ブックキュレーター作家のエージェント 栂井理恵
あなたは本当に知っている？──近くて遠い「母」を巡る5つの物語
母親とは、自分を生み、育み、愛してくれる存在──けれど、人生をともに過ごしてきたからといって、互いに深く理解しあっているとはかぎらないものです。親子という、もっとも近いはずの関係だからこそ、知らないままでいることもあるかもしれません。今回は母の日にちなんで、近くて遠い「母」を巡る物語をご紹介します。
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２１世紀版少年少女日本文学館 １７ 母六夜・おじさんの話
大岡 昇平（著） , 梅崎 春生（著） , 伊藤 整（著） , 中野 重治（著） , 佐多 稲子（著）
このアンソロジーには、大岡昇平による母を題材とした対照的な2つの短編が収録されています。母との幼少期の思い出から亡くなるまでを愛情深く綴った「母」に対して、母が見知らぬ老婆や売笑婦になって登場する「母六夜」。異性の親である母への敬慕と同時に、どこか理解できない存在への畏怖の念も浮かび上ってきます。
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30歳独身、観葉植物だけが友だちという風変わりなエレノア。唯一の話し相手は、ことあるごとに娘への呪詛の言葉を吐く“毒母”のみ。ところが、ある一目惚れがきっかけですべてが変わり、封印した母との過去が明らかになっていきます。ひとりぼっちで生きてきたエレノアの風刺が効いた、絶妙の語り口が魅力的な小説です。
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愛する母を喪ったブランカは、気晴らしに母が遺した家がある土地にバカンスへ行くことにします。同行者は2人の息子、元夫に愛人、親友たち。あえて享楽的にふるまうブランカですが、心の穴はどうしても埋められない。在りし日の母の意識を追体験するかのように、風景に母の痕跡を探す彼女の姿が切なく、胸に響いてきます。
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自由奔放に生きた母が亡くなり、ひょんなことから降臨する6人の奇妙な存在による予知能力という“遺産”を引き継ぐことになったトニ。母の呪縛から解放され、自らも人工授精で母になる道を選びます。母との思い出、“小さな迷子の女の子”のお話と一緒に紡ぎ出される物語は、不思議な味わいながらも妙に切実なのです。
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息子誕生をきっかけに、作者から母へ送った「100の質問状」について綴った物語。少女の頃の思い出、父との出会いと結婚、3度の離婚と4人の父、子育ての苦労――不器用な親子だからこそ、これまで聞けなかった過去が明らかになったとき、新たな関係の予兆が生まれてきます。自分も母親の人生を知りたくなる一冊です。
ブックキュレーター
作家のエージェント 栂井理恵出版社勤務、舞台芸術ライター、翻訳者などを経て、2005年にアップルシード・エージェンシー（http://www.appleseed.co.jp/）入社。新しい才能やアイデア、埋もれてしまいそうな作品を発掘し、作家のエージェント（代理人）として出版社への売り込みや交渉を行う日々を送っている。この仕事の醍醐味は、自分の興味関心、新しい発見や学びを、作家や本を通じて読者と共有できること。そうして関わった書籍は、文芸・ノンフィクションからビジネス・実用まで、約200冊に上る。これからも個性溢れる作家たちの創作活動の現場を支え、知的好奇心をかき立てられる面白い本を世に送り出していきたい。
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