タニグチリウイチさんのレビュー一覧
投稿者:タニグチリウイチ
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2000/07/10 03:30
これほどまでに切ないSFがあっただろうか
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泣けるSFは数あるけれど、これほどまでに切なく、重苦しい気持ちにさせてくれるSFがあっただろうか。『猫の地球儀』2部作の後編「幽の章」は、他者が不幸になることを分かっていながら、それでも自分の思いを貫き通そうとする行為への、憧れと反発が同時にわき上がって心をグサリと突き刺す。
知性を持った猫だけが暮らす宇宙ステーションに生まれた宗教は、宇宙に出ること禁じていた。幽(かすか)はそんな教えに逆らう”スカイウォーカー”として、「地球儀」と呼ばれる地球への渡航準備を進めていた。
いよいよ旅立つ直前。前編「焔の章」からの因縁を晴らすべく、幽はロボットを操り戦う「スパイラルダイブ」のチャンピオン、焔(ほむら)との戦いに臨む。その最中、焔や幽の知り合いだったメス猫の楽(かぐら)に、スカイウォーカーを探す教団の暗殺者たちが襲いかかった……。落涙と数々の余韻を残したエンディングに、続きへの期待が膨らむ。
2000/07/10 03:28
限界を超える意義と結果による危機のどちらを取るべきか
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遠い未来。地球を回る宇宙ステーションにはなぜか知性を持った猫だけが生き残り、眼前の地球を死んだ魂が向かう「地球儀」と信じて暮らしていた。外は真空。重力に引かれて地球に落ちれば燃え尽きてしまう極限状態に暮らす猫たちは、やがて宇宙に想いを向けることを禁じる教義をうち立てる。けれどもガリレオの昔から、好奇心を抑えきれない奴がいるもの。猫の中にも「地球儀に行きたい」と願う”スカイウォーカー”が生まれては、教団によって抹殺される歴史が繰り返されて来た。
限界を超える意義と、それがもたらす危機のどちらを取るべきか。「猫の地球儀」2部作の前編「焔の章」では、第37代スカイウォーカーになった幽(かすか)と、思念によってロボットを操り戦う「スパイラルダイブ」の新チャンピオンになった焔(ほむら)とが出会う話を軸に、そんな問いがなげかけられる。スピード感あふれる戦闘描写が圧巻。
紙の本M.G.H. 楽園の鏡像
2000/07/10 01:28
明晰だけど甲斐性のない男に元気な美少女
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宇宙ステーションが空に浮かぶ近未来。大学で研究している青年科学者・凌を従妹の舞衣が訪ねて来て、偽装結婚して一緒に宇宙ステーションに行こうと誘う。舞に振り回されるように宇宙に出た凌たちがステーションで出会ったのは、宇宙服を身につけた死体。それも無重力状態の場所なのに、高い場所から落ちたとしか見えない奇妙な死体だった。
凌を探偵役にして進む、近未来に舞台を借りたミステリーとも言える展開で、SFにつきものの既成概念をひっくり返されるような驚きは少ない。それでも謎解きの過程で出てくる、人間の思考をコンピューターにまる移しした「アプリカント」の是非をめぐるやりとりが、人間を規定するものは記憶なのか、情報なのか、といった深い問題を考えさせる。
明晰だけど甲斐性のない男に元気な美少女という登場人物、謎解きの楽しみといった部分のとっかかりの良さで「普段SFを読まない人が手にとって(後書きより)」も大丈夫。
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