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いえぽんさんのレビュー一覧

投稿者:いえぽん

185 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本

彼らは何故成功し、失敗したのか? アメリカアニメ史の巨人たちの苦闘を綴る良著

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本書は、ウォルト・ディズニーなど、アメリカアニメ史の巨人たちに焦点を当てて、膨大な資料と取材をもとに描写した「マウス・アンド・マジック」の下巻です。

約430ページのうち、巻末の100ページほどは索引等に割かれているという構成になっています。また、「下巻」と言っても、上巻で取り上げたスタジオや創作者たちよりも後の時代のみを取り上げているというのではなく、1930年代~70年代位までの、戦前~戦後にかけての時期を中心に取り上げています。

上巻とはほぼ同じ時系列で、異なる企業や創作者を紹介しているという形であると言えますが、監訳者の権藤氏の筆によって、1990年代~2010年に至るまでの、最新のアメリカアニメ映画の状況もフォローされており、上巻よりも更に広い範囲をカバーしていると言えるかも知れません。

図版が豊富であり、想像力を働かせることができること、各企業、創作者を並列的に紹介することによって、「比較と分析」が可能になっていることなど、上巻での特徴はそのまま受け継がれていますが、本書では「成功と失敗の原因の描写」という要素が、より明確に表れています。何故なら、下巻に登場するスタジオのほとんどは、ディズニーのような恒久的な成功を得るには至らず、最終的には、スタジオ閉鎖などの形で、事業的な失敗を余儀なくされているからです。

下巻に登場するスタジオや創作者は、極めて独創的なアプローチで、成功していきました。当初はディズニーの後追いのような形を取っていたものの、若く情熱的なクリエイターたちの奮起によって、過激なコメディ路線で成功を収めたワーナー。MGMは、1939年の冬、第二次世界大戦開戦時と言う時局の中にあって、戦争の愚かさや平和の尊さを、可愛らしいキャラクターにシリアスに語らせる「動物たちの国づくり」という冒険的な映画を作り、高評価を得ます。
ウォルター・ランツ率いるスタジオは、パイオニア的役割を果たすことはなかったものの、約半世紀にわたって安定して作品を供給し続けましたし、UPAは、いわゆる子供向けアニメとは全く違う、選挙用アニメや労組組織用アニメを作り、その完成度で信頼を得ていくと同時に、アニメ表現の幅の広さを証明した後、質において全く妥協しない姿勢を取り、「ジェラルド・マグボイン・ボイン」シリーズなどの、オリジナリティに優れた多くの作品をリリースしていきました。

しかし、高度な能力とアイディアと努力を駆使し、素晴らしい作品を発表してきたこれらのスタジオにも、衰退の時期がやってくることになります。作風も規模も全く違うはずの各スタジオの行き詰まりの原因が、かなりの部分で一致することを、本書からは読み取ることができます。

第一に「人」の問題があります。大規模なアニメ製作は、極めて多くの人が同時に作業する点で、強固なチームワークが求められるものですが、同時に、現場責任者の手腕一つで、作品の出来が変わってきてしまう、個人の能力勝負の面も強く、両方が上手く機能しなければ、優れた作品を作ることは困難です。本書で取り上げられている多くのスタジオでも、責任者の交代やチームの不和が原因で、作品の質が大きく変化してしまうという事例が挙げられていました。

第二に「契約の変化」の問題があります。TVが発明され、普及率が高まってくるようになると、映画館から家庭のTVへと映像メディアの主流は変化していくことになります。元々、劇場用短編映画の利率が薄かったこともあり、各スタジオはTVアニメに参入することになるのですが、毎週作品をリリースしなければいけない契約が発生したことで、必然的に作品の質の低下に直面することになります。劇場用よりも、ずっと短い期間で仕上げなければならない関係上、当然、作画の質は落ちざるを得ず、また、当時のアメリカのアニメは、有名なキャラクターを軸に、同一の世界観のもとで作品を展開する関係上、シナリオ、そしてキャラクターそのもののマンネリ化も避けられない部分がありました。多くの場合、劇場上映の最盛期の完成度からすれば、不満の残る内容だったとも言えます。

また、第三の問題として「資金面での課題」も深刻でした。企業的な観点からすれば、質を保証するために、劇場用短編作品を主軸とする選択肢は、スタジオの規模等から言っても取れるものではありませんでした。

これらの問題点は、一つ当てはまるだけでも深刻な影響を及ぼしかねないものですが、長期的に全てを避ける事は極めて困難でした。本書で取り上げられている、素晴らしいキャラクターや作品を生み出していった多くのスタジオは、多少時期を前後させながらも、「要因」に抵触することになり、苦闘の末に事業の停止やスタジオの閉鎖を余儀なくされることになります。あるいは、「映画館からTVへ」という形で、時代が変化していく中で、劇場用短編や広報用フィルムといったメディアを製作することに重点を置いていたスタジオの組織体系そのものが、限界にきていたのかも知れません。

アメリカのアニメ映画の世界では、今なおディズニーは巨人であり、台頭してきた新勢力によっても隆盛を保たれている現状がありますが、本書で紹介されている「成功と失敗」の法則性は、改めて、日本におけるアニメという分野に対する分析の参考にすることができます。低賃金重労働の問題はもちろんのこと、作品を発表するフィールドが変わり、「契約」が変わっただけで、作品の質がここまで変化してしまうという事実は衝撃的ですらありました。今日、日本においては、幅広いアニメ表現が支持され、早朝から深夜に至るまで、様々な層を対象にしたアニメが放映されていますが、ネットメディアが台頭する中で、TVは苦戦を強いられています。映画館からTVへ、短編アニメの主流が変わった時のように、今後、TVがネットに、あるいは別の何かに置き換わるということがあった場合、それは、放映媒体の変化のみならず、作品の質そのものにも影響を及ぼしてくる可能性は高く、いかにして対応するのかがカギだとも言えるでしょう。

アメリカアニメについての膨大な資料としてのみならず、作品とスタジオの成功と失敗を、人的、経済的、商業的契約の観点から解き明かした本書は、アニメファンはもちろん、創作関係者や企業関係者のビジネス書としての価値も非常に高いと言えるでしょう。特に、チーム体制で作品を仕上げて行こうという方には、単なる能力や努力だけではなく、「契約」という商業的側面が作品の質にどれだけ影響を及ぼすかを実例から知ることができるという点で、特に有益なのではと思います。

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紙の本

アメリカアニメの草創期からの歴史と発展の経緯、要因を、膨大なデータから解き明かした一冊

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

近年、日本アニメ界の多様なジャンルにおいての隆盛は、世界的な注目を集めていますが、ディズニーアニメに代表されるアメリカのアニメ界も、従来と変わらぬ存在感を示していると言えます。

ただ、日本のアニメが、小説や漫画等のジャンルと同様に、様々な作品や制作現場、創作者の経歴等々を組み合わせて、通史として語られるような状況にあるのに比べ、アメリカのアニメに関しては、有名な作品に注目が集められることはあっても、通史として、多様で深い視点から研究した書籍や文献は希少である面は否めませんでした。

そんな状況下にあって出版された本書「マウス・アンド・マジック(上巻)」は、アメリカの劇場用アニメに焦点を絞った、極めて充実した通史です。上下巻構成ですが、上巻だけでも400ページに及ぶボリュームを誇っており、同時に、本の紙が堅牢なもので作られているので、非常に丈夫な印象を受けます。また、専門用語が頻出するものの、文字が大きく、全体の記述としては平易な形を取っているため、読み辛い印象を受けることはありませんでした。

1980年初版(1987年改訂)以来、アメリカではアニメの通史として、定本(決定版)として受け入れられているという本書は、六章構成になっています。無声映画時代のアニメの詳細な解説から始まり、ウォルト・ディズニー、アブ・アイワークス、ポール・テリーなど、一時代を築き上げた偉大な創作者たちを並行的に紹介するという形になっています。

とは言え、偉人たちの活躍ぶりを紹介するだけの、平板な伝記にはとどまっていません。多くの先達たちに、直接話を聞き、膨大な資料を集めるという努力によって作られた本書には、当時を知る人たちの「生の声」が多く盛り込まれており、生き生きとした雰囲気となって、文章を形作っています。

本書の優れている点は、ほとんど何も無い状態から、充実した通史を作るところまで達した、資料的側面もさることながら、「対比」と「分析」を、素晴らしい精度で行っているところにあります。草創期のアニメ業界にあって、誰がどんな技術を発明し、どんなタイプの作品を作り上げていったのか。同時に、そのアイディアや発明を活かすために、どんな形の運用、スタッフ育成が行われていくようになったのか。創作者たちと、彼らが興したスタジオに関する事象を並列的に取り上げているだけあって、その歴史的蓄積の分析と、スタジオごとを対比するという形が徹底して行われており、ひいては、何が原因で成功したのか、失敗したのかという点が、読者にも容易に理解できるようになっています。

例えばディズニーは、ウォルト・ディズニーの徹底したプロデュース能力と、質を追求するために費用は惜しまないという姿勢、そして何より、アニメに登場するキャラに対しての徹底した深層分析と、スタッフが根幹となる力を養うための美術的教育の実効によって、かつてないほど魅力的なキャラクターを作り出すと、当時は不可能と思われていた長編映画製作に成功し、アニメ界の中心に位置することになりました。

それに対し、独自の破天荒コメディ路線で好評を博していたフライシャー兄弟率いるフライシャー・スタジオが、短編映画を専門にしていたにも関わらず、一転して「ディズニー的」な長編映画に挑戦するも、成功することができなかったのは、長編を作る必要から、いきなりスタジオの人数を大増員し、未熟な新人を多く抱え込まなければならなかったこと、キャラクターに、長編作品に不可欠な深みやリアリティに欠けていたことが記述されています。そのため読者は、長編作品を制作するには何が必要だったかを、すぐに理解することができるのです。

ディズニーとは完全に対照的な形で、アニメ界に大きな足跡を残した、ポール・テリーに関する記述をすることで、本書の特色である「比較と分析」は、より興味深い結果を示してもいます。テリーは、徹底的な多作と定型化で、取引先と観客の信頼を得ていきました。技術的には高くはなく、話の流れもマンネリなのですが、そのマンネリ的な話の流れが功を奏して、長きに渡って放映され続けたテリー作品の様式こそ、今では、アメリカアニメの「定番」だと、広く認識されるまでになりました。この対比は「努力の方向性は一つではない」ことを雄弁に物語っています。


圧倒的とも言える、本書における「活きた」知識の数々は、アニメファンや制作者にとって、非常に大きな価値のあるものになるでしょう。また、様々な成功と失敗の対比からは、良い結果のためにどんな準備が必要なのかを知り、日々の仕事や学問に繋げていくことができます。アニメ史にとって、本書の邦訳本が出版されたことが意義深いことは間違いないでしょうが、一般向けのビジネス書や教育書としても、実に有意義と言えます。また、本書は、世界に類を見ないほどの隆盛を誇る日本のアニメ業界を考えるにあたっても有益です。

前述したように、極めて強力なスタッフ教育を施していたディズニーにおいても、妥協を許さぬ完璧主義が過重労働を招き、規模が大きくなることで、創業者と従業員の距離が遠くなったために、ディズニーのモチベーションが伝わりづらくなったこともあり、大規模な労働争議と、それに端を発した作品クオリティ低下を招きました。フライシャー兄弟を追いだしたスタジオでは、かつての輝きを取り戻すことはできず、人員削減とそれに伴う質のさらなる低下に直面し、結局スタジオは閉鎖されてしまいました。

人がアイディアやシナリオ、キャラクターを作り出し、絵に命を吹き込んでいくというこのジャンルにおいては、何をおいても、まず、携わる人の状況が重要になってくるという歴史的証明とも言えますが、現在の日本のアニメ業界もまた、極端な過重労働と低賃金の上で成り立っているというのは有名な話です。いかに有名なキャラクターを作り出し、素晴らしい作品を作り上げたという実績があっても、労働的側面に問題があれば、その輝きは失われていくと歴史が証明している以上、現在の日本のアニメ業界の状況は、早期の是正が必要と言えるのかも知れません。

また、アニメ界では初の性的なニュアンスを持ち味としたキャラクター、「ベティ・ブープ」が、新たな映画倫理規制創設によって槍玉に上げられ、当初とは違う「大人しい」キャラクターに修正された記述からは、表現規制の影響力の強さと無意味さを、改めて思い知らされる部分がありました。

アニメの通史書としても、成功と失敗のメカニズムを知る本としても非常に優れていますが、過去の歴史を学ぶことで、日本のアニメの現在と今後を知るにあたっても、最適な一冊と言えるでしょう。

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紙の本

紙の本なぜうつ病の人が増えたのか

2010/01/18 18:43

「うつ病増加」の要因とは? その真実を詳細かつ多角的に分析した優れた一冊

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

近年、うつ病などの精神疾患がマスメディアで取り上げられることが、非常に多くなったように感じます。それに伴って、いわゆるメンタルクリニックなどの、精神面での治療を行う病院はぐっと身近になり、心理的な敷居が随分低くなったようにも感じます。SSRIなどの新しい薬の存在も広く知られるようになってきました。しかし、にも関わらず、うつ病に悩む人が減少したという報道ではなく、逆に増加したとの話を良く耳にするようにもなりました。治療を受けられる環境が整い、新薬が用いられるようになったのにも関わらず、減少に転じないのは、一体何故でしょうか?

本書は、そんなうつ病などが「増加」した原因を、詳細なデータを用いて多角的に分析した一冊です。失業等のストレスが増加し、うつ病患者が増加したのだという言説に、日本とは景気動向が異なり、九十年代中頃以降、景気回復基調を辿っていたイギリスでも、年々新型抗うつ剤SSRIの処方量が増加していったというデータで反証し、更に、他の先進国でも一致して、SSRI導入後に抗うつ剤処方総量が増加したことを示し、ストレスの増加がうつ病増加の主要因ではないという仮説を、さらに補強しています。では、何故「増加」したかという点について、本書は、「受診率の増加」という重要な要素を挙げています。ある病気について、受診率が二割から四割に、あるいは三割から六割に増加すれば、統計上の患者の数は二倍に増加します。

では何故、SSRI処方の増加と、受診率の増加が一致するのかという部分ですが、本書では、その点に関する分析も示されています。製薬会社が大々的なプロモーションの一環として、疾患の啓発・広報活動を行い、「誰にでもかかりうる病気で」、「治療することができ」、「早期治療こそが重要だ」というようなメッセージを送ったことが要因として挙げられています。従来の抗うつ剤と比べ、SSRIは薬価が高く、利率も高いので、大々的なプロモーションを行うだけの「価値」があったからでもあります。プロモーションを行うことによって、人はうつ病的な傾向に敏感になり、また、受診率の増加によって、統計上の患者数が増えます。この相乗効果によって、短期間にうつ病患者が数倍以上にまで「増加」するという「SSRI現象」が発生するのだと、本書では指摘しています。また、新たな診断方法の導入によって、非定型うつ病など、従来では病気と診断されなかった症例も疾患として扱われるようになったことにも言及がなされています。

また、本書で紹介されている、製薬会社のプロモーションは、注目すべきものがあります。様々な方法で、市民に啓発・広報活動をしていく一方で、医師に対しては、セミナーや学会をサポート、SSRIが従来の抵うつ剤よりも優れているといった趣旨の研究にも援助を行って、次々に作られる論文によって、医学界の「世論」が形成され、もちろんオーソドックスな営業も大々的に行っていくといった具合で、その戦略性は、洗練され、徹底されていると言っていいでしょう。

本書では、他にも、各国によるうつ病治療の違いや、SSRIの実際の効用はどの程度か等の、専門的な話にも言及がなされています。いずれのテーマにも、徹底したデータ、理詰めでの分析を行っていますが、その中でも最も評価されるべきは、最近、マスメディア等で「社会問題」化されているうつ病「増加」の原因が何かを突きとめ、分かりやすく解説していることです。受診率が増加すれば、統計上患者は「増加」しますし、診察を受けた人が敏感になった結果、診断を下されやすくなれば、当然「増加」するわけですが、それは事態の悪化を示すものではありません。製薬会社等が強力に介入することで中立性が損なわれかねない等々の懸念・問題はあるものの、診察や治療の敷居を低くする啓発活動の結果、受診率が向上することは、基本的に悪いことではないのですから、結果として患者数の「増加」も、特別警戒するにはあたらない状況なのです。

後は、「増加」の事実を、マスメディア等がどう報じるかが課題になって来るところではありますが、本書は発売以来、既に何度も増刷され、新聞各紙でも書評等で取り上げられています。統計上の患者数の「増加」そのものを「社会問題」とするような、報道上の「空気」も、変わりつつあるのかも知れません。



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紙の本

紙の本幻想の古代史 下

2009/11/23 12:38

証拠の伴わない「異説」の原因や、異説によって教育現場が影響を受けている現状を詳細に解説

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

下巻は、前編で解説した科学的な思考を下敷きとして、考古学にまつわる代表的な様々な「異説」について、批判的な分析を加えています。その対象は、前編で見られるように、既に捏造だと発覚した遺跡や化石ではなく、アトランティス大陸の伝説や、古代文明が突如として宇宙人などから高い知識を授かったという説等々の、「一般的ではない」とされる学説や主張に向けられており、時代背景も内容も広範に及びますが、色々な点から有名な言説でもあるので、あまりとっつきにくさを感じることはないでしょう。

分析の冴えは上巻と変わらず見事なもので、偉大な賢人プラトンが語ったアトランティス伝説が、彼による完全な創作であることの根拠に、プラトンに続く歴史家たちの記述の中に、アテナイとアトランティスの戦いについての記録が見られないのは、当時既に完全なフィクションであるとみなされていたからだという、説得力のある考察を加えており、古代に描かれていた特徴的な絵を宇宙人や何か、人智の及ばない勢力の影響や技術を示しているとする言説には、反証として、当時の文明から、古代の絵画に反映される有力な証拠を提示し、また、絵画制作に際しての技術は、優れてはいても、当時の技術的限界を超えるものではなく、「宇宙人がレーザーを使って」仕事をしたわけではないことを証明しています。これに対して、「宇宙人を介して科学技術が進展した、突然変異的に進化した」というような説は、言説を補強する証拠がなく、説得力のないものと言わざるを得ないというのが、本書が提示している結論で、膨大な証拠と冷静な分析を下地にしている以上、その結論の信頼性は、非常に高いものと言えるでしょう。

特にこの下巻では、様々な言説を対象にしていますが、しばしば、世界的なベストセラーにもなった著作にさえ見られる、「エジプトや、古代文明の勃興や衰退が急激になされた」、などの主張の多くが、文明が発展し、知られるようになる以前についての基本的な知識や、文明の衰退を招いた、社会的システムの疲弊など、本来であれば真っ先に目を向けられるべき事実に、知識不足等の原因で目が向けられていない、あるいは、古代の絵画から宇宙人を「連想」して見せるような、思い込みによって生まれているという共通点を持っていることには驚かされます。これは逆説的に言うと、慎重でしっかりした基礎的な知識を身につけていれば、こうした言説を無批判に信じ込んでしまうリスクは随分減るということです。この姿勢は、常に様々な情報を受ける立場にある私たちにとって財産になるものでしょうし、また、考古学に限らず、あらゆる分野の学問にとっても、確実にプラスになるはずです。

本書の後半では、いわゆる疑似科学が教育現場に浸透しつつある米国の現状について言及がなされています。進化論とは別の形で世界や生物が作り出されたとする「創造論」と呼ばれる言説を対象にしているのですが、アメリカで行われた、進化論教育に関して行われた有名な裁判以後、勃興してきた学説について、いかにして公教育の場で政治的な働きかけがなされてきたのかというレポートと、それに対する反論が詳しく記されています。この点については、単に考古学分析という枠組みを超えて、「科学」の衣をまとった特定の主張が、政治的な分野において確たる地位を占めてしまいかねない懸念と、それに対しては、何よりも正確な知識と分析力が必要になってくるという社会的な意味での対策を示しているという点で、普遍的な有意義さを持っていると言えるのではないかと思われます。

「ゲーム脳」、や「少年犯罪の凶悪化」、「体感治安の悪化」といった形で、実情とは全く異なる、根拠のない主張が、マスメディアによって大々的に取り上げられ、それが国家レベルの政策にまで影響を及ぼすということも珍しくないのが現状ですが、対象分野が何であるにせよ、誤った対策から導かれた結論は、良い成果をもたらすどころか、逆の結果を招いてしまうということも少なくないわけで、いかにして、根拠に乏しい言説に批判的でいられるかは、良い形での市民社会を維持する上において、重要なポイントであるとも言えます。その意味において本書は、考古学をしっかり学びたい方にとって、最良の入門書であると同時に、「批判的な思考力を養う」ために、あらゆる学問や、社会的問題に触れていこうとしている方に、強くお勧めできる一冊と言えるでしょう。

個人的には、無数の「疑似科学」的言説や、実情とは異なる政策運営がまかり通ってしまっている現在の日本で、本書が出版されたことは、社会的にも大きなプラスであると思います。

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紙の本

紙の本幻想の古代史 上

2009/11/19 16:45

古代史を軸に、情報の確度の分析や嘘・捏造の暴き方についての知識が身に付く実用的大著

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

歴史の中でも、特に一般に「古代史」や「考古学」にあたる分野は、様々な「ミステリー」が存在し、人の心を惹きつけてやみません。アトランティス大陸や宇宙から知恵を受けた古代人の存在などを、もっともらしく記してある書籍は、無数に見ることができます。しかし、それらの情報の信ぴょう性をどう判断するのか、どのように情報を分析し、いかに古代史や考古学に向き合っていけばいいのかを分かりやすく示した本に巡り合うのは困難な状況があります。

本書「幻想の古代史」は、古代史や考古学に存在する、そうした様々な怪しげな伝説に対し、極めて詳細に、かつ理性的な批判を行っているにとどまらず、「どうやって情報の確度を分析し、正誤を結論付けるか」、「一体どのような手法や意図でもって、捏造や怪しげな主張がなされたのか」、「何故、怪しげな情報を人は信じ込んでしまうのか」という、より根本的な部分にまで踏み込んだ、画期的な一冊で、原書は、海外では長く親しまれ、版を重ねてきたという高い評価を得ています。

本書は、上下巻でハードカバーの大著であるため、一見難解な印象を受けますが、実のところ、その分かりやすさにこそ特筆すべき点があります。「考古学の教育に意味のある貢献(12P)」のために記されたこの本は、学生たちに講義を行うように順を追って整然と記されています。まずは「クイックスタートガイド」として、「主張や発見が提示されている場所」、「主張を補強するデータの有無」、「他の専門家の意見」等々の、情報の正確性を判断するための基本的な要素を提示し、次いで「科学と疑似科学」の章で、何故、根拠の不確かな疑似科学や異説を信じてしまうかを説き、珍説を主張する人々の動機、目的を六つに分類しています。続いて「認識論」の章においては、いかに情報の確度を分析し、仮説を立て、真実へと近づけていくのかという思考法を、かつて十九世紀のヨーロッパで猛威をふるった「産褥熱」の原因と対処法を、どういった仮説を立て、対処成功に至ったのかという過去の事例から示しています。

そして、そう言った点をしっかりと押さえていった上で、考古学の分野において、いかに捏造事件が起こり、どういった経緯で捏造が「説得力」を持ったか、そしてどのような科学的判定によって露見したのかという、具体的な話に入っていくことになります。かつて、日本において教科書の内容が一挙に変わるという混乱を招いた「ゴッドハンド」事件にもページが割かれています。また、最初から偽物であると分かっていれば、あまり騙されることはないと思われるような「巨人発掘」等の事例を楽しむことができます。本書は、章の終わりに、「よくある質問」として、章で取り上げられた物品や言説に対してのまとめと、理解を深めるために有効なウェブサイトが逐一記されているという、とても親切な構成になっており、豊富な情報量を、無理なく理解することができます。また、練習問題を解くことで、内容への理解度を試すことも可能です。

取り上げられている事象に対する経緯を読んでいくだけでも、非常に面白く、また、「考古学的事例の真偽がいかにして明らかになったか」というような、硬いテーマを軽妙に記している著者の筆力も高く評価できる点ですが、本書の最大の特筆点は、論理的・科学的思考法の習得と、何故人は怪しげな情報に騙されてしまうのかというメカニズムへの理解が、同時にできるということにあると言えるでしょう。

古代史は、怪しげな言説が多い分野ではありますが、こうした分野でなくとも、様々な分野で根拠の薄い言説、いわゆる疑似科学が数多くのジャンルで、さも事実であるように語られている昨今、様々なところで、怪しげな言説に向かい合わなければならない現状があります。本書で、科学的・論理的思考方法を培うことは、あらゆるジャンルの怪しげな言説に対する抵抗力を養うという意味で、非常に有意義と言えます。考古学分析の名著でありながら、普遍的な、しかも継続的な価値を持つ本書は、思考的な意味での実用書として、広くお勧めできます。

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紙の本

軽く読めるが中身は濃厚、ファン以外にもお勧めできる「怖さ」を排除したホラー映画についての傑作エッセイ

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ホラー映画、と聞くだけで、その映画を避けてしまう方も少なくないかと思います。私自身、ホラーは苦手で、実際に映画を見るのはもちろん、CMやTV番組での紹介映像や、雑誌での紹介記事も避けてしまうことも少なくないほどだったりします。ホラー映画の肝は、やはり恐怖シーンであるだけに、紹介となると、怖い場面だけが抽出される結果になってしまいがちなのでしょうが、やはり、怖い画像を目撃してしまったりすると、どうしてもスルーしたい気持ちにかられてしまったりします。

そんな中にあって、本書「ナゴム、ホラーライフ」は、完全に異彩を放っていると言えます。と、言いますのも、読者に怖さを与える要素を、完璧に排除しているからです。そのスタンスは徹底されており、本書の中には、恐怖映画の評論や紹介にはつきものの、恐ろしいシーンの画像やイラストは一切入っておらず、表紙や文中を飾るイラストも、ほんわかしたもので統一されています。

本書は、「理論社ミステリーYA!」のWEBサイトで連載していたものに、加筆修正がなされたもので、著名な作家である綾辻行人氏と牧野修氏の「交換書簡」のような形で展開されています。もっとも「手紙的」といっても、堅苦しいわけでは一切なく、両氏がホラーを題材に軽妙に話し合うといった感じで、リズムが非常に心地よく、サクサクと読み進めていくことができます。また、「怖さを排除した」、「ナゴム」という本書の基本姿勢は、ここでも徹底されており、ホラーの話をしているはずなのに、怖いのが苦手な私が、一切読むのが辛くならなかったほどで、改めて、「怖くないホラー評論を」という意識の高さを感じ取ることができます。

また、緩く、そして簡単に読める一方で、ホラーの定番キャラであるゾンビを、単なる恐怖の対象としてではなく、「ゆっくり歩く、わらわらと大量に出現する」といった所に着目し、「なごみキャラ」としての対象として考察を加えていたり、一見凄惨に見えるスプラッター映画の非リアル性と「祝祭」としての側面等々、評論としても非常に読み応えがあるものがあります。コメディの色彩が強いホラー映画など、作品のコンセプトそのものが「なごめる」ような映画の紹介もなされており、文中に登場する作品に対するフォローアップ、注釈も丁寧です。

また、本書で示された様々なホラー映画に関する事象からは、「現実で行われるリアルな暴力とホラー映画は全くの別物であり、ホラー映画ファンも実際の暴力を肯定しているわけではない」という、当たり前である一方、しばしば忘れられがちになってしまう重要な事実を再確認することができます。そして、ファンであれば当然知っている事実が、ファン以外でも手に取りやすい、綾辻、牧野両氏の緩いエッセイ集としても通用する本の中で示されていることもポイントです。とかく、悲惨な凶悪事件が起こるたびに、マスメディア等によって槍玉に上げられがちなホラー映画ですが、実際は凶悪な事件とはまるで違うのだ、というファンの叫びがこうして活字になったことは大きいのではないかと思います(何か事件が起こるたびに、特定ジャンルの作品が、あたかも責任転嫁されたように叩かれるのは珍しいことではないだけに)。

こういった主張を含め、ホラー映画の作品毎の作風の違いなど、ファン以外には分かり辛いテーマを、怖さを一切排除することで、苦手な人にも分かりやすく解説し、しかも、軽妙かつ優れた評論を加えている本書は、入門書として、また、「怖さゼロのホラー評」という実験的な試みをまとめた一冊として、非常に有用であると言えます。「怖い映画はほとんど見たことがない、見る気がしない」という人にも、ホラー映画の内実を知ることができる点でお勧めすることができますし、軽妙で柔らかい優れたエッセイを読みたいという方にもお勧めすることができるでしょう。

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紙の本

メイソンにまつわる誤解、陰謀への反論から、シンボルや儀礼に関することまで 資料集的な構成

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

上巻が、フリーメイソンの歴史や組織等々を、マクロ的な部分から紹介した概説書的な構成だったのに対して、本書は、メイソンの大幹部だったアルバート・パイクにまつわる伝説や、メイソンを標的にしたレオ・タクシルの途方もない虚偽のでっち上げ、メイソンにまつわる都市伝説の詳細な証明といった、いわゆる「陰謀論」への解答を示すところから、メイソンで用いられる独特のシンボルや儀礼形式、儀式的な服飾に関する部分までをフォローしており、より専門的な部分へのアプローチと、副読本的な解説に主軸を置いた構成になっています。巻末には、本書よりも更に詳細な情報が得られる文献やウェブサイトの紹介、著名なメイソンの一覧表、メイソン年表等々が附録として掲載されており、非常に丁寧かつ親切です。特に、儀礼的シンボルや服飾に関する項目に関しては、図説や写真がふんだんに使われていて、読む者の目を楽しませてもくれます。

概説的な性質を持つ上巻を予め読んでいた方が、本書の内容をより深くできるのは確かですが、単体として見ても、「メイソン主犯説」に対するより具体的な論破、誇張された都市伝説に対する誤解の証明、あるいは、メイソンの具体性を理解するための、実用的な解説書として、完成度は非常に高いものがあります。特に、レオ・タクシルがでっち上げた、パイクやメイソンがルシファー信仰と関係があるとした「証言」の顛末(公衆の面前で、タクシル自身が事実無根の嘘であると言い切った)や実際には、パイクとKKKの関連など全く存在していないという事実証明、創作としては面白いものの、詳細な調査の結果、実際には関係ないことが判明した「都市伝説」の数々などで記されている、様々な信頼のおけるエピソードは、多くの「メイソン主犯論(メイソン脅威論)」を掲げる著作への、これ以上ない反論として機能していますし、様々な言説や都市伝説に対する、徹底した調査の姿勢は、本書全般に見られる丁寧かつ誠実な仕事ぶりを一層強調しているとも言えます。

この「フリーメイソン完全ガイド」が刊行されたことで、メイソンに対する知識や研究、メイソンに対する言説のレベルは、従来よりも高く、公正な段階へと引き上げられることになるでしょう。もっとも、一世紀以上前に、全くの事実無根であると証明(それも自身の告白によって)された、タクシルの言説や著作が、今なお「メイソン脅威論」の中軸をなす「理論」の一つとして認知されてしまっているように、今後も、「メイソンが何か巨大な陰謀を企て、世界を支配しようとしている」というような言説は無くなることはないでしょう。しかし、本書の一貫した冷静な筆致や分析の姿勢は、今後、「メイソン脅威論」の説得力を大いに減らしていくことになるかも知れません。脅威論を掲げる人々は、「証拠が出ないことこそが陰謀の証拠だ」、「最高位階者が『公式』に書いたものなど信用できるはずがない」と反論してくるかも知れませんが、本書で示されている様々な明快な情報源が、不確かでおどろおどろしい謀略論で用いられてきたそれとは、信頼性において明らかな違いがある以上、「メイソン主犯論」が説得力を維持するのは、極めて難しくなってくるのは明白です。

本書が、「メイソン脅威論」に対する有効な反論書であり、実態のない不安や恐怖と向き合うにあたって有効な一冊であることは、上巻を評した際にも述べましたが、いわゆる「体感治安」や、「少年犯罪悪化」が声高に語られたのは、マスメディア等の報道を介して、実態のない恐怖や不安が煽られた結果生み出されたものだったことが、優れた何冊もの書籍によって明らかになったように、正確な資料に基づくデータは、現実を正しく見ることを読者に促し、正確な分析によって導き出される結論は、必然的に、単なる思い込みから出された結論よりも、ずっと有効な解決策となる可能性が高いものです。

そうした俯瞰的な視点で見るのであれば、本書は、単なる一つの友愛結社に対する誤解を解くものにとどまらず、様々な問題の責任を、メイソンへと転嫁されることを防いだことで、より正確な分析と解決を促しているという意味で、社会的にも価値のあるものだと言えるかも知れません。丹念な記述と、怜悧な筆致が非常に素晴らしい成果をもたらした、稀有な一冊だと言えるでしょう。

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紙の本

実像を詳述することで、誤解や謀略論から人々を遠ざける、最高位階者による「フリーメイソン」研究書の決定版

6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

世の中が、ある特定の組織や結社によって牛耳られている、あるいは支配されようとしているといった論調を展開する書籍や記事は無数にありますが、その中でも、もっとも「主犯」として挙げられた頻度の高い組織の一つに、フリーメイソンが挙げられることは、まず間違いないでしょう。組織が有している特徴的なシンボルや儀礼、著名人関係率の高さは、陰謀への関与を示す「根拠」として、長い間一定の説得力を有し続けており、我が国においても、主にオカルト的な枠組みの中で、何冊もの「メイソン陰謀」本が刊行されてきました。オカルト趣味が全盛だった一昔前には、書店でもかなりの存在感を示していたようにも記憶しています。

しかし、「フリーメイソン完全ガイド」と銘打たれた本書の登場によって、そうした結社の秘匿性や神秘性等々を「論拠」とした、一部で流れている「メイソン害悪説」は、根本的に説得力を失い、メイソンに注がれる視線も、一変するかも知れません。本書の著者は、メイソンの最高位階者ですが、その筆致は極めて冷静かつ慎重なものであり、中立的な歴史家、研究者としての評価に耐えるものです。

メイソンの歴史と現状、組織や儀礼性の大枠を記した上巻の中で、一例を挙げるならば、女性の参入の可否や、信仰を持っているか否かというような根本的な部分で袂を別った「フランス大東社」や「東方の星」などのグループにも積極的に言及、評価を下している他、全くの自己流で儀礼を経ずに、構築されていった「メイソン系組織」の存在に言及してもいます。また、現代的な様式が完成して以来、ずっとメイソンに関する「暴露本」が発行される事態に直面してきたこと、しかしながら、その事が逆に、類似する性質を持つ友愛団体を誕生させる結果となった事に繋がったと記されてもいます。このような、俯瞰的かつジャーナリスティックな記述は、組織の内部にいる人にとって、なかなか書き辛い部分であるわけで、著者の熱意と、組織の開放性を同時に示していると言えます。

本書は、極めて詳細な概説書であると同時に、冷静で開かれたニュアンスを有する記述が、フリーメイソンという団体の歴史や特色を強調していることで、「メイソン主犯説」を唱える論者たちに対して、ほとんど完全な反論として成り立っているという特徴を有しています。

仮に、密室において、何か重大なことを企み、人知れず実行に移す秘密組織なら、必然的に、鉄のように硬い規律と、何よりも組織そのものに他者に知られることがないことが大前提なのですが、社会に広く名が知られており、暴露本で儀礼に対する知識を持った人々が食事にありつきに赴くこともあったようなメイソンには、既に何の秘匿性も存在せず、彼らにしても、歴史、組織、儀礼などをこれ以上ないほど詳述した本を刊行する位なのですから、そもそも、陰謀に必要なほど強度の高い秘匿性を持つ気がないことも自明と言えるのです。

また、人類全体を支配下に置こうとしているという論に関しては、勧誘をしないという彼らの方針が、これ以上ないほどの反論になっています。物理的な問題として、全人的支配を目論むならば、一般人を直接取り込むプロセスは必要不可欠だからです。更には、本書内で「すべては、どこかしらに対して正規である(134P)」とまで言い切り、自分たちの流派とは全く相容れない派閥の価値を担保してすらいるのです。どんな世界であれ、異論や少数派の価値を徹底的に廃し、自らの正当性を一元的な概念として当てはめることで初めて、中央集権的な体制というのは成り立つわけですから、価値の許容を全面に押し出しているメイソンの枠組みのもとでは、集権制の究極である「世界支配」など、あまりにも不可能であることが分かります(本書では、メイソン組織を「大学」になぞらえることが少なくありません。つまり、学内サークルのように、縛りの緩いシステムのもとで成り立っているというわけです)。更に言えば、もし政治的影響力を行使したいと彼らが考えていたのなら、当時としてはかなり急進的で、近現代の民主的憲法の中でも相当リベラルな部類に入る「政教分離」を組織にいち早く当てはめ、「メイソンは政治に立ち入らず」という制約を設けるなどと言うことは考えられないでしょう。

このように、本書は、「メイソン陰謀論」への誤解を解くことに対し、非常に大きな貢献をしており、この国における「メイソン観」が一変し得るポテンシャルを持っている一冊と評することができますが、大多数は、アメリカを中心とするメイソンの発展や変遷、組織等々に言及したものです。冷静な筆致と正確な分析に基づいた、膨大な記述の数々は、まさしく「完全ガイド」の名に恥じないものがありますが、入門書としての配慮も充分になされており、随所に挟まれるコラムや、章末の箇条書きにされたまとめによって、逐一知識を整理しながら、読み進めていくことが可能です。図説など、レイアウトにも、多くの工夫がなされていますので、ディープな内容の割に、「読み疲れ」しないのも特徴の一つとして挙げることができるかも知れません。
 
秘密結社全体の概説書から、さらにメイソンに的を絞って学んでいきたいという方や、結社から人種・男女問題を考えて行きたい方、更には、現役の最高位階者が執筆したメイソン解説書ということで、専門家の方にもお勧めできる内容だと言えますが、個人的には、これまでに、「メイソン陰謀論」を唱える書籍や雑誌の記事などを読み、メイソンに対して、恐れや不安などを抱いている方に、読んで頂ければと思います。客観的に見て、この本は記載されている様々な事象は、とても「メイソンが勝手に主張しているだけ」と断じることはできないだけの信頼性を、言葉による反論ではなく事実でもって明示しているだけに、これまで抱いてきた焦りや不安、誤解が解消され、ひいては、メイソンに対する警戒心から解放されるということも期待できるかも知れません。

何かを主張する代わりに、事実を積み重ねていくことによって、本書は、メイソンと、一部社会に生じている心理的な溝を埋めるだけの力を持つことになったとすら言えるかも知れません。歴史的な名著になりうる一冊です。

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紙の本

紙の本ケータイ小説がウケる理由

2008/11/12 19:55

ケータイ小説を既存の小説とは全くの「別物」として解釈している一冊

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

いわゆる小説新人賞や、出版社への持ち込みとは異なる形で書籍化され、ベストセラーになった作品も少なくない「ケータイ小説」ですが、その基盤、出発点がケータイ用WEB内のデジタル的コンテンツにある以上、その人気や熱気の秘密を探る上では、どうしても、骨格であるところのモバイルコンテンツビジネスへの視点が必要となってきます。

本書は、そんなケータイ小説の根本である、モバイル・WEB的な側面にスポットを当てており、携帯電話に専用のWEB機能(iモードなど)が加わるようになってからの、モバイルビジネス隆盛の軌跡や現状、多くのベストセラーを生み出すことになった、各種コンテンツ・サービスの紹介から、ビジネスを動かしている人々へのインタビューまで、様々なテーマをフォローしており、一口に「ケータイ小説ビジネス」と言っても、投稿者が小説を掲載し、読者が閲覧するためのシステムを構築する事業と、書かれた作品の著作権をもとに、他の媒体との仕事を展開していく事業体といった形で、それぞれ異なる性質を有していることなど、ディープな記述もあちこちに見ることができます。

もっとも、本書は、文体、内容ともに、極めて平易で理解しやすい形で書かれており、レイアウト的にも配慮がなされているため、解説書としてはとても読みやすい造りになっているので、尻込みする必要はありません。また、読者や著者、製作者に対してのインタビューにも、多くのページが割かれており、ケータイ小説を誰が作っているのかという点で「顔」が見える構成になっているのもポイントです。

本書の最大の特色は、ケータイ小説を既存の小説とは別のものと定義し、故に、それを読むことも、従来の読書とは違うのだと位置づけている明快さです。別物であるがために、既存の小説とはあらゆる面で異なっており、だからこそ、「衝突」を招いたと考えれば、「ケータイ小説」が、出版界に衝撃をもたらしたのも、「異質」だったからだと解釈することができ、既存の小説と比較することなしに、その価値を認めていくことも可能になってきます。ただ、こうした独立性の担保とも言うべき解釈は、非常に公正かつ穏当である一方で、「主に文字のみで物語が綴られているのだから、やはり小説ではないだろうか」という議論を招きかねないものでもあります。とは言え、本書で語られているケータイ小説が生み出された「土壌」は、既存の出版とは別種と言ってもいいほどに、特徴的な部分を多く持つものでもあるのですが……

大ヒットしたモバイルコンテンツのシステムを解説しているにも関わらず、堅苦しくならず、明快に、しかも、ケータイ小説そのものに興味が持てるような形を取っている、好感が持てる一冊です。個々の作品についての言及もしっかりなされてはいますが、ベストセラー化されたケータイ小説の作品論よりも、「ケータイ小説旋風」が起きた原因を知りたいという方におススメできます。

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紙の本

紙の本ケータイ小説のリアル

2008/11/12 07:24

粘り強い取材・分析によって、「ケータイ小説」の実像を解き明かした良著

4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「ケータイ」という、これまでの小説とは全く別のフィールドに基盤を置き、小説家としてのキャリアをほとんど積んでこなかった作家たちの作品が、小説売上の上位を独占する。しかも、携帯電話用サイトで無料公開されていたものが、有料書籍化されたという形であるにも関わらず、書き下ろしの作品群よりも遥かに売れ行きを示していく……
そんな様相を見せた「ケータイ小説」ブームは、明らかに従来の出版常識の枠外に位置するもので、様々な人々に批評されていくことになりました。特に、「ケータイ」を基盤にした、アマチュア的背景によって書かれた作品が驚異的なベストセラーになったということもあり、作品の内容やジャンルに対する批判的な評価も、非常に多数寄せられることになりました。

しかし、本書は、「ケータイ小説」を感情的に評価することはなく、ブームの生まれた背景から作品の特性、傾向の変遷から、読者や販売サイドの感情に至るまで、極めて多くの要素について、分析を加えています。その結果、「援助交際と性暴力」に代表される、過激な表現は、今や影を潜めており、パッケージから内容まで、少女漫画の王道に沿った作品が多くなっていることや、意外にも、携帯電話があまり普及していない地方で「ケータイ小説」が売れていることを明らかにしています。

本書が、他の「ケータイ小説」評論本と一線を画しているのは、綿密な分析を、分析だけで終わらせることなく、数多くの取材によって、様々な層の生の声を記しているところです。読者、製作者、販売者等々の「肉声」が、しっかりした理論・分析の基礎部分をより明確なものにし、重層的な「ケータイ小説論」を展開していると言えます。

ケータイ小説を取り巻く状況を、全般的に評しているだけに、専門的なマーケティング論や作品論については、他の類書に譲るところはありますが、本書のリアルな空気は、綿密かつ丹念な分析と取材によって生み出されているものであり、「いい仕事」がなされている証明と言えるものです。ケータイ小説の現状が知りたいという方はもちろん、詳細なデータを下敷きに「想像力」を補完する一助にもなる好著と言えるでしょう。

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紙の本

「語り」をメインに、ライトノベル作家たちの創作現場に踏み込んだ一冊

4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 近年、様々なジャンルやシステム毎に小説が細分化される傾向が強くなっており、それに対応する形で、新人作家発掘の場である小説新人賞やコンテストも、多様化・多彩化の様相を呈してきているようです。一冊あたりの出版部数を少なくし、多くの種類の書籍を出版していく、「小部数、多出版」の流れを受けた結果、細かなジャンル毎の「住み分け」が進展していっているのかも知れません。

さて、小説コンテストの多様化、デビュー方法の多彩化が進む現状は、作家志望者にとって、それぞれのジャンルに通じるシステムや、デビューまでのプロセスに即したノウハウの必要性が求められる状態の出現を意味するものでもあったためか、小説指南書、小説家養成読本といったジャンルの書籍にも、細分化と多様化が見られるのが現状です。特に、ジャンル的な許容範囲が広く、非常に人気の高い、ライトノベル系の解説書は、様々なものが相次いで刊行されています。

本書、「ライトノベル作家のつくりかた」も、タイトルが示すように、人気の高いライトノベルに特化してアプローチしているものです。しかし本書は、色々な実作のための方法論を、一から丁寧にレクチャーしていくという、多くの類書とは異なり、ライトノベル作家たちのインタビューや座談会といった「語り」の部分に大部分のウェイトを割き、作家とインタビュアーを語らせることによって、一人一人に、どのように作品を作っているのか、どうやってデビューしたのか、執筆の際に気を付けている点はどこかという部分に、異なる作家の口から、異なった答えを導き出させる手法を取っています。これによって、他の指南本との区別化を図るとともに、「百人いれば百通りのやり方がある」とされる、創作の過程において、様々な答えを用意することで、人によってアプローチの方法は様々なはずなのに、システム上どうしても画一的な方法を推奨してしまうことになってしまうことになってしまいがちな、ノウハウ本の性質そのものに向き合っているとも言えるでしょう。もちろん、複数名の話を総合して、作家になるにあたって必要な要素などの「共通項」を見出すこともできます。

「語り」を主軸としているため、どうしても具体的な方法論を提示している書籍に比べ、曖昧でアナログ的な性質はありますが、作家の「肉声」でもって、創作指南を展開している本書は、ライトノベル作家になりたいと本気で考えている多くの志望者の方々にとって、活きた資料であり、励みにもなる一冊であると思います。また、作家の方たちが専門学校で何を教えているのかについても、かなり深く言及されているので、これから小説の専門学校に入ってみようと思っている方にも、資料としてお勧めできます。

何冊かの技術ノウハウ本と併せて読んでみると、より実作のための参考になるのではないでしょうか。


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紙の本

紙の本海賊の掟

2008/09/12 18:46

現代の海賊の実像を含めた、海賊史概説書

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

海の上で数々の悪行をなし、歴史的にも少なくない役割を果たした海賊たちを題材にした物語は、欧米などではもちろん、この日本においても、海洋冒険的要素と、ピカレスク・ロマンを兼ね合わせた性質を持っていることもあり、確固たるジャンルを形成していると言えます。「ワンピース」などがその代表例ですが、主人公たちが単なる泥棒ではなく、冒険者や探求者としての側面を、では持たせることができるために、過度に荒涼とした展開に陥りにくいのも「海賊もの」が好かれている一因かも知れません。

本書「海賊の掟」は、物語上ではなく、実在した海賊がどのようなものだったかを、紹介している一冊です。まず、現代に暗躍する海賊の実態を報じた上で、海賊史全般の解説へと移るという流れが取られており、いわゆる「大航海時代」の大海賊たちだけではなく、海賊の起源や衰退についても言及されており、日本の海賊についての記述もしっかりとなされています。有名な海賊たちのエピソードだけではなく、往時の海賊生活や規則についてなど、まんべんなくバランスの取れた知識を得ることができるでしょう。ただ、本書のタイトルでもある「海賊の掟」に関する部分については、他の項目と同じように、概説的にさらりと述べられているのみで、かつての海賊の膨大な航海手記や、元海賊によるルポタージュなど、「掟」に関する特別にディープな情報が記されているわけではありません。本書については、「海賊概説」とでもタイトル付けしてあった方が、実態を表しているように、個人的には感じられました。

とは言え、古今東西の海賊に関する基本的知識について、全方位的に知ることができるという意味で、本書は概説書として非常に優れていると言えます。文章のテンポも良く、読んでいて疲れることなく、自然な形で覚えていくことができるのもポイントです。その上、価格としてもリーズナブルなので、これから海賊のことについて知りたいという方に、安心しておススメすることができる一冊だと言えます。入門書としてはもちろん、「海賊もの」の書籍やゲームなどを読む際の副読本として読んでいくのも面白いのではないでしょうか。

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紙の本

紙の本トンデモ偽史の世界

2008/09/10 04:29

古今東西の偽史のエピソードを軸に、「偽史が求められる状況」の危険性にも言及した好著

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

民族や人種の起源や、長いスパンにおいての歴史上の流れなどについては、エピソードを問わず、様々な解釈がなされるのが常ですが、本書は、その中でも客観的な歴史的事実から捏造や誤りだと判断された、言わば「公式上の偽史」に焦点を当てています。

紹介しているエピソードは、古今東西を問わず、事柄にしても、意図的な書物の偽造(偽書)や遺跡や化石等の捏造から、思い込みによって突飛な説が登場するに至ったケースまで、非常に多彩で、なおかつ無数の資料を用いて、一つ一つの事例について、単なる概説に留まらない掘り下げが行われています。また、「偽史」と言っても、堅苦しい題材は少なく、台湾が「日本皇帝」によって統治されていると「主張」した、十八世紀の超級奇書「台湾誌」や、空前の遺跡捏造事件として世間を騒がせた、かの「ゴッドハンド」事件等々、柔らかいテーマが多数を占めるので、肩に力を入れずとも、すらすらと読み進めていくことができるでしょう。

しかし、本書は、事柄の羅列に留まらない、より深い問題意識を、私たち読者に投げかけてもいます。それは、冒頭で、「誰が何のために偽書を記し、何故それが受け入れられたか」に言及したことに代表される、偽史や捏造品の「需要と供給」の関係性です。愛国的な意識をくすぐられたフランス人の大学教授が、こともあろうに、「フランス語で書かれた」アレクサンダー大王の書簡に感銘を受けたり、ナチスドイツにとって都合の良い歴史観が構築される前段において、一度は完全に否定されたものを含む、ひどく出来の悪い偽史書が出回ったりすることに代表される、様々なケースにおいては、洋の東西や、知識や経験を問わず、ついつい人は客観的な事実ではなく、情報を受ける側にとって耳触りの良いエピソードに飛びついてしまいがちになってしまうという一致点を示していますし、イースター島の文化研究や、一時は、イギリスの考古学関係者の多くが騙されたというピルトダウン事件では、無根拠な思い込みが、人々を真実から遠ざけてしまったという酷似点を有しています。また、多くの人々に支持されやすく、時に政治にすら影響を与えてしまうだけの力を持っている偽史は、しばしば強い権力によって守られてしまう性質を持っており、どれほど杜撰な偽史や捏造の類でも、権力と結びついた時点で、「正史」とされてしまい、批判することが極めて難しくなることも、「偽史」の危険性の一つだと考察することもできます。更に、いわゆる「ユダヤ人陰謀論」の根拠の無さにも関わらず、ナチスがユダヤ人を迫害する根拠として陰謀論を大いに利用した事例からは、どれほど荒唐無稽な偽史でも、それが為政者の意向と手を組んだ瞬間、恐るべき残虐な行為を推進するブースターとして機能しかねないという真実を示していると言えるでしょう。本当に恐ろしいのは偽史ではなく、それに躍らされる人々の熱情と権勢であると言えるのかも知れません。

繰り返しになりますが、本書がフォローしている範囲は極めて広く、しかも古今東西を問いません。にも関わらず偽史の「需要と供給」には、これほど多くの一致点があります。つまり、よほど注意していなければ、様々な「性質的な一致」によって、いつ掲載されているような、とんでもない誤解に陥らないとも限らないのです。そんな中で、古今の無数のエピソードを紹介すると同時に、「偽史の扱われ方」を分析し、全く関係なさそうなケースに、意外な一致点を見出すことに成功した本書は、安易にうまい話に賛同することなく、冷静な分析を促すという点で、情報の取捨選択を円滑にするテキストであると同時に、心理的な側面においても有用だと言えます。また、難しい話を抜きにしても、雑学本として非常に面白く読めますので、あまり教科書に載らないような歴史を、様々な観点から分析したり、既に手元にある書物がどのような扱いをされているかを見てみたりするような楽しみ方をすることもできるでしょう。

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紙の本

紙の本世界陰謀史事典

2008/08/03 02:45

入門から専門レベルまでをフォローする、かつてない充実ぶりと信頼性を持った「陰謀」事典

8人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

情報化社会と呼ばれて久しい今日にあっても、古今東西の陰謀を扱った書籍は、変わらない人気ぶりを示していますが、それは、公然化されていない秘密的な事柄によって、歴史的に重要な役割を果たしてきたという仮説が、多くの人々に説得力のあるものとして受け止められている証明に他なりません。時の権力者が、様々な密室での謀議や後暗い陰謀によって重大事を決定するという図式は、為政者にとって極めて効率が良く、「安全」なものであるが故に、現代でも様々な秘密の謀略が蠢いているのではないかとまことしやかに語られているのです。しかし、そうした説の多くは、どうしても公然的な情報に頼ることができない部分が多いため、客観的なデータによる説得力を持たせることができず、半ばガゼネタの「陰謀論」として扱われることが少なくないのが現状です。情報を秘匿するか否かの権限を握っている人々が、一から百まで全ての情報を公開することなど考えられないにも関わらず、「陰謀」と呼ばれる説に、今一つ信憑性を感じられないことの原因の一つに、情報の確度の問題を挙げることができるでしょう。

その点、本書「世界陰謀史事典」は、類書の持つ欠点を、ほぼ完全に克服していると言えます。秘密結社や儀礼的要素にのっとった秘密組織、諜報網の暗躍、政府の黒幕、国家間で結ばれた秘密の外交関係や戦争での計略、国家の秘密計画等々、およそ「陰謀」と呼べる全ての種類の主だった事柄を完全に網羅しており、ほとんどの「陰謀」に関する概説書・入門書としての役割を果たしているだけでなく、個々の「陰謀」を扱った諸説の信頼性を徹底的に検証・分析し、実際にあった事柄や、極めて確度の高い説を抽出するというシステムを取っているため、一つ一つの項目に限っても、類書に見劣りしないだけの充実度と、専門的な研究に移っていくのに充分な基礎知識を身に付けることができます。また、時系列を見落とさないよう、極めて丹念に描写された本文の記述を、巻末の年表や人物索引が補完するという丁寧ぶりで、読み手の理解を深めるための配慮もなされています。一冊あたりの文字数や、覚えるべき単語の数は膨大と言ってもよく、短期間で全てを覚えるのはかなり難しいと思われますが、じっくりと時間をかけて何度も読み込んでいけばいくほど、自分の身になるタイプの書籍だと言えるでしょう。また、ある一つの事象について理解を深めたいのであれば、一つの項目の部分を読んで、知識を得ていくこともできます。

そして、何より、本書が素晴らしいのは、単なる「陰謀」に関する知識を集積したに留まらず、現代社会の「裏面」に関する予測力と分析力を、読み手に与える役割を果たしていることです。日々のニュースを賑わすような事件の裏面について思いを馳せることは、事象に対する立体的かつ重層的な理解と想像力をもたらします。確かに、本格的な「陰謀」に直接関われるのは、ごくごく一部の人々に限られており、一般市民にはそれを察知することはもちろん、防ぐことも極めて困難なわけですが、大がかりな陰謀であればあるほど、世界中の人々に影響が及ぶことも事実です。あらゆる国際的な事態に対しての精神的な「転ばぬ先の杖」として、本書が機能する可能性は、決して少なくないと言えるでしょう。情報の確度や信頼性、内容の充実性からして、「陰謀」関係書籍の中でもトップクラスの一冊であり、今後の裏面史研究にあたっては必携とも言えるほどの本書ですが、これまで興味がなかった人に対しても、概説的入門書や、新たな現実への向き合い方を提案する本としての役割を果たしています。タイトルや価格から、一見取っ付き辛い印象を受けますが、実際は、多くの層をフォローするだけの汎用性をも持つ好著だと言えるでしょう。


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「youtube」や「ニコニコ動画」などの動画共有サイトの使い方が簡単に分かる概説書

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

近年、IT化が急速に進んだことで、メディアの様式は従来とはかなり違ったものになりつつありますが、その中でも、動画をある特定のサイトで閲覧したり、あるいは自由に掲載することができる、「動画共有サイト」は、最も先進的なITメディアサービスの一つです。家庭用パソコンや回線の進化、高速化が今のように進歩したからこそ、膨大なデータ集積体である動画を送受信するサービスがここまで広範になったのであり、情報処理速度が今ほどでは無かった頃には、実現が難しかったサービスだったと言えるのです。

さて、本書では、日本における二大有名動画共有サイト「youtube」と「ニコニコ動画」を中心に、サービス内で、いかに動画を見るか、コメントを書き込むか、動画を作成し投稿するのかといった基礎的な部分に重点を置き、紹介しています。難しいメディア論や、動画共有サイトの展望などには注力せず、徹底して実用指向を貫いているため、極めて理解しやすく、この本を傍らに置いておけば、必要な環境が整っていれば、すぐに、動画共有サイトを楽しめるようになるでしょう。「たまにしかネットは見ない」という方でも、全く問題はないはずです。図解が豊富で懇切丁寧なので、「youtube」と「ニコニコ動画」の違いなどを、簡単に理解しつつ、動画共有サイトの世界に入っていくことができます。段階を踏んで見ていくことで、「動画を見る」→「コメントをする」→「動画を保存する」→「動画を投稿する」というように、知らず知らずのうちにITスキルをアップさせることができるのも、大きな特徴と言えるでしょう。

また、先端メディアがどのような物かを知りたいという方にも、本書は大いに役立ちます。専門的な理論や展望、あるいは問題点などが示されているわけではありませんが、この本の手引きによって、まずユーザーとして実際に触れてみることによって、動画共有サイトというメディアの本質的な性格を理解することができるからです。その意味では、本書は、動画共有サイトへの入門書でもあると同時に、最新メディア論への入門書としての役割を果たしているとも言えるかも知れません。

楽しみながら多くの事が学べる本書は、動画共有サイトに興味がなかったという方にもおススメできます。

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