍が新兵リクルート用ゲームを流布しているのも、この延長に違いない。)また、舌鋒鋭い村上隆のリトルボーイ展批判にも納得した。
第二部は残念ながら分量的には少ないが、内容は十分に重い。
なんのことはない、一見「助成」にみえる政府施策の本音、アメリカ映画資本の対アジア浸透政策のお先棒を担いでいるにすぎない、という。「拒否できない日本」アニメ版ではないか!
個人的に、国が近年アニメ助成のような活動をし始めたのを、いぶかしく思っていた。真意が掴めずにいたからだが、その疑念は本書のおかげですっかり晴れた。役所の本音などそんなもの。
アメリカに都合のよい産業整備、法整備をしようとしているのにすぎない。
ハリウッドが強いのは、世界の映画流通網を押さえているからだ。宮崎アニメも、アメリカではごく一部の映画館でしか上映されていない。配給はディズニーに任せるしかない以上文句は言えない。販売チャネルの欠落という隘路を、政府はしりながら策を考えようとはしない。
関西の学習塾企業が杉並に作ろうとしていたアニメ大学院の認可がおりなかった理由に、専任教員の不足があげられていた記憶がある。
そうした教員、「クリエーター」と「アカデミシャン」双方の言語をもっていなければならず、現時点ではありえない人材であり、教育制度づくりには長期的ビジョンがいるのだ、と著者は指摘している。
手塚アニメによって確立されたといわれる低賃金アニメ現場労働の情況を変える策などもちろん国は考えない。製造現場や、販売チャネルの問題点を放置したまま、アニメの大学を作ろうという動きだけが進んでいる。働く場なしに無理矢理押し出すのだ。無責任な話。著者は、ありあまるオーバードクター回収・救済策と、少子化対策だといい、そうした大学院が行きづまることも予見している。
ジャパニメーションの「国策化」は一年もすれば、「空しいファンド」と「空しい振興策」と「空しい大学」だけがのこる。国策が破綻したあとの次の局面を想定したビジョンをたてることが、まんがやアニメーションの側に必要だ、というのだが。
日本の箱もの行政は、不要なダムを作って、自然を破壊する。音楽ホールをたてても、演奏家は養成しない。アメリカの下請けでしかないお役所や、提灯持ちの学者の声ではなく、著者のような根っからのマンガ・アニメ人の声こそ常識になって欲しいと思う。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

石油!

2008/08/23 00:07

「蟹工船」の次は「石油」と「ジャングル(精肉工場)」!

14人中、11人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

アプトン・シンクレアという人を全く知らなかった。映画化されたことも知らなかった。webで読んだある「マスコミ論」書評で、90年も前にマスコミの根本的問題を論じたアメリカ人がいるのを知った。残念ながら他の本は容易に手に入らない為、入手しやすい本を読んでみたというわけ。

本書、書かれたのは1927年。翻訳は1930年。同じ平凡社から出されていた。
アメリカで最近映画化されるくらいだから、軽い本だろうと思って読み始めたが、さにあらず。面白さに引き込まれ、眠れなくなった。なお原作と映画は、全くの別物のようだ。それで当面は映画を見る気にはなれない。

騾馬馭者から、独立石油会社社長にまでなった、やさしい父親アーノルド・ロスと、その息子バニーが、自動車で進むドライブの場面から話は始まる。二人で石油掘削用の土地を借りる契約交渉に出かけた先で、バニーは偶然ポールという青年と言葉を交わし、以来、終生の友となる。

土地の取得から、採掘、事故、労働運動、石油経営者と政治家のつながり、大統領選挙への関与、労働運動、新興宗教教祖となったポールの弟イーライの出世、バニーの大学生活、華やかな恋愛体験と、広範な話題をもり込み、壮大なスケールで、石油をめぐりアメリカ社会の姿が描かれる。

息子バニーは、大金持ちの息子ながら、労働者への暖かい眼差し、正義感を捨てられず、苦労している経営者の父親の足元を堀崩すような労働運動に、父親からもらう金をつぎ込んでしまう。

労働運動の姿を描いた「蟹工船」の著者、若くして、特高の拷問により殺害されたが、本書の著者は、ナチス台頭を描いた「龍の牙」でピューリッツアーを受賞。晩年、1967年には、ホワイト・ハウスに招かれ、ジョンソン大統領とならんで食肉缶詰新法の誕生に立ち会っている。結婚は三回。そうした著者の経歴を反映してか、ロマンス、陰謀と、盛りだくさんだが、時に笑いながら読める。

バニーの濡れ場シーン描写の過激さから、発禁になったことがあるという。だがなにしろ80年前のこと。今は話題にもならない描写。著者、サンドイッチマンのように、身体の前後にイチジクの葉を描いたプラカードをつけ、濡れ場のページに、イチジクの葉を印刷した特別本を、発禁に触れないとして売った。その光景が新聞に載り、売り上げが大きく伸びたそうだ。ただし、この「発禁」自分で持ちかけたのだとある本にあった。「ジャングル」を巡ってマスコミと戦った著者、利用も上手かったようだ。

石油会社経営者の長男バニーも、大人になるにつれ、厳しい現実に直面するようになるが、それでも理想のままに生きようと努める。一方、労働運動弾圧の中、我が道を進んだポール、右翼の暴力にあえなくたおれる。

労働者の国を目指したソ連、建前は立派だが、内実は大変な抑圧的国家だったことが、広く知られている今では、ロシアを理想郷のようにみて情熱的な活動をするポールの姿は痛々しい。

ポールの死の光景で、山本宣二を思い出した。政友会と民政党の二大政党制に戻してはならない、民主主義の死だと、治安維持法糾弾をつづけ、無産者政党議員仲間も次第に転向してゆく中、節を曲げず、右翼団体のテロリストに斬殺された人だ。

巻末エッセイで、柴田元幸氏「シンクレアには社会主義の夢があったのに対して、我々はいかなる夢があるのか?」と書いている。読者には、中田幸子という人の解説の方がありがたいのでは?解説には、「ポールの死の場面は、シンクレアの作品の中の最高のシーンである、といった研究者もある」とある。彼女「ジャングル」の翻訳者&前田河についての本も書いている。

イラク侵略も、アフガン侵略も、はたまた南オセチア紛争も、「石油」をめぐるパワー・ゲームの側面があるが、本書には、キルクークや、ペルシャ等、石油にまつわる地名もあらわれ、現代との連続性を感じさせる。

「宗教の利潤」という本も書いている著者、労働運動家ポールの弟で、宗教家として大成功を収めたイーライを、滑稽なほどこき下ろしているが、彼が新しいメディア、ラジオを活用し、ラジオ説教で大成功する様子をしっかり描いている。最後の急展開も、実はエセ宗教絡み。バニーが人気女優ヴィーと恋愛関係になり、主演映画の公開を見に行った場面での、ユダヤ人活動家レイチェルによる、映画のプロパガンダに対する辛辣な批判は、テレビの本質に対する批判にも通じよう。古いメディアの商業新聞は、ポールの労働運動を、歪曲するか、無視するかのいずれかで、現代と変わるところはない。

久々に「面白くて、ためになる」大作を読めたが、われにかえると、残念なことに、80年もたった現代日本にも通じる要素が多すぎる。「商業マスコミに期待してはならない」こと、体制側のでっちあげによる労働運動弾圧だけでなく、労働運動が左右に分裂、折り合わないところまで、そっくりそのまま。

解説の最後の部分を引用しておこう。
再登場の本書『石油!』に接する日本人が、大海のような物語のなかから何か今につながる問題解決の鍵を発見することがあれば、シンクレアにとってはやはり「嬉しい限り」であろう。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

日本テレビとCIA 発掘された「正力ファイル」

2006/11/19 23:17

民衆馴致の装置日本のテレビとCIA

11人中、11人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

アメリカのジョークの典型に、良いニュース、悪いニュースというのがある。本書で思いついたのはそうした「良いニュース、悪いニュース」。
良いニュースは長年そうではないかと想像していた事が妄想でなく事実だった事。悪いニュースは、その事実が、マスコミ特にテレビは体制権力による愚民化政策の道具としてアメリカが計画していたという事だ。
ディズニー・アニメなどを研究していた学者が、アメリカの国立公文書館に埋もれていたファイルによって、日本テレビが日本を対共産圏の防波堤とすべく日本人を教化するため企画されたドゥマンらの「アメリカ対日心理戦」の一環であったことを証したもの。
「拒否できない日本」はアメリカがあからさまに「属国日本」の支配層に、アメリカの都合に応じた日本の体制破壊を命令する文書であることをまざまざと示してくれた名著だ。一方本書は、そういう傀儡政権の従属政治を喜々として支持し自らの首を絞める属国民衆が創り出され続けている秘密を明かしてくれる。
正力が孤軍奮闘してテレビ事業を始めたわけではない。アメリカが狙っていたことを、日本側受け皿、走狗として実現に励んだにすぎない。
実現までに吉田首相からの横やりがあったり、計画変更を余儀なくされたりする経緯が、細にわたって描かれる。アメリカの「反共スキーム」という大枠は最後まで変化しない。
アメリカは日本を壊滅した後、日本を命令通りに動く組織に改造するため、さまざまな作戦を駆使していた。アメリカ文化センターなる施設に書籍をおき、映画を上映したのもその一環だった。
テレビ・ネットワーク構築は、同時に日本支配の為の軍事通信マイクロウエーブ・ネットワークの構築でもあった。テレビの導入は、アメリカのテレビ・セットの輸出市場開拓、テレビにかかわる莫大な特許の収入源開発でもあった。
更にテレビ・ネットワークはアメリカ文化注入の道具だった。テレビの普及にあわせて、日本各地のアメリカ文化センターなる施設は消滅した。なぜなら日本の家庭一軒一軒がアメリカ文化センターに変わったためだ。
終章が何よりも素晴らしい。
「日本テレビは心理戦に組み入れられた」
サンフランシスコ講和条約を成立させるに当たり、アメリカ軍を駐留させることで、軍事的占領は継続できるが、心理的、政治的支配の継続は大きな課題だった。
それを、テレビ・ネットワークを活用して見事に解決した。
以下のような項がある。
 1.アメリカおよびアメリカの同盟国との連携を強めれば日本に経済的繁栄がもたらされるが、共産主義国と連携を深めればその逆になると思わせること。
 2.共産主義国は日本を侵略しようとしており、それから守るにはアメリカ軍の駐留を受け容れ、アメリカ主導の集団的相互安全保障体制に加わることが必要だと気付かせること。
共産国を「アメリカ以外の国」におきかえれば今もそのまま。
こういう項もある。
- アメリカと日本の国家的指導者に両国の国益が似ていることを強調させ、それをメディアで広めよ。
- 共産主義への幻滅を書いた文学作品を日本語に翻訳させ、低価格で出版させなければならない。
共産主義への幻滅を書いた文学作品には、昭和24年に「占領軍翻訳許可第一号」群の一冊として発行された寓話『アニマル・ファーム』がある。
著者はさらに言う。
保守系政党が一つにまとまり、憲法改正に必要な三分の二の議席を確保し、再軍備するというのが今日に至るまでのアメリカの願いだ。
が、このような極秘文書の公開・非公開の判定に関わっているメリーランド大学の某助教授は、筆者と会話した際に「そのようなことを裏付ける文書は一〇年たとうが二〇年たとうが絶対公開されない」と断言した。
という。
最後に著者は問う。ドゥマンの呪縛はいつ解けるのか?
「テレビ」が啓蒙の装置に変わる日がくるのだろうか。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

あやつられた龍馬 明治維新と英国諜報部、そしてフリーメーソン

2006/10/23 20:09

維新以後の日本を動かしている黒幕の正体とは?

13人中、11人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

司馬遼太郎の長編小説「龍馬が行く」をわくわくしながら読んだのは昔のこと。下級武士とさえ言えない出自ながら、あの若さで体制転換運動の「かなめ」となりながら、維新の成就の様子を見ることなく暗殺されてしまった悲運の英雄、という記憶が残っている。大ファンのつもりでいる。しかし「考えてみると、話がうますぎるなあ」という素直でない勘ぐりの念もあった。暗殺の時期も変に適切すぎるように思えるし、暗殺犯の姿が全く不明というのも奇妙だ。そこに本書が目についたので飛びついた。著者には「石の扉」という本もある。これにも明治維新に触れた部分はわずかながらあったが、本書のショックははるかに深遠だ。
目から鱗とはまさにこのこと。内容を一言で言えば「龍馬はフリーメーソンの手先だった」ということになるが、本書、いわゆる「陰謀論」とは思えない。明治の元勲となったそうそうたる面々の、維新前後の不思議な振る舞いの数々。イギリス大使とグラバーの行動、等々。つじつまがあいすぎるほど、ぴったりあってしまう。これまた「話がどうもうますぎるような気」もしないではない。
本書がとんでもない嘘で、司馬遼太郎版が真実であって欲しい、とは思うが、どうやら、残念ながら、逆のように思えてしまう。
フリーメーソンといえば、「ダビンチ・コード」を思い出す。西洋史やキリスト教を学ぶのは結構なことだが。某国に関する歴史小説を読んだが、そこでもフリーメーソンは政治の上で極めて大きな役割を果たしていた。ともあれ、フリーメーソンのことを考えるのなら西欧の宗教の謎よりも、自分の足下の謎に取り組むことが先だろう。
新聞を賑わす政治家の顔も思い浮かべながら読んだ。「下駄屋の子息がアメリカ留学し、大学教授になり、あっという間に大臣になり、突然引退しアメリカに隠棲する」というお話も考えてみれば現代版龍馬のようだ。いや彼一人ではない。アメリカやらイギリスに「留学」したと称する政治家学者達は大半現代版龍馬。殺されずに生きているのだから明治元勲の亜流か。あちらの研究所で政治論文をものした元首相の次男もそうに違いない。
アメリカ、イギリスが、幕府・倒幕派双方を巧みに操り、武器を売り込み、貴重な資源(資産)を入手し、国家を自分たちに都合良く改造する。一世紀へてそのまま続く構図。
「明治維新」から現代に至るまで、日本は孫悟空ではないが、お釈迦様ならぬアングロサクソン・フリーメーソンの掌上で暴れたつもりになっているだけだろう。
ところでグラバーが働いていた「ジャーディン・マセソン」中国への阿片貿易で有名だが、今はヘネシーやら、オールドパー(岩倉具視が欧米視察後持ち帰ったという)、ジョニーウォーカー、ドン・ぺリニヨンとそうそうたる洋酒の総代理店になっている。考えてみれば、阿片も酒も似たようなものか。
好奇心で、ジャーディン ・マセソン関連企業幹部にはどのような人々がいるのだろうかと、適当な役職を入力して検索してみた。果たして超有名財閥関係らしい名前が出てきて驚いた。
二度ほどひかれている印象的な言葉がある「日本において、体制の変化がおきているとすれば、それは日本人だけから端を発しているように見えなければならない」(1866年4月26日ハモンド外務次官からパークス在日公使宛公文書)
小選挙区制、911政治クーデーター、教育基本法改正、二大政党化、憲法破壊、そしてアメリカの傭兵としての参戦と、この公理の元、米英のシナリオ通り、ゆっくりしっかり推進中。
「龍馬が行く」のみならず司馬の明治青春物の愛読者にとって本書は格好の解毒剤。ゴミ箱以下の内容しかない民放や新聞より遙かにスリリングなミステリーが楽しめる。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

9.11テロ捏造 日本と世界を騙し続ける独裁国家アメリカ

2006/08/04 20:12

(著者の変身に)驚いた!

12人中、11人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「泥棒国家の完成」で、属国の傀儡を非難しても、宗主国を批判しない著者の立場、あいまいに思えたが、本書で著者を見直した。目次をみれば立場は一目瞭然。
第一章 9・11テロ捏造 嘘で固めた公式発表
第二章 9・11テロだけではない 捏造はアメリカ開戦の常套手段
第三章 独裁国家アメリカの現在
第四章 選挙泥棒2002,2004 二つの選挙を盗んだブッシュ
第五章 ブッシュ一族の犯罪と秘密結社
第六章 次の標的は中国、その前にイランか 戦争中毒者の計画立案書
第七章 生物兵器と劣化ウランのセットで人口削減を狙う者たちの正体
第八章 日本よ! 地球を救うウルトラマンになってくれ!!
フォーブス誌のアジア太平洋支局長であったのに、やめた理由に感心した。パソコン・ウイルス開発者を追っていたところ、その人物がパソコン・ウイルス撃退ソフト会社に出入りしていたのをつかんだ。それを記事にしようとしたところ、アメリカのスポンサーに遠慮して、掲載差し止めになったのが原因だったという。
一部だけ紹介しよう。
核心は、911がアメリカ政府の捏造だという立場で作られた映画「911ボーイングを捜せ」原題In Plane siteをもとに、911はテロリスト攻撃ではなく、アメリカ支配層による「捏造」だと論じる部分。明治天皇の孫という評論家中丸薫と対談した際、これを見なさいとDVDを渡されたが、信じる気分になれず放置しておいた。やがてDVDを実際に見て改宗したという。
「ペンタゴンへの民間航空機突入」という公式発表と口絵写真を並べるだけで、公式発表はおかしいと、普通の知能の持ち主なら思うだろう。疑惑の世界チャンピオン戦で、テレビ会社やボクシング協会が、素人はルールが分からないと勝手な論理を述べても、素人をだませないのと同じだ。
 9・11テロ捏造を詳細に追った本に、例えばCrossing the Rubiconがある。詳細にわたって、驚嘆すべき捏造構造をあばいた名著だ。選挙泥棒については、グレッグ・パラスト本の翻訳「金で買えるアメリカ民主主義」さらに新著「Armed Madhouse」(アメリカを「入院患者の武装で乗っ取られた精神病院」にたとえる書名)に詳しい。人種差別による投票妨害、電子投票装置による露骨なトリックはすさまじい。残念ながら、いずれの良書も日本語翻訳がない以上、英語に堪能な著者による概要紹介を待つより他はない。グレッグ・パラスト、アメリカ人ながら、あまり痛いところをつくので、アメリカでは歓迎されず、イギリスのBBCなどで記事を書いている人物だ。
第六章で、PNACなるネオコン組織による戦争計画の骨子を説明している。
「文章には書いていないことだが、日本の自衛隊をアメリカ軍の下請けにさせるという凄い圧力が実際にあって、アメリカから日本の政治家や役人を脅しに来ている。」「明らかにおかしい、こんなことはやめよう」と声を出して行動して欲しい。と著者は言う。
そう。北朝鮮など怖くない。危険なのはアメリカだ。
911がばれてアメリカで革命がおきる!と著者は言う。著者は日本人も目覚めて立ち上がることを期待しているが、権力を盲信してきただけの人種に、その可能性は皆無。属国の住民としては、宗主国の革命に期待するしかあるまい。その点、第八章は正論だが、ないものねだりの感が強い。
本としては厚いが、かなりのページはボールドで大きく行間を空けた要約形なので実質はさほどない。「薄めた」というより「読みやすくした」と解したい。
外国人特派員協会の中でCIAの手先にいびられている著者の、奮闘と続編を期待する。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

国家の品格

2005/12/02 01:04

品格ある著者による品格ある国家論

12人中、11人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

大昔に岡潔という数学者の「日本の心」という本を読んで以来、数学者の本は読んでいない。どうも肌にあわなかったのだ。それなのに、腰巻きに惹かれ、数学者がかいた本を購入してしまった。
講演をもとに書き直したためだろうか、実に読みやすい。講演の時のくすぐりがそのままのこされたのか書き加えたのか定かではないが、講演を拝聴しているかのようで、あっと言う間に読み終えた。実にもっともな説でたちまちファンになってしまった。大数学者として岡潔の影響をうけたという話がでてきたのには当惑したが。
アメリカの大学で数学を教え、アメリカの「議論」の応酬でものごとがきまるのが爽快に思え、帰国後しばらく「アメリカかぶれ」だったという。
同じ英語圏のイギリスで一年暮らして、アングロサクソンとは言えまったく違う国であることを知った。イギリスから帰国後、著者の中で「論理」の地位が大きく低下し、「情緒」が大きくなったという。
論理よりも情緒、英語よりも日本語、民主主義よりも武士道精神で、「国家の品格」を取り戻すべきだと。
数学者とはいえ、かなりの語学マニア、幾つか言語を習得し、アメリカ人学生のレポートを添削していた人が、小学校への英語教育導入を批判するのだから、耳を傾けるべきだとおもう。
「第三章 自由、平等、民主主義を疑う」が特に興味深かった。
著者の言葉を引用しよう。
”主権在民には大前提があります。それは「国民が成熟した判断をすることができる」ということです。この場合には民主主義は文句なしに最高の政治形態です。
しかし国民というのは一体成熟した判断ができるものなのでしょうか。”
そうではないのだ。そこで見出しを引用すると、「国民が戦争を望み」「民主主義がヒットラーを生んだ」のだ。
おもわず読み返してしまった部分がある。
- 冷徹な事実を言ってしまうと「国民は永遠に成熟しない」のです。-
911クーデター選挙の結果は、まさにこれを絵に描いた現象だった。
著者はまた、「日本は異常な国であれ」という。
政治家たちのいう「普通の国になるべきだ」という説は、この普通の国は「アメリカみたいな国」に過ぎないときって捨てる。
一読、気分は非常にすっきりしたが、膨大な資金でマスコミを駆使し何でもありで責めかかってくる品格なき卑劣な体制派勢力は「武士道」では押し返せまいにと我に返る。
奥様は「著者の話しの半分は誤りと勘違い、残りの半分は誇張と大風呂敷だ」とおっしゃるそうだが、そんなことは決してない。
彼の母堂は藤原てい。「流れる星は生きている」という彼女の名作を読んだことを思い出した。彼の正義感、あの名作とまっすぐ繋がっているにちがいない。そもそも作品に登場している。こういう先生にこそ、文教政策の大綱をたてていただきたいものである。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

東電・原発おっかけマップ

2011/08/24 00:40

永久戦犯を逃がすな!政、財、学、官、マスコミの原子力ムラによる、原発推進プロパガンダ・虚報に対する解毒剤として、お勧めの犯罪者列伝

17人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

講読している雑誌に、この本の広告が掲載されていた。大型書店を数軒見たが、置いていないので、bk1のお世話になった。

要するに、原発にからむ、電力会社、福島県政、そして、国政に関わる政治家、通産官僚、財界、大手ゼネコン、御用学者、御用マスコミ、タレントの、全犯罪人列伝。
各編の始めに、活躍中の方々がかかれた、概論的な文章がある。

店頭で売られていない理由は、おそらく多くの登場人物の自宅アドレスや、写真が掲載されているためだろう。「実力行使の勧め」になってはいけない、ということだろう。

目次を一部、ご紹介しよう。

I.東電編 「原子力ムラはなぜメルトダウンしないのか?」小出裕章
勝俣会長、武藤副社長、他
II.福島編 「レベル8・フクシマの叫び」奥平正
木川田一隆、三人の佐藤知事、渡部恒三、他」
III.永田町編 「原発利権のホットスポット」高野孟
正力松太郎、中曽根康弘、田中角栄、与謝野馨、甘利明、笹森清、仙石由人、枝野幸男、海江田万里、他
IV.霞が関編 「脱原子力のための社会史」 吉岡斉
寺坂信昭、松永和夫、西山英彦、他」
V.電力・産業編 「電力会社はなぜ事故を隠すのか?」西尾漠
政治献金・感電する政治家たち
「グローバル・パワーに翻弄される国づくり」歳川隆雄
米倉弘昌、渥美直紀、他
V1.学術・メディア編 「メディアと原発をめぐる不都合な真実」山口一臣
茅誠司と茅陽一、石川迪夫、関村直人、斑目春樹、他
東電が主宰した「大手マスコミ接待中国ツアー」とは何か?
花田紀凱、滝川クリステル、勝間和代、木村太郎、堺屋太一、他
VII.未来編 「チェルノブイリからフクシマを考えた」今中哲二

概論的な文章では、下記の三本が特にお勧めに思える。
「原子力ムラはなぜメルトダウンしないのか?」小出裕章
「脱原子力のための社会史」 吉岡斉
「チェルノブイリからフクシマを考えた」今中哲二

小出氏、今、日本で一番有名な学者だろう。御用学者が馬鹿な発言を繰り返し、誰も信じなくなった今、彼の毎日のメッセージを頼りにしている人は多いだろう。もはや誰も東大系御用学者の意見など信じないはずだ。小出氏、肩書きは助教だが、反骨精神ゆえの、「万年助手」肩書きを有り難がる場合ではない。最近、『放射能汚染の現実を超えて』など、多数著書も出しておられる。

今中氏も京大原子炉実験所助教、小出氏の同僚。政府が全く現地の放射能状況を発表しないのに業を煮やし、福島入りして、調査を敢行、数値を発表された。チェルノブイリ調査を何度もしておられる。

吉岡氏は、名著「原子力の社会史-その日本的展開」を書いておられる。残念ながら、入手困難。最近では、岩波からブックレット『原発と日本の未来』
をだしておられる。
2月8日発行。つまり311事故の直前。冷静な筆致で、原発からの撤退を論じておられる。

御用学者の代表として、今国費だか県の金だかを使って、福島の人々の被曝測定モニター・プロジェクトを嬉々として推進している福島県放射線健康リスク管理アドバイザー、福島県立医科大学副学長、山下俊一氏、漏れているのだろうか。見あたらない。彼を、ナチスの医師で、人体実験を行っていたヨーゼフ・メンゲレに例える方々も多い、大変な人物なのだが。

アメリカは原爆投下直後、被害実態調査のために、原爆傷害調査委員会(ABCC)をたちあげた。徹底的に被害実態を調査し、データーをまとめたが、一切治療はしなかった。原爆、放射能の人体実験によって、今後、配備、開発すべき原爆の数量を知るためだったのではないだろうか。山下俊一氏、その流れを汲む人物に思えてならない。

いくら、反原発訴訟をしても、かならず、とんでもない理屈で国を勝たせる裁判官のお歴々がかけている。読み過ごしたのだろうか?
玄海原発や、泊原発で名を売った、佐賀県知事古川康、岸本町長や、北海道の高橋はるみ知事等が載っていないのが残念。原発がある県と町のお歴々のオトモダチ・カタログも欲しかった。

極悪犯罪人ということでは、IAEA(国際原子力機関)やICRP(国際放射線防護委員会)も掲載して欲しかった。
IAEA(国際原子力機関)は、核兵器保有国が増えないよう査察する機関ではあるが、原発は推進する組織だ。
また、許容量を決める組織として有名なICRP(国際放射線防護委員会)、資金は、IAEA(国際原子力機関)などから得ている。人は金づるにはかみつかないものだ。原発を推進する組織が金をだす組織が、原発の放射能や、再処理工場や、原発事故で飛散する放射能を、危険だといって回るはずがないだろう。更に欲を言えば、アレバも含めて欲しかった。

原発導入のための最初の法律を通した中曽根康弘、犯罪人代表格だが、次女が、しっかり鹿島建設副社長・渥美直紀の夫人におさまっていること、本書を読むまで知らなかった。鹿島建設、国内原発建設シェアの三割を持っているという。立派でリッチな大勲位。

今夜のニュースで、「もんじゅ再開をめざす」というのを目にした。日本のエリート、ネジが外れている人々の集団なのだろうか。一体何を考えているのだろう。もんじゅが事故を起こせば、その被害規模、軽水炉の比ではない。

色々、希望は書いたが、政、財、学、官、マスコミの原子力ムラによる、原発推進プロパガンダ・虚報に対する解毒剤として、お勧めの一冊だ。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

日本その心とかたち

2005/08/18 13:15

ジブリからの思いがけない贈り物

10人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本書、同名書籍の第四段階にして、かつ決定版だという。
最初にあったのは1987年のNHKテレビ特別シリーズ番組だった。十数ヶ国、三年に渡るという大がかりな取材に基づく十回シリーズ番組だ。
第二段階、平凡社からふんだんに画像を盛り込んだ大型本十冊が、同時進行で刊行された。一冊2000円。決して、気安く買える本ではなかった。
第三段階で、ドイツ語、フランス語に翻訳され、英語版も出された。大半の日本人には無縁だった。
その英訳本を日本語に戻し、本人が必要な訂正を施し、巻末にジブリ高畑監督とのアニメーションにまつわる対談を加え、第四段階、決定版としてようやく刊行されたものが本書だ。
日本有数のアニメ作家にして理論家の高畑勲監督との巻末対談、単なる「オマケ」ではない。対談を読んで、高畑アニメの奥深さ、決してビジュアル効果やあざとい筋によって人を驚かそうという浅薄なものでなく、深い思想・哲学から生み出されていることを改めて納得した。ジブリの鈴木敏夫プロデューサー、平凡社刊行の加藤著作集を何と三度も読み直したというのも、凄いことだ。
本書、医師として出発しながら、フランス留学をへて東西の芸術に通じた作家、評論家として、西欧諸大学で教鞭をとり、多くの美術作品を実際にみている著者にして初めて可能な作品だ。世界史の流れ、思想、政治、経済の大きな動きのなかに、日本美術・思想を配置し、語って倦まない。著者が同様に日本文学の歴史を概観した壮大な著作が「日本文学史序説」であった。
今では入手困難な平凡社版の美しい十冊シリーズは、写真と文が混在し、読み通すのが容易ではないレイアウトだった。チャールズ・イー・タトル刊行による英語版Japan Spirit & Formも素晴らしいが、英語では明晰さで知られる著者の文は楽しめなかった。(海外への土産にすれば、大感激されること確実。ただしスーツケースに入れるにはいささか重い。49.95ドルという価格はよしとして、残念ながら絶版のようだ。)というわけで大部ながら、ようやく我々が通読できる本が現れたわけだ。
興味深い記述はもう随所にある。例えば「琳派海を渡る」の琳派とアール・ヌーボー比較、利休の本質を語る「日本文化の文法」、江戸文化、美術を分析する「もの尽くしと幻想」「日本の19世紀」そして、世界に冠たる醜悪な都市、東京を語る「東京という現象」等々。とりわけ都市、建築の比較などは、教員生活を送るなかで、比較的長期間、いくつもの西欧都市での生活経験がある著者ならではの言だろう。
最小限の図版は入っているの(88ページ)で大筋を追うのに困難はないが、読めばよむほど言及されている作品を知るために、(先行版のような)豊富な図が見たくなるのは人情だ。図版満載でないことだけが実に残念と思ったが、腰巻をみるとDVDも発売とある。価格およそ四万円。
DVDは決してやすいものではないが、巻末対談のみならず現代日本映画を語る特別講義まで入っている。英語字幕つきだ。本を読み、DVDで見てこそ、この作品全体は味わえるだろう。念のためWebで見ると、ビデオの英文版、在外公館の広報備品となっているようだ。さもありなん。ともあれ昔テレビ放映時に見落としていたものにとって、嬉しい誤算の?追加出費だ。
日本美術史、更には日本思想史の概観を把握するのに素晴らしい決定版だ。日本はアニメ、漫画大国と言われて久しいが、本書はそうした芸術を志す人々にとっての必読書でもあるだろう。日本のアニメ、こうした連綿とした長い歴史の上に生まれたのだから。
ジブリ美術館を訪れるアニメ・ファンの中に、本書を手にする人々が現れると想像するのは愉しいことだ。
同社作品ファン、高畑ファンに、もう一つの素敵な「作品」をもたらしてくれたジブリに心から感謝。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

ナガサキ消えたもう一つの「原爆ドーム」

2010/08/08 10:49

米国の政策を妨害する敵対的な動きを暴露し 米国政策に対する理解を促進するようなアメリカの生活や文化的側面を説明すること

9人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

夏の平和記念式典というと、広島が連想される。決して長崎ではない。しかし、それがなぜなのかという理由、これまで全く考えたことはなかった。今年は、原爆を投下した国の代表も参列することになり、アメリカ国内では反対論もあるという。
最近博多にでかけ、帰路長崎に寄った。以前広島を訪問し原爆ドーム等を見学したことがあるので、同じようなものがあるのだろうと勝手に想像して町を歩いて驚いた。広島に比べ、原爆遺構の影は驚くほど薄い。行き交う観光客、坂本龍馬参りの方ばかり。龍馬通りや中華街、大変に明るい。それが悪いとは言わないけれど、きつねにつままれたよう。素晴らしい観光地なのだが、原爆の遺構はほとんどない。爆心地に行ってみると、広場の隅に慰霊碑と教会の壁の一部が建っている。平和公園では巨大な像が天をさしている。公園には今はなきソ連・東欧から寄贈された彫刻がおかれている。アメリカが原爆投下の地に慰霊碑を贈るはずもあるまいが、念のため探した所、セントポール市のものがあった。他は全て国からなのに、アメリカは都市からの品というのが不思議に思えた。
そこから程遠くない場所で、ひどく破壊されていた浦上天主堂、残骸を撤去してから、元の場所に再建されている。新天主堂には残骸のごく一部、マリア像の頭が置かれているらしい。

長崎原爆資料館、浦上天主堂の一部が巨大なレプリカになっているが、暗くて良く見えない。売店に『長崎旧浦上天主堂1945-58―失われた被爆遺産』が置いてあった気がする。ぼんやり記憶にあった本書も探してみたが、見あたらなかった。結局、旅の後、本書を探して読んだ。内容からして本来売店に並んでいて当然だが、これも不思議。

本書の内容、驚かされることだらけ。今の不思議な現状となった理由が理解できた。
著者の母親は被爆者。著者は1955年長崎に生まれ。著者自身、原爆被害の遺構、つまり大浦天主堂の瓦礫が残されていないことを、さほど不思議には思っていなかったという。偶然、長崎放送が制作した『神と原爆』という2000年に放送されたドキュメンタリーをみたのがきっかけで、浦上天主堂の遺構が消えた理由を調べ始めたのだ。著者、アメリカの国立公文書館まで資料調査にでかけている。

先に結論を言ってしまえば、100%の証拠はないが、アメリカがしかけた日本世論工作によって、邪魔な証拠隠滅として、天主堂は、戦後13年目に撤去されたらしい。

セントポール、戦後始めて長崎と姉妹都市になったアメリカの都市。長崎は日本初の姉妹都市。姉妹都市といえば、名前、気候、産品、歴史など、どこか共通点があるだろうと普通は考える。ところが、長崎とセントポール、カトリックの大きな教会がある以外、ほとんど共通点皆無。セントポール、文化交流の窓口でも港でもなく、気候は寒い。姉妹都市の話が突然降って湧いたのもおかしな話。窓口役をつとめたアメリカ人の素性もよくわからない。
ともあれ、姉妹都市条約締結のため、ドル持ち出しも不自由な時代に、はるばる市長がでかけ、一ヶ月も歓待されている。当然費用はアメリカ持ち。山口大司教もほぼ同時期に、アメリカに天主堂再建の募金行脚に出かけていた。長崎のカトリック教徒、再三、迫害を受けた。苦労して長年かけて建立した大浦天主堂が、何とキリスト教を国教とする国によって、あっけなく破壊されてしまったのだが、その再建費用の一部を、残虐に破壊した国に求めるという論理、無宗教な読者としては、釈然としない。
ことの真偽は分からないが、訪問中、市長が「長崎は広島と違って、原爆投下を宣伝には利用しない」と語ったという驚くべき英語記事が残っている。

岩口議員(調査当時ご存命)が市議会で切々と遺構保存の大切さを訴えても、市長は全く態度を変えなかった。最終的な保存・破壊の決断は、施設の性格上、市長ではなく、大司教に権限があったようだ。その大司教が、遺構の完全撤去を強く主張したのだ。

長崎への原爆投下は当然だったという被爆者がいた。永井隆博士だ。彼もカトリックだ。代表的な著書に『長崎の鐘』がある。この本の出版にはGHQが関与していた。原爆を「神の摂理」と書いてあることで刊行の許可がおりたのだが、GHQ諜報課が作成した『マニラの悲劇』を付録として刊行するのが条件だった。フィリピンのマニラで、日本軍が住民やカトリック教徒を大量虐殺した記録だ。付録といっても分量はほぼ同じ。
本の付録で日本の悪を宣伝し、本文でアメリカの原爆投下を「神の摂理」として合理化する巧妙さ。

合同慰霊祭で、永井が述べた弔辞の一部にはこうある。

しかし原爆は決して天罰ではありません。神の摂理によってこの浦上にもたらされたものです。これまで空襲によって壊滅された都市が多くありましたが、日本は戦争を止めませんでした。それは犠牲としてふさわしくなかったからです。神は戦争を終結させるために、私たちに原爆という犠牲を要求したのです。戦争という人類の大きい罪の償いとして、日本唯一の聖地である浦上に貴い犠牲の祭壇を設け、燃やされる子羊として私たちを選ばれたのです。そして浦上の祭壇に献げられた清き子羊によって、犠牲になるはずだった幾千万の人々が救われたのです。

永井隆をローマ教皇ピオ十二世の使者が訪問している。ピオ十二世、ナチスのユダヤ人虐殺を知りながら、抗議をしなかった人物だ。徹底した反共主義者の彼、ナチスを共産主義に対する防壁として期待していたのだ。
ちなみに永井の『長崎の鐘』と同時期に、GHQの第一回翻訳許可を得て、戦後初めて刊行された翻訳書が、オーウェルの『動物農場』スターリンの過酷さを描いた寓話だ。

田川市長の訪米は、単なる都市間の出来事ではない。国務省も承知していた。そして、アイゼンハワーが創設したUSIA、米国広報・文化交流庁も。この組織の活動目的についてアイゼンハワーはこう書いている。「米国の政策を妨害する敵対的な動きを暴露し 米国政府の政策に対する理解を促進するようなアメリカ人の生活や文化的側面を説明すること」この組織は、労働組合も対象としており、「左翼主導の組合を大きく展開させる結果となりました。」のだ。こうした政策の対象者として、田川市長は招かれたのではないか。まさに、彼の出発の日、長崎駅に見送りにきたメンバーの中に、アメリカ文化センター館長夫妻もいたのだ。

かくして広島のドーム以上に衝撃的な反原爆の象徴となりえた遺構は完全に撤去された。

こうした歴史の改変操作、長崎だけではおわらないだろう。大規模な計画的洗脳工作が65年間、全国民に対し徹底して実行された結果の作品として、現代日本がある。

藤永茂氏の 『アメリカ・インディアン悲史』
にあるチェロキー・ネーションを思い出さずにいられない。英語を学び、法律を遵守し、必死に白人に同化の努力したが、居住地に金が出ることがわかり、強制移住させられた部族だ。洗脳されて、喜んで同化したあげくの運命、基地・同盟の重圧に苦しむ現代日本の先例と思えてならない。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

106 件中 1 件~ 15 件を表示

本の通販連携サービス

このページの先頭へ

×

hontoからおトクな情報をお届けします!

割引きクーポンや人気の特集ページ、ほしい本の値下げ情報などをプッシュ通知でいち早くお届けします。