更夜さんのレビュー一覧
投稿者:更夜
紙の本駱駝祥子
2016/06/16 14:24
正直者は馬鹿を見るけれど、それでも上を向いていて欲しいという祈り。
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
1982年に映画化されていて、中国映画の全貌2006で観た映画の原作。
映画も正直者は馬鹿を見るというむなしさがありましたが、原作はもっと色々ありますし、複雑さを抱えています。
しかし、自然描写や情景が実に活き活きと描かれているので、悲劇であっても後味は悪くありません。
もともとは朴訥で真面目な貧しい青年、シアンツが理不尽な目にあってもめげない前半は、純粋にシアンツを応援する気持になります。
結婚するけれど、そのいきさつもなぜかユーモラスな印象を受けて、とにかく我が強い、虎という年上女性に何を言われても言い返せない様子など、
シアンツらしいと思ってしまいます。
しかし、徐々に怠惰の流れに身を落としてしまう様子が、英国留学中に読んだディケンズの影響を受けていると知り納得。
なんとか昔のように上を向いてほしいと祈るような気持で読みました。
とても読みやすい筆致と文体。
紙の本ビロードのうさぎ
2016/06/16 06:44
すばらしい絵本
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
ルーマ・ゴッデンの『人形の家』で「人形は子供に遊んでもらわなければ人形じゃない」と飾られることを望む高慢な人形に云う所があります。
子供の頃の見立て遊びはとても大事だ、と保育をしている人に聞いたけれど、人間以上に親しみを持つものがあるとないとでは大違い。
梨木香歩の『りかさん』ではおばあさんいわく「人形遊びをしない子は癪が強くなる」
そして人形の悲しみは別れが来るところ。
酒井駒子さんの絵による最後のうさぎのまなざしは切ないと同時に別れをきちんと受け入れていれています。素晴らしい絵本。
紙の本ゴッドファーザー 下
2016/06/10 20:58
抗争だけではなく和解の物語。
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
上巻に続き、下巻へ。1940年代から50年代にかけてのアメリカ。
その裏社会には様々な国からの移民の「ファミリー」が暗躍している所、イタリア・シシリー出身のドン・ヴィトー・コルレオーネが頭ひとつ抜けた存在だったのですが、後継者となるのは三人の息子のうちだれか。
組織というものは、きれいごとだけでは通用しない。
どれだけタイミングと見極めが重要であるか、下巻でヴィトーの後継者となる三男マイケルのストイックさと残酷さと優しさと理性でもって描く。
ただ、暴力描写だけだったら薄っぺらい小説になりかねないのですが、様々な登場人物たちが、くっきりと陰影を持たせて描かれており、裏切り者=悪者という単純な構造ではなく、エピソードのつながりも大きなものから小さなものまで、心配りがされています。
上巻がファミリーだとしたら、下巻は復讐と成功と簡単に言ってしまえばそうなるのですが、マイケルだって最初から父について帝王学を学んだ訳ではなく、苦労して、時間をかけて周りの信頼を得ていく、父の教えを継ぎつつも、新しいドン(首領)としての才覚をじわじわと出していく所がスリリング。
読み応えのある小説でした。決して甘くはないけれど、厳しくも優しい、そして情け容赦ないけれど、和解の物語でもあります。
紙の本ゴッドファーザー 上
2016/06/10 20:56
目的の為にいかに人を動かすか。
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
映画『ゴッドファーザー』は、是非、もう一度見直したい映画のひとつです。
私が観たのは、高校生の時、名画座でパート1、パート2の2本立てで、ということは休みはほとんどなく5,6時間は観続けて、疲れてしまった思い出が大部分なのです。
観るには若すぎて、背伸びしても無理は無理。今の年になってわかる映画なのだろうと思うのです。
さて、これはその映画の原作ですが、盛大な結婚式から物語は始まります。
厳しい映画ほど、華やかな結婚式のシーンを長くしますね。マイケル・チミノ監督の『ディア・ハンター』ヴィスコンティ監督の『山猫』などもえんえんと結婚式のシーンがあります。
『ゴッドファーザー』も結婚式のシーンが長かった気が。
ひとことに家族愛、と言ってもこの物語の家族とは両親と子供といった単位の家族ではなく、イタリア、シシリーからアメリカに移民してきた人々が核となり、二世たちはアメリカ生まれでも「イタリア・シシリー魂」からは抜けられない、おおきなファミリーなのです。
マフィアの抗争というとあまりいいイメージはないのですが、いかに組織の長となるには大きな器、知性、判断力、忍耐力、思慮深さ・・・が必要であるか、がわかります。
それを体現しているのが、ドン・コルレオーネ。
ドンには3人の息子がいて、短気で思慮深さはないもののやる気はある長男、ソニー、病気がちで全くファミリーからは離れている、次男、フレッド、大学に行って数学の教師になるつもりの三男、マイケル。
またドンの名付け子で息子同様に手を貸す、ハリウッドの歌手、俳優のジョニー・フォンテーンがハリウッド映画界でのドンの威力を示す事となります。(フランク・シナトラがモデルだそう)
その描かれる駆け引きだらけのハリウッド映画界というのも大きな流れのひとつ。
ドンは、トルコ人のファミリーから麻薬の売買を持ちかけられきっぱりと断った事から、命を狙われる。さて、次の「ドン」となるのは誰か。
また、コンシリエーレと呼ばれる顧問役、ハーゲンはシシリー人ではなく、ドイツ系アイルランド人ですが、ドンは優秀であれば、出自にこだわらずファミリーにする、というのも器の大きさ。
知性と感性がよく磨かれ、そして「タフで利口な男、口の堅い男」ドンの後継者はだれか。
そして、ドンがシシリーからアメリカに移住してのし上がっていく第三部の途中で、下巻へ。
厳しいだけではいけない、優しいだけでもダメ。
私がもしビジネス書を推薦しなさい、と言われたらこの本を挙げます。
「目的を達成するためにいかに、人を使い、動かすか」が克明に描かれているからです。
紙の本結婚式のメンバー
2016/06/10 20:47
外の世界に憧れて。
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
新潮文庫の新シリーズ、「村上柴田翻訳堂」で、村上春樹さんが新訳したのが、かつては『夏の黄昏』というタイトルでしたが今回は原題直訳で『結婚式のメンバー』となりました。
1940年代のアメリカ南部。12歳の女の子、フランキーは、背が高くて、髪もボーイッシュで短くしていてどこか中性的。
かつては、同じ年頃の女の子たちと群れていたらしいのですが、理由は書かれていませんが、今は相手にされず、家族は父だけでどこのメンバーでもありません。
家の通いの料理人のベレニスと従弟のジョン・ヘンリーと台所でけだるい、暑い夏休み、トランプをするくらいしかやることがありません。
日々に退屈し、うんざりして、べレニスとジョン・ヘンリーに八つ当たりしてみたり、すねてみたり・・・夢見るのは、この退屈な町を出ること。
兄が結婚する、というニュースに、何故か「一緒にどこかへ連れて行ってくれる」と思い込むフランキー。
そんなフランキーをべレニスは新婚夫婦の間に入り込む余地なんてない、と当たり前といえば当たり前の事を言うのですが、フランキーの妄想はふくらむばかり。
PART ONE. PART TWO, PART THREEと三章に分かれますが、登場人物はフランキー、べレニス、ジョン・ヘンリーの三人がメイン。
ただし、各章ごとに、フランキー、F・ジャスミン、フランセスとフランキーの名前の言い方がかわっています。F・ジャスミンである第二章は、フランキーの妄想が一番すごく、自分の名前がジャスミンだったらいい、、、と思うフランキーの心中を表しています。
第三章のフランセスは本名で、兄の結婚式に参列するフランキー。べレニスの言う通りなのですが、ぽつんと取り残されたフランキーのくっきりとした孤独の影が切ないのです。
まだ、独り立ちできなくて、友人もいなくて、孤独で、やるせなくて、妄想ばかりが大きくなっていく思春期の女の子の心情というのは、複雑で同じ所をどうどうめぐりするもどかしさにあふれています。
表紙の写真は真ん中の女の人が著者のカーソン・マッカラーズで、この『結婚式のメンバー』が映画化された撮影現場に行った時に撮られたものだそうです。
カーソン・マッカラーズがもたれているのがべレニス役の人で、手前の少年に見えるのがフランキーを演じた女優さんだそうで、凝った表紙ですね。この事は本には書いていなくて、新潮社のフェイスブックで紹介されています。
決して、すらすらとは読めない小説なのですが、読み終わった後、自分にもこういう10代があった・・・とふと思い出す、そんな小説です。当初の『夏の黄昏』というタイトルもいい雰囲気です。
2016/06/10 20:43
ただの情報の羅列ではなく、中身の濃いノンフィクション
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
この本は400年前に日本に伝来したキリスト教とキリシタン禁止令、殉教といった事が
中心に語られますが、そのすごい量の参考資料リストを見てもわかるようにただの
調査結果報告にはなっていません。色々な面から物事を見ようとする星野さんの姿勢は相変わらずです。
過去の著作、香港の中国返還前後2年間香港に暮らした記録『転がる香港に苔は生えない』
自分のルーツ探し『コンニャク屋漂流記』車の免許を40代になってから取得しようと
五島の教習所に合宿に行った経験『島に免許を取りに行く』これらが、時々顔を出し、
本は一冊で完結ではなく続いているのだ、と今さらながら感心。
遠藤周作が『沈黙』『女の一生』『深い河』『留学』などで描いたキリスト教迫害の
物語くらいしか知らなかった私はその背景にあるもっと複雑な日本の思惑、宣教師たちの思惑が
うごめいていたことに驚きます。
しかし、いきなりキリスト教のお堅い話からは始まりません。
第一章は「リュート」であって、星野さんがもともと興味のあったリュートを習いに行く所から
始まります、リュートは天正遣欧使節の4人の少年たち、伊東マンショ、千々石ミゲル、
原マルチノ、中浦ジュリアンが400年以上前にヨーロッパに渡り、習った楽器であり、
ギターの前身というべきもの。
資料も読むけれど、自分の身体を動かして、400年前、少年たちがどんな調べを奏でたのかを
知ろうとする。リュートにも真面目に真剣に取り組んで、遊び感覚はありません。
どんどんリュートに魅せられて、自分のリュートを作ってもらうまでに。
さて、キリスト教が日本に持ち込んだのは宗教だけではありませんでした。
西洋の文化というものを初めて日本に持ち込み、貿易という扉を開けようとしました。
それが故に、後に鎖国となり、キリスト教も禁止令が出て、迫害されることになります。
日本を植民地化しよう、だけではなかったかもしれませんが、当時のスペインとポルトガルの
覇権争いが背景にあり、宣教師たちも派閥があり、そのバックにつく国が絡み合い複雑怪奇な
事になっていました。
星野さんは、リュートを習いながら、長崎や五島を訪れ、日本人がキリスト教を迫害し、多くのキリスト教信者が
処刑された場所をめぐっていき、宣教師たちは祖国へ手紙で報告を書いていますが、
その手紙から宣教師たちの故郷の一つであるスペインにまで足を運びます。
殉教する、ということはそこまで信念を貫いた証拠であり、その亡骸や形見は聖遺物と
してスペイン他の国へ送られる事になります。
皮肉にも殉教が非常に多かった日本は聖遺物の山とも言える状態になっていました。
キリスト教では殉教した人の名誉復活と認められますが、天正遣欧使節の一人、
60代で殉教した中浦ジュリアンが福者(名誉復活)として認定されたのは2008年。
400年という年月は、あまりにも長いけれど、こういった例はたくさんあり、また、
人知れず処刑されていったキリシタンの数は計り知れないといいます。
なぜ、そこまで頑なに信心を続けたのか、という事の理由の一つに日本にたどり着く
ために当時、どれだけ大変だったか、もうすでに日本への航海で「生き延びる」という
修行のひとつだったからではないか、と星野さんは推測しています。
そして最後に、宗教戦争、迫害は現代も世界各地で起きている事を強調しています。
昔昔のお話し、ではないのだ、過去と現在はつながっているのだ、ということを再認識。
読み応えのあるノンフィクションです。
2016/06/10 20:09
漫画ならではの動きがいい。
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
人の勧められて読んでみました。
第一巻から第十五巻まで一気読み。
アイディアがすごいことになっています。メカや角、牙にたよらない巨人の造形がすごいし、怖い。びっくり。
漫画ならではの「動き」をずっと見せる漫画で、原作の勢いったらすごいものがありました。
十巻までは対巨人の戦いなのですが、それから先はおや?と思う意外な展開に。
他に類を見ないSF世界で、人気が出たのは納得します。続きが知りたいなぁ。今も連載中なんですよね。
漫画は読んだら読んだなりに没頭してしまいました。謎の多いストーリーも魅力。
紙の本リフォームの爆発
2016/06/08 10:05
リフォームを文学する
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
「住を素敵にすることが、結局、生活全般の素敵に通ず」
猫についてのエッセイで、熱海に家を買って・・・からはや数年。
かなり無理のある作りの家だなぁ、と思ったのですが、思い切ってリフォームを決意して、終わるまでのいきさつ。
正確には一階部分を全面リフォームするのですが、今までこういった本(建築家のノンフィクションなどはありましたが)はなかったかと。
ただの身辺雑記に終わらせず、リフォーム文学とでもいいましょうか、大変なんだな、と思う事がたくさんありました。
見積もりから、実際の工事まで住まいをよくしたい、生活をしやすくしたいと思う気持が成就するまでの道のりは身近でありながら、決心のいる事です。
町田康さんの文章はどんな題材を描いても町田康さんの文章リズムは変わりません。
紙の本細雪 改版 下
2016/06/02 22:02
意外な幕切れながら、優れた人間ドラマ。
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
下巻は、三女、雪子の見合いと四女、妙子の恋愛の行方と意外な幕切れ。
こうして読むとこれ、といった大事件は起こらないけれど、人間が
生活していく中で身分に関係なく、何かしら「事件」が起こって、
心境の変化も色々あるのだと思います。
四姉妹の物語として有名だけれども、読み終わってみると、長女はあまり
出てこず、結局、三女、四女の義兄、父かわりであり、次女の夫で
ある貞之助が立派。
義理の妹の為にここまでする男性は今、いるのでしょうか。
当時の上流階級としては当然だったのかもしれませんが。
しかし、性格は違っても仲は悪くはならない四姉妹のあり方を通して、
家族というものをしみじみと考える物語でした。
今や自分と比べるには遠いけれど、身近な物語と読めてしまうのはさすが。
紙の本細雪 改版 中
2016/06/02 21:57
時代を感じさせると同時に感じさせない。
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
中巻は、四女、妙子の恋愛模様が中心かもしれません。
周りがお膳立てをしてくれるお見合いが当然と考えている三女、雪子に比べ、四女、妙子は家が豊かだった、華やかで派手だった頃を
知らないだけに自由恋愛を選びます。
災害、蛍狩り・・・他の谷崎文学のように良い意味でのけれん味はない、淡々と一家の様子を語る口調に少々、驚きましたが、大変読みやすく、これが戦前、戦中の上流家庭なのかと感慨しきり。
お見合いで、事前に相手方をくまなく調べるのは後々の事を考えると今よりも慎重で良いのかもしれない、と私の年になると思ってしまう。
ただし、大層、大袈裟で、高慢で、息の詰まりそうな堅ぐるしさも同時に感じます。
そういう時代だった、とも言えるし、時代が変わっても変わらない部分もあるのだという発見と両方ありました。
紙の本細雪 改版 上
2016/06/02 21:30
大人になってからやっと読めた物語
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
大人になってから、読みたい本というのがあって、この『細雪』はそういう本の一冊でした。
ずっと通勤電車や仕事の昼休みに上中下巻を読み継いでいました。
こうして読んでみると会話文が多くて(船場言葉)読みやすい物語。
上巻は、なんといっても蒔岡三姉妹が着飾って花見に行く所が圧巻。
上流階級の楽しみというものをここまで書きつくしていると感心しました。
三女。雪子のお見合い、四女、妙子の恋愛の行く末もまだ始まったばかり。
先が楽しみでした。追われるようにして中巻へ。
結婚している長女、次女に比べ、未婚の三女、四女がそれぞれ違った意味でハラハラします。
紙の本老人と海 改版
2016/05/29 11:54
背筋の伸びた文章
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
余計な寄り道描写、感傷的な物の見方、冗長な台詞などを一切排した太くて大きな柱が一本、のような小説。
短いながらも、「背景を背負わない」老人がひとり大きなカジキマグロと対峙する様を描きます。
老人の乗る小舟にクローズアップしていて迫力があります。
作家のその背筋には棒が一本入っているかのような、姿勢の良さが際立つ文章です。
学生時代にヘミングウェイは男性を描く作家と習った事があって、余計な恋愛もありません。
出漁する前と後での少年とのやりとりが、さりげなくてとても暖かいものを感じます。
紙の本高い城の男
2016/05/21 14:21
読後すぐよりも時間が経ってからじわじわくる独特の雰囲気
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
もし・・・だったらというifものですが、読んですぐよりも時間が
経ってからの方がじわじわときます。
全体を通して「陰の世界」何をするにも易経で占ってからという所に、
現実とは違う戦後の人々の不安と不信を見るような気がします。
そして物語に書かれた世界が、逆(本当の歴史通り)だとしてもどこか違う。その違いが奇妙な違和感となってざらざらとしています。
決して読みやすくはなかったけれど、それでも登場人物たちの憂鬱感は、
著者独特の世界。
紙の本人生パンク道場
2016/05/21 14:02
人生相談回答者の条件は苦労人
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
人生相談はあまり読まないのですが、やはり悩んでいるから
相談するのであって、それに対して弁護士や医師や有名人がとんちんかんな
回答をする、または「気にしない」など一番言ってはいけない言葉で
なぐさめるなんてことはこの本にはありません。
人生相談の回答者になる条件は「苦労人であること」だと改めて思いました。
タイトルにパンクとありますし、町田康さんのいつものぶっとび感覚
からすると不真面目な感じを受ける方もいると思いますが、
非常に真面目に質問に答えています。
あとがきにもありましたが、非常に悩んだということがよくわかる回答。
人間関係(恋愛など)の質問が多いですが、「他人を変える」のではなく
「自分を変える」ということを書かれています。何を言ってもやっても
他人は変わらないのだ、という諦観に納得しまいした。
いい人生相談。人生相談の回答者は苦労人でないと痛みや悩みがわからない
のですね。
紙の本浦上の旅人たち
2016/05/07 18:08
目をそらさずに理不尽さをみつめる
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
日本の児童文学では、「弱き立場の者が理不尽な目にあう」といった事はあまり題材に
なりません。
泣ける話はあるのですが、あくまでも善意、真善美のもと語られます。
私自身、ドイツのユダヤ人迫害は小学生の頃から知っていましたが、大人になるまで
この物語のベースとなる明治はじめの隠れキリシタンへの弾圧「浦上四番崩れ」の
事は遠藤周作さんの著作を読むまで知りませんでした。
処刑してしまうのではなく、長崎、浦上のキリシタンを集め、全国各地、遠くは金沢まで
流罪にし、多くの犠牲者を出した事実は歴史上の事実であり、もう変えようがないのです。
この本で知ったのですが、流罪が始まったのは江戸時代の末期も末期であり、すぐ明治時代に
なってしまったため、世の中(役人たち)は開国その他でもう、キリシタンどころでは
なくなり実質、放棄されてしまったのです。
物語はある一家とキリシタンではないけれど、盗みをしたために紛れ込んでしまった
少年の数奇な運命をたどりますので、そんなに残酷な描写はありません。
しかし、受難に目をそらさずにいる、ということを中学生くらいから日本でも
「かなしく、はずかしい事実」があった、と物語にするには勇気がいったと思います。
売れる、うける、だったら、楽しい事、きれいな事、おかしな事の方が受けはいいはず。
まさに真善美の世界を物語にすればいい。
著者、今西祐行さんは『肥後の石工』でもこっそりと殺されてしまう石工たちを
取り上げ、世の中にその理不尽さを問うています。
旧ソビエトも粛清時代に、北と南の民族をそっくり入れ替えるという民族大移動を
強いたりして、それは『コーカサスの金色の雲』に詳しく描かれていますが、
申し合わせた訳ではないのでしょうが、人間、弱き立場の者を虐げるのに似たような
事をします。
人間の本質の中には残酷さもあるんだなぁ、と今更ながら思うわけです。