ブックキュレーター経済学者 根井雅弘
スミス=「自由放任」、ケインズ=「自由放任の終焉」という誤解を正す
経済学のテキストブックには、相変わらず、スミスが「自由放任」を説き、それをケインズが否定するまで経済学の主流に残っていたという誤った理解が幅を利かせている。正しくは、スミスからケインズまで経済的自由主義の流れは途絶えることなく流れているというべきである。違うのは政府の役割をどこまで認めるかの認識だけである。
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アダム・スミスとその時代
ニコラス・フィリップソン(著) , 永井 大輔(訳)
アダム・スミスは18世紀のスコットランドが生んだ偉大な道徳哲学者である。「道徳」(モラル)とは「社会的」とほぼ同じ意味だが、スミスを彼の時代の道徳哲学のなかに正確に位置づけた本は案外少ない。スミス=自由放任主義といまだに誤解している人にはぜひ読んでもらいたい好著である。
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マーシャル クールヘッド&ウォームハート
アルフレッド・マーシャル(著) , 伊藤 宣広(訳)
マーシャルは有名なケインズの師匠に当たる。ケインズが「自由放任の終焉」を初めて宣言したのだから新古典派のマーシャルは自由放任だという誤解がまだ消えていないが、マーシャルは私的利益と社会的利益が調和しない可能性を指摘したケンブリッジ学派の総帥で、ケインズもその遺産を継承していることを忘れてはならない。
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選択の自由 自立社会への挑戦 新装判
M.フリードマン(著) , R.フリードマン(著) , 西山 千明(訳)
フリードマンが夫人ローズとの共著の形で出版した新自由主義の代表作。「計画経済」に対する「自由経済」の圧倒的効率性、「市場の失敗」よりも「政府の失敗」のほうがはるかに深刻など、シカゴ学派流の自由主義が説かれる。ただし、スミス理解が自由放任主義に近いものとして提示されている部分は、思想史の常識とは違う。
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貨幣改革論 若き日の信条
ケインズ(著) , 宮崎 義一(訳) , 中内 恒夫(訳)
ケインズを語るに重要な「自由放任の終焉」も収録されている。ケインズは、スミスやマーシャル(古典派や新古典派)が自由放任を説いたとは決して言っていない。スミスの著作に「自由放任」という言葉がないという指摘も正しい。たが20世紀は自由主義の本質を保持しながら政府の役割を慎重に増やすべきことを説いている。
ブックキュレーター
経済学者 根井雅弘1962年生まれ。1985年早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。1990年京都大学大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士。現在、京都大学大学院経済学研究科教授。専門は現代経済思想史。『現代イギリス経済学の群像』(岩波書店)、『経済学の歴史』(講談社学術文庫)、『シュンペーター』(講談社学術文庫)、『サムエルソン 『経済学』の時代』(中公選書)、『経済学再入門』(講談社学術文庫)、『ガルブレイス』(白水社)、『企業家精神とは何か』(平凡社新書)ほか、著書多数。
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