チヒロさんのレビュー一覧
投稿者:チヒロ
紙の本こなもん屋馬子
2012/01/24 08:53
大阪のこなもん、おそるべし。
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馬子は本名・蘇我家馬子(そがのやうまこ)。
所謂デブで、とれかけのじりじりパーマでときには凶暴な大阪のオバちゃんだ。
馬子にこき使われる使用人の少女がイルカ。
どつかれようが、何されようが黙々と働く娘。
この二人が、ある時は宗右衛門町、またある時は天神橋筋商店街などに、
ある日忽然と現れる、きたなシュランにノミネートされるような汚い店。
看板には「こなもん全般 なんでもアリマ記念」とかなんとか書いてある。
お好み焼き、うどん、ピッツア、豚まん、その時々で専門は違うけど、
どれも絶品であることは間違いない。
馬子・イルカの大化の改新コンビが、ふらっとやってきた客の、様々な悩みを解決してみせる。
大阪ならではのボケ・突っ込みも盛りだくさんの、まちがいなくB級なミステリ。
そしてこのこなもん屋、ある使命を果たすと、その後忽然と姿を消すのですよ。
後日、世話になった人間が訪れると、もうそこに在った形跡すらなく、
周囲の人も誰もその存在の在ったことすら知らない。
狐狸妖怪の類でもないのだろうけど、「こなもん」の神様が式神を連れてやらかしたとしか思えないようなお店、
ちょっと行ってみたい気がする。
紙の本11 eleven
2011/08/30 12:38
津原さんの物語はあばれ馬のよう。しっかり目を開けていないと振り落とされる。
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11作の短編集で、
「五色の船」2011「星雲賞」参考候補、
「延長コード」「ゼロ年代日本SFべスト集成」収録
「テルミン嬢」第22回「SFマガジン読者賞」国内3位・2011「星雲賞」参考候補
「土の枕」年間日本SF傑作選収録 等々、
短編として様々な方面で注目されているものばかり。
私が気になったのは「五色の舟」と「土の枕」。
「五色の舟」は、第二次大戦中、見世物で糧を得る一座の物語。
お父さんと呼ばれる座長は足がなく、小男の兄、生まれつき腕の無い「僕」と、
脊椎の曲がった桜、牛女と呼ばれた清子さん。
昔、祭りなどに登場した怪しげな見世物小屋の興行である。
時折人格を無視した見世物をしていても、みな結束は固く、ひとりなることを恐れて寄り添って暮らしていた。
そこに「くだん」という怪物が生まれているという情報が入る。
過去・未来を包み隠さず口にするという「くだん」は軍に拉致されていた。
「くだん」が明かした未来とは・・・
その不自由な体を持つ者の、生殺権を握る者への諦めと服従はそれを通り越し、
矩形の家族愛にまで育っていた。
それはあまりに衝撃的で言葉が無い。
そして「くだん」が示す、現実から逃れるために用意されたもうひとつの世界とは。
「土の枕」はそれほど常軌を逸した物語ではなく、
地方の名士の長男が、出征する小作人の身がわりに戦地へ行くという話。
九死に一生を得た男が戻ってきた故郷。
そこにはもう生きていくべき自分の場所が無かった。
どれも津原さん流の奇妙さが漂い、
ぐっと入り込んで読み進むと、いきなりぷっつりその世界が断ち切られるようなラストがやってくるものもある。
どうにも、リズムを作らせてくれない居心地の悪さ。
その不調和にすら慣れさせてくれないフェイク。
しっかりかじりついて行かないと、理解する機会を失うかもしれない不安感は最後までつきまとってくる。